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INTERVIEW

2018.04.20

劇場アニメ『リズと青い鳥』音楽担当・牛尾憲輔インタビュー

――レコーディングで何か特別なことをされたりは?

牛尾 今回は映画『聲の形』みたいにピアノを録ってはなくて、ほとんど打ち込みで作ってるんですよ。なのでさっき説明した学校での録音が今回はいちばんですね。あれはすごい小さな音なので高感度のマイクで録ってるんですけど、僕みたいなおじさんが学校の椅子をポンポンしながら録音しているなんて変じゃないですか。その時に山田さんもロケハンで一緒にいらっしゃったんですけど、僕の録音している姿を見てハマり笑いしてたので「うるせえ!」とは思いました(笑)。

――笑い声が入ってしまいますものね(笑)。

牛尾 録音したデータを開くと山田さんの笑い声が響くんですよ。そこも使ってやろうかなと思ったんですけど(笑)。

――音響面では全体的に遠くで鳴っているようなエコー感があって、そこに懐かしさみたいなものを感じたのですが。

牛尾 そこも普通のレコーディングだと部屋鳴りみたいなものは切って、キレイなリバーブを使って空間を表現するんですけど、僕はそういうやり方にあまり興味がないし、さっき言った廊下の響きみたいなものを感じてほしいと思ってそう処理しました。あとはまだこのインタビューの段階では5.1chの音を作っていて、カンコン鳴ってる物音が劇場ではどう聴こえるのかいろいろ試してるところなので、そこが上手くいけばいいなと思ってます。

――それら実験的な楽曲がある一方で、「フルートの会」や「Wリードの会」用のBGMはほのぼのとした曲調ですね。

牛尾 あれは山田さんが常々ファンとおっしゃっている、昔から長く続くアニメがあって、そういうものを一度ちゃんとやろうと思って作ってみたらものすごく喜んでくれて。特に「Wリードの会」の曲がすごく好きみたいで、劇中でもあの曲ばかり使ってるんですよね(笑)。一緒にスタジオに入って作業をしてたんですけど「これ同じ曲6回ぐらい使っていますけど、本当にいいんですね?」って聞いても「いい!かわいい!」ということだったので。そこは僕のアレンジ能力がないと思われなければいいなと思っています(笑)。

――でも、みぞれと希美の緊張感ある関係性が続くなかで、こういう曲が入ってくると良い効果が生まれそうです。

牛尾 映像で表現するのが難しい内容なので、山田さんもけっこう悩まれてたと思うんですよ。僕の音楽もその悩みを晴らす一助になれたとは思うんですけど……やはり「繊細なダシの味だけで勝負できるのだろうか?」という不安は残りますよね(笑)。

――たしかに劇伴も実験的な手法を取り入れることによって、どこか不穏な雰囲気はありますからね。

牛尾 ただ、サントラとして聴くと音量を上げてるので怖く聴こえると思うんですけど、セリフや効果音があって、さらにその奥に配置するとそうは聴こえないんですよ。だから音量が難しいんですよね。適正な音量に下げて確認するとすごく素敵な響きに聴こえたり、廊下の曲がり角の向こうで落ちた筆箱の音みたいな響きだけが聴こえてすごく良いんですけど、フェーダーのレベルをグッと上げて聴いてみると(物音が)ゴーン!って鳴って、SPKみたいなインダストリアルミュージックになってしまいますから(笑)。

――そして今作にはエンディングテーマとしてボーカル曲「girls,dance,staircase」も用意されてます。こちらは牛尾さんが作編曲、山田監督が作詞を手掛けていますが、どのように作っていかれたのでしょうか?

牛尾 この映画で描かれる感情から、本編の後に地続きでそれを受け取る何かが必要だろうという話を最初からしてたんですよ。それで歌がいいということで、山田さんから「コンセプトワークを反映したボーイソプラノの曲を作ってほしい」と言われたんです。そこで歌詞はどの人にお願いするイメージかも聞かれたんですけど、この作品は『ユーフォ(響け!ユーフォニアム)』の世界観とも違うものになっているので、誰かにお願いするわけにはいかないなと思って、僕から山田さんに歌詞をお願いしました。

――ボーイソプラノを起用したのは山田監督の発案だったんですね。

牛尾 素晴らしいと思いましたね。さっき言った学校の視点みたいな、主観と客観の入り混じるものというのは、ボーイソプラノの性差のない感じとすごく合いまったんじゃないかと思います。

――曲自体はどんなイメージで作られたのですか?

牛尾 簡単に言うとボーイソプラノのホーリーな感じなんですけど、聖なるものだけど少女の秘めやかさがないといけないので、そのギリギリのラインが難しかったですね。宗教歌みたいになりすぎてもいけないし、でもその要素はないといけないと思うし。そこのバランスで針の穴に糸を通すような作業でした。

――山田さんから上がってきた歌詞をご覧になっていかがでしたか?

牛尾 AとBの2パターンが上がっていて、あきらかにBパターンは掴んだ後に書き直したものだと思ったんですよ。意味もいろんな風に取れる内容だったので素晴らしいなと思って。譜割りがおもしろくなるということで助詞を少し足したりはしましたけど、ほとんど直してないですからね。

――みぞれと希美の繊細な関係性みたいなものが浮かび上がってくるような内容ですよね。

牛尾 <ことり>という言葉で始まっているのが、足音のようにも取れるし、青い鳥のようにも取れるし。この歌詞は全体がダブルミーニングになっていると思うんですよ。みぞれから希美への気持ちのようにも見えるし、実はもう少し大きな視点も入っているようにも見えるし。繊細なうえにそういったレイヤーが重なってるのは素晴らしい歌詞だと思いましたね。

――映画の内容自体が繊細なものを描いているだけに、エンディングにどういった楽曲を置くかによって、作品全体の印象も変わってくる可能性があるわけじゃないですか。

牛尾 そうですね。だからこの曲で締まりをつけなくてはいけないと思ったんです。エンディングの最後のシーンで流れる、足音が入っている曲もそういう風にできてるんですけど、ちゃんと余韻を作らなければと思って作りました。

――あらためて『リズと青い鳥』という作品の魅力はどんなところにあると思いますか。

牛尾 最初に言ったように、主人公二人の秘めやかでひそやかな関係は、呼吸をするだけで崩れてしまうような、すごく繊細な映画だと思うんです。アニメはそういうものを表現することが難しいアートフォームだと思うんですけど、山田尚子という人はそれを本当にやり遂げる人なので、息を呑むような空気を感じていただければと思います。もちろんずっと緊張している状態というわけではなくて、可愛らしい部分や楽しい部分もありますし、終わった後に心に残るような作品だと思いますね。

――個人的には映画『聲の形』に続いて今回の劇伴も、作品に寄り添いながら音楽的にも素晴らしい作品に仕上がっていると思うので、今後もぜひ山田監督とのタッグを期待しております。

牛尾 なかなかこういう作り方ができる人もいないですから。映画『聲の形』のときに(山田さんと)バンドを組んだみたいな気持ちになったんですよね。会った瞬間に15年前の話ができるみたいな感じで、たぶん10代のころから聴いているものが似てたんですよね。「あの作品良かったよね?」「知ってる!レーベルが白いやつでしょ?」「そうそう!」みたいな(笑)。そうなると仲良くなるのは早いし、話も早いので。山田さんもまだやりたいことはあると思うし、絶対またご一緒したいと思ってます。

Interview & Text By 北野 創


●作品情報
『リズと青い鳥』
4月21日全国ロードショー

【スタッフ】
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:髙橋博行
撮影監督:髙尾一也
3D監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

【キャスト】
鎧塚みぞれ:種﨑敦美
傘木希美:東山奈央
リズ/少女:本田望結
中川夏紀:藤村鼓乃美
吉川優子:山岡ゆり
剣崎梨々花:杉浦しおり
黄前久美子:黒沢ともよ
加藤葉月:朝井彩加
川島緑輝:豊田萌絵
高坂麗奈:安済知佳
新山聡美:桑島法子
橋本真博:中村悠一
滝 昇:櫻井孝宏

●リリース情報
主題歌
「Songbirds」Homecomings
4月25日発売

品番:LACM-14743
価格:¥1,200+税

<CD>
1.Songbirds
作詞者:福富優樹 作曲者:Homecomings 編曲者:Homecomings
2.Play Yard Symphony (for New Neighbors)
作詞者:福富優樹 作曲者:畳野彩加/福富優樹 編曲者:Homecomings
3.Songbirds (Miniascape sunset)
作詞者:福富優樹 作曲者:Homecomings 編曲者:Homecomings

オリジナルサウンドトラック
『girls,dance,starcase」kensuke ushio
4月25日発売

品番:LACA-9595~6
価格:¥3,500+税

<Disc1> 音楽:kensuke ushio
01:wind,glass,bluebird
02:chairs *
03:secret,green,steps
04:slow,slow,
05:flute,girls,i
06:room,me,you
07:reminiscence *
08:doublelead,girls,i
09:doublelead,girls,ii
10:library,with,without
11:flute,girls,ii
12:lesson room *
13:aquarium,eyes,
14:reflexion,allegretto,you
15:décalcomanie,everything,but,
16:linoleum,flute,oboe
17:offwhite,
18:glass trees *
19:doublelead,girls,iii
20:doublelead,girls,iv
21:seesaw,
22:décalcomanie noise *
23:doublelead,girls,v
24:décalcomanie,3rd,window
25:doublelead,girls,vi
26:flare fragments *
27:décalcomanie,left,beaker
28:décalcomanie,right,beaker
29:corridor,no,
30:black,stand,covered
31:tones *
32:surround,test tubes
33:secret,love,steps
34:stereo,bright,curve
35:décalcomanie,surround,echo
36:Kadenz,
37:wind,glass,girls,
38:girls,dance,staircase
*= unused tracks

<Disc2>音楽:松田彬人
01:物語の始まり
02:繰り返される日々
03:リズと少女の世界
04:リズと青い鳥 第一楽章 「ありふれた日々」
05:リズと青い鳥 第二楽章 「新しい家族」
06:リズと青い鳥 第三楽章 「愛ゆえの決断」
07:リズと青い鳥 第四楽章 「遠き空へ」
08:リズと青い鳥 コンクール用編曲Ver.
09:みぞれと梨々花のオーボエ練習曲

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

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