麻倉もものニューシングル「めいきゅーらぶみー」は、岸田勇気や浅野尚志らSNSミュージックの最前線を担うコンポーザーを起用した意欲作。“かわいい”への原点回帰や、それでいて今の麻倉ももだからこそできるナチュラルな表現についてなど本作について話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)
――15thシングル「めいきゅーらぶみー」がリリースされます。今回の新譜のコンセプトや、制作時のエピソードについてお聞かせください。
麻倉もも シングルを作ることが決まった時に私自身の中に「こういう方向性をやってみたいな」というのが既にあったので、それを提案させていただいたのが始まりです。「それいいね!」と結構すんなりとコンセプトが決まりました。フワフワしたサウンドにウィスパーボイスで、ファンシーな方向性で……色々と音楽を聴いていくなかで「次はこういうのをやりたいな」が固まってはいたんです。前のアルバム(4thアルバム『ChouChou』)の制作時くらいから温めていたアイデアをお伝えしました。
――『ChouChou』のインタビューで「最近は音楽の聴き方が変わってきた」と伺ったのですが、「自分でやってみたい方向性をSNSで探しながら聴くようになった」とお話ししていたそのくらいの時期ですかね?
麻倉 まさにその頃ですね。自分が好きなものってこういう音楽なんだって、1曲1曲立ち止まって調べながらやりたい方向性を探すようになったんです。それで少しずつやりたいことや好きなものを説明できるようになってきて、ご提案したらイメージにぴったりな作家さん(作詞:園田健太郎/作曲・編曲:岸田勇気)にお願いしてもらうことができました。
――どのようなリクエストがあったんでしょうか?
麻倉 サウンドにファンタジー要素があって、ウィスパーボイスの印象的なフレーズがあって。私も今までにウィスパーボイスの曲は何曲か作らせてもらっていて、1つ自分の強みなのかなと思っているので、私に落とし込んだら面白そうだなというのがあったんです。
――自分に落とし込んだらどうなるかも想像しながら音楽を聴くようになったんですね。
麻倉 そうですね。曲を好きになるのが先か、自分に落とし込むとどうなるかを想像するのが先か、どちらが先かはちょっとわからないですけど。でも自分がいいなと思う曲と自分でやってみたいなと思う曲はそこまでかけ離れていないです。
――温めていた楽曲のアイデアをこのタイミングで提案したのはどのような心境で?
麻倉 私の中で勝手に夏っぽいイメージがあったので、7月のリリースにちょうどいいなと。
――リクエストをしたうえで上がってきた楽曲の第一印象をお聞かせください。
麻倉 最初のデモの段階でほぼほぼ完成系の「めいきゅーらぶみー」になっていたので、すぐに私も「いいね!」となって今回は本当にスムーズでした。自分のやりたいこととチームで共有していたこと、みんなで向いている方向が明確だったので「まさにこういうことがやりたかった!」という感じですね。
――スムーズであることが印象的ということは、普段はそうではないことも多いんですか?
麻倉 楽曲によってはメロディの段階でも歌詞の段階でも「ここをもっとこうしたい」が私から出ることは結構多いです。だから珍しいんじゃないかな、ここまで何もリクエストを追加しなかったのは。歌詞もほとんど出来上がった状態だったんですけど、それも変更なく。来たそのままを歌わせてもらいました。
――発注の時点でこういう歌詞の世界観を歌いたいというリクエストはあったんでしょうか。
麻倉 あ、それはありました。デモを聴いて「ちょっと迷っている、フワフワしたりモヤモヤしている」みたいなイメージがあったので、「お互い好きなんだけど相手が何を考えているのかわからない乙女心」を書いてほしいみたいなリクエストをしました。
――女の子が惑わす側、小悪魔的に描くこともできそうなサウンドですが、戸惑う側の主人公になっていますね。
麻倉 そうですね。確かにそのパターンも合いそうなんですけど、サビはキャッチーで可愛くてどちらかというとキラキラ純粋な感じがしたんですよ。だから私の中で惑わされる側が似合うなと。あと最近はちょっと、私闇落ちしてたので……(笑)。
――えっ!?
麻倉 あっ、あっ、あっ、違うんです。楽曲たちが!最近のシングルがです!私じゃないです(笑)。「LIBRA」とか「フラガリア×アナナッサ」とかダーク路線が多かったので、ちょっと初心に戻るというか。女の子の一生懸命さやキラキラをシングルの表題曲で歌いたいなというのがあって、こういう内容の歌詞にしてもらいました。イメージを伝えるのにも迷いはなく、そこもすんなり共有できたと思います。
――イメージ通りに完成した楽曲とのことですが、歌のレコーディングはいかがでしたか?
麻倉 どのくらいウィスパーにするのか、どのくらいはっちゃけるかのバランスが難しい曲でしたね。サビの前の「Can’t stop Can’t stop fall in love!!」とかセリフっぽい部分もあったりして、でも意外とAメロは淡々と歌ったほうがいいのかなとか。いつもは家で練習する時点である程度歌い方を固めて持っていくんですけど、今回の「めいきゅーらぶみー」は現場で作ろうと思ってあまり固めずに臨んだ記憶があります。現場のチームのみなさんとも「これってどこに落とし込むのがいいんだろうね」というところから始まって。サビ前のセリフ部分も何テイクか試して一番ハマりのいいテンション感を探したり、AメロBメロも何回も録って固めていきました。
――想像上の“麻倉もも楽曲”はもっとラブリーに振っていてもいいのに、「めいきゅーらぶみー」はどこか歌のトーンがナチュラル寄りですよね。そんなにやりにいっていないというか。
麻倉 そうですね。もっとかわいく振り切れそうなところもあるなとは思ったんですけど、もうちょっと大人っぽい要素を入れたいという方向になっていきましたね。声を作らずに、自然体でウィスパーボイスを出したほうが私らしさとか良い音の響きが出るんじゃないかって。そうやってナチュラルに寄った気がします。
――麻倉さんが元々持っている声質をベースに考えていくということですかね。
麻倉 はい。地の声の良い部分を出そうという方向ですね。
――麻倉さんもチーム全体も今その方向を向いているんですかね。デビュー当時ならもっと色々な調味料を足すことができそうな曲だなと。いくらでも“かわいい”の成分を増やせそうと言いますか。
麻倉 確かにそうですね。その辺りのバランス感覚についてはチームの皆さんともよく話します。キャラクターの声っぽくならない方が声優としてのキャラソンとも差別化できますし。もちろん全部が自分の声ではあるんですけど、ソロだからこその声の響きや楽曲を選びたいなと思うんです。ここの味付けを濃くしたらキャラクターに寄っちゃうなとか、気をつけるようにはしています。
――ご本人的に、せっかくかわいい曲だから過剰にやりにいきたくなったりはしないんですか?
麻倉 楽曲によっては全然やりますよ!今回のカップリングの「Lemon Candy」は結構やりにいった感じはありますし(笑)。でも「めいきゅーらぶみー」はもっと“麻倉ももを出せる楽曲”なのかなと思って。私の地の声の良い部分を押し出そうというのが大きかったですね。
――15枚目のシングルにして、今は無添加の麻倉ももをお届けしようというモードなんですね。
麻倉 確かにそうですね……オーガニック(笑)。昔のほうがコテコテにやっていた気がしますし。もちろん意図してそうしていた部分もあるんですけど、力を抜くことができるようになってきたのかもしれません。歌をうたう上で意外と難しくて。気持ちとか声とか、頑張ろうとすればするほど気合いも力も入ってしまうし。新人の頃は割とそういう部分が強かったのかなって、昔の楽曲を聴いていると自分でも思います。最近はいい意味で肩の力が抜けているというか、冷静な部分が自分の中で昔より大きくなって歌えている感じ。考えながら自分の良いところを探るような、そういう技術が上がってきたんじゃないかなと思えています。
――冷静であることと、素の自分は近いところにあるんでしょうか?味付けを減らすことができるようになったのか、素材の味を重視するようになったのか。
麻倉 あー、それで言うと冷静な自分によって味付けを減らすことに成功したっていう感じです。減らせるようになったことで、自分本来の声質の良いところを出せるようになったみたいな順序ですかね。
――なるほど。楽曲のラブリー感に対して声はナチュラル寄りで、でも歌っている麻倉さんという人格には音楽を通して辿り着けない感覚があるんですよ。
麻倉 そうですね、楽曲から自分の素みたいなものは見えないかも。そもそも曲の作りがまず“自分のことじゃない”というのもあるんですけど。自分の好きな世界観がメインなので、私がどういう人でどんなことを考えているのかにはそもそも辿り着けない仕組み、というような方向性でやらせてもらってますね。好きな傾向はわかると思うんですけど、自分のことを歌うことはほぼないので。その曲の、その子の物語を歌うのが私の音楽活動なんですよね。
――自分が何を考えているか伝える音楽をやってみたいとは思ったことはないんですか?
麻倉 そうですね、今までに思ったことは……ない(笑)。というのも、正直自分がどういう人間かを自分もよくわかっていないんですよ。はっきり何かに対して、そこまでの主張がないんです。ないということがもうわかっているというか。何かを歌詞にする時って、きっと自分の想いとか強く考えていることとかがあるじゃないですか。それがないからやらないし、できない。
――でもここまで恋の歌を歌い続けられるほどに“好きなもの”はあるのが麻倉さんなのかもしれませんね。こういう世界を歌いたいとか、これをかわいいと思うとか。
麻倉 そうですね、それはたくさんあります。でも自分の気持ちを歌詞にしてみて、とか言われると「はて?」って悩んじゃうかもしれません。
――過去のインタビューで、曲に対して「主人公はこんな子」というような設定付けを行うと伺いました。「めいきゅーらぶみー」の主人公はどんな女の子なんでしょうか?
麻倉 いつも年齢設定を考えるんですけど、今回はそんなに大人っぽい感じじゃないなという印象を受けて。中学生くらいで、好きな人がいてキャッキャしている、10代特有のあの世代のキラキラ感がほしいなと。恋というのがこの子の人生の大きな部分を占めているような、初恋が実ってウキウキしている、そんな女の子ですね。
――この曲は主人公の女の子もですが、気持ちが見えない相手の男の子のディテールも大事じゃないですか。こちらも考えたりするんですか?
麻倉 そうですね。相手も同じ世代だから、お互い口下手で気持ちを上手に伝えられてない感じ。想いあってるけど言葉足らずで上手くいっていないみたいな。女の子側も初めてで浮かれてしまって、求めすぎちゃうから思ったリアクションが返ってこない。相手もそっけないとか好きじゃないとかじゃないんですよ。好きなんだけど上手く気持ちを伝えられなくてすれ違ってる、みたいな想像はしていましたね。
――特に気をつけて表現した部分や、注目ポイントなどがあればお聞かせください。
麻倉 自分の声質の強みを押し出して歌おうと決めてレコーディングしたこともあって、ウィスパーボイスだったり、AメロBメロも自分の得意な声の出し方ができていると思うんです。Bメロ最初の「あぁ」とか、いつもだったらしっかり声を出すところを話すようなトーンで歌っていたり。細かいところで今までと違う歌い方の工夫が散りばめられているので、意識して聴いてみてもらえたら嬉しいです。
――ご本人的にお気に入りの歌詞などはあるんでしょうか?
麻倉 2Bの後、長い間奏に入る前の「あ~あ…」ですかね。歌詞とかじゃなくて申し訳ないんですけど(笑)。セリフっぽくも歌っぽくもアプローチできるので色々試せて楽しかったし、ここからちょっと迷宮に迷い込んでいくみたいなサウンドになっていたり、この子のモヤモヤした気持ちが表されていていいなと思いました。
――楽曲を聴いた時点で色やアートワークのイメージが浮かぶことがあると以前お聞きしました。今回の「めーきゅーらぶみー」のジャケットやMVについてはいかがでしたか?
麻倉 楽曲を聴いた時点で私の中で「パステルで色とりどり」というのが思い浮かんでました。今回は「迷宮(めいきゅー)」ということで色んな扉を作ってくださって、そこに迷い込んでいく世界観になっているんですけど、最初に提示してもらったのが結構暗めの色のドアだったんですよ。黒い世界の中に濃いめの色の扉がたくさんある、みたいな。……でも、「今回はパステルです」って(笑)。
――はっきり言うんですね(笑)。
麻倉 はい(笑)。扉のアイデアは活かしてパステルに落とし込もうという方向になりました。暗めなのも面白そうとは思うんですけどね、でもやっぱり自分の中で固まっているイメージが毎回結構あるので。改めてパステルバージョンで図を出していただいた時に「やっぱりこれだ!」となりました。
――カラフルの中にもパステルとビビッドがあったりしますが、最初から色調まで見えているんでしょうか。
麻倉 そうですね。最初はもっとふわっとした淡い色のイメージだったんですけど、できあがったものはそこまで薄くないですよね。作っていくなかで「濃いのは違うけど淡すぎなくてよさそう」と変化していった感じです。
――色味以外でモチーフやテーマのリクエストはありましたか?
麻倉 もう1つ本当はやりたかったことがあって、最初のイメージでは迷路に迷い込みたかったんですよ。でもそれを実現するのがちょっと難しそうで、「不思議の国のアリス」的なモチーフだったのでその名残で鍵を持っているんです。元々やりたかった迷路のイメージを扉のパターンに組み込めるんじゃないかと思って、「鍵持ちたいです」とお伝えしました(笑)。2つの案のいいとこ取りをして今のアートワークになっています。
SHARE