中島 愛『Curiosity』レビュー

2018.02.14

アーティスト活動再開後、初となるアルバムが完成。多彩な作家陣が手がけた新曲9曲、シングル曲「ワタシノセカイ」「サタデー・ナイト・クエスチョン」など全12曲を収録。「好奇心」をテーマに今の中島 愛を鮮やかに映し出した意欲作。

中島 愛の4枚目となるアルバム『Curiosity』。ポルノグラフィティ、広瀬香美、小泉今日子など、様々なアーティストを手がける田村充義がプロデュースする今作では、ラスマス・フェイバー、ポルノグラフィティの新藤晴一、前山田健一、CMJK、重永亮介、Avec Avec、松本良喜ら様々なクリエイターを迎え、多彩なサウンドを展開。これまでになかったタイプの楽曲にもチャレンジした意欲的な作品となっている。

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「サブマリーン」は、新藤晴一が作詞を、ラスマス・フェイバーが作曲・編曲を担当するアルバムのオープニング・ナンバー。ラスマス・フェイバーは中島 愛へ「TRY UNITE!」「マーブル」などの楽曲を提供し、中島もラスマスのアルバム『WE LAUGH WE DANCE WE CRY』に収録の「雨」にボーカリストとして参加している。さてラスマスの提供曲はハウス・ミュージックの手法を用いたものが多いが、この曲では80年代の歌謡曲を思わせるアレンジで仕上げており、そのポップなサウンドからは化粧品のCMソングといった洗練された雰囲気も感じられる。実に「春」っぽい曲なのだ。

そんな華やかなサウンドとは裏腹に、“潜望鏡を伸ばしては 外の世界を覗き見ている”と語る歌詞は陰りを帯びたもので、ときにはドキッとするような言葉も並ぶ。そんな歌詞のトーンがありつつも、楽曲をポジティブなイメージへと昇華しているのが、ラスマスの爽快なサウンドと中島 愛の明るい歌声。この聴きやすさがあるからこそ、メッセージがすんなり受け止めやすく、気持ちを代弁してくれるような歌に共感を覚える人も多いことだろう。楽曲の心地よさを楽しみながら、また歌詞にも注目しながら聴いてみてほしい。

「Life’s The Party Time!!」は、昨秋、中島 愛がフェイバリットに挙げるアイドル・Negiccoとのコラボ曲(かぜ薬のCMソング「かぜぐすリリック」)も大きな話題を集めた前山田健一が手がけるパーティー・チューン。こちらも80年代後半のニューミュージックっぽい音色やゴージャスなアレンジを加えながら、起伏に富んだサウンドを展開している。歌詞は中島と前山田が共同で手がけており、切なさもちょっぴり漂う内向きなABパートから、突き抜けるようなサビへと中島から前山田へ歌詞の執筆をバトンタッチ。その温度差が「開き直り」と中島が例える、サビの圧倒的な開放感を生み出している。ボーカルも様々な抑揚を使い分け、葛藤する心情を描いている。

「残像のアヴァロン」は、欅坂46の「サイレントマジョリティー」「不協和音」を手がけた、男女2人組作曲ユニット・バグベアによる楽曲。壮大なスケール感のサウンドとドラマチックな旋律のみならず、タイトルやサビ始まりのイントロからして、ヒロイック・ファンタジー系のアニメ主題歌をすぐさま想起させるが、実はこのアルバムのためのオリジナル曲。サウンドのインパクトもさることながら、このことにも驚かされる。岩里祐穂が綴る歌詞は、アーサー王の最期をモチーフにしつつそこに「母性」を織り込み、「愛」という言葉を連呼することでその強さを激しく訴えかける。ボーカルはメインとそれを追いかけるパートで構成されており、運命に負けぬ勇ましさと包み込む愛の優しさを交差させる、ふたつの歌声がエモーショナルだ。

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「Jewel」は、ポルノグラフィティへ「アポロ」「ミュージックアワー」「サウダージ」「アゲハ蝶」などの楽曲を提供し、いきものがかりのサウンドプロデュースを行う本間昭光が作編曲を担当。『スレイヤーズ』の劇伴や、『カードキャプターさくら』の主題歌「Catch You Catch Me」「Groovy!」のアレンジ、あるいは水樹奈々の初期作品で本間の名を目にしたアニメ・ファンも多いことだろう。オールラウンダーな音職人が手がけるこの曲は、コンテンポラリーな洋楽のテイストを取り入れ、ゆったりとした昂揚感を醸し出すリズミカルなサウンドをベースに、小気味いいギターのリフを織り交ぜ、爽やかに楽曲を展開。そのはしゃぎ過ぎず、やや落ち着いた雰囲気は、加藤哉子が描く歌詞のイメージにもぴったりで、「ガーリーな大人の女性」の姿が浮かび上がる。

「思い出に変わるまで」は、ClariSや西沢幸奏、ナノ、沼倉愛美らの曲でもおなじみ重永亮介によるナンバー。中島 愛では1stシングル「天使になりたい」をはじめ「ノスタルジア」「Shining on」(作詞は加藤哉子)など、中島のアーティスト活動初期に多くの楽曲を提供しており、今作への参加は先の加藤哉子とともにちょっと同窓会といった趣もある。そんな重永が作編曲した楽曲は、全体的にノスタルジックな雰囲気が漂い、サビには哀愁が強くにじむ。実に歌謡的であるのだが、「歌謡曲」ではなく「アイドル歌謡」になっているのがポイントで、そんな曲調を再現するストリングスやホーンなどの巧みなアレンジや、さりげなく英語を差し込む中島の歌詞センスが光る。

『Curiosity』初回限定盤ジャケット

「ウソツキザクラ」は、中島美嘉「雪の華」やRUI(柴咲コウ)の「月のしずく」を手がけた、作詞家・Satomiと、作曲家/シンガー・松本良喜(ワルキューレ「AXIA~ダイスキでダイキライ~」、安野希世乃「さよならソレイユ」の作曲でも知られる)とのコンビによる楽曲。舞い散る花びらに恋心を重ねたセンチメンタルなバラードで、美しいメロディが心にすっと入ってくる。叙情的なサックスの音色も印象的で、これら演奏や洗練されたアレンジも楽曲のスタンダード感をさらに高めているようだ。ボーカルは秘めた想いをていねいにすくいあげ、その切なさを情感豊かに表現している。

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「Odyssey」は、Seihoとのユニット“Sugar’s Campaign”のメンバーでもあるトラックメーカー・Avec Avecによるポップ・チューン。牧野由依やYun*chi、一十三十一への楽曲提供、fhánaやNegiccoのリミックスなどでも知られるAvec Avecだが、中島 愛のボーカルをフィーチャーしたlivetuneのシングル「Transfer」(2012)にてリミックスを担当。インタビューにもあるようにこのリミックスを気に入った中島 愛からのオファーに応えて、今回アルバムに参加をしている。「Odyssey」は、80年代のシンセポップをベース・ミュージックの観点から再構築するAvec Avecの持ち味がよく表れており、音の響きや空間の余白を生かした浮遊感のあるサウンドとボーカルの淡いニュアンスは、シングル「サタデー・ナイト・クエスチョン」のカップリング曲「はぐれた小鳥と夜明けの空」にも通じるところがある。

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「未来の記憶」はCutemenのCMJKが作編曲を担当。J-POPやアイドル、また寺島拓篤や佐咲紗花、渕上 舞にも楽曲提供しているCMJKが手がけた曲の中で、アニメファンになじみが深いのは『マクロスプラス』にてシャロン・アップルが歌唱した「INFORMATION HIGH」だろう。こういったエッジの効いたサウンドを作り出してきたCMJKだが、この曲はさらにひねりを加えたパンチのある仕上がり。ものものしい緊迫感のあるイントロからのちょっと仰々しい楽曲の展開や、シリアスな雰囲気がありつつユーモラスな曲の感じなど、近年のアイドル・ワークスで培われてきた「尖った」センスが存分に発揮されている。「曲というよりアトラクション」というCMJKのコメントにも納得。80年代末~90年代初頭のレイブっぽいアレンジも交えたサウンドはメロディアスで中毒性が高い。歌詞は中島 愛と共著で『音楽が教えてくれたこと』を刊行した文筆家の甲斐みのりとTwistyことタカシツグミ(PINE*am、Kofta)が手がけており、ロマンチックな内容が癖の強いサウンドに妙にはまっている。「少女性」が表れたその歌詞は、『音楽が教えてくれたこと』のテーマにも重なる部分があり、併読をオススメしたい。

「愛を灯して」は、最近では町あかりの楽曲などのアレンジを務める作曲家/ギタリスト・坂東邑真が手がけている。そして、海外でも人気のドラマー・川口千里が参加。坂口は野呂一生にギターを師事、また川口は大高清美とユニットを組んでいることもあり、“CASIOPEA”な繋がりを感じる顔ぶれである。といっても、今回はフュージョンではなく、劇伴作家でもある坂東らしいアンサンブルが冴える清々しいポップス。バグパイプとマーチング・ドラムがゆっくりと導くように奏でられ、あらたな旅の始まりを告げる。その道のりをくじけずに前向きに歩み続ける姿は中島 愛そのもの。“ひとりきりの夜が明けぼくらはまた巡りあう”という中島による歌詞はファンへの想いを強く感じさせる。温かく優しい雰囲気に包まれる、アルバムのラストを飾るにふさわしい曲となった。

ハイレゾでは、「サブマリーン」は音の粒子が煌めきながら弾けるイントロから鮮やかな解像感で、歯切れのいい華やかな響きに惹きつけられる。「Life’s The Party Time!!」は空間の広がりや奥行きを生かした仕上がりで、ホーン・セクションも交えた賑やかなアンサンブルを立体的に配置しているのがわかる。「残像のアヴァロン」はその傾向からさらに音のメリハリを強調したような感じだ。逆に「思い出に変わるまで」「ウソツキザクラ」「愛を灯して」は分離感を保ちつつも、演奏の一体感へとミックスの比重を置いた印象。「思い出に変わるまで」ではグルーヴィーなリズム隊、「ウソツキザクラ」ではなめらかなサックスのソロ、「愛を灯して」は川口千里が刻むマーチングドラムが聴きどころ。ストリングスに厚みが加わり音の密度が増した「Jewel」、リズムの粒立ちとシンセの弾力を感じる「Odyssey」、トリッキーなサウンドを形作る音の細やかさを映し出す「未来の記憶」もいい。

ボーカルはサウンドを背景に一歩前に出ているイメージで、「サブマリーン」「Jewel」では清涼感のある歌声が明快に届く。「Life’s The Party Time!!」では移り変わる感情の動きを勢いよく描いており、その活き活きとした表情が目に浮かぶようだ。「ウソツキザクラ」は、ちょっとこらえているような抑揚が味わい深い。「Odyssey」は高低を行き来する声の繊細なニュアンスを鮮明に捉えている。「愛を灯して」では前向きな気持ちを表現した歌声が朗らかに響き、終盤の“3. 2. 1”の清々しさが耳に残る。

活動休止期間中の心情を表したような「サブマリーン」から、先へと進む意志を改めて示した「愛を灯して」まで、率直なパーソナルな面を見せつつ、親しみのあるエンターテイメントな雰囲気でまとめた今作。中島 愛ならではの「まめぐ的歌謡」センスを盛り込みながら、新機軸のスタイルも導入し、アーティストとしてさらなる進化を追い求めているようだ。彼女のあくなき探究心、好奇心がたっぷりと詰まった一枚だ。

中島 愛
Curiosity

FlyingDog
2018.02.14

FLAC・WAV 48kHz/24bit
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mora

 収録曲

 1.サブマリーン
   作詞:新藤晴一 作曲・編曲:Rasmus Faber

 2.Life’s The Party Time!!
   作詞:中島 愛&前山田健一 作曲・編曲:前山田健一

 3.残像のアヴァロン
   作詞:岩里祐穂 作曲:バグベア 編曲:バグベア&千葉“naotyu-”直樹

 4.ワタシノセカイ(TVアニメ『風夏』エンディングテーマ)
   作詞:瀬尾公治 作曲:秋浦智裕 編曲:WEST GROUND

 5.Jewel
   作詞:加藤哉子 作曲・編曲:本間昭光

 6.思い出に変わるまで
   作詞:中島 愛 作曲・編曲:重永亮介

 7.ウソツキザクラ
   作詞:Satomi 作曲・編曲:松本良喜

 8.最高の瞬間
   作詞:山田稔明 作曲・編曲:古川貴浩

 9.Odyssey
   作詞・作曲・編曲:Avec Avec

10.サタデー・ナイト・クエスチョン(TVアニメ『ネト充のススメ』オープニングテーマ)
   作詞:加藤慎一 作曲:山内総一郎 編曲:フジファブリック

11.未来の記憶
   作詞:甲斐みのり&Twisty  作曲・編曲:CMJK

12.愛を灯して
   作詞:中島 愛 作曲・編曲:坂東邑真

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