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INTERVIEW

2018.04.20

劇場アニメ『リズと青い鳥』音楽担当・牛尾憲輔インタビュー

京都アニメーション制作による新作映画『リズと青い鳥』が4月21日より公開される。オーボエ担当の鎧塚みぞれとフルート担当の傘木希美という2人の少女の繊細な関係を描いた本作。スタッフには、監督・山田尚子、脚本・吉田玲子、キャラクターデザイン・西屋太志、音楽・牛尾憲輔といった、映画『聲の形』と同じ制作陣が集結している。今回は劇伴を手がけた牛尾に話を聞き、その美しくも儚い物語を彩る音楽に込められた魔法の秘密を探った。

――牛尾さんが山田監督の作品の劇伴を担当されるのは、映画『聲の形』に続いて2度目となります。やはり映画『聲の形』での作業に手応えを感じられての続投なのでしょうか。

牛尾憲輔 それもあると思いますし、映画『聲の形』の完成版のフィルムを見ながらお互い新しく思い付いたことがあったり、打ち上げのときにも、あれもしたいこれもしたいという話で盛り上がったので、「また一緒にできたらいいね」という話はしてたんですよ。なので今回も山田さんからオファーをいただいて光栄でしたし、映画『聲の形』に続いて二人でクリエイティヴなことができるのが楽しみでした。

――映画『聲の形』ではメニュー表のない状態で制作を進められたとのことですが、今回の『リズと青い鳥』はいかがでしたか?

牛尾 今回も結局メニューはなくて、まずは映画『聲の形』のときと同じで脚本と少しの絵コンテがある段階で打ち合わせをさせていただいて、コンセプトワークを作ったんです。そこからスケッチで音を作って、それを出来上がった世界観のものに当てはめていく作業をして、足りないものをさらに作っていく流れでした。

――映画『聲の形』の作業と比較して変化した部分は?

牛尾 作品的に違うのはもちろんですが、今回は僕の携わる期間がズレてしまったので、山田さんの絵コンテが上がった状態で俯瞰してみることができたんですよ。僕が山田さんとご一緒させて頂くときは最初の段階である程度のイメージや抽象的な作品の背骨となるものを作っておいて、それをもとに作る、というやり方なんですね。それとオープニングとエンディングで彼女たち(みぞれと希美)の足音や動作音が音楽になっていく場面があるんですけど、そこは前もって細かくやり取りしながら作っていきました。

――例えば制作するにあたって山田監督から具体的なキーワードのような
ものはいただいたのですか?

牛尾 コンセプトにあるものを言葉にするのは、少しはしたない部分もあるのかなとは思うのですが、ひとつ挙げると山田さんは「デカルコマニー(転写画)」という単語をおっしゃってて。これは心理学にあるロールシャッハテストのような手法を指す言葉で、その手法で描かれた図形は(中央の線を挟んだ)右と左が似ているけど違う形になるんです。たぶんそれがみぞれと希美の関係性に繋がっていくコンセプトだと思うんですけど、僕はそれを実際に絵にして、(モートン・)フェルドマンみたいな図面楽譜として採譜するという形を、今回の劇伴のベーシックにしてるんですよ。ただ、それだけで作ると散らかった音楽になるので、そこにイメージコンセプトや物語の秘めやかな部分を合わせて作っていく作業でしたね。もちろん楽典的な意味で作った曲もあるんですけど。

――サウンドにポストクラシカルというか現代音楽的な印象があるのは、まさにそういう手法を取られたからだったんですね。

牛尾 それとシナリオを読んだときに、これはすごく秘めやかなお話で、主人公の二人以外に知られてはいけないと思ったんですよ。思春期のこんなにも繊細で薄張りのガラスのような気持ちを他の人に知られたら、この子たちは本当にこの後の人生の人間関係を作れなくなっちゃうと思って。なので音楽も息をひそめて見ているようなものにしたかったんですよ。それにこの映画には松田(彬人)さんが作曲された素晴らしい吹奏楽のパートがあって、映画が終わった後に口ずさむべきはそのメロディだと思ったので、僕の劇伴はメロディを出しすぎないようにしようと思って。それで一般的ではない音楽の作り方をしたんです。

――「息をひそめて見ているような音楽」というのは、どのように表現されたのでしょうか。

牛尾 山田さんのロケハンの写真とか絵コンテを見ると、主人公の二人を見ている視点が廊下の窓や音楽室の備品、生物学室のビーカーとかで、そういうものたちが見守っている視点のお話だと思ったんです。なので実際に舞台になっている京都の学校に伺って、楽譜立てをバチで叩いたり、ビーカーを弓で引いたりして、そういう物音のサンプルライブラリーを作っておいたんです。映画館で聴くとすごく奥まった小さな音になると思うんですけど、そういう音も入っているから彼女たちを見守る視点の音楽になっているんですよ。それを縫うような楽音が、彼女たち自身、つまりデカルコマニーで描かれた楽譜の一音一音になっているんです。

――なるほど。

牛尾 音響監督の鶴岡(陽太)さんが楽譜を見て仰っていたのが、たぶんビーカーや窓ガラスは中央の線で、右と左の二つを見守る視点にあるということ。その考え方が僕もいいなあと思ったんです。そこに二つのキャラクターの視点があるという音楽になっていますし、劇中の現実のパートに関してはそういうコンセプトに貫かれてます。

――現実の学校で録音した音を使うことで、作品の世界観にある種のリアリティーも加えられますし。

牛尾 映画『聲の形』のときも思ったんですけど、アニメって背景に書かれてない部分は存在しないじゃないですか。でもコンテの絵を見ていると、描かれていないけど、廊下の曲がり角の向こうに空間を感じるな、と思ったんですよね。僕も実際に学校に行って思ったんですけど、リノリウム張りの廊下でコンクリートの建物というのはすごく音が響くので、すごく奥行きが見えるんですよね。響いている空間に人の音は二人の声しかしないんだけど、その音があるだけで学校が鳥かごのように見えるし、彼女たちの秘めやかな日々をギリギリな感じで浮かび上がらせることができるんじゃないかなと思って。だから誰も見ていない感じを表現するためにはどうしたらいいかを考えましたね。

――曲作りの発想がそういう前衛的なところまで広がっているのもおもしろいですね。

牛尾 山田さんとはそういう部分で共鳴できるのが一緒にやっていて楽しいですね。それを鼻で笑わないというか「やばいねー!」ってなるのがカッコイイところだと思います。

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