REPORT
2025.04.11
“絶望系アニソンシンガー”を掲げて活動するReoNaが全国6都市のZepp会場を巡ったオールスタンディングのライブツアー<ReoNa ONE-MAN Live Tour 2025 “SQUAD JAM”>。その最終日となる追加公演が、3月30日に神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催された。筆者はReoNaのライブをこれまで何度となく観てきたが、今回は明らかに今までとは何かが違っていた。普段のライブが“静”とするならば今回は“動”。観る者を己の世界に引き込む神秘的な佇まいと心を揺さぶる歌声はそのままに、いつも以上にライブハウスという空間をアグレッシブに楽しむReoNaの姿が、そこにはあった。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY 平野タカシ
ReoNaがスタンディングツアーを行うのは、立ち見で楽しむ“歪”と全席指定の“響”の2つのスタイルを並行しながら全国を回った2022年のツアー<ReoNa ONE-MAN Live Tour 2022“De:TOUR”>以来のこと。あれから日本武道館ワンマン<ReoNa ONE-MAN Concert 2023「ピルグリム」at日本武道館 ~3.6 day 逃げて逢おうね~”>や、2024年の東京ガーデンシアター2デイズといった大規模なライブも成功させ、一回りも二回りも大きくなった彼女がステージに立つ。
ライブの幕開けを飾ったのは、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインⅡ(以下、『GGO)』)第2期のOPテーマ「GG」。今回のツアータイトル“SQUAD JAM”は『GGO』に登場する大会名から引用されたこともあり、始まりの銃声代わりには最適の選曲だ。ReoNaだけでなく、バンドマスターの荒幡亮平(Key)もこの楽曲ではエレキギターを手にして、ギター4本体制で爆発的なエネルギーを放出しながら“錆びつく前に燃え尽きろ”とグランジ精神をアピール。曲の始まりで雄叫びのような声を上げ、間奏では「楽しんだもん勝ち、最後まで死ぬ気で遊びましょう!」と客席に呼び掛けるなど、ReoNa自身の振る舞いもいつも以上に熱を帯びている。
そこから苛立ちを推進力に突き進むようなアップチューン「JAMMER」、いつ聴いても鮮烈さを失わない彼女の代表曲「ANIMA」を披露。前者のラストでのアクセルを思い切り踏み込むように急上昇したハイトーン、後者の締めでオーディエンスの合唱に応えるように右手を力強く掲げる姿などが観る者の心も熱くする。その沸々とした思いの強さは、続く「VITA」での命を燃やすかの如き歌声にも感じられたポイントで、おそらくここまでのツアーの経験が彼女に与えたものなのだろう。要するに“完全に仕上がっている”状態だ。
MCでこの日がツアー最終日であることに触れて「だからこそ最後の最後まで楽しんだもん勝ち」と語るReoNa。そして「理不尽に、絶望に、ありったけの怒りを込めて」と語ると、ブラスサウンドを取り入れたジャジーな「R.I.P.」へ。荒幡のエレピなどが洒落た雰囲気を醸し出しつつ、内なる感情を燃やしながら進軍していくような勇猛さが、世界という名の理不尽や絶望に反抗するオーディエンスたちを鼓舞する。そこから、荒幡が弾くベートーヴェン「月光」とギターの不気味な音響が景色を一変させると「生命線」に突入。不可侵な神秘性に触れるような美しさと躍動感に満ちたサウンドが会場を覆う。
続いて「愛されたいと願わずにはいられなくて。求めたものが与えられなかった時に、どうしたって、自分の中に理由を探してしまう。切なる願いを、想いを、小さな、小さな命の名前に重ねて」と告げた彼女は、ブルーな色味を帯びたミディアムナンバー「Mosquito」を披露。ライブ序盤戦での熱量の高い歌い口とはまた趣きの異なる、感傷的でエモーショナルな表現が心の琴線を揺らす。
そしてReoNaはアコースティックギターを手にすると、デビュー前の10代の頃、ツアーに憧れを抱いていた時の思い出を語り始める。自分のオリジナル曲もなく、楽器を弾くこともできず、それでも誰かに自分の存在を見て欲しくて、駅前でライブのチケットを手売りしていたという彼女。その時の心境を振り返り「誰にも見つけてもらえないまま、ひとりぼっちで死んでいくんだろうなと思っていました」と明かす。「あの頃は私の原点のひとつ。次のお歌はひとりぼっちでお届けします」と語ると、「By myself」を弾き語りで歌い始める。バンドメンバーもいつの間にかいなくなって、ステージ上にはReoNaひとり。スポットライトに浮かぶ彼女が弾くギターのどこか寂しそうな響き、過去の自分に歌いかけるようなイノセントな歌声が、静謐に包まれた会場を満たしていく。今はたくさんの人にその歌が求められ、現にこのライブでも観客に囲まれながら歌っているわけだが、彼女の表現の芯には“孤独”という名の絶望も常に存在しており、それが同じ絶望を持つ人に寄り添う力になっていることを改めて実感することができた。
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