昨年にアーティストデビュー25周年を迎え、今年1月には自身4枚目のベストアルバム『THE MUSEUM Ⅳ』をリリース、さらに海外公演を含む自身最長のライブツアーを完走するなど、ますます勢いを増しながら声優アーティスト界の最前線を走り続けている水樹奈々が、またも素晴らしい作品を届けてくれた。それがニューシングル「CRIMSON BULLET」。彼女にとって大切な作品『魔法少女リリカルなのは』シリーズの最新作、この7月から放送中のTVアニメ『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS Gun Blaze Vengeance』のオープニングテーマとして放たれた入魂の一発だ。従来の『なのは』楽曲とはまったく異なるアプローチで、新たな『なのは』の世界を表現した新曲と、フェイト役の声優としても共に歩み続けてきたシリーズへの想いについて、本インタビューで水樹が語る言葉の1つ1つにぜひ撃ち抜かれてほしい。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――『魔法少女リリカルなのは』シリーズの最新作となるTVアニメ『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS Gun Blaze Vengeance』がついに幕を開けました。水樹さんは今回も主題歌アーティストおよびフェイト役の声優として作品に関わっていますが、改めて『なのは』シリーズは水樹さんにとってどんな作品になっていますか?
水樹奈々 私にとって『なのは』は、様々な“始まり”をくれた作品です。まさに“始まり”は『なのは』という作品における大切なテーマの1つでもあるのですが、自分がヒロインの1人として出演して主題歌を担当させていただいたのは、この作品が初めてでしたし、歌手として活動しているなかで、いつかは自分が演じている作品のテーマソングを歌いたいという目標、夢を叶えてくれた作品なのでやはり特別ですね。しかも、オリジナル作品であるにもかかわらず、2004年に放送された最初の無印(『魔法少女リリカルなのは』)だけでなく、『A’s』から『ViVid』と、続編のアニメもどんどん制作されて。さらに劇場版になり、ドラマCDやゲームを含め、本当に幅広く展開されてきました。20年以上経った今でも毎年催事が行われていて、色んな展示のコンセプトに合わせた音声収録がある作品というのは、他になかなかないことなんです。
――スピンオフ作品やライブイベントなども合わせると、常に何かしらの話題を提供しているシリーズですものね。水樹さんも“始まり”を象徴する無印のオープニングテーマソング「innocent starter」を皮切りに、多くの楽曲を『なのは』シリーズのために歌ってきました。
水樹 自分の夢を叶えてくれた作品が、こんなにも長く皆さんに愛され長く演じ、歌わせていただけることが本当に幸せです。声優としても歌手としても、「なのは」は私の代表作です。『なのは』と出会っていなければ、私のライブの定番であり名刺代わりになっている「ETERNAL BLAZE」(TVアニメ『魔法少女リリカルなのはA’s』OPテーマ)という曲は生まれていません。今でこそシンフォニックロックはアニソンのスタンダードですが、当時はまだこういった楽曲はほとんどアニメの主題歌にありませんでした。でも、この熱量でないと『A’s』の世界観は表現できないと思ったんです。そこで、上松(範康/Elements Garden)さんに作っていただいたのが「ETERNAL BLAZE」でした。作品から受けた刺激がなければ生まれなかったものばかりなので、『なのは』は私を色んな世界に連れて行って、様々な扉を開けるキッカケをくれた、ものすごく特別な作品です。思い出は本当にたくさんあります。
――20年以上、定期的にシリーズと関わってきたなかで、特に印象に残っている出来事や思い出をぜひお伺いしたいです。
水樹 これは『なのは』のイベントでもよくお話ししているのですが、2004年の無印の放送直前に、今はなきキングレコードのYFビルの地下スペースで、プレスの皆さんへ向けた作品のお披露目会があったんです。完全オリジナルでやらせていただくということで、私と(田村)ゆかりさんが登壇して「こんな作品ができました」というお披露目をしたのですが、3人しか来てもらえなくて(笑)。
――ええっ!最初はそんな状況だったんですね。
水樹 そうなんです!だからキングレコードのスタッフさんが空いている席に座ってくれるような、すごく寂しい始まりでした。そこで「最終回にはたくさんの人に取材に来てもらえるような作品になるよう頑張ろうね!」と、改めてみんなで一致団結して。オンエアが始まると皆さんからたくさんの反響をいただいて。タイトルもビジュアルもかわいらしいので、最初はよくある魔法少女ものだと思われていたのですが、蓋を開けてみたらだいぶハードなお話だったので、そこから皆さんのリアクションがグッと変わっていって。最終回にはたくさんの方に取材に来ていただき、すぐに『A’s』の制作が決まって。「これだ!」と信じて、全力を尽くして作ったものは、きっとどこかで誰かが見てくれるということ、クリエイティブの根本にあるものを感じた出来事だったので、私の中で強く刻まれています。
――そこからシリーズを重ねるごとに作品のファンもどんどん増えていきました。
水樹 本当にたくさんの方に愛していただけるようになって、コミケで「なのは完売」という名言も生まれて(笑)。それを杉田(智和)くんにいじられたり、色んなことがありましたね(笑)。こんなにみんなに話題にしてもらえるような作品になったことがすごく嬉しくて。本当に思い出はたくさんありますね。
――『無印』からずっと演じ続けているフェイトへの想いも強いのではないでしょうか。
水樹 1人のキャラクターをこんなに長く演じさせてもらうことはなかなかないことですし、しかも9歳から大人まで、あらゆる年代のフェイトを演じてきたので、本当に贅沢な経験をさせていただいています。始まった当初は、まさか大人版のフェイトまで演じるとは思いもせず(笑)。
――『無印』で初登場した際は9歳という設定でしたからね。それがTVアニメ第3期にあたる『StrikerS』では10年後の物語ということで19歳に、の『ViVid』シリーズではさらに時を経て、主人公・高町ヴィヴィオの“ママ”という立ち位置でした。
水樹 他にもフェイトのお姉さんにあたるアリシアという役もやらせていただいて。2人が会話するシーンも、当時は別録りせずに、一人二役で同時に録っていたんです。劇場版に登場するレヴィという役もそうでしたが、原作者の都築(真紀)さんは、なぜか私と私が会話するようなシーンをたくさん作るんです(笑)。『DOG DAYS』(同じく都築が原作を手掛けるアニメ)の時もそういうシーンがありましたし。毎回試練を与えられて、すごく鍛えられています(笑)。
――フェイト自体も作品ごとに年齢や立ち位置が変わるので、演じるのに苦労もあったのでは?
水樹 フェイトを初めて演じた当時は、私もまだまだ駆け出しだったので毎回必死でしたし、そこからシリーズを通して成長していく彼女をどう演じるか、試行錯誤の日々でした。『無印』では寡黙でしたが、『A’s』になると「(なのはの)友達だ」とカッコ良く登場するところから始まって、学校にも通うようになるので、普通の女の子としての表情がたくさん出てくるようになって。それまで外部との接触を絶ってきた少女が、どう自分の感情と向き合って表情として出てくるのか。特に『A’s』は1番変化が大きいシリーズだったので、『無印』から引き続きずっと必死でした。心の成長によって、声量や喋るペース、気持ちの見え方はどうなるのか、すごく細かいところまで考えていって。常に想像力フル回転で、新シリーズが始まるたびに改めてフェイトと向き合ってきました。フェイトは繊細でニュアンス1つとっても細かいコントロールが必要な子なので、私自身、声優としても鍛えられましたし、本質的なところが自分に近い部分もあるので、やっぱり思い入れが強いキャラクターですね。
――最新作『魔法少女リリカルなのは EXCEEDS Gun Blaze Vengeance』にも、水樹さんはフェイト役で出演されています。取材時点ではアニメ放送前なので、自分もまだ作品を拝見できていないのですが、公式サイトやPVをチェックしたところ、かなり過酷な物語になる気配を感じました。タイトルからして物騒な言葉が並んでいますし。
水樹 “Vengeance(復讐)”ですし、“Gun(銃)”で“Blaze(炎)”ですからね(笑)。かなり激しいことになっていますが、歴代の『なのは』らしさを持ちつつ新しい切り口になっています。歴代シリーズと同じく涙なしでは見られない展開が待っていますし、主人公の(久瀬)シイナとセツナの姉妹や魔人狩りの(夜海)トワたちを含めて、ひたすらに「今」を生きる少女たちの物語です。自分たちの力ではどうしようもない理不尽な状況の中でもなんとか光を見出そうともがいているところに、フェイトは過去の自分を重ねて、彼女達の力になりたいと行動を起こしているのではと感じるストーリーで。1話から怒涛の展開なので、きっと作品を観た後に今回の新曲「CRIMSON BULLET」を聴いていただくと「なるほど」と感じていただけると思います。
――なるほど。ちなみに13歳のフェイトを演じてみて、いかがでしたか。
水樹 やはり成長を感じました。劇場版での事件を経ての成長もありますし、『無印』から『A’s』での大きな変化を経て。守りたい大切な人たちが増えたことによって、心身ともにより強くなっているのを感じます。大切な人たちに恩返しをしたい、この場所を守りたいという思いが強くなって、そのためには自分がどう動けばいいのか、どうすればみんなが笑顔になるのかを人一倍考えているんですよね。現場では常に冷静に状況を分析していて、執務官としての成長も感じました。なのはがアタッカーとして伸び伸びと力を発揮できるよう、フェイトはしっかりアシストするという立ち回りが、より明確に見えてくるのが今作なのかなと思いました。
――そんな『なのは』最新作のオープニングテーマ「CRIMSON BULLET」は、Elements Gardenの藤永龍太郎さんが作曲・編曲を担当。水樹さんの楽曲の中でもとりわけヘヴィネスで、メタルコアのような激しさのあるナンバーになりました。
水樹 今回のストーリーを表現するためには、これくらいの熱量がないとダメだと思ったんです。『なのは』楽曲は毎回コンペを行うのですが、不思議なことに歴代TVアニメの主題歌は全曲違う作家さんなんです。これまでに被ったのは、劇場版の1期・2期(『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』と『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A’s』)の吉木絵里子さん(「PHANTOM MINDS」「BRIGHT STREAM」)と『Reflection』『Detonation』の加藤裕介さん(「Destiny’s Prelude」「NEVER SURRENDER」)だけ。都築さんからいただくリファレンスが毎回様々な形なので、そこにフィットする楽曲を選んだ結果、それぞれの持ち味で勝負している作家さんに決まるのかなと思います。
――今回は都築さんからどんなオーダーがあったのでしょうか。
水樹 都築さんからいただいたテーマは「刹那的で儚いけれど、命を燃やすような強さのある熱い楽曲を」というものでした。歴代楽曲のような儚さや切なさを持ちつつも、今までのドラマチックさとはまた質の違う熱さや激しさが欲しい、と。リファレンスでいただいた楽曲もかなりハードでした。ただ、やっぱり『なのは』の主題歌ということでコンペを行うと、歴代楽曲に通じる優雅なイメージ、ピアノとストリングスが効いたドラマチックな曲が多く集まって。今回はそれとはまた違う方向性のものを求めていたなかで、藤永さん楽曲のエッジの効いた構成とサウンドに、「魔人との戦いを表現するならこれだ!」とビビッときまして(笑)。でも、主人公たちは少女なので、激しさの中にも『なのは』らしい泣きのメロディや儚さ、女性だからこその強さを表現できるように、憂いのある歌謡メロをサビに取り入れていただいたり、何度もディスカッションとブラッシュアップを重ねて今の形になりました。完成まで約1年かかりました。
――時間をかけて入念に制作されたと。藤永さんはこれまでにも「UNLIMITED BEAT」や「METANOIA」「カルペディエム」といった楽曲の編曲を手がけてきましたが、意外にも水樹さんへの楽曲提供は今回が初みたいですね。
水樹 いつもアレンジでやり取りさせていただいていましたし、レコーディング現場にディレクターとしていらっしゃるので、初めてということに驚きました(笑)。
――歌詞は歴代の『なのは』主題歌と同様、水樹さんが自ら作詞しています。
水樹 いつもどおりシナリオをじっくり読み込み、私がこの作品から受け取ったメッセージは“今を生きる”でした。都築さんからも「自分たちが望んだ未来は待っていないかもしれないけれど、この今をひたすら生きるしかない、そうやってもがいている少女たちの思いを表現してほしい」とメッセージをいただいて。今回は歴代の『なのは』ソングにあるようなポジティブな要素が、オーダーの中になかったんです。でも、これは水樹奈々のオリジナル曲でもあるので、水樹曲のベースにある前向きさを、影の中にもどこか一筋の光を感じるように落とし込めたらと考え、主人公たちが今を全力で生きている姿をピックアップしたいと思いました。『なのは』と言えば「全力全開」がキーワードでもありますし。
――「全力全開」はなのはの決めゼリフですものね。
水樹 たとえ行く先に希望がなかったとしても、今与えられた時間を取りこぼさず全力で取り組む。それは現実世界にも当てはまることだと思うんです。明日どうなるかわからない。コロナ禍で世界中がストップしてしまうようなこともありました。この『なのは』の新プロジェクトが発表されたのも、2020年1月の“リリカル☆ライブ”の時で、ステイホームになる直前だったんです。そこから6年の時を経ての新作で、きっと都築さんの中にも「どうしようもない状況でも、ひたすらに今を生きるしかない」というメッセージが、コロナ禍を経て今の時代とシンクロするものとしてあったのかもしれないと感じて。だからこそ「諦めないで今を生き抜く」というテーマを、現実の状況とも重ねながら描いていきました。
――“緋色に染まる 不確かで残酷な未来 潰えぬ決意 胸に灯して 迫る今を生き抜く”というフレーズから始まるサビの歌詞は、まさにそのテーマを象徴するようなものになっています。ちなみに楽曲タイトルの「CRIMSON BULLET(=緋色の弾丸)」というモチーフはどこから?
水樹 今作のタイトルにある『Gun Blaze』から、まず火のイメージが浮かんで。そして、この作品、血がたくさん流れるんです。その色でもあるし、自分の中に秘めた燃え上がる闘志のイメージの赤でもあります。さらに、主人公のシイナは銃を武器に戦うことから、弾丸という言葉を選びました。
――色んなイメージを重ねたタイトルでもあると。歌詞の話に戻すと、1番のサビ始まりは“緋色に染まる”だったものが、ラスサビでは“緋色に染めていく”に変わりますよね。
水樹 1番の「染まる」は受動的で、血に染められているという状況ですが、そこから能動的に「染めていく」、自分の闘志に塗り替えるという意味に変えています。他にも物語の進行とともに「このフレーズはこういうことか」と解析していただける部分がありますので、ぜひじっくり見ていただきたいです。
――それと楽曲の締め括りに置かれた英語詞のパートは、いわゆる水樹さん楽曲らしい応援ソングの要素を感じました。
水樹 今作の主軸となっているのはシイナとセツナの姉妹やトワ達魔人狩りリームなので、新キャラクターたちの目線で書いているのですが、最後の英語詞部分は、なのはやフェイト、はやて目線になっていて。色んな経験を積んでここにやってきた彼女たちだからこそのメッセージになっていると思います。
――それで視点が少し変わるんですね。そして水樹さんのパワフルなボーカルも本楽曲の肝になっています。レコーディングはいかがでしたか。
水樹 本当に大変でした(笑)。この曲は常にフォルテ、フォルテ、フォルテッシモみたいな熱量があるなかで、ただ押すだけではなくどう物語を作るかがポイントで。もっと楽に歌えるキーに設定することもできたのですが、そうすると危機的状況のなかで生き抜く切迫感や葛藤が出ない気がして。いつものことながらスパルタでした(笑)。
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