REPORT
2017.04.05
小岩井ことり(天空橋朋花役)
「Maria Trap」の小岩井は、冒頭での太陽と月、光と影の対比を軽やかに歌う中に潜む微かな狂気と、そのあとの「愛して」の重さにいきなりぐいぐいと引き込まれてしまう。口元にたたえた笑みがすーっと引いていったり、一転泣き出しそうなか弱さを感じさせたりと、感情の振り幅の大きさをそのまま叩きつけてくるような表現だ。
間奏の前の吐息の妖艶さであったり、ステージにいくつの罠を用意して待ち受けているのかと思うほどだ。小岩井の長い髪の毛を編み込んだおさげを振り回すような振付を以前は多用していたが、今回は長いおさげをびゅんと鞭のように振り回して視線をぐいっと惹きつけたところで、ズバッと決まった鮮烈な後ろ姿を見せつける振りに使っていた。ワルツパートの歌唱をファンシーキュートボイスでキメてからは、より情感豊かに。「狂わせてー!」の語尾をどこまでも引っ張る圧巻のロングトーンには、会場から熱狂的な歓声が上がっていた。
「P.S I Love You」の妖艶な表現もばしっとハマっていたが、小岩井が「肩の上に朋花ちゃんがいて支配してくれる」という言葉は彼女のステージを理解しようとするうえでひとつの助けになるかもしれない。
一方、天空橋朋花というアイドルの内面の別の側面を感じさせたのが「星屑のシンフォニア」だった。別人かと思うほどきらびやかでのびやかな歌唱。もう一人の仲間・星井美希に対する強い想いはこの曲を歌った4人に共通したものだったが、小岩井と朋花が万感の想いを込めた、包み込むような「最高の仲間で!」のワンフレーズは特別な、宝物のような叫びだった。
終わりの挨拶で小岩井は、今仲間がいる幸せと、自分自身がかつて辛かった時、『アイドルマスター』という作品の如月千早や天海春香たちの姿にどれだけ救われたかを想いを込めて語ると、「アイドルマスターが私にこんなに素敵な仲間をくれて、プロデューサーさんたちに出会わせてくれて、ありがとう」と締めくくっていた。
愛美(ジュリア役)
ステージから風が吹いてくる。圧倒的な歌声と表現が物理的な圧力すら伴って眼前に迫ってくるとき、比喩ではなくそのように感じるときがある。人生でそう何度も経験することではないし、『ミリオンライブ!』であれば個人的には、田所あずさや、雨宮 天のステージで覚えたことがある感覚だ。この日は田所の「Precious Grain」でそれを感じたのだが、続けてアクアリウスの「待ちぼうけのLacrima」でも同質の感覚を覚えた。3人に、ではない。愛美の、平山笑美の、駒形友梨の個々の歌声が前曲に全く劣らない存在感で吹き荒れたのだから、それはもう暴風と表現するしかない。
思えば「LTF02」リリースイベントから愛美は楽しそうだった。様々な表現や技を駆使した全力の歌声を叩きつければ、必ずそれ以上の表現と技巧がふたりから返ってくる。それぞれが限界まで振り絞った表現が均衡して、結果として美しい三角形を描く。そんな経験が、気持ちよくないはずがない。愛美個人にフォーカスすればここまで歌声にケレン味がある、ギター的に言えば歌声を鳴かせるというのだろうか。そんな表現は初めて聴いた。実際CDでは3人共もっと端正に歌っていたイメージなのだが、3人の歌声のテンションが相乗効果で高まっていった導火線は愛美の歌声だったと思う。生き物のようにうねりかすれて危うい、仲間に対する信頼があるからこそ成立するボーカル。でもそれがどうしようもなくジュリアらしくて、これこそがライブであり、ユニットで歌う意味だとすら感じられる時間だった。
この愛美のケレン味、に近い表現が見られたのが最終日にシークレット披露された「侠気乱舞」だ。劇中劇の任侠映画の世界でジュリアが演じるのは風来坊。もう一枚役をかぶることで存分に芝居がかったかっこよさを表現できるし、チームの仲間とも馴染みやすい。「侠気乱舞」組は役を演じてのお芝居や歌唱が馴染むメンバーが多く、ここにジュリアと愛美をキャスティングしたのがプロデューサーたちの投票の集合知であるのはとても面白い。
思えば、今回の日本武道館ライブにおいて、ジュリアというアイドルの物語は比較的希薄だった。多くのユニットが勢揃いしたり、様々なドラマがあった今回の日本武道館だが、ジュリアと紐付いたもっとも強い物語は、既に3rdライブ幕張公演における「アイル」のステージにおいて昇華されているのである。
だがしかし、愛美が「ジャーン!」とぶら下げたギターをひとつかき鳴らしたとき、その存在と佇まいから、何もないところから物語が生まれる。誰もがステージに注目せずにはいられなくなる。そんな特別な存在感が、彼女が『ミリオンライブ!』の大舞台にしばしば起用される理由のひとつだろう。注目したいのは、ふたつの「ぶどーかん」の叫びだ。最初のMCで素に近い愛美が叫んだ「ライブハウス武道館へようこそ!」の叫びには、お約束に対する若干の照れが感じられたのだが。歌唱で完全にジュリアに入り込みながらの「武道館!!」には、1万人の魂を揺さぶる力があった。「流星群」のゆったりとしたイントロから始まるギタープレイを見て感じたのは、彼女のギターが明らかにさらに上達していること。それに合わせて音響も、愛美の奏でる音を信頼して最大限に活かす方向でセッティングされていたように思う。曲中、愛美が口元を軽くぱくぱくっとさせると、その合図で「武道館」全体が大合唱を始める。終わりの合図はシンプルにキレよく「ありがと」。ステージに立つ強烈な個からの要求と信頼に応えられる喜びのようなものがそこにあった。
平山笑美(北上麗花役)
さて、愛美のすごさについて滔々と語ってしまったが、それは平山について語るためでもある。愛美が放った全力全開を「待ちぼうけのLacrima」で、そしてデュエットの「Marionetteは眠らない」で、全て受け止めたうえで飲み込み、それ以上の表現で応えていった怪物が平山笑美だった。
決して特別なことをするわけではなく、自身の歌声をより深く、より膨らませることでバランスをとって周囲の個性をまとめあげていく。愛美の情感豊かなボーカルも、駒形の山頂を吹き抜けていくような清冽なボーカルもとてつもなく魅力的だったが、それをひとつの音楽として成立させていたのは平山の懐の深さだったと思う。
そんな平山と愛美のデュオによって、新しい表現を獲得したのが「Marionetteは眠らない」だった。オリジナルメンバーは美希、翼、ジュリア、麗花の4人だが、原曲のイメージの核になっていたのは美希と翼の小悪魔感であり、ジュリアと麗花はかなりキュートに寄せて寄り添う表現をしていたと思う。ライブでは美希の位置に麻倉もも(と書いてなんでもできると読む)が入ったりで、比較的原曲のイメージに近いメンバーで歌われることが多かった楽曲だ。では、ここから甘さを抜いたらどうなるか。結果、一番化けたのは平山だった。天性のバランス感覚で愛美の表現に合わせてアジャストしていった面もあると思うが、時折覗かせる蠱惑的な表情、そしてラストに向けて徐々に表現のリミッターを解除していく様子からは、愛美というパートナーとの表現をぶつけあうことを楽しんでいる様子が感じられた。
圧巻の「Marionetteは眠らない」のあとに「Blue Symphony」、ミルキーウェイ4人が美希への想いを込めた「星屑のシンフォニア」、3日開催の壁を超えて勢揃いしたクレシェンドブルーが初披露する「Flooding」という無敵の並び。初日には強烈なサプライズ性があり、3日目は36人集結の「Thank You!」という切り札がある間に挟まれた公演で、この12人なら楽曲の、パフォーマンスの力であるいは他日を凌駕さえしうるという強い信頼を感じたのだった。
平山についてもうひとつ書いておきたいのは、ソロの「FIND YOUR WIND!」が“完璧”ではなかったこと。CDの元音源の「FIND YOUR WIND!」が放つ虹のような色彩と疾走感が既に完成形に近い仕上がりで、平山と北上の存在を知らしめたのはまだ記憶にあざやかだ。だが今回のライブでの歌唱はメリハリ重視というか、前半は抑えて抑えて溜めたものを終盤のサビで爆発させるような振れ幅を感じた。「待ちぼうけのLacrima」の向こうに見えたのが、底知れない才能で軽々とハードルを超えていく北上麗花の天才性だとすれば、「FIND YOUR WIND!」に見えたのはライブの風を心から楽しんでいる普通の少女・麗花の笑顔だったように思う。アイドルの感情の起伏の発露と楽曲としてのクライマックスを明確にするために、敢えて抑えるところは抑えた、引き算のパフォーマンスだったのではないだろうか。
駒形友梨(高山紗代子役)
駒形がアイマスイベントに初登場した「LTP07」は残念ながら参加できなかったこともあり、彼女のパフォーマンスを初めて見たのは2年前の「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 2ndLIVE ENJOY H@RMONY!!」だった。そのときの印象は歌がとんでもなくうまいがちょっと硬質な印象というか、アイドルが手の届かない存在だった時代のスターのような別世界観があるな、というものだった。その後の駒形の番組やイベント出演などを通して素の人柄が見えてくるにつれて、「あ、2ndでは単にとてつもなく緊張してカッチカチだったんだ」ということが見えてきた。だがそれでも、ひとたび彼女が歌の世界に没頭した時のどこか隔絶したような、手が届かない高みから崇高な歌声を響かせるかのような独特の空気感に対する印象は間違っていなかったと思っている。
「待ちぼうけのLacrima」での駒形は、特に前半ではあまり前に出てくるわけではない。サビで3人が一緒に歌うとき、彼女の歌声の高音の煌めきの成分が強く効いてくるのが印象的で、3人の歌声のおいしい部分の完璧な調和がこの曲の肝と言ってもいい。ソロパートで先頭を突っ走るのは愛美なのだが、ところどころの勝負どころで絶対的に「ここだけは駒形が主役でしかありえない」というポイントがあって、その最たるものが「夜が…はじまる」のフレーズの長く美しく、美しすぎる独唱だと思う。歌い終えたあとはすっかりくだけた感じで会話する3人だったが、これだけピーキーな楽曲を歌い終えたあとに駒形が漏らした「この3人なら大丈夫かな、という安心感がある」という信頼の言葉はまぎれのない本音だと思う。
今回駒形の言葉の解釈に悩んだのが3rdライブ幕張公演での「vivid color」のパフォーマンスがうまくできなかった悔しさを語っていた部分。個人的には3rdの「vivid color」はとても素敵なパフォーマンスだと思っていたので、少し考え込んでしまった。3rdのときの表現との違いを考えてみると、今回は駒形の内にいる「高山紗代子」の感情があふれだしてくるようなニュアンスが強くて、歌と一緒に流れこんでくる想いに圧倒された気がする。駒形は3rdではこの曲を理想通りに歌いきれなかった悔い、悔しさを語ったうえで、「最高の景色の中、最高に楽しく歌うことができました。これでまた、前を向いてふたりで歩いていくことができます」と、紗代子と一緒に歩める喜びを語っていた。
課題を乗り越えた上でアイドルと一緒に歩んでいける実感が得られた。それはとても素晴らしい、次に続く物語だと思うのだが、だが。
やっぱり、3rdライブ幕張公演の「vivid color」、良かったと思うんだけどなぁ。
2日目の発表内容は初日と大きな違いはなし。最終日はやや特別な構成だったこともあり、本編ラストに「DIAMOND DAYS」が歌われる最後の公演になった。本編ラストのエンディング曲はその時期ごとにふさわしい楽曲が歌われることが多く、たとえば765プロの8周年ツアーといえば生バンドの「カーテンコール」は良かったな、と記憶に紐付いていたりする。「DIAMOND DAYS」はアリーナの光景や、輝く日々の思い出をおだやかに振り返るような曲で、決して派手な曲ではないが、武道館を超満員で埋めたプロデューサーたちと一緒に叫んだ「イェーイ!!」「最高!!」のコールは楽しかったな、という記憶は残しておきたいと思ったのだった。
(「Starlight Melody」編へ続く)
Text by 中里キリ
<記事関連セットリスト>
「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!
2017.03.10.日本武道館公演初日
M24:Growing Storm!乙女ストーム!
「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!
2017.03.11.日本武道館公演2日目
M01 : Thank You! / BlueMoon Harmony
M02 : brave HARMONY / BlueMoon Harmony
M03 : 恋の音色ライン / 野村
M04 : 夕風のメロディー / 近藤
M05 : Maria Trap / 小岩井
M06 : Raise the FLAG / サジタリアス[阿部、戸田、藤井]
M07 : Day After “Yesterday” / 斉藤
M08 : 透明なプロローグ / 伊藤
M09 : Precious Grain / 田所
M10 : 待ちぼうけのLacrima / アクアリウス[平山、愛美、駒形]
M11 : フローズン・ワード / 藤井
M12 : Get My Shinin’ / 戸田
M13 : POKER POKER / 阿部
M14 : P.S I Love You / ピスケス[近藤、小岩井、野村]
M15 : 流星群 / 愛美
M16 : vivid color / 駒形
M17 : FIND YOUR WIND! / 平山
M18 : プリムラ / ウィルゴ[斉藤、伊藤、田所]
M19 : 赤い世界が消える頃 / 木戸、大関、近藤、阿部、平山
M20 : Beat the World!!! / 戸田、藤井
M21 : Marionetteは眠らない / 平山、愛美
M22 : Blue Symphony / 田所、阿部、近藤、伊藤
M23 : 星屑のシンフォニア / ミルキーウェイ[野村、駒形、小岩井、斉藤]
M24 : Flooding / クレシェンドブルー[田所、平山、雨宮、小笠原、麻倉]
M25 : DIAMOND DAYS / BlueMoon Harmony
-Encore-
EC01 : Dreaming! / BlueMoon Harmony
EC02 : Thank You! / 全員
「THE IDOLM@STER MILLION LIVE! 4thLIVE TH@NK YOU for SMILE!!
2017.03.11.日本武道館公演最終日
M19:侠気乱舞(愛美、浜崎、稲川、渡部恵子、田村)
M24:ジレるハートに火をつけて(藤井、桐谷、稲川、上田)
M25:君との明日を願うから(山崎、田所、Machico)
★「Sunshine Rhythm」編はこちらから★
©窪岡俊之 ©BANDAI NACO Entertainment Inc. ©BNEI/PROJECT iM@S
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