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REVIEW&COLUMN

2017.08.30

la la larks「Culture Vulture」レビュー

la la larks「Culture Vulture」レビュー

元School Food Punishmentの内村友美、楽曲提供や数々のプロデュースで知られる江口 亮を中心とするバンド、la la larksの1stアルバムがついに完成。圧倒的なクオリティ、迫力で送る全12曲。シングル曲「ego-izm」「ハレルヤ」も収録。

ヴォーカル:内村友美(ex.School Food Punishment)、キーボード/ギター:江口 亮(Stereo Fabrication of Youth、MIM)、ギター:三井律郎(THE YOUTH、LOST IN TIME)、ベース:クボタケイスケ(ex.Sads、ex.はやぶさジョーンズ)、ドラム:ターキー(ex.GO!GO!7188)からなる5人組のバンド、“la la larks”。

結成は、School Food Punishmentが活動休止を発表した2012年にさかのぼる。School Food Punishmentのプロデューサーであった江口 亮が、内村友美のソロライヴを企画した際に、江口が声をかけた三井、クボタ、ターキーらバックバンドとなるメンバーと内村が意気投合。当初は内村を中心とする流動的なプロジェクトになる予定だったが、そのままパーマネントなバンドとしてla la larksを始動させることになった。

クラウドファウンディングにより制作されたCD「28時」、アニメタイアップとなる2枚のシングル「ego-izm」「ハレルヤ」と、結成より5年の間に発表された作品の数は多くはない。ライヴではさまざまな曲を披露しているla la larksだけに、楽曲がないわけではない。その理由は、自身のクリエィティビティーが最大限に発揮できる、つまり妥協せず納得のいくレベルの制作ができる環境が整った時点で、形となる作品を世に送り出す、というもの。極めて明快であるが、このことを完遂することは、現状ではさまざまな困難を伴う。しかしながら、la la larksはその姿勢を崩さない。そこには職人的なかたくなさだけでなく、音楽家として、またリスナーに対しても真摯な態度を貫く、la la larksのポリシーが感じられる。

ライヴを中心に活動を続け、着実にその評価を高めてきた彼らが、昨年末アルバムの制作にこぎ着け、ついに1stアルバム『Culture Vulture』を完成させた。今作にはライヴで磨き上げてきた楽曲の数々や、先に述べたシングル曲「ego-izm」「ハレルヤ」、坂本真綾に提供した楽曲のセルフカヴァー、新曲などを含む全12曲を収録。5年間の活動の集大成と言うべき、最高の仕上がりとなっている。

※la la larksのロングインタビュー記事はこちら

「Massive Passive」

もとは2ndシングル「ハレルヤ」と同時期に制作され、そのまま未発表となっていたものだが、その原曲をさらに作り直して、今作に収録。高い熱量を放つオルタナロックが、時に軋み合うストリングスを引き連れて、鮮やかに駆け抜ける。転調を重ねながら楽曲をダイナミックに展開させるla la larksらしい作風で(これまでよりさらに一歩踏み込んだ転調の詳細についてはインタビュー記事にて)、アルバムのリード曲、またバンドとしてのあらたな代表曲として相応しいものとなっている。

「色彩 -Album Ver.-」

もともとは坂本真綾に提供した楽曲で、2015年1月にリリースされたシングル「幸せについて私が知っている5つの方法」にカップリング曲として収録されている(作詞は坂本真綾)。ゲーム『Fate/Grand Order』の主題歌となるこの曲は、候補として提出した数曲の中からサビやメロディーを組み合わせて、完成させたとのこと。ストリングスとともに昂揚感が突き抜ける感覚は、School Food Punishmentが坂本に提供した「Buddy」(江口 亮との共作)と共通するものがあり、またその方向性をパワフルにドラマチックに発展させたと言える。のちにla la larksが2ndシングルでカヴァー。さらに今回、オリジナル・ヴァージョンのコーラスパートを、改めて坂本自身のコーラスで録り直して収録している。

「ハレルヤ」

TVアニメ「空戦魔導士候補生の教官」のエンディングテーマとして制作された、2015年7月リリースの2ndシングル曲。バンド主体のロックナンバーだった1stシングル「ego-izm」から一転、うねる電子音やブラス・セクションを交えた華やかなサウンドで、la la larksが作り出す音楽の多様性を示した。1番と2番のサビへと繋ぐアレンジの違いも面白いが、いちばんの聴きどころは最後のサビへと向かう曲の構成。そのまま主旋律に戻れるところを、あえてさらに迂回し、ちょっとフリーキーなサックスを差し込みながら、一気に引き戻すという、大胆な展開を盛り込んでいる。ここが非常にスリリングかつ痛快。音とアイデアを詰め込んだ欲張りな仕上がりを、89秒のヴァージョンしか聴いたことがない人に味わってほしい。

「end of refrain」

1stシングル『ego-izm』のカップリング曲。柔らかな電子音が軽やかに反復する空間的なサウンドはエレクトロニカっぽくもあるが、ギターのエディットや交錯するサビのミニマルなフレーズは、むしろマニュエル・ゲッチングの方法論や、あるいは「エレクトリック・カウンターポイント」でみせたパット・メセニーのプレイを思い出したりもする(アンビエント・ハウス的なアプローチにも似ている)。こういった構造を持つクールなエレクトロニック・サウンドと、人力によるバンド演奏を折衷させる、楽曲の匙加減が興味深い。

「loop」

リズム隊とギターが強く牽引するこれまでの曲とは趣を変え、ピアノとストリングスを全面に打ち出した、ブライトで清涼感あふれるサウンドを展開。河野 伸のストリングス・アレンジと、ラリー・カールトンを指向したというクリーントーンのギターが、楽曲に都会的で洗練された雰囲気を加えている。また時おり自由闊達に奏でられるピアノの旋律や、伸びやかなヴォーカルも開放的なイメージで伝わってくる。メロディーが軽やかに流れ行く、洒脱なナンバー。

「たりない」

オーセンティック・スカを思わせるホーン・セクションや、レゲエのゆったりとしたグルーヴを取り入れた楽曲。河野 伸がブラス・アレンジを担当しており、オーガニックなシティポップといった仕上がりになっている。ハモンドオルガンのようなキーボードの音色もメロウな雰囲気をさらに演出。江口 亮によれば「ドラムは、ヒップホップの解釈に寄せた“跳ねないドライなもの”」とのことだが、こういったビートの選択も楽曲にla la larksらしいクールなイメージを与える。ゆらぐ心の内をそのままに映したちょっとけだるげなヴォーカルも印象的だ。

「さよならワルツ」

“シュワシュワシュワ パチパチパチ”のフレーズが踊るように空間に響いている。キャッチーな語感の心地よさとは裏腹に、やるせない気持ちを打ち消すように言葉が強く押し出されているのは、失恋をテーマにした曲だから。“君のいないこの部屋 自由の檻の中”という歌詞も、置きどころがなく漂泊を続ける想いを伝える。ビートの周りを巡るリズム、絡み合うギター、強がりな感情。激しさの中にポップなテイストを交えたサウンドが孤独な姿を浮き彫りにしている。

「Q And A -Album Ver.-」

「ハレルヤ」のカップリング曲をアルバム・ヴァージョンとして収録。シングルではその次に収録されている「色彩」へと繋ぐために、ピアノのパートが少し付け加えられているが、ここは除かれている。また改めてミックスを施して収録。シングルとアルバムとで聴き比べてみると(どちらもCD音源)、アルバムでは音の輪郭がくっきりとしており、楽器の定位も明確に伝わってくる。また量感を保ちながらも引き締まったグルーヴがいっそう際立つ。本来のスピード感に加えて、楽曲がさらに躍動的に感じられる仕上がりだ。揺れ動く感情の起伏を丁寧に掬い取ったヴォーカルも聴きどころ。

「失う」

la la larksの結成当初よりライブで演奏されてきた楽曲で、シューゲイザー~オルタナ感の強いノイジーなギターサウンドが空間を塗りつぶすように轟く。センチメンタルの底へと沈んでいく様子を叙情的に紡ぐピアノの旋律に、心の慟哭をそのままに代弁するギターがダイナミックに折り重なる、その荒々しいまでのコントラストが美しい。感情を揺さぶる、圧倒的なまでの激しさを展開したサウンドに強く引き込まれる。

「ego-izm」

TVアニメ『M3~ソノ黑キ鋼~』のエンディングテーマとして制作された、2014年6月リリースの1stシングル。アニメのダークな世界観を反映した不穏な雰囲気を敷き詰めつつも、それを突き破るかのように曲をダイナミックに展開させている。心の不協和音を描くピアノの旋律や、ひりついた感情が表出するギターの歪みなど、それぞれの音が練り上げられたアレンジやエフェクトを通過し、「思春期の葛藤」というテーマに集約していく。大胆かつ精緻にイメージを組み立てる、la la larksらしさを印象づけたナンバーだ。

「Reset」

疾走感溢れるサウンドと、“僕”の言葉で語られる前向きな歌詞で、青春のイメージをみずみずしく描く一曲。メロディアスなサウンドの中にパワーポップな感触も感じられるナンバー。一直線に駆け行く爽やかさの中に、焦燥や挫折といったほろ苦さをコード進行にさらりと織り込みながら、それを乗り越えて進み続ける、未来への期待や希望を映し出すラストへの展開がぐっとくる。今までの自分と決別するかのように一気に幕を閉じる、終わり方も清々しい。

「Self」

叩きつけるようにギターが鳴り響くイントロや、サビ前の炸裂するドラミングも鮮烈な、ラストナンバー。この曲も結成当時からのレパートリーに入っており、ステージでのla la larksの姿を彷彿とさせる、ライブ感溢れる演奏で収録されている。しかしながら、エネルギッシュなサウンドに対して、ヴォーカルはややけだるげ。と言っても、渇望する精神の倦怠感を表わした「たりない」とは異なり、こちらは苦闘する日々がもたらす肉体的な疲労から生ずるもの。「Reset」のその後を描くようなこの曲では、進み続ける意志は失っておらず、むしろ精神は昂揚する一方。“未来の僕には 今 見えてるでしょう? 見たことない明日が”のフレーズが、アルバムのエンディングにカタルシスをもたらしてくれる。

ハイレゾでは、前述のとおり妥協せずに制作された楽曲の魅力を余すところなく引き出す、解像感や情報量を感じられる。魅力のポイントとしてまず挙げられるのは「演奏」。繊細さも交えながら、楽曲を力強く支えるターキーの迫力あるドラミング。しなやかなその存在がぐっと引き立つ、クボタケイスケが生み出すベースライン。複雑な感情が入り乱れる旋律を、激しい音色で滑らかにあやなす三井律郎のギタープレイ。時おりピアノロックかと思わせる華やかさで、サウンドに彩りを加える江口 亮のキーボード。プロフェッショナルとしての冷静なテクニックと、情熱が迸るいちミュージシャンとしての感性が合わさったプレイヤー集合体、la la larks。そのバンドとしての一体感が伝わってくる。それぞれの演奏にスポットライトが常に当たっているような存在感なので、聴きごたえも充分。コンプなどで無理に押し出した感じもなく、自然な雰囲気だ。またla la larksの楽曲では、拍子のアクセントも重要な要素なのだが、その微妙な強弱を感じ取れるのもうれしい。

もうひとつのポイントは「アレンジ」。ハイレゾの得意とするリアルな描写によるストリングスは、時には壮大に、また寄り添うような優しさで包み込むように奏でられ、楽曲の世界観をさらに奥行きの深いものとする。ヴァイオリンのソロプレイも聴きどころ。今作ではブラス・セクションを導入した楽曲もあり、「ハレルヤ」では、村田陽一のトロンボーンと山本拓夫のテナー・サックスという、SOLID BRASSのリーダーと中核を担うメンバーによる演奏も味わえる。張りのある弾んだ質感で楽曲をさらに盛り上げてくれる。また特にアニメタイアップ曲では、趣向を凝らしたアイデアが随所に盛り込まれており、エフェクティブなギミックや、トリッキーなプレイ、巧みなエディットなど、ここまでもかと思うほど凝りまくった音の演出が施されている。あまりに一瞬だったり、さりげなかったりする部分もあるのだが、音数が多くとも無理なく聴き取れる仕上がりとなってるので、楽曲をより細部まで楽しむことも可能だ。これらアレンジや楽曲の構造をしっかりと把握できる情報量だ。

もちろん演奏だけでなく、バンドのフロントを務める内村友美のヴォーカルもまたその姿を鮮やかに表わす。楽器同士の密になりながらも混濁しない距離感のように、サウンドからすっと浮かび上がるような存在感。また輪郭のすっきりとした質感を保ちつつ、ハイレゾではそこに宿る陰影もさらに濃くするような、表情を形作る声のグラデーションも非常にきめ細やか。心の揺らぎを静かに汲み上げたパートから、ファルセットを織り交ぜ、言葉の意味を鮮烈に印象づけるサビまで、移りゆく感情を繊細なタッチで描く、豊かな声の表現力が感じられる。

 

ジャケットではバンドとしての5人の存在をアピールしつつ、メンバーではなくアルミホイルを巻いたマネキンにその役を担わせる、ある種「匿名性」を匂わせながらも、開いた音の中では、この演奏、この声でしかありえない、唯一無二の「記名性」がしるされているのもユニークなところ。

楽曲のクオリティのみならず、その制作方法によって、これからの音楽が持つ可能性を提示した『Culture Vulture』。時代の波を超え、スタンダードとなりうる楽曲を斬新なアレンジで作り上げる、同時代性と革新性を兼ね備えたバンド、la la larksの金字塔となるアルバムだ。

la la larks
Culture Vulture

FlyingDog
2016.08.30

FLAC・WAV 48kHz/24bit

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 収録曲

 1.Massive Passive(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks
   strings arrangement : 石塚 徹

 2.色彩 -Album Ver.-
   lyrics : 坂本真綾
   music &  arrangement : la la larks
   strings arrangement : 江口 亮・石塚 徹

 3.ハレルヤ(TVアニメ「空戦魔導士候補生の教官」エンディングテーマ)
   lyrics, music & arrangement : la la larks

 4.end of refrain
   lyrics, music & arrangement : la la larks

 5.loop(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks
   strings arrangement : 河野 伸

 6.たりない(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks
   horn arrangement : 河野 伸

 7.さよならワルツ(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks

 8.Q And A -Album Ver.-
   lyrics, music & arrangement : la la larks

 9.失う(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks

10.ego-izm(TVアニメ「M3~ソノ黑キ鋼~」エンディングテーマ)
   lyrics, music & arrangement : la la larks
   strings arrangement : 江口 亮・石塚 徹

11.Reset(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks

12.Self(新曲)
   lyrics, music & arrangement : la la larks

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