INTERVIEW
2025.05.23
2024年に念願のソロアーティストデビューを果たした声優の田中有紀が、1stシングル「Treasure Chest」を完成させた。本作の収録曲はすべて、TVアニメ『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』(以下、『エパリダ』)のED主題歌。第1部・第2部・第3部それぞれの物語や作品全体のテーマ性に寄り添いつつ、アーティスト・田中有紀の多面性と可能性を引き出したバラエティ豊かな3曲が並んでいる。宝箱のように様々な想いと感情が詰まった本作について、たっぷりと話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回のシングルは、収録される3曲すべてがTVアニメ『エパリダ』のED主題歌になります。田中さんは『エパリダ』という作品にどんな印象をお持ちですか?
田中有紀 日常パートと戦闘パートのどちらもしっかりと描かれていて、そのメリハリがすごく楽しい作品だと思います。日常パートは、クローバー(『エパリダ』の主人公・ユークたちが結成した冒険者パーティ)のみんなのほのぼのした掛け合いが温かくて家族みたいですし、主人公のユークが女の子たちのアプローチに翻弄される姿も、観ていて思わずニコニコしてしまいます(笑)。その一方で戦闘シーンは、敵である魔物のビジュアルが良い意味で気持ち悪くて臨場感がありますし、魔法や連携バトルの迫力もすごくて。そういった緩急が見どころの1つだと思います。
――世界観も普通のファンタジー作品とは少し違っていてユニークですよね。アーティファクト(魔法道具)を用いて冒険の様子を配信する文化があったり、並行世界などのSF要素も絡んできたりして。
田中 そうなんです!配信文化は今の私たちの日常の中でも身近なものですけど、それが加わることで『エパリダ』ならではの世界観が織り成されていると思いますし、「並行世界が繋がっている」みたいなお話は、私のSF好きな心が騒ぎました(笑)。
――そんな『エパリダ』の第1部ED主題歌が、今回のシングルの表題曲「Treasure Chest」。作品のどんな部分に寄り添った楽曲になりましたか?
田中 「Treasure Chest」は第1部のED主題歌ということで、このアニメ自体やユークの冒険の“始まり”にフォーカスした楽曲になります。ユークは物語が始まる前からAランクパーティのサンダーパイクに所属して冒険していましたが、自分から脱退して新たにクローバーを結成する。その新しい門出の気持ちが、歌い始めの“今から夜明けを 迎えにゆこう”という歌詞に表われていると思いますし、最後は“夜明け空 朝陽の中”で締め括られているので、クローバーやユークの新しい“始まり”を応援するような気持ちで歌いました。
――ユークはサンダーパイクに在籍していた5年間、不遇な環境に置かれていたので、その意味でも“夜明け”というワードはピッタリですよね。
田中 そうなんです。ユークはパーティのためにすごく頑張っていたのに、仲間たちはそのことに全然気付いていないから、ひどい扱いを受けていて。でも、そういう状況から外に一歩踏み出すのは勇気がいることだと思うんです。それこそサンダーパイクには幼馴染のサイモンがいたので、きっと昔はもっと純粋な関係性で、その頃の思い出もあったと思いますし、パーティを抜けることを伝えた時も複雑な想いがあったんだろうなと思って。
――そういった経緯を踏まえると、この曲の歌詞はユークの心情とリンクする部分が多いように感じます。
田中 ですよね。例えばAメロに“暗闇だったから 気づけたもの”という歌詞があるんですが、そういう暗闇や負の感情と向き合わなくてはいけない瞬間というのは、ユークに限らず誰にもあることだと思うんです。私も日常を過ごすなかで悩むことはありますし、きっと皆さんにもあるはず。でも、そういう時間があるからこそ、側にある大切なものに気付ける瞬間があるんじゃないかなと個人的に感じています。なので私も歌詞に共感しながら歌うことができました。
――共感の話で言うと、ユークが新しい環境への一歩を踏み出したのと同じように、田中さんも昨年にソロアーティストデビューして新たな活動を行っているわけで、その意味で気持ちを重ねられる部分もあったのでは?
田中 ソロデビューはもちろん、日頃のお仕事でもそういう気持ちは感じています。ライブもアフレコも、その場所で出会う方や作品は毎回違っていて一期一会だと感じているので、新しい出会いに対して自分がどう踏み出していくか、いつも考えています。
――なるほど。では、この楽曲をレコーディングする際に意識したポイント、特にこだわった部分はありますか?
田中 まず、「Treasure Chest」(=宝箱)というタイトルを受けて「私の中の宝物は何だろう?」ということを考えました。ユークにとっての宝物は仲間を大切にする気持ちやクローバーだと思うのですが、私も自分の宝物は何かを考えた時に、やっぱり家族や友人、活動を支えてくれるスタッフさんや応援してくださる方たちが思い浮かんだんです。なので、そういう方たちに向けても応援したい気持ちが届くように歌いました。
――やはり人との“出会い”は田中さんにとって大切なものなんですね。それこそ1stアルバム『Crier』収録のご自身が作詞で関わった楽曲「Dear STELLA」(歌詞は結城アイラとの共作)も、出会いの奇跡と感謝を歌った曲でしたし。
田中 自分にとっての“大切なもの”を考えると、やっぱり周りの人たちのことが浮かんでくるんですよね。1人では生きていけないということを日々感じていますし、私は本当に色んな人に支えられながら生きているので。その感謝の気持ちは今作に限らず、これまでの作品や歌のすべてに込めている、私が歌に乗せて伝えたいことの1つです。
――歌声としては真っ直ぐかつ希望を感じさせるアプローチで、田中さんの声質にも合っていると思いました。
田中 第1部の楽曲で、物語はここから続いていくことになるので、まさに希望を感じさせるような明るさは意識して歌いました。それとAメロの(音程が)低いところからだんだん高くなっていく箇所もこだわったポイントです。冒頭の“今から夜明けを 迎えにゆこう”ではワクワク感も込めつつ、そこから助走をつけていって、サビでドン!と開けるような演出を歌でも心掛けました。
――個人的には、Dメロの“涙 隠して 遠まわりした あの日々が未来を 切り拓いてく”から始まる箇所も、ここだけのエモーショナルな色づきがあってグッときました。
田中 ありがとうございます!この部分は、先ほどの“暗闇だったから 気づけたもの”とも繋がる部分でもあると思うのですが、多分皆さんの中にも「これは経験しなくてもよかったんじゃないかな」みたいな過去があるんじゃないかなと思うんです。もちろん私にもそういう経験があったなかで、でも、それが頑張る今の自分を強くしていて、その強さが自分の背中を押してくれて未来を切り開く力になる。なので、ここは辛かった日々に思いを馳せつつ、それでも前に進んでいくという気持ちを噛み締めるように歌ったので、また違ったギアが入りました。コンテンツのお仕事でもずっとお世話になっている、ディレクターの小久保(祐希)さんにも「ここの歌、良いね」と褒めてもらったのですが、その言葉も私の宝物として心に残っています。
――この楽曲のMVのお話もお聞かせください。田中さんと子供たちが出演するMVで、どこかストーリー性を感じさせる内容ですが、どのようなコンセプトで撮影されたのでしょうか。
田中 今回は“今の自分”と“過去の自分”が、時代は違うけど同じ場所にいて、過去にも未来にも思いを馳せているようなイメージで撮影していただきました。MVの中に子供たちが4人登場するのですが、その中の一人が私とリンクしていて、その子が“過去の自分”、私が“今の自分”という設定です。2人ともヘッドホンをしていたり、カセットテープを持っていて。富士山がきれいに見える、緑が豊かで空気も美味しい場所で撮影していただきました。
――撮影はいかがでしたか?
田中 とにかく天気が良くて、今まで見たことがないくらいきれいな、私の人生の中でトップクラスの青空でした。お日様の光を受けて緑もキラキラと輝いていて、今思い出しても感動できるくらい鮮明に記憶に残っています。それと撮影時期は冬近くで、かなり寒かったのですが、子役の方たちはすごく元気で、走り回っている姿に私も元気をもらいました。
――子供たちがテープレコーダーやマイクを使って録音しているシーンもありました。
田中 あれは“過去の自分”が自然の音や自分たちの声を録音したカセットテープが“今の自分”の宝物になっていて、それを手に“今の自分”が思い出の場所を訪れて回想している設定になっています。時代が移り変わったとしても、思い出は色褪せないし、ずっと大切な宝物なんだよ、ということを感じてもらえると思います。
――余談ですが、田中さんにもそういった思い出の品はありますか?
田中 思い出の品……あっ!そういえば子供の頃に“宝物入れ”を作ってました。お菓子の空き箱に自分で“宝物入れ”って書いただけなんですけど(笑)。当時、友達と学校でお手紙交換みたいなのをしていたのですが、友達はすごく器用だから、折り紙みたいにして渡してくれるんですよ。その折り紙とか、かわいくて取っておきたいものを宝物入れに仕舞っていました。多分まだ、家のどこかにあるんじゃないかなと思います。
――いつかその宝物入れを持って、思い出の場所に行ってみるのも良いかもですね。
田中 それは素敵ですね!それこそ子供の頃、家の近くに林みたいな場所があって、よく遊びに行っていたんですよね。子供からすれば森みたいな感覚だったので、MV撮影の時にもそのことを思い出して懐かしい気持ちになっていたんです。
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