INTERVIEW
2025.09.03
2025年12月2日、自身の30歳の誕生日に歌手デビュー10周年を迎える声優アーティストの水瀬いのりが、そのアニバーサリーに向けた初のベストアルバム『Travel Record』と、新曲のみで構成された2ndハーフアルバム『Turquoise』を、9月3日に同時リリース。
デビュー曲「夢のつぼみ」から2024年リリースの1stハーフアルバム『heart bookmark』収録曲まで、全シングルの表題曲とアルバムのリード曲・タイトル曲を中心に、10年の軌跡をCD2枚組にまとめた大ボリュームのベスト盤。そしてこれまでの活動で縁を育んできた豪華作家陣が書き下ろし曲で10周年を祝った『Turquoise』。その2作品を通して見えてくるのは、アーティスト・水瀬いのりが抱く“夢”の形の変化だ。かつて“つぼみ”だった彼女の“夢”は、この先、どんな“つづき”を見せてくれるのか。今の素直な思いに迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――アーティスト活動10周年を迎えるにあたり、この10年で「変わったこと」と「変わらないこと」について、ご自身の中ではどのように捉えていますか?
水瀬いのり 大きく変わったのは、大勢でいることが苦ではなくなったことです。特に10年前は、学生時代の記憶がまだ頭の中の多くを占めていたので、「大勢でいることにメリットなんてあるのかな?」という気持ちが強くて、チームや集団でいることに気疲れしてしまうところがすごくありました。ましてや大人の方が多い現場だと緊張もしますし、息苦しさを感じることもあって。でも、今はチームやバンドメンバーの方たちと一緒に活動できていることに心地良さを感じる。そこは自分の中ですごく変わった部分です。
――「変わらないこと」に関してはいかがでしょうか。
水瀬 10年前も今も、自分に素直なのかなとは思います。とはいえ、その素直の捉え方が難しいですけど……昔の私は不器用で素直だったので、嫌なものは嫌と伝えるのがかっこいいと思っていたところがあって。それこそ「右向け右」と言われたら「じゃあ左を向こう」みたいな考え方に美学を感じていて、20歳前後の頃は八方美人になりたくない思いがすごくあったので、若干尖っていました(笑)。もちろんそういう尖りを剥き出しにするのは良くないですが、でも、自分の素直な思いをちゃんと言葉にして伝えることができるのは、案外すごいんじゃないかということに、大人になってからだんだん気付いていきました。
――それはある種、自分の中にブレない信念があるということですよね。
水瀬 だと思います。私は何かを選択する時に悩むことがあまりなくて、判断するスピードの早さや、自分の感じたものを他者に伝える潔さは、10年前から変わっていないと思っています。結局は自分次第だし、「答えは自分の中にしかない」という精神があるので、あまり誰かに相談することもないですし、周りの人に意見を聞いて色んな角度からの見え方や考え方を取り入れることはあっても、悩みを相談しようという気持ちにはならないんです。逆に周りから相談を受けることが多くて、この5年くらい、話の聞き手として頼られることが多くなりました。決断が早いし、自分の意見を押し付けるのではなく「私はこう思う」と伝えるタイプなので。
――そういった、他者の価値観も尊重しつつ、自分のカラーを大切にする気持ちは、水瀬さんがこれまでの楽曲で伝えてきたことと通じる部分だと思います。
水瀬 はい。そこは自分がアーティスト活動を行ううえで一貫していて、ずっとブレずに表現できていたんだなと、この10年を振り返って感じます。
――そんな10年の歩みを集大成したのが、“旅の記録”を意味するタイトルを冠した今回のベストアルバム『Travel Record』。CD2枚組に全23曲が収録されています。選曲と曲順はどのように決めましたか?
水瀬 基本的にはオーソドックスなベストアルバムと言える内容で、これまでのシングル表題曲とアルバムのリード曲・タイトル曲を中心にリリース順で収録しています。その中で、配信シングルだった「まっすぐに、トウメイに。」は、キリンレモンとのトリビュート企画として制作した、他のシングルとは少し立ち位置が違う楽曲なので、Disc-2の1曲目に置くことで、この10年のアーティスト活動の中で新鮮な取り組みもやってきたことを表現できるような並びにしました。
――初回限定盤には、今作のために南フランスで撮り下ろされたオリジナル写真集が封入されます。本ベスト盤と2ndハーフアルバム『Turquoise』のジャケットも、南フランスで撮影したものですか?
水瀬 はい。去年にリリースした1stハーフアルバム『heart bookmark』の撮影で初めてフランスを訪れたのですが、そこで出会ったコーディネーターさんと友達になって、その後、日本に遊びに来てくれたんです。その時に「今度はまた私たちがフランスに行くので」と約束したので、前回のパリに続いて、今回は南フランスに行ってきました(笑)。
――そんなに仲良くなっていたんですね(笑)。
水瀬 そのコーディネーターさんは、今や“チームいのりフランス代表”と言える方なんです。そして今回オフの日は、『heart bookmark』の撮影で知り合った友達と会うためにパリに移動して、ずっと行きたかったパリのアウトレットパークで一緒にお買い物をした後、ご飯を食べて、夜にはエッフェル塔のライトアップを観に行って、最後はハグをして「またね」って約束して。そんな1日を過ごしました。
――南フランスでの撮影はいかがでしたか?
水瀬 パリとはまた違った角度の撮影をしたくて、パリに比べて気候が穏やかで自然の多い南フランスを訪れたのですが、私は自然が大好きなので、もう行った場所がどこも天国みたいなところで、地上の楽園感がすごかったです(笑)。ベストアルバムのジャケット写真に使われているサン=クロワ湖や、『Turquoise』のジャケット写真で私がターコイズ色のドレスを着て写っているルシヨンという赤土のエリア、他にもムスティエ・サントマリーやルールマラン、エクス(エクス=アン=プロヴァンス)の街、最後はカシスという港町に行きました。前回のパリの撮影では海に出会うことがなかったので。
――南フランスの海岸地帯は風光明媚で有名ですものね。
水瀬 本当に素敵でした。今回の撮影では、それこそターコイズブルーの湖と海を見ることができて、景色だけでなく匂いや風の湿度も記憶に焼き付けて帰ろうと思って、全身で感じてきました。日本のファンの皆さんには申し訳ないですけど、正直、めちゃくちゃ帰りたくなかったです(笑)。「嫌だ嫌だ、もっとここにいたい!」と思って。また1年後くらいに訪れられたらいいなと思っています。
――そういった旅の記録という意味の『Travel Record』でもあるわけですね。初回限定盤のBlu-rayには、10周年記念ドキュメントムービーに加えて、今回のビジュアル撮影メイキングムービーが収録されています。
水瀬 この旅も多分また1年後、そして5年後、10年後に振り返ったとき、大切な旅の記録として残っていると思いますし、この今いる場所も、未来からしたら大きな一歩だということを感じながら、旅をしてきました。
――そんなベスト盤と同時にリリースされるのが、全曲新曲で構成された2ndハーフアルバム『Turquoise』。タイトルになっているターコイズは、水瀬さんの誕生日でありアーティストデビュー日でもある12月の誕生石です。
水瀬 今回のタイトルとテーマを決めるにあたって色々考えるなかで、デビュー曲が「夢のつぼみ」で1stアルバムが『Innocent flower』だったので、「色んなお祝いのお花が集まったよ」みたいな意味合いでブーケとかも思いついていたのですが、もっとオリジナリティが欲しいなという気持ちになり、さらに考えた結果、「あ、そういえば」と思って私の誕生石のトルコ石、ターコイズに辿り着きました。ターコイズは“旅のお守り”や“大地の石”として愛されているだけでなく、“人と人の縁を繋ぐ石”という意味もあるらしくて、すごく共感を覚えましたし、どこか自分を見ているようだなと思いました。
――それはどういう意味で?
水瀬 私、子供の頃は、自分の誕生石がターコイズだということに、少しがっかりしていたんです。他の宝石と比べると透明度がなくて、キラキラしてないですし、汚れみたいな模様が入っていたりするのが嫌で。でも、大人になった今、汚れや傷も生き様を表すものであり、それが人からも見えることにロマンを感じるようになりました。そして、これまで私が「スクラップアート」や「glow」で歌ってきたこととも、すごく繋がるものがあるなと思ったんです。見た目や形の華やかさだけではなくて、わかる人にはわかる良さがある。それが我々チームいのりの強みだとするなら、ターコイズはまさしく私たちを導く“旅のお守り”に感じられたので、今回はターコイズをタイトルにしました。
――そのお話を聞くと、確かに水瀬さんの今までの軌跡を象徴した言葉のように感じます。
水瀬 そうなんです。そこからターコイズが大好きになって、自分でも指輪を買いましたし、撮影でも実際にターコイズのイヤリングや指輪を付けています。私はあまりパワーストーンを持つタイプではないのですが、自分を奮い立たせてくれるというか、1人ではないことを感じさせてくれるアイテムとして、すごく愛着が湧くようになって。色が私と縁の深いブルーということを含めて、少し運命を感じました。
――しかも今回の『Turquoise』は、水瀬さんの10年の音楽活動で特に関わりの深いクリエイターの方々が、10周年を祝した楽曲を書き下ろしています。正直、クレジットを見ただけで胸が熱くなりました。
水瀬 ありがとうございます!これは私の発案というよりも、プロデューサーさんが「この10年頑張ってきた証として、これまで縁のある方たちに新曲をお願いしたい」ということを前々から話していて、私もすごく素敵だなと思っていたので、実現していただきました。自分の中ではまだまだお願いしたい作家さんがたくさんいる中で、今回は7組のクリエイターさんたちにお声がけさせていただいて、こちらからは“10周年を祝う曲”ということ以外、特に何もお伝えせず、好きなように作っていただきました。私自身、どんな楽曲が届くのかワクワクしながら待っていました。
――でも、7曲それぞれ曲調がしっかりとバラけていて、様々な色を楽しめる作品になっていますね。
水瀬 作家さんによっては「バラードを作っている人はいますか?」みたいに他の方の動向をリサーチする方もいれば、逆に何も言わず黙々と完成させる方もいて、すごく面白かったです。中でもリード曲の「夢のつづき」を書いてくださった(渡部)チェルさんは、自分が指名された意味みたいなものを汲み取るのがものすごく早くて。デモを聴いたら「夢のつぼみ」の続きを彷彿させる楽曲になっていて、「うわ、すごい!察しが良すぎる!」と思いました。もしかしたら「夢のつぼみ」を書いた時から考えてくださっていたのかな?と思うくらい。
――そのリード曲「夢のつづき」は、水瀬さんのデビュー曲「夢のつぼみ」と同じ作家陣が制作したもので、作曲・編曲は渡部チェルさん、作詞には絵伊子さんだけでなく水瀬さん自身も参加しています。
水瀬 これもプロデューサーさんから、今回、作詞をするなら「夢のつぼみ」の時の自分の気持ちも乗せられる等身大の曲がいいのではないか、とご提案いただいて、私もこの曲で歌詞を書くことになりました。ただ、「夢のつぼみ」にある“まだまだまだ”のくだりはそのまま使っているので歌詞を変えたくなかったですし、「夢のつぼみ」を引用したフレーズもいっぱい盛り込みたかったので、ぜひ絵伊子さんと共作したいとお願いして。私がサビのメロディに言葉をハメるのに苦戦したこともあって、まず絵伊子さん視点で歌詞をすべて書いていただいたうえで、それを元に私が自分らしい言葉に変換したり、フレーズの場所を入れ替えて自分で新しく書き足したりして、お互いの言葉をミックスさせながら完成した歌詞になります。
――歌い出しが「夢のつぼみ」と同じ“「あのね」”で始まるところから、グッときました。
水瀬 私、それをめちゃくちゃやりたかったんです!絶対に“「あのね」”で始めようと思っていて。それと絵伊子さんとチェルさんと言えば1stアルバムのリード曲「春空」も欠かせないので、それをイメージさせる言葉も入れようと決めていました。自分の中で「“つぼみ”から“春”を経て花が咲く」というストーリーが浮かんでいたので、それを上手く言葉にしようと思って出来たのが“夢のつづきは春の空へ”という歌詞でした。この曲は、私が「夢のつぼみ」を歌っていた当時に何となく感じていた気負いのようなものを、「大丈夫だよ」「今は楽しいよ」と肯定してあげられるような歌詞にしたくて。当時の私は“夢”というフレーズを大きく捉えすぎていて、何かを背負っているような重さを感じていたんです。でも、夢に囚われすぎなくてもいいし、今ある幸せや見ている景色がそのまま夢になってもいい。遠くのものばかりを見なくてもいいんだよ、ということを伝える曲でもあります。
――10年活動を続けてきた今の自分から、デビュー当時の自分へのメッセージソングでもあるわけですね。
水瀬 それとサビの歌詞に“あの日の空に似合う笑顔は”というフレーズがあるのですが、それは1stシングルの「夢のつぼみ」のカップリング曲「あの日の空へ」と「笑顔が似合う日」をイメージして書きました。その子たちも含めた3曲まとめて10歳なので、「夢のつぼみ」だけを祝うのはちょっと切ないなと思って(笑)。“しあわせ うたうよ!”という歌詞も、私が初めて自分で作詞した「Catch the Rainbow!」の時に、自分が歌を歌ううえでこうありたいと思って書いた歌詞(“ずっと しあわせを 歌おう”)とリンクさせていて。この10年の活動に繋がる色んな想いを詰め込みました。
――レコーディングではどんな気持ちで歌ったのでしょうか。過去の自分に向けたのか、あるいはこの10年で出会ってきた人への感謝の気持ちも強かったと思うのですが。
水瀬 もちろんそういう気持ちもありましたし、レコーディングしながら思い浮かんできたのは、結構バンドメンバーのことが多かったかもしれないです。「夢のつぼみ」をレコーディングした当時は1stライブもまだだったので、自分にバックバンドができるなんて想像もしていなくて、とにかく自分と対峙しながら歌っていたんです。レコーディングスタジオという物理的に閉鎖的な空間で、さらに閉鎖的なマインドで歌っていて(苦笑)。
――その頃は本当に“ひとり”という想いが強かったんですね。
水瀬 そうなんです。ソロ活動だったので、そうあるべきだと思い込んでしまっていて。でも今の自分は、この曲をバンドメンバーと目を合わせながら歌うんだろうな、というのが想像できるし、ファンの皆さんも一緒にライブを楽しんでくれている絵が見えるので、そこは「夢のつぼみ」の時には感じ取れなかった1つの象徴だと思います。スケールの大きな世界を見つめながら歌う。そういうことを知らず知らずのうちにできるようになっていたので、すごく新感覚という気持ちがあって。ただ、この10年で変わったことをなぞるだけではなくて、「夢のつぼみ」の時に感じていたことや迷っていた自分がいるからこそ今の自分がいるので、歌詞にもある通り、“遠回りも回り道も 嫌いじゃないの 糧になると知ってるから”というのが、自分のアーティストとしての歩みを表す言葉でもあると思います。
――ここからは他の収録曲についても、1曲ずつ詳しくお聞かせください。本作の幕開けを飾る前奏曲「Calling Blue(overture)」と、それに繋がる表題曲「Turquoise」は、ベスト盤収録のシングル曲「スクラップアート」をはじめ数々の楽曲を提供してきた栁舘周平さんが制作しています。
水瀬 今回の『Turquoise』というテーマは、皆さんに楽曲制作をお願いした後に決めたのですが、であればタイトル曲もあったほうがいいよね、という話になり、その時に色んなタイミングがあって、まだ制作に着手していなかった栁舘さんにお願いすることになりました。きっと彼としては荷が重い部分もあったと思うのですが、YD(栁舘)いわく、この曲では初めて私視点の歌詞に挑戦したそうです。ただ、私らしさを表す言葉のピースが足りない現象に陥ってしまったみたいで、私が歌う時に意識していることや、どんなアーティストでいたいかという気持ち、ヒントになるような言葉を、プロデューサーさん経由で伝えさせてもらって。他にも南フランスで撮った私の今までの活動を振り返る特典映像のインタビュー内容も共有したのですが、10周年の特設サイトに載せた私の直筆コメントがすごくヒントになったようで、そこからはすごく早かったです。
――実際に楽曲を受け取って、水瀬さん的にはどう感じましたか?
水瀬 すごく私だなと思いました。実際に私が特設サイトに寄せたコメントを引用してくれていたりして、“さぁ、また今日をはじめよう”や“「楽しい」と「好き」が呼ぶ方へ”は、ほぼそのまま使ってくれています。他にも“仲間も増えたね”は私がよく書きそうなフレーズですし、きっと私の語彙をすごく研究してくれたんだろうなと思って、「ありがとう!」という気持ちになりました。
――サビで何度もリフレインする“今この瞬間を歌う”というフレーズも、水瀬さん的に自分らしさを感じるポイントですか?
水瀬 はい。私は未来の話をするのが苦手で、活動を始めた当初から「将来どんなアーティストになりたいですか?」みたいなことを質問されると、いつも今に精一杯なので「特にないです」と答えてしまうことが度々あって(苦笑)。“未来を考える”という行動自体に寂しさを感じてしまって、やがて来る未来に思いを馳せるよりは、今できることや今したいことをみんなで話した方が楽しいと感じるタイプなんです。今この場所にいる意味とか、今を一緒に生きていることに心を震わされることが多いので、その意味で“今この瞬間を歌う”というフレーズはまさに私らしいですし、今まで発信し続けてきたことに通じるのかなと思います。
――ベスト盤収録曲で言うと「僕らは今」などもそういったメッセージが強く込められていますものね。それと「Turquoise」は、チャント的なコーラス部分を含めて、みんなで歌えるアンセムソングのような趣きがあります。
水瀬 今回のコーラスは全部自分の声で録っていて、オクターブ下の音から少年っぽい声まで、色んなキャラクターを乗せながら人数感を出せるように歌っているので、ライブではぜひみんなで一緒にたくさん歌ってほしいです。
――そこから「夢のつづき」を挿み、4曲目の「まだ、言わないで。」は、シングル表題曲「ココロソマリ」「Starlight Museum」などを手がけてきた櫻澤ヒカルさんが作詞・作曲・編曲を担当。ドラムンベース調の煌びやかなアップナンバーに仕上がっています。
水瀬 すごくスペーシーでリズミカルな感じですけど、そこに甘酸っぱさというか、少しの切なさが入っているところが、櫻澤さんの光る個性なのかなと感じていて。歌詞は恋愛的な内容にも見えますけど、人と人の巡り合わせの奇跡と言いますか、大きなテーマとしての愛みたいなものが見えるなかで、“まだ、言わないで。”という言葉で余白を持たせているのが、重たくなりすぎない引き際をすごく感じられて、逆に追いかけたくなるような1曲になっています。ロマンチックな雰囲気もありながら、でもそこには流れている時間が確かにある。唯一無二な楽曲になっていると思います。
――今作は水瀬さん視点で書かれた歌詞が多い印象のなかで、この曲は割と物語的な作風なのかなと感じました。
水瀬 櫻澤さん自身もこの曲を書いて提出した時に、さすがに攻めすぎなのでボツになるかなと思っていたらしいのですが、そのままOKになってご本人も驚かれていたみたいです。でも、この“まだ、言わないで。”や“このままでいさせて。”というフレーズは、もしもの未来を感じさせるもので、それを私が歌うことで「もしかしたら来年はもう会えないのかな」という寂しさを感じさせつつ、「Turquoise」で歌っているような「だからこそ今を大切にしよう」という気持ちにも通じる部分があるので、私の中では「こういう気持ちもわかるな」と思いながら歌いました。
――なるほど。こういったクラブミュージック調のサウンドも、これまで「クリスタライズ」や「Future Seeker」などで表現してきたので、10年の歩みに繋がる部分がありますよね。
水瀬 キラッとするフレーズがたくさん入っていて、個人的にはスルメ曲と言いますか、ライブが楽しみになる1曲でもあります。
――ありがとうございます。続いての楽曲「アニバーサリー」は、これまで「Happy Birthday」や「思い出のカケラ」「ソライロ」などを手がけてきた遠藤直弥さんの提供曲。水瀬さん好みのミディアムバラードでご一緒してきた方です。
水瀬 本当にハートフルで穏やかな王道の楽曲を作ってくださる方で、「Happy Birthday」もそうですし、5周年シングル「Starlight Museum」のカップリング曲「思い出のカケラ」のように、お祝いのタイミングで必ず関わってくださっている作家さんなので、今回もお願いさせていただきました。遠藤さんは私のライブのオープニングムービーの作曲もしてくださっていて、実は「アニバーサリー」のBメロのピアノのフレーズが、1stライブ“Inori Minase 1st LIVE Ready Steady Go!”のオープニング楽曲を引用したものなんです。
――えっ!それは気づきませんでした。
水瀬 他にもアレンジの部分で言うと、「Happy Birthday」は2番から楽器隊が小気味良くビートを乗せてくるのですが、それを踏襲して、「アニバーサリー」も2番以降ちょっと小気味良い感じになっているのが通じる部分だと思います。歌詞の内容を含めて、本当に真っ直ぐで、だからこそ胸を打つアニバーサリーソングにしていただけたなと思いますし、遠藤さんの人柄と温かさが惜しみなくこの曲に載っていると思います。
――水瀬さんの歌い口も、どこか切なさがある中にも明るく希望を感じさせるものです。
水瀬 ありがとうございます。でも、この曲、聴いた印象以上に歌うのが難しくて、特にサビの階段調で上がっていくメロディが、「これはどこまで上がっていくんだろう?」みたいな感じになりながら、頑張って歌いました(笑)。
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