【エッセイ連載】「伊藤美来のmoi!」第14回：成功体験

声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。

「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。

私が運転免許を取得したのは約1年前。春頃からライブツアー期間中にかけて教習所に通った。我ながら不思議なタイミングだったと思う。そもそも学生の頃から車を運転することに憧れがあった。周りの子は高校を卒業してすぐ教習所に通ったり合宿に行ったりしていたが、私は運転したいという気持ちはあったものの仕事や大学に時間を使うことを選んでいた。そもそも当時の私に教習所まで両立するのは無理。そしてタイミングを完全に逃し数年経って、モチベーションもなくなり運転免許を取ることはもう諦めていた。「一生後部座席に乗せてもらう人生だろうな」と思っていたのだが、これまた私のやる気スイッチは変なところから急に来るもので。25歳を過ぎて数年経ち、「このままじゃいけない！お仕事以外にも何か勉強したりスキルを身につけないと」と思い始めた。

何かをスタートするのにぴったりな2024年の年明け、改めて考えてみた。今後の人生に役立つもので必要になってくるもの……やっぱり英語だ！英語を勉強しよう！と毎年恒例の目標を掲げた。今年こそはと思い、その気持ちのまま本屋に足を運んだ。調べてお薦めに出てきた単語帳とテキスト、そして買うのは大学ぶりのノートを片手にウキウキで帰り、丁寧に時間をかけて勉強を始めた。……二週間後、単語帳を開くことはなかった。わかっていた。とにかく英語への苦手意識が強いし、何より三日坊主であること。わかっていたのに。27歳にもなって、自分でやりたいと決めたことを守れないなんて……数年前に英語の勉強にチャレンジして挫折した時より、今回のほうが断然メンタルにきた。でもさ仕事もさ忙しかったしさ…今までと同じように言い聞かせようとした。いや、今までも色んなことを仕事や学校を言い訳にやってこなかったじゃないか！それって何のせいでもなく、私の気持ちの弱さじゃん。デビューして数年は自分のプライベートの時間が仕事に影響したり、他のことに時間を使うと仕事に真面目じゃないみたい映るのではないかと勝手に妄想して、新しいことを始めることに億劫だった。でも、自分で自分の時間作って色々挑戦しないと、死ぬ時に絶対後悔する……なんなら今ですら「学生時代もっとこうしとけば良かった」があるくらいだ。そんな口だけの自分を変えたい。あなただってやればできるよって自分に見せてあげたい。そうだ、自分に成功体験をあげよう。英語じゃなくていい、自分のモチベーションが保てて、終わりがあるもの。一番苦手でゴールが見えない英語を持ってきたのが良くなかったんだ。資格は取るのが明確な目標になるからいいかもしれない。そこで思い出した、20歳の時に運転免許を取得したかったことを。短期間で（自分の頑張りによるけど）努力が最終的に運転免許証として形に残る、しかも20歳の時の夢。これしかないと思った。

すぐに教習所を調べ、家から一番行きやすそうな場所を見つけた。ここでいいかと資料請求のところをクリックしようとして、手が止まった。教習所なんて今後行くかわからないし、せっかく取るなら……と欲が出た。今思い出すとなぜそんなことをしたんだと思うが、私はあえて、まったく知らない少し離れた土地の学校に行くことを決めた。当時は、場所が新鮮だと行くのも楽しくなるし、その土地に思い出もできてハッピー！と考えた。これが後に私を苦しめることになったのは言うまでもない。初めての地、初めての教習所、初めて聞く授業。やはり私は、初めての経験に胸が高鳴る習性があるようだ。春休みシーズンだったこともあり周りは若い学生が多かったがそんなのは気にならなかった。久しぶりの教科書もテスト勉強も懐かしくて、やる気満々にいつも前のほうの席に座って授業を聞いた。この意欲が学生の頃にもあったら良かったのに。実習も欠席することは一度もなく、コマを落とすこともなく最終試験までいった。そして、なんだかんだ、本当になんだかんだあったのだが、ツアーが終わり日差しが強くなってきた頃、私は無事に運転免許を取得した。この「なんだかんだ」については、また詳しくこの連載で綴らせてほしい。

自分のことを信用できなくて、「どうせまた挫折するんでしょ」とずっと自分に期待できなかった。そんな自分が苦手だった。でもこの運転免許の取得が、私が私を認める一歩をくれたような気がして、やっぱり挑戦して良かったと思えた。さてここで話は戻り、この成功体験を経て、肝心の英語勉強はどうなったかというと……何も進んでいない。そうです、皆さまの想像どおり。運転免許を取って、「いっぱい勉強したからちょっと休もうー」となってから、私はいまだに休憩中。もはや英語はまた一旦置いておいて、別の趣味や資格勉強に手をだそうかと考えていたりする。英語さん、もう少しお待ちくださいね、きっとまた年明けにあなたのこと思い出しますから。

▼前回の英語勉強19ページ③。悲しいくらい覚えていない。