INTERVIEW
2026.03.13
2025年12月にアーティストデビュー10周年を迎え、記念すべきアニバーサリーツアーを完走した水瀬いのり。そのツアーファイナルとなった神奈川・横浜アリーナDay2公演の模様を収めたライブBlu-ray作品『Inori Minase 10th ANNIVERSARY LIVE TOUR Travel Record』が、3月11日にリリースされた。初のベストアルバム『Travel Record』と2ndハーフアルバム『Turquoise』の2作品を携えて行われた本ツアーは、ライブタイトルでもある“Travel Record(=旅の記録)”が象徴する通り、彼女が10年の旅路で得た経験と成長だけでなく、この先も続いていく“夢のつづき”を示すライブとなった。こだわりのセットリストや演出、そして感動的な場面の数々が記録された映像作品をより深く楽しむためのロングインタビューをお届けする。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――ツアーから2ヵ月ほどが経ちました。改めて振り返ってみて、ツアー全体としてどのような時間だったと感じていますか?
水瀬いのり チームや環境は例年通りいつも支えてくださっている皆さんと一緒なのですが、今回のツアーは10周年記念ということもあり、そこに“ANNIVERSARY LIVE TOUR”というタイトルや“10周年”という言葉のパワーが加わったことで、今回ならではの特別なライブになる予感はしていました。それに、私の5周年がコロナ禍と重なってしまい、アニバーサリーを無観客でお祝いすることになったので、それを10年目でリベンジできることは私にとって大きいこと、自分を奮い立たせるモチベーションになりました。
普段、ライブが終わって日常に戻るにつれて、ステージの熱量や記憶は薄れていくのですが、今回のツアーに関しては、終わって2ヵ月経った今でも、ふとした瞬間に「本当にあんな夢のような時間があったんだっけ」と、どこか遠い記憶のような、夢見心地な感覚が強く残っています。例年のツアーだと、「終わったー!」という達成感と共に、「もう風邪をひいても大丈夫だ」と冗談が言えるくらい開放されるのですが(笑)、今回はファイナルを含めた各公演でいただいたものを咀嚼するのにすごく時間がかかっていて。またここから自分の旅が本当に始まっていくような、そんな感覚になる空間でした。
――個人的に、前回のツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark”の時は「安心感・信頼感をもって歌っている」という印象でしたが、今回のツアーでは「とても幸せそうな表情」をしている瞬間が多かったように感じました。先ほど「夢見心地」とおっしゃっていましたが、今までにはない感覚があったのでしょうか?
水瀬 そうですね。これまでのインタビューでもお話ししてきましたが、歌うことに対しては「好き」という気持ちの大きさと同じくらい悩んでもきたアーティスト活動でした。この仕事をする上で、皆さんに歌を聴いてもらうことに対して考えすぎてしまうのが私らしさであり、同時に自分自身を苦しめる一因でもあって、ライブに関して自分に花丸をあげられたことはほとんどなかったんです。でも、そんな自分が辿り着いたこの10周年のステージで、客席のファンの皆さんを見た時、「こんなにもたくさんのみんながついてきてくれて、支えてくれていた10年だったんだ」ということが具現化されて、改めて自分一人だけの活動ではないことを感じました。
今回のツアー、特にファイナルの横浜アリーナは、大きな会場にもかかわらず友人や家族に「すごく温かい空間だね」と言ってもらえたり、私自身もみんなをすごく近くに感じられたりした時、「これが私たちが10年間かけて紡いできた、私らしいライブ空間なんだ」と思えました。
技術面やコンディションなど自分の中の悩みは尽きませんが、みんなと一緒なら不安も乗り越えられるし、ダメな日があっても「そんな日もあるよね」と言い合える。ライブを「完璧でなければいけない場所」だと捉えていた自分から大きく変化できたのは、どんな時も温かく見守ってくれたファンのみんなとチームのみんながいたからだと、このツアーですごく感じました。「ライブって温かい場所なんだ」と思えるようになった自分がいることが、続けてきた意味なのかなと思います。
――ライブMCで「水瀬いのり、偉いぞ」と、自分のことを褒めてあげていましたが、そうやって自分のことを素直に受け止められるようになったのが、この10年の変化であり成長なのかもしれないですね。
水瀬 本当に、皆さんが思っている以上に私はめちゃくちゃ悩むし、緊張もするんです。でも、この10年ですごく強くなりました。「Turquoise」の歌詞(“強くなったね 頑張ったね 仲間も増えたね”)にもあるように、頑張った分だけ強くなれた10年だったと思います。悔しさやマイナスな気持ちさえも自分の中の勲章として、自分を構成する輝きの一つになっていると思えるようになりました。
もし私がいつでもパーフェクトで、常に最高のステージを届けられる自分だったら、10年も歌い続けていなかったと思うんです。「次はこうしたい」「このミスをなくしたい」と繰り返していたら10年が経っていました。まだ続けたいと思えるのは、「もっともっと」と目指す理想や見たい景色があるからこそ。そう思わせてくれる過去の自分の悔しさすらも、「頑張ったね」と言ってあげられる自分に今はなれた気がします。
――“heart bookmark”ツアーでの経験を経て、今回のツアーではどのような姿を見せたかったのでしょうか?
水瀬 今回のツアーと前回の“heart bookmark”ツアーの間に、FCイベント“いのりまち町民集会2025 -ACOUSTIC LIVE シネマチックダイアリー-”というアコースティックライブを行ったのですが、そのライブは私の中で“寄り道”をコンセプトにした、Ifストーリー的な位置づけでした。その分、10周年ツアーは今自分が届けたい音楽を真っ直ぐに届けるというテーマで、“音”とその音楽に紐づいた演出に力を入れたいと舞台演出家さんと相談しました。それと10周年を銘打っていますが、これが集大成やゴールではなく、ここはあくまで1ページに過ぎないという点は、“heart bookmark”ツアーからの繋がりを含めて感じてもらえればと思っていました。
また、今回はホールとアリーナで意図的に演出を変えました。これまではアリーナの演出をホールのサイズに合わせて縮小するという形でしたが、今回は「それぞれの見え方が違っていい」ということで、ホールにはホールのサイズ感に合う演出、アリーナでは花道やセンターステージを活かしたダイナミックな照明や映像演出などを取り入れました。同じことの繰り返しではなく、一つ一つの会場に思いを込めて公演を行い、ファイナルの横浜アリーナ2デイズに向かっていくツアーになりました。
――横浜アリーナには2021年や2022年のツアーでも立っていましたが、今回はそれ以来となりましたね。
水瀬 今回はセンターステージを作っていただいたのですが、横浜アリーナという大きな会場で花道があるのはとても新鮮でした。横浜アリーナに初めて立ったのは5周年の無観客ライブ(“Inori Minase 5th ANNIVERSARY LIVE Starry Wishes”)で、実はその時も花道はあったのですが、当時は誰もいない暗い観客席の中、浮島のようなステージに一人でいて歌ったのを覚えています。今回は「来てくれるファンのみんなに囲まれながら歌いたい」という思いがあって、花道を作ってもらいました。きっと皆さんもより一層、私のことを近くに感じてくれたんじゃないかなと思います。
――“heart bookmark”ツアーはご自身でセットリストを考えたとのことでしたが、今回はいかがでしたか?
水瀬 今回は大枠を提案していただいて、そこから私が入れ替えたり、日替わり曲の調整を相談したりしました。本当はもっと日替わりを増やしたかったのですが、ベストアルバムとハーフアルバムの同時リリースで、どちらの曲も歌いたいとなると曲数が膨大になってしまって……全部歌うと30曲を超えてしまうんです(笑)。そうなると私自身も大変ですが、何よりバンドの皆さんの負担が大きいですし、リハーサルのスケジュールを考えても難しいということで、泣く泣くメドレーという形をとることになりました。
――メドレーを披露するのは本ツアーが初でしたが、このアイデアは水瀬さんの発案?
水瀬 はい。初めての試みなので皆さんにどう受け取られるか不安もありましたが、「やらない満足感」より「やる満足感」のほうが大事だと思ったんです。フルサイズでは歌えなくても、その曲に込めた思いは伝えられるはずだと思うので。メドレーに入った曲たちは、惜しくも本編セットリストに入れなかった曲たちなのですが、「選ばれなかった曲」が生まれる悲しさが大きくて、それを救済するための解決策としてメドレーを作ってもらいました。
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