今年12月にアーティストデビュー10周年を迎える水瀬いのりが、自身2作目となるMV集『Inori Minase MUSIC CLIP BOX 2』を6月18日にリリースした。自身が作詞を担当した8thシングル「ココロソマリ」から、現時点での最新作となる1stハーフアルバム『heart bookmark』の収録曲「フラーグム」、「heart bookmark」まで、2020年以降に発表してきた全10曲のMVを収録した本作。様々な映像表現に取り組み、アーティストとして成長してきた彼女のこの5年間の軌跡を辿ることのできる1枚になっている。色んな表情と魅力が詰まった本作の見どころに、水瀬自身の言葉を通して迫る。
INTERVIEW TEXT BY 北野 創
――今回は6年ぶり2作目のMV集について、色々とお話を伺えればと思います。まず、水瀬さんが配達員に扮したジャケットやアーティスト写真に目を惹かれました。
水瀬いのり ありがとうございます。今回は「配達員の私が皆さんに作品をお届けする」というテーマで撮影しました。前作の『Inori Minase MUSIC CLIP BOX』は“ボックス”をテーマに、大きな箱の中に私と各楽曲のモチーフがぎっしり詰まっているデザインにしていただいて、私のそれまでのMVの歴史がひとつの箱に収まっていることをポップかつストレートに表現していたのですが、今回は2作目ということで個人的に遊び心も入れたくて、デザイナーさんが出してくださった案の中から、私自身が作業服に身を包んで、今までの作品たちを梱包して自ら届ける、というコンセプトを選ばせていただきました。あと、久しぶりにこういうボーイッシュなスタイルに挑戦してみたかったというのもあります。
――飾らない感じですが、かわいらしくて、とても似合っています。
水瀬 私もすごくしっくりきました。周りの方からよく言われたり、自分でも感じる私の魅力の1つとして“親しみやすさ”があるのかなと思っていて。もちろんライブ衣装のキラキラしたお洋服も好きなのですが、ファンの方からは「アンコールのTシャツ姿が一番かわいい」といったお便りもいただくんです。スタイリストさんは「(ライブ衣装は)作り込んでるのに、みんなわかってない!」なんて言っていましたけど(笑)、そういうあまり飾り過ぎないところに魅力を感じてくれているのかな、と思う部分があって。キャップのあり・なしで髪型も変わっていたりするので、ぜひ細かいところまで観てほしいです。
――こういう作業員風の格好は、以前にもされたことが?
水瀬 実はあまりなくて。ただ、撮影中に「Ready Steady Go!」のMVを思い出しました。あの時はオーバーオールを着て、自動車整備士のような格好をしたのですが、それもファンの方にすごく好評だったみたいで。なので、もしかしたら私は畑で農作業をするようなロケとかも似合うのかもしれない(笑)。昔はもっと垢抜けたい気持ちや、子供っぽく見られるのが嫌だった時期もあったのですが、年齢を重ねていくなかで、そういう親しみやすい部分をかわいいと言ってもらえることが嬉しくなったので、このあどけなさみたいなものは失わずにいたいな、と今回の撮影で改めて思いました。
――梱包に貼ってあるステッカーなど細かいデザインにも気が配られていますよね。
水瀬 “配達員”の案の採用が決まった時に、私から「もしできるなら、過去の収録楽曲のモチーフになるようなステッカーを段ボールに貼ってほしい」と相談したところ、この撮影のためだけに、すごく素敵なステッカーを作っていただきました。よく見ると「フラーグム」のイチゴマークがあったり、収録楽曲分のステッカーが箱に貼られているので、ぜひブックレットの中身も見ていただいて、全収録楽曲のモチーフを見つけてください。
――さて、本作には2020年リリースの8thシングル「ココロソマリ」以降に発表された全10曲のMVが収録されているわけですが、ここからは自分が提示する“一番〇〇なMV”というお題に沿って、お話をお聞かせください。まずは先ほどのお話を受けて“一番自分らしい魅力が出たMV”はどれだと思いますか?
水瀬 一番飾っていない、あまり「撮影」ということに捉われることなく、自然体な自分が出ているという意味では、「僕らは今」か「heart bookmark」ですね。特に「heart bookmark」は、現時点での最新のMVであると同時に、ある意味、メイキング映像のような、本当に素の私に近い状態の“一番自然体なMV”になっているので、これを観て私のことを「好きだな」と思ってくれたら、何より嬉しいです。
――「heart bookmark」は、フランス・パリでの撮影旅行や観光の様子がそのまま収められていますものね。
水瀬 街を散策している間、ずっとカメラを回してもらっていて、私自身もMVを撮っているというよりは、旅の記録を“ブックマーク”するような感覚でした。カメラマンさんも気心の知れた方だったので、みんなでご飯に行ったり、お出かけしたりするような、いつもの楽しいおしゃべりの延長線上で撮影が進みました。私もカメラを持っていたので、カメラマンさんとお互いに撮り合いっこしたり、かわいいお土産を見つけたら報告したりとかもして。そういう意味では、楽しい日常の中にたまたまカメラがあった、みたいな感覚でした。
――その意味では 同楽曲を収録した1stハーフアルバム『heart bookmark』のテーマとも結びつく内容です。
水瀬 ただ、決まりごととして、「heart bookmark」のテーマに合わせて、カメラが近づいてきたら何かしらハートを作る、というミッションが課せられていて。途中、観光を普通に楽しんでしまって、ハートを作る回数が減っていたみたいで、「いのりさん、忘れてますよ」と言われて「あ、しまった!」となりましたけど(笑)、そこからはより意識して、ワンパターンにならないように色んな種類のハートを頑張って作りました。いっぱい作ったので、ぜひ何個あるか数えてみてください。
――もう1曲、「僕らは今」も挙げていましたが、こちらも自然体の自分を出せた撮影だったのですか?
水瀬 はい。ただ、自然体すぎて、まだバンドメンバーに人見知りしている感じが出ているかもしれません(笑)。今でこそ皆さんとの距離感は近くなったのですが、当時はまだちょっと遠慮がちだったので、今観ると少し気恥ずかしい部分もあります。でも、それも“上手にできない自然体”で私らしいと思いますし、それが一周回ってかわいいな、と自分では思います。
――そういえば「僕らは今」の衣装は、それこそアンコール時のライブTシャツ姿のような、シンプルで飾らない魅力があります。
水瀬 そうですね。ライブができなかったコロナ禍に撮影したMVということもあって、みんなに届けたい気持ちを、物語調ではなくスタジオライブのような形で表現しよう、ということで作っていただきました。スタンドマイクを立てて歌うのも、「harmony ribbon」の時にも少しやりましたが、よりライブ空間に近い雰囲気を意識してのことでした。普段なら正面を向いて歌うところを、バンドメンバーの方を見てもいいし、手を上げて煽ってもいい。本当にライブのワンシーンを切り取ったようなMVになっているので、そこが他のMVとは全然違う部分だと思います。
――では次のお題、“一番撮影が楽しかったMV”を選ぶとすれば?
水瀬 楽しかったのは「HELLO HORIZON」ですね。富士山の見える高原で撮影したのですが、とにかく広大な自然を感じられる場所で、オフの日というか休日を楽しんでいるような気持ちで撮影できました。暑さはあったのですが、呼吸するたびにマイナスイオンが入ってくるので、むしろ回復していくような感覚で。空が広くて、大地が大きくて、広大な土地の中で両手を広げた時に、何の障壁もない感覚が「最高!」と思って、とにかく楽しかったです。休憩中もあまりロケバスの中にいたくなくて、率先して外に出て深呼吸をたくさんしていました。「都会で1年分生きるためのエネルギーをください!」みたいな(笑)。
――自然がお好きなんですね。
水瀬 大好きです。普段ビルに囲まれているからか、ないものねだりかもしれませんが、空・海・大地のようなシンプルなものに囲まれると、本当に圧倒されます。「自分ってなんて小さいんだろう」と思ったり、逆に「この道はどこまで続いているんだろう」と旅をしているような感覚になったり。
――「HELLO HORIZON」のMVは、ドローンを使ったダイナミックな映像も印象的でした。
水瀬 かっこいいですよね。早朝から撮影していたのですが、最初は曇り空スタートだったのが、後半にかけてどんどん晴れてきて、最終的には綺麗な夕日と富士山を観ることができて……本当に絵になる景色でした。夕日自体はMVには使われていないのですが、自分の目には焼き付けました(笑)。
――続いて“一番チャレンジしたMV”はいかがですか?
水瀬 これは間違いなく「アイオライト」ですね。ダンスもタキシード風のスーツというビジュアルも含めて、きっと誰もが予想していなかったと思いますし、個人的にも挑戦して良かったMVでした。
――それは具体的にどういった点で?
水瀬 映像にした時にすごくかっこよかったのと、何度も観返したくなる映像になった点です。先ほどお話しした自然体の自分とは逆に、乖離した自分、とにかくかっこ良く演じることに振り切った自分だったので、それを客観的に見て「かっこいい!」と思えたのも、自分にとって良い挑戦でした。唯一無二のものを叩き出すことができましたし、何度も観たくなる“するめMV”です(笑)。
――こういったダンスパート入りのMVは、今後も挑戦してみたい?
水瀬 やりたいです。(バックダンサーと)動きがシンクロするのがかっこいいなあと思って……まあ、私のダンスパートは“ダンス”というには少な過ぎるんですけど(笑)。「アイオライト」は特にダンサーさんがいて成立したMVだと思うんです。「ココロソマリ」などもそうですが、一人で何かを表現するにはどうしても限界があるなかで、誰かに助けてもらう良さにも改めて気付かされて。「アイオライト」はライブの演出や見せ方にもすごく力を貸してくれました。
――MVの演出がステージでの表現にも還元されているわけですね。それではお次のお題、“一番衣装がお気に入りのMV”を教えてください。
水瀬 どれも素敵なので選ぶのが難しいですけど……「glow」の夜のシーン、キャンドルに光が灯った後のエメラルドグリーンのドレスが個人的に好きです。
――ああ、幻想的な映像にマッチしたスタイルで素敵でした。
水瀬 最近は色々着るようにしていますが、当時の私はカジュアルめな服を着ていることが多くて。でも、お洋服を見ること自体は好きで、お上品な服とか、プリンセスが夜寝る時に着るようなナイトドレスにすごく憧れがあるんです。腰の高い位置でリボンが結んであって、その下がカーテンみたいに広がる感じの服を見るとキュンとしてしまって(笑)。「glow」のフィッティングで、まさに理想としていたような、めちゃくちゃかわいいお洋服に身を包むことができて、しかも幻想的な空間での撮影だったので、本当にプリンセスみたいな気分でした。ヘアメイクと衣装と世界観、すべて作り上げてもらった空間に浸ることのできた思い出があります。
――「glow」のMVは幻想的なシーンと日常的なシーンの対比も印象的でした。
水瀬 日常シーンは普段の私らしさを出せるように、あまり特別感はなく、普通に着こなせる感じの服を選んでもらいました。だからこそドレスを着た時に「これ、本当に私なの?」という気持ちになって、いつもよりもしなやかに、内股で歩いてしまいました(笑)。ライブでも“お上品モード”に入る瞬間はありますが、こういうお仕事をさせてもらっていて良かったな、と思える特権の1つですね。
――余談ですが、MVを撮影する際、衣装やコンセプトについて水瀬さんから意見を出すことはあるんですか?
水瀬 撮影前にミーティングで構成や絵コンテを見せていただくのですが、その段階で、例えば「これは新しい挑戦だけど、自分のキャラクターからは少し離れてしまうかも」とか「うまく表現できる自信がない」といったことは事前にお伝えします。それでも「やってみてほしい」と言っていただける場合は、頑張ってそのイメージに近づけようとします。
――事前に方向性のすり合わせをしっかりと行うわけですね。
水瀬 「glow」も、実は最初のコンセプトはもっとヒッピーな感じと言いますか、よりネイチャーな雰囲気の案もあったんです。それも1つの解釈として素敵なのですが、ライブで披露することも含めて考えると、イメージしていた世界観から少し離れてしまうかも、とチームで話し合って、より等身大に近いけれど特別感のある方向性に落ち着きました。始まりは意外と、今の形とは違う部分からスタートしていたりします。
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