INTERVIEW
2025.06.12
人々からの“信頼”を獲得することによって誰もがヒーローになれる近未来の世界を舞台に、10人のトップヒーローたちの物語を描くbilibiliとアニプレックスの共同制作による完全オリジナルアニメ『TO BE HERO X』。2Dと3DCGを融合した斬新なアニメーション描写、現代社会に対する批評性も内包した骨太なストーリー、豪華キャスト陣など様々な角度から注目を集める本作に、音楽面の要として参加しているのが澤野弘之だ。今回はSawanoHiroyuki[nZk]名義のニューシングルとなるRei(Newspeak)をゲストボーカルに迎えたOPテーマ「INERTIA」の話題を軸に、彼が『TO BE HERO X』のために制作した音楽に迫る。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――澤野さんはアニメ『TO BE HERO X』に、劇伴、主題歌、挿入歌など様々な形で関わっていますが、まずどんな形でお話しをいただいたのですか?
澤野弘之 最初は劇中音楽のオファーをいただきました。ただ、この作品はフィーチャーされるヒーローごとにCGアニメからセル画タッチのものまで色んなタイプのアニメーションで描かれて世界観が変わるので、そのすべての劇伴を自分ひとりで制作するのは作業的に難しいところがありました。そこで劇中音楽に関しては自分が信頼している作家さんにお声がけして分担する形で担当してもらい、僕はそれプラス肝となる部分に関わらせていただく、という相談をさせていただきました。その流れでOP/ED主題歌のお話もさせていただいて、それぞれnZkとSennaRinで関わらせていただくことになりました。それと(『TO BE HERO X』の)李豪凌(リ・ハオリン)監督とは、以前に「League of Legends」というゲームのCGアニメーションPV(2019年に公開された「League of Legends -Star Guardian: Light and Shadow」)でご一緒したことがあって。そのPVに音楽を提供した流れもあったうえで今回のオファーをいただいたので、作品への関わり方を含め細かく相談させてもらえたところがあります。
――『TO BE HERO X』は完全オリジナルアニメになりますが、作品資料に触れた際にはどんな印象を受けましたか?
澤野 確か最初の段階で制作中の映像を観させていただいたのですが、それがCGアニメーションで、僕がここ数年ですごくハマった『アーケイン』というアニメ作品のアプローチと通じる部分を感じたんですね。他のCGアニメとはまた違った、もっとセル画寄りの絵をCG化したような世界観と言いますか。それを観て素直に楽しんで制作できそうだなと思いましたし、それ以外にも色々なタイプのアニメーションで展開していく、という発想自体が面白いと思ったので、すごく楽しみでした。
――ヒーローをテーマにした作品ですが、メインで描かれる10人のトップヒーローの中には一癖だったり裏がありそうなヒーローもいて。澤野さんはどのヒーローが好みですか?
澤野 僕も現時点では、劇中音楽と劇中歌を担当したナイス編の映像しか観ていないのですが、パッと見の印象だと黙殺はどんなエピソードなのか気になりますね。それと見た目で言えば魂電がずばりヒーローな感じでかっこいいなと思います。ちょっとウイングマンっぽい雰囲気も感じて(笑)。
――確かに(笑)。そもそもの話になりますが、澤野さんはヒーロー作品ってお好きですか?
澤野 好きですよ。それこそ今でもDCやマーベルといったアメコミ系の気になる作品はチェックしますし、子供の頃は戦隊ものや仮面ライダーもよく観ていたので。特に僕の世代はメタルヒーローシリーズというのがあって、ギャバン(「宇宙刑事ギャバン」)やシャリバン(「宇宙刑事シャリバン」)には熱中していましたし、未だにギャバンのフィギュアを見かけたら買おうかなと思ってしまうくらいなので、ヒーローものは結構通ってきたと思います。
――ただ、澤野さんのこれまでのお仕事を振り返ると、王道のヒーローものというよりは、どこか影やドラマを抱えた人物を主人公にした作品に多く関わってきた印象があります。
澤野 そうですね。自分としても、正義感の塊みたいな感じよりもそういうテイストの作品に惹かれますし、音楽的にもそういうものを求められるんですよね。僕はハリウッドテイストの音楽に影響を受けていて、例えば劇伴の打ち合わせで、ヒロイックなマーベル系の音楽と、少し暗さや悲しさのあるDC系の音楽のどちらのアプローチがいいかを聞くと、大体の監督はDC系の方を選ばれていて、僕自身もハンス・ジマーが好きで、どこか悲しさを持ちながらも勇ましい音楽に魅力を感じるので、自分の仕事も自然とそっち系のものが多くなったんです。今回の『TO BE HERO X』においても、めちゃくちゃ明るいというよりは多少暗さや重さも感じられるように作ったところはあります。
――SawanoHiroyuki[nZk]名義でのOP主題歌「INERTIA」も、まさにそういった重厚感ある勇ましさを体現した楽曲だと思います。
澤野 ありがとうございます。今回は監督が僕の作品や音楽を聴いてくださっていたうえでオファーをいただけたので、僕も自分の音楽を素直にぶつけようと思って。これは劇伴の制作とも共通するのですが、主題歌はその作品のエンタメ性をプッシュするような部分が必要だと思うので、今回もそこを意識しつつ、自分が今作りたい音楽をEDMや4つ打ちのダンサブルな要素を取り入れて追求しました。アニメーションの世界観的にはカラフルな色使いなのですがキャラクターの顔にダークな面影が感じられたりもするので、そういった部分とリンクすればいいなと思って、曲の初めはダークで怪しげな雰囲気がありつつ、サビで開けていく感じにすることで、よりコントラストが強く出るようにしました。
――歌詞は[nZk]ではお馴染みのBenjaminさんが作詞していて、全編英語詞です。
澤野 すべて英語詞というのは制作サイドからのオーダーで、Benには作品の資料とアニメ側から提案してもらったキーワードをそのまま渡して、シナリオを読んでもらったうえで作品をイメージして歌詞を書いてもらいました。僕からは、常に暗い雰囲気にするのではなく、サビである程度前向きな要素を入れて欲しい、というのを伝えて。あとは言葉の響きのチェックや作品サイドとのやり取りで少し意見したくらいですね。タイトルの「INERTIA(=イナーシア)」も、言葉の響きがいいし“慣性”っていう意味も面白いからいいんじゃない?という感じで決まりました(笑)。
――歌うのは3ピースロックバンド・Newspeakでボーカルを務めるReiさん。[nZk]には初参加となります。
澤野 楽曲が完成してから誰に歌ってもらうかを考えるなかで、Reiさんを提案してもらって。Newspeakというバンド自体は知っていたのですが、改めて楽曲を聴かせてもらったら、歌声もやっている音楽もすごくかっこ良かったので、ぜひと思ってお願いしました。Newspeak自体がバンドでありながらデジタルの要素も取り入れて色んなサウンドを表現しているので、きっとReiさんの歌声はこの楽曲にも合うだろうなと思いましたし、単純に声がかっこいいですよね。ただハスキーというわけでもない特徴的な声質、言葉で表すのは難しいけどすごく耳に残る声をしていて。それとイギリスで生活していた時期もあったという話なので、洋楽的なサウンドや英語詞に対するアプローチも自然体でかっこ良く表現できる人、という印象でした。
――レコーディングはいかがでしたか?
澤野 基本的にはReiさんがその場で歌ってくれたものがかっこ良かったので、「それでバッチリです!」というところで進めていきました。サビのところで、もう少しロック的な要素の歌声も聴いてみたいなと思ったので、激しめにがなる歌い方と、少し落としてがなる歌い方をトライしてもらったのですが、今回のサウンドには後者の歌い方がハマると感じたので、そのテイクを採用させていただいて。あとは彼から出てきたアプロ―チがそのままベースになっていますね。ミックスの時に完成したサウンドを聴いて「すごくいい感じですね」と素直に言ってくださって。参加してくださったことに少しでも意義を感じてくれていたら嬉しいですし、色んな楽曲をかっこ良く歌える方だと思うので、また機会があればご一緒できればなと思います。
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