6月27日より全国の映画館で劇場公開されている、京都アニメーション制作の映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』。そのオープニング主題歌をTVシリーズに引き続き担当しているのが、fhánaだ。これまでの主題歌「青空のラプソディ」「愛のシュプリーム!」の流れを汲みつつ、映画で描かれるカンナ(CV:長縄まりあ)を中心とした“家族の物語”に寄り添った、華やかにしてどこか切なさを感じさせる新たなアンセム「涙のパレード」は、どのようにして生み出されたのか。作品への強い“愛”を持つメンバー3人に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回の映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』のタイアップのお話をいただいた時の感想からお聞かせください。
towana 「映画になるんだ!」という驚きがありました。2年くらい前の“京アニフェス”(2023年11月に開催された“第6回京都アニメーションファン感謝イベント KYOANI MUSIC FESTIVAL -トキメキのキセキ-”)で、京都アニメーションさんと「いつか続きをやりたいですよね」というお話をしていたんです。それが映画で実現し、しかも私たちがオープニング主題歌を担当させてもらえるということで、本当に嬉しさ100%という感じでした。
kevin mitsunaga TVアニメの1期・2期と関わらせていただいていたので、もし続編があるとしたら絶対にまたやりたいと思っていました。そもそも『メイドラゴン』自体、僕らにとってすごく思い入れの強い作品になっているので。ただ、そういうことは僕らの一存では決まらないので、もし違うアーティストの方がオープニング主題歌を担当することになっていたら、やきもちを焼いていたと思います(笑)。だからこそ楽曲を作るにあたってすごく気合いが入りましたね。
佐藤純一 ただ、お話をいただいたのが、ちょうど去年リリースしたアルバム『The Look of Life』を制作していたタイミングだったので、スケジュール的にはすごく大変で、少しお待たせしてしまったところもありました。アルバム自体の進行もかなりギリギリだったので、正直「ヤバいヤバい」みたいな状態になったのですが(苦笑)、それでも絶対にお引き受けしたかった。
――それだけfhánaにとって『小林さんちのメイドラゴン』シリーズは大切な作品というわけですね。TVアニメ1期のOP主題歌「青空のラプソディ」と2期のOP主題歌「愛のシュプリーム!」はいずれもバンドの代名詞的なナンバーに育っていますが、今回はどんなイメージで楽曲制作を進めたのでしょうか。
佐藤 今作で主に描かれるカンナと父親のエピソードは、結構シリアスな内容なので、今までのドタバタの中にも泣ける要素がある「青空のラプソディ」と「愛のシュプリーム!」とはまた違ったアプローチにすることを、最初は考えていました。そもそも「青空のラプソディ」も、2017年頃のアニソンシーンでああいうタイプの楽曲、いわば当時の星野源さんや、僕が好きな小沢健二さんのアルバム『LIFE』の時期のような、ディスコやソウルミュージックに現代的な解釈の入ったアニソンはあまりなかったので、「ここでこれをぶつけてみたら面白いことになるかも」と思って作ったら、結果、想定以上の広がりを見せてくれた。
――メンバーの皆さんがダンスするMVも含めて話題になり、ライブやアニクラでも、この楽曲ではみんなで踊るのが定番になりました。
佐藤 「愛のシュプリーム!」の時も、「青空のラプソディ」に続く楽曲として新しい何かを見せたいと考えた結果、kevinのラップをフィーチャーした新しい方向に舵を切りました。それらを踏まえての3作目ということで、何か新しいことをしたいという気持ちが取り掛かりの時点ではあったのですが、作品サイドからは「『メイドラゴン』らしい楽しい曲を作ってください」ということだったので、最終的には王道に回帰しましたね。今回は劇場作品なので、基本的にはすでに『メイドラゴン』のファンの方や、今までのfhánaの楽曲も好きだった人たちが観に来てくれる。なので、安心して「やっぱり『メイドラゴン』といえばこういう曲だよね」と思ってもらえるような、楽しい曲に落ち着きました。
kevin なので最初のデモは今とは全然違う形だったんです。最終的に今の形になったのですが、印象としては、『メイドラゴン』のほっこり日常ものかと思いきや結構ドタバタする、そのドタバタの部分がすごくよく出ている曲だなと思いました。テンポ感もそうですし、イントロの“トゥルルトゥットゥル トゥトゥ”のところが、すごくコメディっぽくていいなと。「青空のラプソディ」の“chu chu yeah!”もそうですけど、fhánaの楽曲でこういう表現は『メイドラゴン』の楽曲以外にはないので。
towana 今までの2曲はTVアニメのOPでしたけど、今回は映画のオープニングになるので、その意味で立ち位置が少し違うのかなと思いました。TVアニメの場合、約20数分の中での楽曲の占有率が高いので全体を覆うようなイメージがありましたけど、映画の場合はアニメ自体の尺が長いなかで、その最初のスタートダッシュを切るような、明るくて元気でかわいい楽曲になっていて。
――確かにカウパンクのような2ビートのノリを取り入れたリズムや、ブラスとストリングスの華やかな音色を含め、すごく高揚感がありますよね。個人的には「青空のラプソディ」の正統後継曲という印象を受けました。
kevin 音作りの部分で「青空のラプソディ」に少し寄せているところはあります。サウンドの芯となる部分はほぼ佐藤さんが作っていて、僕は装飾的な部分を担当したのですが、例えばチューブラーベルの金属的な音を入れることで「青空のラプソディ」との繋がりを感じさせるようなアレンジにしていて。あとはリズムに南国系のポコポコしたコンガやボンゴのような楽器を入れることで、ストレートなディスコサウンドとはまた違ったディスコ味を足していて。
――いわゆるサルソウル系の、フィリ―ソウルやラテンの流れを汲んだディスコですよね。
佐藤 今回は賑やかでリッチな音にしたくて、そこはkevinがいい感じの質感を出してくれたかなと思います。それとこれはtowanaが提案してくれたのですが、1サビに入る前のキラっという効果音もkevinが入れてくれたものですね。
kevin そうそう。towanaさんが「『涙のパレード』という曲名だから、どこかに涙がポロッと落ちるような音があったらいいよね」と言っていたので、そのイメージで入れてみました。
towana まさか採用されるとは思ってなくて。「言うだけならタダだしな」と思って言ってみただけだったので。
kevin めちゃめちゃいい意見でした。それと僕の中では、パレードや祝祭感を感じる音ってティンパニなんですよね。低い帯域だけどそこまで低域を支配せず、お腹にズシンと響く感じがあるし、音階もあって楽しいので、あちこちで使っています。
――そういった賑やかで厚みのあるサウンドとtowanaさんの歌がアッパーな印象を与える一方で、メロディには少し切ないフレイバーも感じられます。
佐藤 たしかに切なさや泣ける感じはあると思います。そこは自分の手癖みたいなところもあって、切なくしてしまうんですよね。
towana でも、この曲、「泣ける」と思ってもらえるかな?
佐藤 楽しいから泣ける、というのはあるかなと。「青空のラプソディ」も、今では歌詞や色々な文脈が重なって、特に2番のサビはすごく泣けるなと思ったりするのですが、楽曲を作った時はそんなに泣ける感じになるとは思っていなかったんですよね。曲が出来上がって、歌詞がついて、歌が入って、アニメのストーリーと合わせて体験した時にすごく泣けてくる。だから「涙のパレード」も、そこまで「泣ける感じにしてやろう」と思って作ったわけではなく、むしろ楽しい感じを意識していたんですけど、出来上がってみたらやっぱり少し泣けるな、と。
towana 佐藤さんは、どんな部分が泣けると思っているのかを聞きたい。メロディなのか、コード進行なのか、歌詞なのか。何かポイントがあるんですか?
佐藤 まず「涙のパレード」という曲名が泣けます。あとはやっぱり歌詞の力が大きいかな。“君を守れるなら 闇をくぐろう!”とか。
towana ここは「青空のラプソディ」と言っていることが一緒ですよね。きっと(作詞を担当した)林(英樹)さんが意図的にオマージュしていると思うんですけど、でも、少し違う。「青空のラプソディ」よりも強くなっているというか。あと、“信じて”というのがすごくキーワードになっていると思います。この曲もそうですし、映画の内容的にも“信じる”ということが大事に描かれているので。そういう意味では、今までの歴史も含めて私はこの曲で泣けるんですけど、お客さん的にはどう思ってくれるのかが気になっていて。もちろんすごく楽しい曲なので、そう受け取ってもらっても嬉しいですし、「楽しいけど泣けるよね」とか、色々な聴き方をしてもらえたらなと思います。
――自分は「楽しいけど泣ける」派ですね。ニューオーリンズのお葬式のパレードじゃないですけど、切ないからこそ明るい音楽を奏でるのと似た魅力を感じました。でも、towanaさんの歌声にも、明るさの中に切なさが入っていると常々感じているのですが。
towana どうなんでしょうね?めちゃくちゃ明るく、楽しく、かわいくしようと思って歌ったんですけど。私は常に憂いているので、それが声に出ているのかも(笑)。でも、嬉しいです。
kevin 切ないというか、儚い感じが常にありますよね。きっと横文字で言うところの「イノセント」なんだと思います、その声が。
佐藤 やっぱり唯一無二の声ですからね。近しい感じの声のボーカリストがいない。ファンの方たちからも「towanaさんの声にやられた」とか「こんな歌声の人、初めて聴いた」という声はたくさんいただくので、やっぱり声の力も大きいんだと思います。
SHARE