INTERVIEW
2025.11.05
TVアニメ『かくりよの宿飯 弐』のOP主題歌「とおりゃんせ」とED主題歌「涙のレシピ」を収録したシングル「とおりゃんせ」が11月5日に発売された。大石昌良が作詞・作曲・編曲を担当した「とおりゃんせ」は、声優歌手・東山奈央の新たな一面を感じさせる楽曲になっている。さらに「涙のレシピ」は、アニメ限定盤に収録されている「ひと匙の光」と同じコード進行の曲になっていて、この2曲が合わさった楽曲がアニメの第3話のエンディングで流れたことでも話題になっている。今回はOP主題歌のこと、そしてED主題歌での仕掛けについてを中心に、たっぷりと話してもらった。
INTERVIEW & TEXT by 塚越淳一
――アーティスト写真やジャケットの花がきれいですね。
東山奈央 これ、生花なんですよ!スタジオに入ったら、お花屋さんみたいで、きれいなお姉さんがいらっしゃったので、「この方は?」とお訪ねしたら、フラワーコーディネーターさんで、「今日の撮影はガチだ……!」と思いました(笑)。こんなに生花に囲まれるのは初めての経験で、本当はかんざしなどを頭に付けようかと話していたんですけど、お花が素敵だったので「これを付けちゃおうよ!」と、その場のノリで付けることになりました。頭に花を生けてもらうような斬新な体験でした。
――生花ならではの魅力が出ていますよね。
東山 写真の撮影で生花にしたので、MVはどうしよう!と思ったんですけど、MVもフラワーコーディネーターさんが来てくださることになったんです。撮影ごとに頭の花が変わるというのも良いなと思ったので、そこは再現性というよりは、花との一期一会を楽しむ感じでした。もちろん生花にしたことで、スタッフさんは大変になるんですけど、みんなでテンション高く気合を入れて取り組むシングルになりました。
――そもそも、花というモチーフはどこから来たのですか?
東山 ジャケットデザイナーさんとの打ち合わせの中で決まっていったんですけど、赤いカーペットが真ん中にあるのですが、その外側が少し怪しげな森になっていて、内側に入ってくるとお花が咲いていく。ここで、生と死ではないですけど、幽世(かくりよ)と現し世(うつしよ)の狭間をイメージしているんです。なので、現し世を表現するためにお花が咲いているっていうのはどうですか、というところから始まりました。
――このジャケットにはそんな意味が込められていたのですね。ちなみに【豪華初回限定盤(VICTOR ONLINE STOREのみで販売)】の特典のオリジナル箸もいいですよね!(笑)。
東山 これ、めっちゃ出来が良いんですよ!緑と黒のバイカラーというのもおしゃれですし、滑り止めも付いているし、なんと食洗機でも使えるんです!
――大事!(実物を見せてもらいながら)かなり高級感があって、長さもいいですね。
東山 かなり実用的ですし、男女問わずに使っていただける色がいいなと思ったんです。黒とか茶色は皆さんも持っている色だと思うので、おうちで食器入れに入っているときにすぐに見つけられるように、みんなが持ってなさそうな色で男女ともに使える色は、緑なのかなと思いました。
――東山さん演じる津場木葵の着物の色でもありますしね。相変わらずパッケージに気合いが入っていますね。
東山 熱量は見えるところから伝えていかなければ!と思っているので(笑)。
――収録曲もすごく豪華で、TVアニメ『かくりよの宿飯 弐』のOP主題歌とED主題歌が同時に入っていて、3曲目がそれぞれの形態で違う楽曲になっています。
東山 このインタビューの掲載が発売日付近であれば、話せることがたくさんあるんですよ!
――それは、【アニメ限定盤】の3曲目に収録されている「ひと匙の光」絡みのことですかね?
東山 そうなんです!ED主題歌の「涙のレシピ」が、私が演じる葵目線。そして「ひと匙の光」が大旦那様目線の曲になっているんです。そして、実はアニメでは大旦那役の小西克幸さんに「ひと匙の光」を歌っていただいていて、この2曲を合わせた「涙のレシピ ✕ ひと匙の光」が、アニメの第3話のED主題歌として流れることになっているんです(※インタビューはアニメ放送前に実施)。この2曲は、アレンジも使っている楽器も、メロディラインも違う曲なんですけど、コード進行が同じなんです。そして、2曲をかけ合わせると1曲になるという仕掛けがあるんです。
――「ひと匙の光」を聴いているとき、「涙のレシピ」とあまりに似ていて混乱していたんですけど、そんな仕掛けがあったのですね!
東山 ただ、1曲ずつでも成立するように作っているので、この2曲をそのまま合わせると複雑になるところがあるんですけど、場所によっては追っかけみたいになる作りになっているんです。だから、作ってらっしゃる方も同じなんです。
――なるほど。「ひと匙の光」の詳しい話は後ほど改めてさせていただきますが、そもそもオープニングとエディングのダブルタイアップというのも、すごいことですよね!
東山 まず私としては『かくりよの宿飯』の第2期決定というニュースに驚きました。これだけ長い年月が経って続編が決まる作品って、そんなに多くないんです。しかも『かくりよの宿飯』は、絶えず動いていたコンテンツではなく、アニメのアフレコが終わってから、演じていない期間が長かったんです。ドラマCDやゲームの収録といった形でも演じる機会がなかったので、また葵たちに会えることが夢みたいでした。しかも第1期のOP主題歌「灯火のまにまに」は、私が歌手活動1年目のときに出会った曲で、日本武道館での初のワンマンライブで初解禁・初披露をさせていただいたので、いろいろな思い出が積もりに積もっているんです。しかも、ワンマンライブの前の日に第1期の「かくりよの宿飯」のアフレコもしているんですよ(笑)。本当にいろんな思い出が、この曲に紐づいているので、私にとって特別な作品なんです。そんな作品に、ちょっと成長できた自分で再会できることが嬉しかったし、そのうえ、OP主題歌も続投させていただけて、またその作品の顔になる部分を任せていただけるんだ!と思って、身が引き締まる思いでした。ただ、ED主題歌に関しては、あとから決まったので「えっ!?」と、嬉しさ半分、プレッシャー半分みたいな感じでした。
――両方を同じ方が担当するというのも珍しいですよね。
東山 以前、TVアニメ『月がきれい』という作品で私は経験があるんですけど、あまりないですよね。そのときも驚きましたけど、今回はさらに驚きました。でもED主題歌を任せていただけたのも、葵目線で歌っている曲だから、ということで合点がいく部分はありました。本編でも葵がたくさんしゃべっていて、30分の中で自分が任された役割みたいなものが、それぞれ違うものだと思ったので、一つ一つ大切に届けていくことができたらなと思いました。
――OP主題歌「とおりゃんせ」を作るに当たり、大石昌良さんに作詞・作曲・編曲をお願いしようと思ったのはなぜですか?
東山 これは私自身の念願でもあったんですけど、実はオーイシマサヨシさんとはアニソンフェスで同じ日に出演する機会が多かったんです。そこで「いつかご一緒できればいいですね」というお話もさせていただいていたんですね。それで今回、誰に楽曲をお願いするかとなったとき、前回の「灯火のまにまに」が本当に素晴らしい楽曲で、今でもライブ定番の楽曲に育っているなかで、その曲のように皆さんに愛していただける新しい楽曲を生み出さないといけないよね、という気持ちがチームとしてあったんです。そこでスタッフさんから、「大石さんがいいと思う」という声が上がったんです。その方は、大石さんと接点のある方で、「素敵な曲を書いてくださる方だから、胸を借りましょう!」とオファーをしてくださって、私の念願も同時に叶ったということになりました。
――今や、アニソン界を引っ張る存在ですからね。
東山 はい!業界を第一線で駆け抜けられている大石昌良さんにキラーチューンを書いていただきました。大石さんも「なおぼうの曲が書けて嬉しかったで」と言ってくださったので、その言葉に恥じないよう、しっかり歌い上げたいなと思いました。
――「とおりゃんせ」は、賑やかな祭りのような感じの楽曲ですよね。
東山 そこは大石さん節なのかもしれないですね。「灯火のまにまに」は和ロックとして確立している曲なので、その印象を超えるという部分は、スタッフさんによる采配が強いと思うんですけど、かっこよさを極めるという方向ではなく、お祭りとか、妖の世界に迷い込んだカオス感みたいなものがプラスされた曲だったので、新しい境地に踏み出したんだなという感覚にさせてもらえたし、「こう来たんだ!」と思いました。しかも、仮歌のオーイシさんの歌が素晴らしすぎたんですよね(笑)。いつかこの曲もオーイシさんのセルフカバー集で歌ってほしいんですけど、私の「とおりゃんせ」と方向性が少し違うんですよ。特にラップ部分は、オーイシさんが歌うとすごくかっこよくて、「これ、私が歌いこなせるかな?もはやこのままでいいのでは?」という気持ちになりました(笑)。でも、きっと私に合うように作ってくださっているし、私にもできると思って書いてくださっているのだから頑張ろうと、食らいついて練習しました。
――仮歌も参考にしながら?
東山 はい!やっぱり一流の方の仮歌があるのはいいですね。そこからエッセンスをかなりもらえるんです。最近だとAIで歌っている仮歌もあって、それもそれでまっさらな印象のまま自分色だけで歌えるという良さがあるんですけど、今回はオーイシさんのエッセンスをたくさんお借りしながら、自分にはない扉を開かせていただけたと思いました。だからすごく良かったです。
――それで、新しい境地ということだったんですね。
東山 ラップとかは歌っていくうちに手応えも感じていったので、レコーディングでは、スタッフさんも「こんな東山さんは初めて聴いたけど、向いてるね!」と言ってくださったので、良かったです(笑)。
――でも、ラップの経験はありましたよね?
東山 ここまでオラついた感じのパワー系のラップはあまりやっていないんですよ。K-POP系のクールなラップはやっていたんですけど。だからオーイシさんの仮歌がなければ私は途方に暮れていたと思います。レコーディングが終わったあとは、「これで自信を持ってオラつけます!」ってなりました(笑)。あと、レコーディングの前に仮レコーディングをして大石さんに聴いてもらったんですけど、「なおぼう、ここ(ラップ)でこのニュアンスを入れれんのや。びっくりしたわ」というようなことを言っていただけて、大石さんが思い描いていたものをちょっと超えることができたのかな?と思えて、嬉しかったです。
――あとは演歌っぽい、コブシっぽいところもあって。
東山 そこは仮歌ではなかったんですよ。でも気がついたらコブシを入れていて(笑)。「灯火のまにまに」にも実はコブシっぽく歌っている箇所があるんですけど、そのときは打率低めだったんです。でも今回は、いつでもできます!みたいな感じだったので、地味なところかもしれませんが自分の成長を感じたし、これを入れたことによって、前作のオマージュ的なものにもなったので、良かったなと思いました。
――そして歌詞ですが、おっしゃる通り、作品に沿ったものでしたよね。
東山 1番は『かくりよの宿飯 弐』のテーマソングみたいな感じで、歌詞にアニメのタイトルが入ってくるような、どストレートな歌詞なんです。ただ2番の“別の世界で出会った人々に こんなにも涙が出るのはなぜだろう”は、現し世にいた葵ちゃんが、幽世にさらわれて来て、いろんな人に心を動かされてきたという意味があるのと同時に、大石さんはそこに「東山奈央が声優・歌手として作品に関わっている、その様子を描きたい」という意思を込めてくださったそうなんです。つまり、私がアニメの世界で出会った人々に、こんなにも涙がこぼれるのはなぜだろうという意味にしてくださったんですね。だからサビも“共鳴する役どころ パッと咲かそう!”という歌詞があって、私と葵が共鳴して想いを咲かすという意味に取れる。“境界線を飛び越え 会いに行くから”も、現し世と幽世という意味もあれば、2次元と3次元を行ったり来たりする声優としての私の在り方を歌ってくださっていて、エモエモな大石さんからのプレゼントになっているんです。
――東山さんのことも想われて書いてくれたのですね。
東山 本当に!心を込めて作っていただいたのを感じます。しかも最初の締切は、オーイシさんの2回目の日本武道館公演のときくらいだったので、超ご多忙なときにこの曲を書いてくださって、ありがたいです。
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