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INTERVIEW

2025.05.24

西川貴教、沖聡次郎(Novelbright)、亀田誠治の三位一体で描かれた楽曲「HEROES」の制作背景を西川貴教が語るインタビューをお届け

西川貴教、沖聡次郎(Novelbright)、亀田誠治の三位一体で描かれた楽曲「HEROES」の制作背景を西川貴教が語るインタビューをお届け

4月から放送開始となったTVアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』のOP主題歌として書き下ろされた「HEROES」。西川貴教が作詞を担うこの曲は、作曲にNovelbrightの沖聡次郎、そして編曲に亀田誠治を迎えたこれまでにない三位一体で描かれる1曲となっている。主人公で剣聖のベリル・ガーデナントと彼の弟子たちの物語とも似た、西川と沖の関係が浮かぶ「HEROES」が生まれるまでの話。そして初めてのタッグとなる亀田のアレンジから得た気付きなどを聞いた。

INTERVIEW & TEXT BYえびさわなち

沖聡次郎との関係性をタイアップ作品と重ねて

――2024年の1年間を『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」と共に駆け抜けてこられました。長く期待されてきたタイアップではありましたが、今回の経験からの気付きはありましたか?

西川貴教 まず感じたのは1つの作品と共に1年間駆け抜けられたことが本当にありがたいということですよね。通常1クールの3ヵ月で期が変わり毎週主題歌を聴けるタイミングが終わる。映画の場合は約3~4ヵ月の劇場公開期間内が聴いてもらえるピークになるじゃないですか。でも『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は2024年1月に公開されて以降、劇場公開が終わるかと思いきや単館上映でじわりじわりと続いていきましたし、その後も応援上映やシネマコンサートといった色々な形態で丸1年「FREEDOM」を聴いていただく機会がありました。以前に比べてSNSなどで情報が上書きされるスピードが速くなりましたが、この曲については長く話題にしていただけた。それは稀な経験だったと。僕にとってみれば「西川貴教」としての活動を2018年から本格的に始めて、やっと皆さんに顔と名前とやっていることを紐づけて理解していただける大きな機会になった曲になりましたし、なんだったら「FREEDOM」で「今、西川はこういうことをやっているのか」と知っていただけたことも多かったと思うので、そこは単純に良かったなと感じています。今回の新曲「HEROES」の制作においても良い効果を生んでくれましたし、アルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」にも良い影響を与えてくれました。

――改めて「西川貴教」を広く知ってもらうきっかけになった1曲が「FREEDOM」だったと。

西川 そうですね。活動自体は2018年から7年になってきますが、そのうち2年くらいはコロナ禍によって溶けてしまい、当時やろうと思っていたけれどできなかったこともあったし、そういう意味ではやっと本来のスピードに戻ってきた感じもあります。西川貴教として何を目指していくのかということがアルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」まででいよいよフォーカスされてきた感じがありますし、そのきっかけをくれた作品が「FREEDOM」ということになるのかなと思います。

――そんななかで新曲「HEROES」が完成しました。制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか?

西川 「HEROES」は、「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」よりも早い時期に出来上がった曲なんです。2024年6月くらいには完成させていて。この曲の制作など色んなことが落ち着いた秋頃からアルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」の本格的な制作が進行していったんです。カップリング曲の「響ケ喝采」はアルバムの制作タイミングではデモの段階で。ありがたいことに色々お話をいただくので、楽曲制作の時系列は錯綜してしまいますが総じて「FREEDOM」以降の楽曲という感じです。

――その「HEROES」はTVアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』のOP主題歌です。楽曲を作る前にタイアップ作品から受けた印象を教えてください。

西川 お話をいただいた段階でコミックを全部買って読んだのですが、一貫して剣聖と傍らにいる弟子たちとの関係性が描かれる作品だと感じて、その世界観と楽曲をどうシンクロさせていくかを考えていたのが2024年の春くらいだったんです。ちょうど“イナズマロック フェス”の情報発信をするラジオ番組「イナズマロック レディオ」に、ゲストでNovelbrightも来てくれて、そこでも沖くんの想いを聞かせてもらいました。沖くんは学生の時に“イナズマロック フェス”に来て「音楽をやりたい」と思いギターを始めた人で、そんな彼がいよいよそのステージに立つ。そんななか、以前から「いつか沖くんが書いてくれた曲を歌えたら良いなあ」と話してもいて、ふと「沖くんに曲を書いてもらうのはこのタイミングかもしれない」と思い、相談したら快諾してもらえました。Novelbrightのアリーナツアー(“Novelbright ARENA TOUR 2025 〜Winding Road〜”)の初日を観に行ったのですが、立派にステージでお客さんを楽しませている姿を観ると頼もしいですし、そんな彼の中でいつまでも“イナズマロック フェス”での体験を大切にしてくれていることにも胸が熱くなったんです。だからここの作品に提供する曲は彼からしか出てこないのではないかなとも思って。

――ある種、剣聖と弟子のような関係性ですね。

西川 自分を剣聖に例えるのはおこがましいですが。でも、彼が望んでくれるのであれば一緒に曲が作れたら良いなと思っていたので、今回共に作品が作れたことは本当に嬉しいです。

――「HEROES」の制作にあたって沖さんとはどのようなお話をしたのでしょうか。

西川 自由に作って欲しいと言いました。「沖くんが今、僕に歌わせたい曲をください」っていうオーダーだけして。そうしたらデモをもらった時にタイトルに「HERO」と付いていたんです。制作にあたって「どうしてもここのフレーズにはこの歌詞がいいというものがあれば入れてほしい」と伝えたら、沖くんの仮歌の最後に“僕のヒーロー”という一言が入っていて。タイトルと歌詞のそのフレーズに込められた沖くんの気持ちを感じて、胸がいっぱいになりました。

――そうして受け取った楽曲に対し西川さんご自身が歌詞を仕上げています。

西川 歌詞を書きつつ、ふと思ったんです。沖くんが僕に向かって“僕のヒーロー”と想いを投げてくれているわけですが、今や沖くん自身が誰かのヒーローになっているんじゃないかって。それで「沖くん、ごめん。タイトルは「HERO」ではなく「HEROES」にさせてね」と変えさせてもらいました。沖くんも誰かのヒーローになっていると思うから複数形が良いじゃないという感じで。結果的に今頑張っている人にも聴いてもらいたいけど、社会の中で自分のことだけを考えているわけにいかない僕ら世代に向けても歌いたいと思ったんです。

――西川さん世代にも向けた歌ですか?

西川 そう。どこかで諦めの気持ちを持っている僕ら世代。悔しいとか残念ということではなく、勇気を持って諦めざるを得ない場面もある、そんな世代ですよね。そのことに対してどこかで胸に引っ掛かりを感じている人がいるのであれば「何年かかろうとその引っ掛かりを取ることはできるんじゃないの?」というメッセージも入れました。「今まさに僕もそうしていますよ」という気持ちをみんなと一緒に共有できるといい、皆さんの背中を少しだけ押せる曲を書こうと思いました。

――そうした西川さんの熱い気持ちは、全力で駆ける姿で見せるジャケット写真にも出ていますね。

西川 青臭いけど良いじゃないって思って。自分の性格的にこれまでは「頑張っている」「努力している」ってみんなやっていることなんだから「見せるのはかっこ悪いな」という気持ちでずっと生きてきていたんです。でもやっぱり50歳にもなると何かをする時に覚悟と準備が必要で、時間も掛かるし中途半端なものは出せないと考えると頑張らざるを得ない。なのでそろそろそういう頑張っている姿を見せてもいいのかなと思うようになりました。

次のページ:亀田誠治との制作で得た新たな気付き

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