TVアニメ『mono』の音楽を担当する百石 元は、TVアニメ『GJ部』、アニメ『けいおん!』シリーズ、TVアニメ『NEW GAME!』シリーズなどの劇判を手掛けてきた作・編曲家だ。景色の美しさが際立つシーンではそれに寄り添った音楽が、コミカルなシーンではユニークな音楽が流れ、物語を彩るTVアニメ『mono』。その音楽はどのように作られていったのかを聞いた。なお、本作のサウンドトラックはBlu-rayに同梱されるので、そちらも楽しみにしていてほしい。
INTERVIEW & TEXT BY 塚越淳一
▼TVアニメ『mono』キャストインタビュー
▼TVアニメ『mono』愛敬亮太監督インタビュー
TVアニメ『mono』アニメーションプロデューサー藤田規聖×アニプレックスのプロデューサー田中 瑛対談
――TVアニメ『mono』の音楽として最初はどのようなものをイメージしていましたか?
百石 元 本作のお話をいただいた時は、私が所属する株式会社F.M.Fの同僚であるyamazoが携わっていたアニメ『ヤマノススメ』シリーズのような、アコースティックな音楽でまとめていくイメージを持っていたんです。ただ、打ち合わせでは「デジタルとアナログのミックスにしたい」というコンセプトをいただきまして、その“デジタル”という部分が頭に強く残っていたんですね。僕の中では打ち込み的な部分を入れてバリエーションを広くしたいという意味で捉えていたんですけど、その意識でメインテーマを書いて提出したところ、僕が勘違いしていたことに気付いたんです。
――それはどういった勘違いだったのでしょう?
百石 僕がその時提出したメインテーマは8bitのピコピコサウンドでイントロが始まり、そこから女子高生が騒いでいるようなイメージで作ったのですが、TVアニメ『mono』は色んなところに出かけるというのがストーリーのメインなのに対し、音楽がインドアになり過ぎてしまったんですね。それが少し違うということだったのでもう一度考え、「アウトドアなんだ」ということを意識して書き直し、そこから劇伴作業が進んでいきました。
――バランスの問題なのでしょうけれど、言葉でやり取りするので、どんな音楽を臨んでいるのかを正確に受け取るのは難しそうです。最初に提出したメインテーマは、方向性が間違えていないかを確認するため「まずは書いてみて聴いてもらう」という意識だったのでしょうか?
百石 いや、僕は常に思い切り作って提出するタイプなんです。なので間違えていたら「ガチョーン」となり、その後でリトライします(笑)。今作のために作った曲に対しては、愛敬亮太監督から「ここはもっと生っぽくしてください」というリクエストを多くいただきました。例えば僕の中で打ち込みで完結している曲も「これを生で録ってほしい」というリクエストがあったりして。僕は結構、曲を計算して作るタイプなので、後から音を生に差し替えると計算が狂ってきて、当初イメージしたものとは違ってくるんです。ただこれは悪い意味で言っているのでは全然なく、僕らは監督が求めるものに近づけようとしてやっているので、作った曲をリテイクするかは、あくまで監督や制作スタッフが決めることなんです。
――それだけアナログというか、楽器の生のサウンドが欲しかったということなんでしょうね。
百石 監督さんのリテイクを振り返ると「もっと暴れてほしい」というキーワードが多かったんです。だから打ち込みでは表現できない、生っぽい感じが欲しかったんだと思います。自然などの背景が際立つシーンをより音楽で盛り上げるために暴れることを求められていたんでしょう。
――劇伴の作業をするうえで、監督が求めているものを探り、理解していくことが大事になるんですね。
百石 それはすごく大事なことだと思います。TVアニメの場合、音楽を作っている段階で映像は完成していていないわけですから、監督が描いているビジョンに近づけていくことが必要になるんです。作った曲にOKが出たらその後は音響監督さんが音を編集して映像に合わせてくれる。曲を編集して、このカットにサビがくるようにして盛り上げるとかそういう作業もあるので、使い勝手の良さも考えたりします。
――完成した音楽を映像に当てていくので、割と細かく切り貼りをしたり、ある楽器の音だけを使ったりしますからね。実際にアニメを観たら「このシーンで使っているんだ!」という驚きもありそうですね。
百石 (取材を行ったの時点で)放送されている#6まで観ていますけど、すごく上手に音楽を使ってくれていますね。例えば#1「monoの旅」の冒頭で本作のメインテーマ(M1)が流れていたシーンは編集がすごく上手いなと思いました。あと#2「メイキング・オブ・空撮!!」の冒頭、絵が江戸時代みたいになるシーンで流れていたコメディシーン用の曲(「ドン引き」)は、「とにかく展開を多く作ってください」と要望をいただいたため、90秒の曲の中でテンポを変えたり、ちんどん屋っぽい感じにしたりしていたんですけど、それをパズルのように当てはめてくれていて、監督さんはこういう音楽を求めていたんだなとわかりました。曲を提出した後、僕ら作家も皆さんと同じお客さんとしてアニメを観ているので、すごいな!と感心しています。
――メインテーマは映像にバチッとハマっていたと思いましたが、あれは編集の上手さもあったのですね。ちなみにこの曲に対して他にどんなオーダーがあったのでしょうか?
百石 まずこの曲を聴いたらTVアニメ『mono』だとわかるようなものにしてほしいというリクエストがありました。そこで僕のほうでこだわったのがメロディです。楽器もアウトドアな印象にするためアコースティックギターが入る感じにしようと思いました。また「暴れる感じ」というキーワードもありましたから、後半はロック寄りにしています。シンセサイザーも駆使していますが、それはデジタル要素として、生音とミックスしていった感じになります。
――確かに、この曲全体を聴くと途中から激しいロックになりますね。
百石 そうなんです。そこがまさに「音を生にして、暴れてほしい」とリテイクがあって作った部分なので、ベーシストには「ベースの領域を無視して、上(の音階に)にあがってほしい」と伝え、ドラマーには「もっと暴れてちょうだい」とリクエストしました(笑)。
――#1のラストで、さつきとアンが夜景を見ているシーンで流れているピアノがメインの曲(M2)は、切ないシーンでよく使われている名曲ですね。
百石 メインテーマのメロディを抽出した変化バージョンとして提出した曲です。マニュピレーションを手伝っていただいた方がピアニストでもあったので、彼が弾いたデータを受け取り、そこにオケを加えて完成させました。ただ、この夜景のシーンではもう1曲、別の曲が流れていましたよね?
――その前のタイムラプス撮影をしているシーンで流れていたきれいな曲ですね。
百石 それは夜の撮影のために作った曲(「タイムラプス」)なんですけど、これもリテイクがあって。最初に「大人っぽい、きれいな曲にしたい」というオーダーがあったのでアンビエントに近い、少しニューエイジ・ミュージックも入ったような曲を書いたんです。ただそれだと「品が良すぎる」ということになりまして⋯⋯。「このシーンは途中でコメディ要素も入ってくるので、少し落ち着きすぎている印象です」とのことでしたので、前半淡々としたところから、撮影を終えて映像を覗き込み、そこに夜景が広がっていくところからは、僕のイメージでアレンジを加えました。
――シーンやキャラの心情にぴったり合っていて、とても感動的でした。
百石 そうでしたか。僕としては、もっと横に広がったオーケストレーションにする予定だったんです。ただ事務所の社長に、「ここからティンパニーとか、管弦楽を入れたオーケストラサウンドにしようと思っているんだ」と伝えたら「お前はいつもやりすぎるから、止めておけ」と言われまして⋯⋯(笑)。
――じんわり夜景に感動するシーンだったので、今のバランスで良かったのかもしれないですね。
百石 そういうことだと思います(笑)。
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