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INTERVIEW

2017.09.06

隠した”こころ”を奏でる音楽 TVアニメ『覆面系ノイズ』 SADESPER RECORD NARASAKI/WATCHMAN インタビュー

2017年4月より放送されたTVアニメ『覆面系ノイズ』は、音楽好きにとって非常に魅力的かつ衝撃を覚える作品だった。「花とゆめ」で連載中の福山リョウコによる少女マンガを原作としたこのアニメは、聴く者を惹きつける歌声を持つ少女・ニノ(CV.早見沙織)と、彼女の幼馴染で初恋の相手であるモモ(CV.内山昂輝)、そして作曲が得意な少年のユズ(CV.山下大輝)という音楽的な才能に恵まれた3人を中心に、それぞれの想いがすれ違いながら交錯していく「音楽×片恋ストーリー」だ。

この物語において重要な役割を果たすのが、ユズがメンバーとしてすべての楽曲を手掛ける覆面姿の人気オルタナティブ・ロック・バンド、“in NO hurry to shout;(以下、イノハリ)”。ストーリーの序盤では深桜(CV.高垣彩陽)がボーカルを務め、後に彼女との入れ替わりでニノが加入することによって運命の歯車は一気に回り始める。彼らの音楽が時に物語を駆動し、時にニノの心象を映すものとしてアニメの世界を激しく彩っていくのだ。

そんなイノハリの楽曲を実際に制作したのが、数多くのアニメ作品に携わってきたことで知られる音楽家のNARASAKI。自身のバンドであるCOALTAR OF THE DEEPERSにて独自のオルタナティブ・ロックを追求してきた彼以上に、イノハリの音楽を現実のものとして存在させるのに適任の人物はいなかっただろう。それはアニメのOP/EDテーマや挿入歌として制作され、CDシングルおよびハイレゾ音源としてリリースされた一連の楽曲群を聴けばすぐにわかるはずだ。

今回は「アニソン×オルタナ」という意外にして最高のマッチングを実現したイノハリ楽曲の話題を中心に、NARASAKIへのインタビューを実施。また彼とともにSADESPER RECORD(サデスパー・リコード)名義で同アニメの劇伴を手掛け、イノハリの音源にもドラムスで参加しているWATCHMANにも同席してもらい、『覆面系ノイズ』の音楽的な魅力に迫った。

Interview & Text by 北野 創

変則チューニングが生んだ「イノハリらしさ」

──────今回、NARASAKIさんが劇伴も含めて『覆面系ノイズ』の音楽全般を担当されることになった経緯はどういったものだったのでしょうか?

NARASAKI (『覆面系ノイズ』の)プロデューサーが、アニメでオルタナをやるのであれば自分が適任ではないかと考えてくださって、声をかけていただいたんです。そこから自分も原作を読ませてもらって、この作品ならば面白いことができるんじゃないかという気持ちになって引き受けました。

──────いつ頃から制作に着手したのですか?

 NARASAKI 歌ものに関しては去年の8月くらいから作り始めて、最後の曲が終わったのは今年の4月か5月だったので、かなり長い期間やってましたね。単純に曲を作るというよりも、お話の中での演出や効果を考える必要があるので、プロデューサーといろいろディスカッションして曲を揉んでいく作業に時間をかけて、丁寧に作っていきました。とはいえ、楽曲の勢いも今回は大事にしています。

──────原作者の福山リョウコさんは音楽好きで知られていますが、例えば楽曲を作るにあたって具体的なオーダーはありましたか?

NARASAKI 福山先生やプロデューサーとイメージをすり合わせていくうえで出てきたのが、ひりついている感じや、ちょっと悲しい曲調というもので。それと主役の女の子(ニノ)が絶叫するように歌うので、それをカッコよく見せたいと思って作り始めていきました。

──────その「絶叫するように歌う」という意味において衝撃的だったのが、第1話で挿入歌として使用された「スパイラル」だと思います。この曲ではニノ役の早見沙織さんがこれまでに聴いたことのないような荒々しい歌唱をしていて、第1話の掴みとしても抜群のインパクトがありましたが、どのようなコンセプトで作っていかれたのでしょうか?

NARASAKI もちろん掴みという意味でも大事な曲だという気持ちはありましたけど、やっぱりお話上の演出として、主人公がどうしようもない衝動で叫び始めてしまうという曲なので、そこを助長するように作っていって。単純に叫びを激しく聴かせるというよりも、後ろのギターのコードと合わさることでよりエモくなるように、ちょっと変わったところのあるロックにしたんです。イノハリは(劇中で)人気があるバンドという設定なので、曲を作ってる人のセンスを普通にはしたくなかったし、才能がある感じに見せたかったですね。

──────そこはあくまで「ユズという稀有な作曲家が楽曲を手掛けているバンド」という物語上の設定に沿う形で楽曲を作っていかれたということなんですね。そういった「イノハリらしい楽曲」を演出するうえで心がけたことはありますか?

NARASAKI 今回はデカい音を出して曲を作りたかったので、まず(WATCHMANと)ふたりでスタジオに入って。

WATCHMAN やっぱりイノハリはバンドなので、いわゆるメンバーが家でアイデアを練ってそれを出し合って曲を作るみたいな形ではなくて、まずスタジオに入って音を鳴らすところから楽曲のインスピレーションを拾えたら、というところから曲作りを始めたんです。

 NARASAKI そういう衝動に背中を押されるような感じで曲を作れたら最高だなあと思って。それで取り組むようになったのが、ギターの変則チューニングなんです。イノハリの曲のギターは8割方変則チューニングで、それが自分的にはすごく新鮮だったし、「これならいくらでも曲を書けるわ」っていうぐらいハマったんですよ(笑)。変則チューニングであることが意味を成してる感じがして。

──────それは具体的にどういったことでしょうか?

 NARASAKI 例えば「カナリヤ」という曲のイントロは普通はやらない感じのチューニングなんですね。でも、そういうところが「イノハリは才能がある」という設定に繋がればいいし、荒削りだけど高校生がデビューしたことの理由みたいになればと思ったんです。ユズのそういう一般的じゃないコードワークが才能として買われているのであれば、どんなに荒削りな音楽だとしても(物語として)ちゃんと成立するというか。もし「カナリヤ」がただ滅茶苦茶なだけの曲であれば、アニメを観てる側は「ハァッ?」となってしまうだろうし。

in NO hurry to shout;
「カナリヤ [ANIME SIDE]」
レビューはこちら

──────たしかにそこで曲が特別感のあるものでないと、イノハリが劇中でカリスマティックな支持を得ているリアリティーがなくなります。

WATCHMAN やっぱり楽曲としての説得力ですよね。最終回でフェスのお客さんがイノハリのステージに雪崩れ込むシーンがありますけど、実際に音楽の魅力がないとああはならないと思いますしね。

 NARASAKI だから変則チューニングという手法はうまくいったと思います。「この曲にはなにかあるぞ」という雰囲気が出ますし、しかも音が信じられないぐらい半音でぶつかってたりして、プロ的にはおかしいだろうという感じになってるので(笑)。高校生なら普通は既存のチューニングでやると思うんですけど、それを関係なしに「これでいいじゃん」という感じで変則チューニングを使ってるとすれば、それは特別な才能があるということだと思いますしね。イノハリがメジャー・デビューできてるのは、みんなに才能を認められてということじゃないといけないので。

──────それとやはり耳を惹くのは、衝動を剥き出しにしたような早見さんの歌唱だと思います。早見さんは普段こういったタイプの歌い方をされない方だと思うのですが、レコーディングではどのようなディレクションをされたのでしょうか?

NARASAKI 語弊があるとまずいんですけど、早見さんは発声がちゃんとしてる方なので、普通に歌ってもらうとあまり苦しそうに聴こえないんです。でも、(アニメの)痛々しい絵にもっと寄り添う感じにしたいので、早見さんには芝居も入れてもらいながら歌を作りこんでいただきました。ニノはライバルの深桜という子に発声の仕方を教えてもらってだんだん歌が上達する設定なので、1話の段階だと腹式ではなくて喉だけで歌うような感じにしたりと。

──────第1話の「スパイラル」では、あえてそういう歌唱法で挑んでもらったわけですね。

NARASAKI そうです。あとは声の持ってる豊かさみたいなものを取るためにマイクを変えたりとか、機材面でもいろいろと意識をしていて。早見さんが元々持っているよい部分が削がれる感じの録り方をあえてした部分もあって、それがリスナーに響いてくれたらいいなと思って作りました。

in NO hurry to shout;
「ハイスクール [ANIME SIDE] -Bootleg- / スパイラル」
レビューはこちら

──────そういった作曲や歌唱面での工夫はもちろんですが、いわゆるアニソンではあまり聴かれることのない歪んだ音響もイノハリの楽曲の特徴ですよね。

NARASAKI そうですね。自分の理想の音にすることができたんですが、これも簡単にたどり着いたわけではなく、音響周りはとにかくシステムにこだわって(音を)汚したという感じですね。かなり良い機材を使ってこの音響になっているということは言い切っておきたいです。

WATCHMAN トラックダウンのたびに毎回、スタジオに常備されている機材ではなくて、彼のお気に入りのすごくいい機材を持ち込んで、そこでいろいろ調整しながら作っていったんです。

──────こだわられた機材というのは?

NARASAKI 録音機材ですね。マスターはDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)なんですけど、そのDSDやクロックジェネレーターにもこだわっていて、卓とかマスター周りの機材は自分のものを持ち込んで使ってます。歪んで汚い音なんですけど、実は良い音で作ってるという。

──────それらの高品質な機材を使って、どのような歪みをめざしたのでしょうか。

NARASAKI イノハリは洋楽的な音の作り方をすると思うんですよね。あまりハイミッドが充実してないというか、落ち着いてるというか、もっと下で歪んでるというか。なので楽器が持つ音をちょっと下にしていくという作り方ですかね。それは早見さんの声を歪ませるというのが大前提で、激しい曲に関しては歌をエモーショナルに聴かせるために全部が歪んでるといっても過言ではないです。

──────そこはやはりしっかりとした機材を使わなければ、理想のローファイ感を出すことができなかったということでしょうか?

NARASAKI 音は汚くしたかったんですけど、音質的には最高の環境でやらないと説得力がないじゃないですか。だから単純に汚くするにしても、ちゃんとした環境で汚くするということをしないといけないんです。ローファイな機材でやると簡単に見えると思うんですけど、やっぱりかゆいところに届かないというか。ローファイな音にしたいんですけど、音にガッツがなくなるのは嫌なので、そこも計算してます。コシがあるんだけど汚いみたいな感じですかね。

──────そういった音の汚し方は、NARASAKIさん自身がこれまでの活動で培ってきた経験があるからこそできることですよね。

NARASAKI そうですね。だから逆に何を言われても自分が気持ちいいと思って作った音だから自信がありますし、ちゃんとしたものを提供できてるという自負はあります。

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