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INTERVIEW

2017.04.21

この作品が、あなた自身に寄り添う物語になればうれしい。『t7s Longing for summer Again And Again ~ハルカゼ~』茂木伸太郎1万字ロングインタビュー

「Tokyo 7th シスターズ」(以下、ナナシス)初の短編アニメーションPVと、楽曲「ハルカゼ~You were here~ 」を収録したBlu-ray&CD「t7s Longing for summer Again And Again ~ハルカゼ~」がリリースされた。

「ナナシス」プロジェクトの総監督である茂木伸太郎氏は、ストーリー、楽曲、ライブなど「ナナシス」の世界観、制作物にまつわるすべてに関わっている人物だ。だが今回の作品ではさらに踏みこんで、アニメーションPVの監督、脚本、絵コンテ、収録される楽曲の作詞・作曲、初回限定メモリアルボックスに封入される書きおろし小説「Some say love, it is flower -ユキカゼ-」の執筆を担当。クリエイター・茂木伸太郎のすべてが込もったパッケージとなっている。

今回は「t7s Longing for summer Again And Again ~ハルカゼ~」をより深く楽しむ一助として、クリエイター・茂木伸太郎の想いと悩み、思想についてじっくりと語ってもらった。

「ナナシス」の本質は何かを伝える映像は、たぶん今しか作れない。

──ゲームや小説などで、ハルたち777☆SISTERSのメンバーが生きている時代は2034年です。今回の「t7s Longing for summer Again And Again ~ハルカゼ~」は舞台が2040年、鳴海アカネ、涼原カホルというあらたなキャラクターが登場するということで、今後の展開含めどうなるのか気になっている人も多いと思います。なぜ2040年、なぜ新キャラクターなのか、という部分から伺っていければと思います。

茂木伸太郎 今回のMVは「ナナシス」とは何か、を表現する最大のチャンスだったと思っています。これから「ナナシス」というプロジェクトを展開していくうえで、もっといろんな会社が関わってきたり、再びいろいろな大人の意見が入ってくることもあるでしょう。だけど今回は製作委員会方式ではなく、うちの会社(株式会社Donuts)の100%出資で製作しているので、「ナナシス」とは何かをいちばん純度の高い状態で表現できると考えました。ですから、777☆SISTERSの子たちがどうであるとか、今後の展開がどうであるといった話ではなく、「ナナシス」の本質を描こうと決めました。

──そのために舞台、時代を変えるのにはどのような意図があったのでしょうか。

茂木 アイドルたちを直接描くことで、アイドルの存在意義を表現する……ということをやりたくなかったんです。アイドルたちがいて、みんながアイドルが大好きで、そのアイドルたちは人形のように理想の形で描かれて、という閉じた世界にはしたくなかった。アカネやカホルからすると、ハルたち777☆SISTERSは何の関わり合いもないただの他人なんです。例えばコンビニで流れている777☆SISTERSの音楽を聴いたことはあるけど、別にアルバムを買ったりもしていない。そういう距離感だけど、彼女たちの人生の一部にその音楽、存在した形跡、なにかしらの影響が存在している。「t7s Longing for summer Again And Again ~ハルカゼ~」では、アカネとカホルは合唱部時代に「ハルカゼ〜You were here〜 」という曲を歌っただけで、777☆SISTERSのことを詳しく知っているわけではありません。僕はアイドルとは何かを描くときに、アイドルのかわいさ、アイドルの感情、アイドルが直接誰かに手を差し伸べて救う……といった要素はなくてもいいと思っているんです。その部分は「ナナシス」の本質ではない。不特定多数の他人、つまり自分以外の誰か、その背中を押せるかどうかが「ナナシス」のテーマなんです。アイドルもですが、何かを作る人と、受け取る誰かとの間にあって、ときに背中を押すことができる人が造った「作品」。それが物語の中では「ハルカゼ~You were here~ 」なんですが、メタ的に言えばそれは僕にとっての「ナナシス」そのものなんです。僕は送り手になったこともあるし、作品を受け取る側として救われたこともある。だから今僕が何かを作り続けているのは、僕を救ってくれた作品たちへの恩返しでもあるんです。

──ハルたちより前の時代に活躍していたレジェンドであるセブンスシスターズについても、茂木さんは彼女たちがいちばんすごかった当時の描写をあえてしていない印象があります。セブンスという存在を失ったことによる4Uの九条ウメの心情や変化(ゲーム内で特に物語面の評価が高い“EPISODE.4U”に登場)や、角森ロナたちがセブンスに憧れる姿、セブンスの解散とともにアイドル文化が死んだ時代……といった2034年の状況から、逆説的にセブンスシスターズという存在を浮き上がらせているというか。2040年の少女たちと777☆SISTERSの関係性もその点では一貫しているのではないでしょうか。

茂木 そうですね。僕は人間を描きたい、とよく言っていると思うんですけど。インスタントな時代に、インスタントなもの(作品)を求めているお客さんにインスタントなものを送る。それもひとつの正しさだと思います。この有名企画で、この有名スタッフで、この有名声優さんを使えば、とすることで見えてくるリクープラインがある。リスク回避がある。まずはそれをクリアする。正しいと思いますよ。そういう意味である意味、ハルたちの日常、ナナスタのある日をわきゃっと描くことは「ナナシス」の中では全然ありなんですよ。とにかくきれいな作画でかわいいところを見せる、おへそを出して踊っている姿を見せる、歌っている横顔を見せる。それは「ナナシス」の一部ではあるんです。でも(アニメーション制作の)一発目、自分がやる、好きにやる、そういうときにやるべきことは彼女たちの一面を切り取ることではなく、「ナナシス」の全体、その本質を描くことだと思ったんです。だから、そうしました。

──のちに残る影響、結果の世界を描いたうえでそこに至る物語を描いていくのは、狙いがあるんでしょうか、それともそれが茂木さんに自然に性に合うスタイル?

茂木 それで言えば自然に性に合っている、だと思います。そういう意味だと他の作品のタイトルで申し訳ないですが、僕は「タクティクスオウガ」とか、松野泰己さんの作品も好きなんです。これもやっぱり90年代の作品ですけど(笑)。歴史上には答えが出ている物語の裏側は実はこうなんです、という。今現実の世界で歴史とされているものだって、勝者によって都合よく編纂されているものだと思うんですよ。その歴史の向こうにある真実や本質を探っていく、というような要素が、エンターテインメントの方たちのひとつとして面白いなと思ってやっています。

──茂木さんの基本的な視点は歴史の勝者側ではなく、虐げられている人のレジスタンスとか、名もなき市井の人の物語とか、そちら側にある印象です。

茂木 反権力なんですかね、とはいえアナーキーな感じだと気持ち悪いんですけど(笑)。本質的にはそうですね……アメリカ文化は好きですけどアメリカという国が好きかどうかは別みたいな。なんだろう。社会や集団、組織の中の個人と、本当の裸の個人というのはやはり別物なんだと思うんです。集団でないと成し遂げられないこともあるし、集団の良さはあります。でも現代は割と集団になることの悪い面のほうが目立ってしまっているかなとは思います。現在のネット上とか風評とかまさにそれで。今回の小説のアカネなんかもそうなんですけど、集団や組織という媒体を介すると人の悪意って増殖するんだと思います。本当はね、一生懸命自分が善だと思ったことを行って、自分が感じたことが正解、それでいいんだと思うんです。だから、たぶん僕は基本的には自由主義者だと思います。ただ、そういった思想や主義は僕が作品を通して表現したいものではないです。自分の本質はそちら側なんだろうな、というだけのことですね。そういう自分から自然に出てくるものとして、こういう作り方やストーリーテリングをしています。

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