SNSを中心に中毒性の高い楽曲を生み出し続けるシンガーソングライター・はしメロが、待望の1stアルバム『aero(エアロ)』をリリースした。ラテン語で“空気”を意味するタイトルが冠された本作は、「ときはなて!」(TVアニメ『ウィッチウォッチ』第2クールOPテーマ)や「百面相」(TVアニメ『顔に出ない柏田さんと顔に出る太田君』OPテーマ)といったアニメタイアップ曲をはじめ、新曲から活動初期のレア曲のリアレンジまで、CD収録可能時間の限界に挑んだ全26曲入り。ポップスターを目指す彼女らしい、多彩にしてフレッシュなポップソングが目いっぱい詰まった濃厚な作品に仕上がっている。その創作の源泉にあるユニークな世界観を、ロングインタビューで解き明かす。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――1stアルバムのタイトルは『aero(エアロ)』。ラテン語で“空気”などの意味を持つ言葉ですが、どんな意味を込めたのでしょうか。
はしメロ 自分の空気感を新鮮なままギュッと封じ込める、というイメージでこのタイトルにしました。今回のアルバムは収録曲よりも先にジャケットとタイトルから決めたんです。ジャケットで(はしメロのキャラクターが)真空パックみたいに密封されているのは、コンビニに売っている「くんたま(燻製たまご)」に自分がなってみたいと思ったから。そこからCDの収録可能な時間いっぱいまでミチミチに楽曲を詰め込もうと思って、はしメロの空気や温度感をギューッと詰め込んだ、26曲入りの作品になりました。それと、はしメロの音楽が聴いてくれる人たちの日常に、“空気”のように自然で身近な存在であってほしいという願いも込めています。
――「くんたまになりたい」という発想自体がユニークではしメロさんらしいですね(笑)。これまでは配信シングルやEPで楽曲を発表してきたわけですが、アルバムという形態に憧れはありましたか?
はしメロ 憧れというか、自分が人生でアルバムをリリースできるとは思っていなかったので、すごく不思議な感覚です。こんなに曲を発表していたんだ、と思って。
――それでも全曲ではないですよね。余談ですが今までに何曲くらい作ってきたか自分で把握していますか?
はしメロ リリースしていないものを含めると、どこに出すこともなく遊びや思い付きで作っただけの曲もたくさんあるので、ちょっとわからないです。リリースしたい気持ちで作るものもありますけど、自然と作りたくなって作ったものが多いので。
――そんなにポンポンと作れるものなんですね。普段から膨大な量の曲を作っているなかで、リリースするものとしないものの基準や線引きはあるのでしょうか。
はしメロ 全曲、自分が聴きたいと思える曲を作っているので、線引きみたいなものは明確にはないんですけど、その中でも「この曲は特に聴きたい」とか自分のテンションがアガるだろうなって客観的な目線で感じる曲をリリースしています。
――1曲を制作するのに平均でどれくらいかかるんですか?
はしメロ そうですね……大まかな曲の形は早ければ10分くらいでできることもありますし、長い時は1行の歌詞を何日もかけて考えることもあります。でも、思いついた時にすぐ書ききるタイプなので、少しずつ進めるというよりは一気に作ってしまうことが多いです。
――今作にはメジャーデビュー前に発表していた曲も多数含まれていますが、この中で一番昔に作った曲は?
はしメロ 「テイクアウト」です。本当に曲を作り始めた初期の頃、作詞・作曲をやってみようと思ってから2個目くらいに作った曲なので。当時はギターのコードもあまりよくわかってなかったです。
――インディーロックっぽいバンドサウンドが特徴的な曲ですよね。本作収録のバージョンは2023年に発表されていたので、その頃に制作したものかと思いきや、そんなに昔からあった曲だとは。はしメロさんは過去にバンドをやっていたという話ですが、もしかしたらその頃に作った?
はしメロ いや、バンドをやるよりも前ですね。でも、アレンジは元々こんな感じで、今のバージョンは原曲のイメージをそのままブラッシュアップしてもらいました。別に世の中に発表するとか何も考えずに作ったんですけど、自分でも気に入っていたのでリリースしました。
――逆に一番最近に作った曲は?
はしメロ あれ?どれだろう?この間の年末年始にも楽曲を作っていたんですけど、それはこのアルバムには入れてなくて……このアルバムのためにリアレンジしたりボーカルを録り直した曲はありますけど、それを除くと、一番最近に作った曲は「yosumi」だと思います。それで言うと、最近作った曲というよりも、今までに作ってきた曲をまとめたアルバムっていう感じです。
――最初期に作った「テイクアウト」と直近の「yosumi」を比べた時に、ご自身のソングライティングに変化を感じることはありますか?
はしメロ 言葉の使い方や歌詞の端々にある言葉遊びの部分は昔から変わってないと思うんですけど、「テイクアウト」と「yosumi」を比べると、「yosumi」はドラマのオープニング主題歌として書いた曲だったので比較的真っ直ぐに書いていて、多分「テイクアウト」よりも「yosumi」の方がわかりやすい曲だと思います。特定の誰かに聴いてもらうことを意識した曲というか。「テイクアウト」は何も意識せずに作っていたので。
――なるほど。先ほどの話しぶりだと曲を作るのは早いタイプのようですが、このアルバムの中で過去イチ難産だった曲は?
はしメロ それも「yosumi」だと思います。「yosumi」の歌詞の“約束だってしない”という1行は、レコーディングの前日くらいまで「他にもっとあるんじゃないか」とか「いや、これが一番伝わるはず」って考えていたので。そういえば「routine」の最後の4行(“これからはそれからはAnother 君とまだ綴るstory 作るslowly これからはそれからはAnother 君とまだ綴るstory 作るslowly”)も本当のギリギリまで「どうしようかな?」って悩んでいました。
――「routine」はR&Bタッチの曲で、“R&B を好きなフリ”というフレーズが入っているひねくれ感を含めて個人的に大好きです。
はしメロ ありがとうございます!私も好きな曲です。この「routine」と「みらみら」と「YOKAZE replay」の3曲は『ism EP』(2022年)に収録していた曲でもあるんですけど、その中で最初に作ったのが「routine」で、この曲が自分の一番やりたいと思っていたことだったんですよね。そこからEPにするために残りの2曲も作ったんですけど、一番反応が良かったのは「みらみら」で、2番目が「YOKAZE replay」、「routine」は3番目だったんです。でも、個人的にすごくかっこいいと思うんですよね。サビが変な音程から入るところとか。
――その他に、このアルバムをきっかけにもっと聴いて欲しい曲はありますか?
はしメロ 「メリみ」ですね。この曲も自分ではめっちゃ気に入っているんですけど、この曲を好きと言ってくれる人をあまり見かけなくて……。この曲は“Merry me(=結婚しよう)”をテーマにした男性が主人公の曲で、愛を伝えたいけど言葉が通じない感覚をキャッチーに描けたなと思うし、サビの転調するところとかワールドミュージック感のあるアレンジもお気に入りなので、この機会にぜひ好きになって欲しいです。
――その他にもアニメタイアップ曲の「ときはなて!」「百面相」から7coをフィーチャリングしたチルでポップな温度感の「ヨロヨロ」まで、多彩な空気感の楽曲が並んでいますよね。
はしメロ そうですね。色々なジャンルを聴いてきたし、常に色々なものを聴きたいと思っているので、自然と色んなジャンルの曲が入った作品になりました。
――ここからはアルバム初出の楽曲について詳しくお伺いします。まずはアルバムから先行配信された曲「ひめすぎる」。姫すぎるお嬢様を描いたキュートなナンバーです。
はしメロ この曲は2年くらい前に作っていたものです。かわいい女の子をテーマにキャッチーな曲を作りたいなと思って、サビの“めひめひめひめひお嬢さん”のところから思いついて、そこからテーマを詰めていきました。サビがキャッチーだし、メロディが覚えやすくて歌詞もわかりやすい曲かなと思っています。
――お嬢様にも色々なタイプがいますけど、この曲で描かれているのはどんなお嬢様なのでしょうか?
はしメロ 「好き勝手やろうかな?」と思っても「いや、ダメダメ」と自分を律するようなモットーを持っているのが“お嬢様”なのかなと思っていて。家柄とかで規律正しく生きている感じ。そんなお嬢様が、自分が色眼鏡で見られていること、例えば「だってお嬢様じゃん?」って見られていることが自分には合わないと思っていたけど、実際はその恩恵を受けていることに気付く、みたいなイメージで書いた曲です。歌詞を書いた時は色んなジャンルの“かわいい女の子”を思い浮かべていて。サビで使っている“あれよ”という言葉遣いは和風のイメージですし、“ループ”とか“ズーム”は現代的な姫っぽさ。色んな場所のそれぞれのお嬢様っていうイメージです。
――お嬢様系のキャラクターはアニメにもよく登場しますし、魅力的ですよね。
はしメロ 色々なタイプがありますよね、家柄が良すぎて心がめっちゃ豊かだから助けてくれる味方タイプのお嬢様もいれば、いじわるばかりしてくるわがままお嬢様もいますし、はたまたマイペースなお嬢様もいて。私はお金持ちがゆえに余裕があって助けてくれる強キャラ系のお嬢様が好きになりがちかもしれないです(笑)。
――レコーディングでは、そういったお嬢様のイメージを思い浮かべて歌ったのですか?
はしメロ ちょっと変なんですけど、ずっと笑顔を意識して歌っていました。口角を上げていると明るい声が出るので、この曲ではそういう表現で歌いたいなと思って。
――なるほど。はしメロさんは声の表現のバラエティーが豊かですが、その表現の幅はどのように増やしてきたのでしょうか。
はしメロ 色んな曲を聴いてきた過程で吸収してきた部分があるのと、レコーディングの前には、自分の中でキャラクターを固めて歌い方を決めているのが大きいと思います。そのキャラクターを演じながら歌うイメージです。
――アレンジはMIMiNARIのお二人が担当。打ち込みを軸にブラスの音色も入ったカラフルなサウンドで、後半ではサンバっぽく展開するパートもあります。
はしメロ MIMiNARIさんにお任せしたら、楽曲のイメージを汲み取って色んな音を詰め込んでくれて、素敵なアレンジにしてくれました。特にイントロの部分はちょっとお転婆な感じがしてお気に入りです。
――はしメロさんはこの曲に限らず、かわいい女の子をモチーフに楽曲を制作することが多いですよね。今回のアルバム収録曲だと「かわいいkm」や「渋谷のオナゴ気が強い」も、その系統だと思いますし。
はしメロ 確かに男性目線よりも女性目線の曲が少し多いかもしれないです。かわいい女の子が好きですし、それをテーマにしたキャッチーな曲が好きなので。「ひめすぎる」もかわいい女の子に歌ってもらいたいなと思って作りました。
――アルバムの2曲目に収録の「ブルーシャドウにのっかって」も今作が初出の楽曲になります。
はしメロ この曲も2年くらい前に作った曲です。ブルーシャドウという名前の植物がありまして、たまたまそういう品種があることを知った時に、ブルーシャドウという言葉を使って曲を作ってみたいなと思ってできました。名前の響きが技の名前みたいでかっこいいなあと思って。植物の「葉っぱが落ちる」ことから連想して、何かにハマる、恋に落ちるという意味合いの“落ちる”というテーマで作りました。
――ギターのカッティングを中心としたシャープで軽快なアレンジとはしメロさんの煌びやかな歌声が合わさることで、何かに心を奪われてトリコになる過程のワクワクドキドキ感が伝わってきます。
はしメロ ありがとうございます!歌詞に“why are you so nice to me?(=なんでそんなに優しくしてくれるの?)”ってあるように、私はちょっと遠回しな感じの書き方をしがちで。この曲の主人公は自分本位というか、“落ちてもいいよと思えるの”と歌っているのも自分の気持ちだけで相手のことは考えていないので、そういうのが恋に落ちていく時の気持ちに近いのかな、と思いながら書きました。
――はしメロさんも何かに夢中になって落ちていく感覚を味わったことがあると思いますが、最近そういう心の動き方をしたことはありますか?
はしメロ 最近だと『探偵!ナイトスクープ』でこの間放送された、六角精児さんのことが大好きな5歳児の男の子が本人と一緒に旅をする回を観て感動しました。その男の子は六角さんが出演している『呑み鉄本線・日本旅』という番組が好きらしくて、自宅で六角精児さんの曲を歌っていたら本人が登場して、推しを目の前にして「うわー!」ってなるんですけど、一緒に旅をしたいかを聞かれた時に「チャンスがあればいいんだけどね」みたいな返事をするのが、子供ながらに控えめですごくかわいらしくて(笑)。誰かを応援する気持ち、推しに対する気持ちは、幼くても変わらないんだなと思って、心が動かされました。日頃、音楽に感動することはよくありますけど、その他の出来事だとそれが印象深いです。
――ちなみに音楽で最近感動したことは?
はしメロ 最近だと、K-POPのKiiiKiiiというグループの「404 (New Era)」という曲が本当に良くて。
――おっ、自分も好きです。そういえばはしメロさんはNewJeansが好きという話でしたが、KiiiKiiiはNewJeansに近いフィーリングがありますよね。
はしメロ 歌詞も素晴らしくて、インターネットの“404エラー”と新しい時代という意味の“ニューエラ”をかけて、人とは違うエラーの起こるような場所だったとしても私たちがいるところは100点、みたいな意味の曲なんです。初めてMVを観た瞬間から感動して、ずっと聴いています。
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