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INTERVIEW

2026.06.15

収録曲は父・姉と共にセレクト!?楠木ともり、自身初のアナログ・レコード盤『PRESSED FLOWERS』リリースインタビュー

収録曲は父・姉と共にセレクト!?楠木ともり、自身初のアナログ・レコード盤『PRESSED FLOWERS』リリースインタビュー

声優・シンガーソングライターとして独自の存在感を放つ楠木ともりが、自身初のアナログ・レコード盤『PRESSED FLOWERS』をリリースした。実はレコード初心者だという彼女が、レコード愛好家の父や姉のアドバイスを受けながら、いかにしてこの奥深い世界を学び、こだわりを詰め込んでいったのか。選曲や曲順、自らイラストを手がけたアートワークの裏話から、楽曲ごとの「色と形」のイメージ、更には初のビルボードライブへの意気込みまで、音楽への純粋な好奇心に満ちたロングインタビューをお届けする。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

楠木ともりと一緒に踏み出す、初めてのアナログレコード体験!

――『PRESSED FLOWERS』は楠木さんにとって初のアナログレコード作品。近年レコードは世界的にリバイバルしていて、若者や当時の音楽ファンを中心に人気が再燃しています。楠木さんは普段からレコードに馴染みはありますか?

楠木ともり それがレコードもプレイヤーも今まで自分で所持したことはなくて。父がレコード世代で、レコードをたくさん持っていたのですが、押し入れの奥にしまいっぱなしで、私はそれがあることも知らなかったんです。でも、それを知った私よりも音楽好きの姉が、父からレコードとプレイヤーの全セットを譲り受けて持っていったので、私は特に触れないままで。旅行先に置いてあったレコードとプレイヤーを使ってみたり、姉と一緒に自分の好きなレコードをリクエストして流せる飲食店に行ったことはあるので、まったくノータッチではなかったけれど、全貌がわからないからこそ漠然とした憧れがありました。そんな時にレーベルのスタッフさんから「アナログ盤のリリースに興味はありますか?」と聞かれたので、私自身も今回のリリースをきっかけに色々知ることができるし、今までレコードに触れたことのなかったファンの方も、この機会に聴いてみるきっかけになるといいなと思い制作することになりました。

――楠木さん自身もレコードのことをイチから学びながらの制作だったんですね。今作は既存のアルバムやEPをストレートにアナログ化するのではなく、既発曲を新たに編纂したレコード独自のコンピレーション作品になります。まずどんな作品にしたいと思いましたか?

楠木 最初に浮かんだのは、私にとってもお客さんにとっても「初めてのレコード」を体験できる作品にしたいということでした。なので今までのCD作品のように、1枚を通して物語やコンセプトを考えるというよりも、レコードで聴いたら面白そうな楽曲を詰め込むことに専念しました。一言で表すなら「レコードにおける楠木ともりのベスト盤」というイメージです。

――レコードで聴くと面白そうな楽曲、というのは、例えばどんな基準で選んだのでしょうか。

楠木 正直、私自身はほぼレコードに触れたことがなくてわからなかったので、レコードのお話をいただいた時に、真っ先に父と姉に報告して「レコードを出すことになりそうです。私の持ち曲でどれをレコードにしたら面白いと思いますか?」と聞いたんです。それで、2人がリストアップしてくれた楽曲の中から私が選ぶ、という形をとりました。私もレコードの良さや特性を自分なりに調べてみたり、詳しい人に話を聞いたりするなかで、基本的には音がみっちり詰まっている曲よりも、波形として余白のある曲のほうが合いそうということがわかってきて。他にも「低音域は意外と音質の再現が難しいらしい」だとか「音数が多い曲は、曲順的に頭の方に持っていったほうがいい」ということも聞きました。

――レコードは外周のほうが溝が長いぶん、物理的に情報量も詰め込みやすいという話ですものね。

楠木 そういったお話を踏まえたうえで総合的に「レコードで聴くと面白そうな曲」を考えた時に、楽曲のジャンルはバラバラにしたいなと思いました。「この楽曲はレコードだとどう聴こえるんだろう?」という基準も自分の中にあったので、がっつり生音の曲から打ち込みの曲まで、ボーカルも張って歌っているものからブレッシーなものまで、1つのジャンルやテイストでまとめるのではなく、収録曲に幅を持たせる。特に「MAYBLUES」と「DOLL」は実験枠で、どんな形になるかわからないけど気になるから収録してみよう、という感じで選びました。「MAYBLUES」は打ち込み中心で低音が肝になっている曲ですし、「DOLL」も音のバランスが変わっているので、レコードで聴くとどうなるのかが気になって。

――ちなみにご家族が選んだ楽曲に、何かしらの傾向はありましたか?

楠木 選曲の理由は聞いていないのですが、多分、そもそも音楽として自分が好きな曲であることと、レコードで聴く経験が豊富な2人なので、レコードで聴いた場合の空気感を想定して選んでくれたんだと思います。「MAYBLUES」は姉がすごく好きですし、父は「twelve」が好きみたいなので。あとは「バニラ」も、いつも「良いよね」と言ってくれます。

――「バニラ」は歌詞の内容的に、親御さんの目線で聴くとグッとくるでしょうからね。

楠木 ですよね(笑)。そういうのもありつつ、楽器の構成や楽曲のジャンルとか、色んな側面から選んでくれたのかなと思って。その中から私も「面白そう」と思うものを選びました。

――実験枠とは逆に「レコードにすると絶対に良いはず」と思って選んだ曲もありますか?

楠木 「アカトキ」や「narrow」は生音中心なので、間違いなくレコードにすると映えるだろうなと思っていました。「アカトキ」は楽器の構成を含めてレコードの時代のエッセンスが入っている曲ですし、楽曲としても人気なので、「これはさすがに合うでしょ!」という絶対的な自信があって(笑)。私は「アカトキ」のイントロがすごく好きで、あのピアノの音が鳴った瞬間に心が弾むんですよね。レコードは針を置いて音が鳴り始める時、イントロが一番ワクワクする瞬間だと思うので、この曲はA面の1曲目に置きました。

――「narrow」もB面の1曲目に収録されていますね。

楠木 「narrow」も「アカトキ」と同じような理由で、音数がすごく多くて弦も入っていてリッチな作りなのですが、最初は最低限の音数から始まるんです。そのワクワク感と言いますか、ちょっと緊張した感じで針を置いて、あの最初のフレーズが聴こえてきたら、楽曲の世界にグッと惹き込まれるだろうなと思いましたし、そこから音がグワッと広がっていく曲なので、レコードに絶対に合うと思って選びました。

――A面には「アカトキ」「DOLL」「眺めの空」「バニラ」の4曲、B面には「narrow」「twelve」「MAYBLUES」「タルヒ」の4曲が収められています。アナログ盤特有のA面・B面という構成については、どのように考えられましたか?

楠木 曲順は音質重視で、音数が多いものはなるべく頭のほうに持っていくようにしました。ただ、A面・B面共に4曲分の流れにもこだわりたくて、自分が聴いていて心地良く、なおかつ最後にしっとり終わる構成にしています。A面はポップス寄り、わかりやすく華やかな4曲が並んでいて、音を浴びられるような曲が多いのかなと。B面に関しては、世界観が確立されていて尖っている曲、聴いた時に空気がガラッと変わるような、心を掌握されるような曲を集めました。どちらかと言うと音に浸るような曲で分けています。本当は「DOLL」と「タルヒ」を逆にして日本語タイトルと英語タイトルで分けようかなとも思ったんですけど(笑)、音のバランスを考えるとこれがベストかなと思って今の並びになりました。

――選曲で気になったのは、先ほどなるべく色んなジャンルの楽曲を入れたかったとお話ししていましたが、「ハミダシモノ」や「遣らずの雨」のような激しい曲調のものが今回は選ばれていないですよね。

楠木 そうですね。いわゆるアニメタイアップ曲やライブで盛り上がる系の曲は収録しませんでした。これはレコードという媒体の性質上、音がみっちり詰まっている楽曲はレコードよりもCDのほうが向いているというお話を聞いたからで。実際にテストプレスを聴いた時も、音数が多い曲は入れなくて良かったなと思いました。

――テストプレスを聴いて、具体的にどう感じられたのでしょう。

楠木 言語化するのは難しいんですけど……私はテストプレスをプロ仕様の環境で聴かせていただいたので、まずとっても良い音質でした。なので私がレコードに持っていた勝手なイメージ――例えば針のプチプチ音やノイズが乗っていることの良さや温かみがあるという印象とはまったく違って、すごくクリアではっきりしている音、目をつぶると音の配置がわかるくらいの臨場感ある音だったんです。そうやって音の1つ1つを感じ取れるクオリティなのに、音数が多いとのぺっとして面で聴こえてしまうかもしれない。それも迫力があるのかもしれないけど、もしかしたらCDという媒体のほうが合っている音楽なのかなという気がして。父と姉も、リストにそういう激しい楽曲は入れていなかったので、なるほどなと思いました。私も最初は「ハミダシモノ」はタイアップ曲で人気もあるので入れるべきかなと思っていたのですが、テストプレスを聴いたことで納得しました。

イメージが繋がっていく曲順、レコードならではの聴こえ方

――A面3曲目の「眺めの空」と4曲目の「バニラ」の流れについても教えてください。

楠木 感覚というか、自分で4曲を並べて流れを想像しながら決めたのですが、特にA面は楽器の繋がりが大きいかもしれません。1曲目の「アカトキ」はブラスも入っていて華やかで、2曲目の「DOLL」はメロディとしてその雰囲気も少し残しつつバンドサウンドになって、次の「眺めの空」は完全にポップスのバンドサウンド、最後の「バニラ」はドラマチックになって終わっていく。私の中では楽曲ごとに映像が浮かび上がるので、その流れが気持ち良くなるように組んでいるかもしれません。ライブのセットリストと同じで感覚ですね。

――セットリストも感覚重視で流れを決めているんですね。頭の中に浮かぶ映像というのは、MVやリリックビデオのような具体的なものですか?

楠木 いえ、もっと抽象的な感じです。もしかしたら音の波形とかに近いのかもしれないのですが、楽曲ごとに色と形の印象があるんです。例えば「アカトキ」はオレンジっぽくて丸い雰囲気で、「DOLL」は赤っぽさのある紫、形はすごくトゲトゲしていて。だから「アカトキ」から「DOLL」は赤みを引き継いでいて、丸みからトゲが生えるような感じでスムースに切り替わるイメージなんです。で、「眺めの空」は青系なので、「DOLL」の紫っぽさから青を引き継いでいる感じがして。「眺めの空」は私の中で四角っぽい形なんですけど……。

――窓枠のイメージなんでしょうかね。

楠木 ああ、そうかもしれません。だから「DOLL」のトゲトゲした感じから、「眺めの空」でスッと角が落ちて四角になっていく。そういう風に自分の中の印象がスムースに繋がっていく並びで、ライブのセトリも決めているかもしれないです。最近は照明の色とかも、その私の中のイメージと一致していることが多くて。

――「一致している」というのは、楠木さんからイメージをお伝えして「一致させている」のではなく?

楠木 初期の頃はお伝えして一致させていることもありましたけど、最近はお任せしても一緒に感じることが多いです。だから私の中では楽曲ごとに何となく形と色があって、それが綺麗に繋がるかどうかが感覚としてあるんだと思います。

――面白い。それは楽曲を作っている時からあるイメージなのですか?

楠木 作っている時は色だけがあって、アレンジで形が決まるという感じです。でも、ライブ経験によって色が変わることもあります……今、自分でお話ししてみて初めて自覚したのですが、私はこんなに抽象的なものでセットリストや曲順を決めているんですね(笑)。

――それは自分で楽曲を作っているからこそできることなのかもしれないですね。

楠木 確かにそうかも。自分以外の方に作っていただいた楽曲の場合、そこまではっきりと色や形が見えていなくて、ちょっとぼやっとしている気がするので。

――興味深いお話をありがとうございます。選曲と曲順のお話に戻して、B面は1曲目の「narrow」から「twelve」へと続きます。

楠木 「narrow」はあまりにも空気感が強いので、そこからパッと切り替えても大丈夫なくらい個性がある曲を2曲目に持ってきたくて。その点で「twelve」はすごく切り替え力があるんです。あのイントロが流れた瞬間に世界観にグッと持っていってくれる。それと私の中では「narrow」と「twelve」は温度が繋がっている気がしていて。「twelve」はすごく寒い感じ、冬の乾いた冷たい風のイメージがあるので、「narrow」からの流れが心地良いなと。

――更に「MAYBLUES」「タルヒ」と続きます。

楠木 「MAYBLUES」も個性が強いですが、ここも私の中では「twelve」から色を引き継いでいるイメージです。「twelve」は深い青、黒に近いような青のイメージがあって。なおかつスロウテンポだけどビートがしっかり刻まれていてアッパーなイメージもあるので、ここでガラッと空気を変えて中盤に持っていく。「MAYBLUES」は実験枠でしたが、生音とは違った臨場感があって、音が粒ではっきり聴こえてくるのが素敵でした。「タルヒ」はこの作品が穏やかに終われるように、ここしかないと思って置きました。

――結果として、今回は8曲とも楠木さんご自身が作詞・作曲した楽曲になりましたね。

楠木 それはたまたまです(笑)。ただ、他の方に書いていただいた楽曲ももちろん素晴らしいですけど、やっぱり自分で作った曲はそのぶん愛着もありますし、たくさん考えながら作ったからこそ、レコードで聴いてみたい気持ちが無意識下であったのかもしれないです。あと、個人的にはアレンジャーがここまでばらけていたことも驚きでした。重永亮介さんのアレンジ曲が2曲で被ったくらいで(「眺めの空」と「narrow」)、あとの曲はバラバラなんですよね。やっぱり尖った曲はアレンジャーさんによって作られている側面が大きいことを改めて感じました。

――先ほどテストプレスをとても良い環境で聴いたというお話でしたが、8曲をアナログレコードで通して聴いた印象はいかがでしたか?

楠木 「アカトキ」は色んな音が聴こえてくるなと思いました。今まで何となくで聴いていた部分にも、「ここにこんな音があったんだ」というのが明確にあって。聴き心地がCDとは違うなと思ったのは「DOLL」と「MAYBLUES」でした。「DOLL」はボーカルが結構違う印象で、CDは全体的にソリッドですが、レコードだと癖のあるボーカルとオケがふわっと混ざり合っている感じがして、空間的にすごく合っているなと。「MAYBLUES」は低音の聴こえ方が全然違いました。もともと打ち込みの電子音だったものをアナログにしたことによる変化なのか、何かが全然違うんですよ……上手く言語化できないんですけど(笑)。

――そうですよね、ややこしい質問をしてすみません(笑)。

楠木 でも、面白かったのが、姉のレコードプレイヤーを使ってテストプレス盤の家族視聴会をしたんですけど、「MAYBLUES」はプロの環境で聴いた時とはまた全然印象が違っていたんですよね。なので環境によって一番差が出るのが「MAYBLUES」かもしれません。それと「タルヒ」に関しては、逆に音が良すぎない環境のほうがいい空気感になるかもと思いました。もともとちょっと歪んだ音でぽわんと浮遊感がある曲なので、音がきれいすぎるとCDとの変化をあまり感じられなくて。レコード特有の風合いを感じられる環境のほうが楽しいと思います。音の環境の良さだけを求めなくても楽しめることは、「タルヒ」で伝わるはずです。

――上手く言語化できないとおっしゃっていましたけど、めちゃくちゃ言語化が上手だと思います。

楠木 本当ですか?良かったー。音は感覚的なものじゃないですか。言語化しようとすればできるんでしょうけど、自分が感じたことを伝えるのは難しいなと思って。今回私もレコードを出すにあたって、「ともりるってレコードに詳しいのかな?」という変なプレッシャーを与えているかもしれないなと思ったんですよね。でも、むしろ私も初心者として聴いて楽しいだろうなという視点で作ったので、ハードルはかなり低いと思いますし、今はプレイヤーも手軽に聴けるものが色々あるみたいなので、記念くらいの気持ちで手に取ってもらえると嬉しいです。

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