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INTERVIEW

2025.04.16

今の夏川椎菜としての見え方みたいなものも見せたくて――。毎年恒例“417の日”を直前に控えリリースされたニューEP「Ep04」収録曲を夏川自身が語り尽くす!

今の夏川椎菜としての見え方みたいなものも見せたくて――。毎年恒例“417の日”を直前に控えリリースされたニューEP「Ep04」収録曲を夏川自身が語り尽くす!

4月16日にリリースされた夏川椎菜のEP「Ep04」。彼女が「今考えるやってみたいこと、作ってみたいもの」に挑戦したという本作について本人に話を聞く。そして制作の過程で夏川が直面した「アラサーの闇」、その言葉の真意とは……?

INTERVIEW & TEXT BY 青木佑磨(学園祭学園)

脱力と曖昧さが生む、夏川椎菜のマイペース

――パッケージとしては2枚目、配信を含めると第4弾となるEPがリリースされます。本作の企画段階でのイメージや意図についてお聞かせください。

夏川椎菜 今年も4月の417(シイナ)の日に合わせて恒例のリリースをしようとなったときに、シングルでもアルバムでも出せるタイミングではあったんですよ。3rdアルバム『ケーブルサラダ』を作る時に集めた曲のストックが結構あって、その曲で次のアルバムを作ってしまうのは焼き増しみたいになってしまうのでそれは違うなと。じゃあEPがいいんじゃないかいう話になりました。

――どの曲がストックにあたるんですか?

夏川 最後に入っている「テノヒラ」以外は全部ストック曲になります。3rdの時に私が名前を挙げて書いてもらったやぎぬまかなさんやsympathyは候補曲を複数出してくれていて、どれも良かったんですけど同じ作家さんで何曲もは1枚のアルバムに入りきらなくて。

――EP全体のテーマや軸を先に決めたりはしなかったんですか?

夏川 軸……あまり意識していなかったですね。EPだからこそ「あれやりたいこれやりたい」のほうが大事で。新曲の「テノヒラ」だけは(川口)圭太兄さんに決め打ちで書いてもらったので、他の4曲をふわっと包み込んでくれるようなものになったらいいなとお願いして。出来上がったものを並べて最初から聴いてみたら、なんか謎にまとまってるなみたいな。そんな感覚がありました。

――最初から1本通すものがあったかのように聴こえました。過去のアルバムやEPに比べて丸いというか、肩の力が抜けた感じで一貫しているというか。

夏川 ですよね、そう思います。EPだから尖ったことをやろうぜ、というのもなく。シングルやアルバムを出す時にはやっぱりフックになるものや、今までやってこなかったことを意識せざるを得ないんですよ。今回は突拍子もないことや挑戦じゃなくて、流れの中でやりたかったけどやれなかったことを回収しようという感じでしたね。

――逆に言うと普段の制作では挑戦枠を設けているんですね。

夏川 そうですね。ぶっ飛び枠みたいなものを作りたいと思っちゃう(笑)。3rdアルバムだとカメレオン・ライム・ウーピーパイさんに書いてもらった「I Can Bleah」ですね。今までやったことのない楽曲に挑戦しようとか、私が最近聴いているアーティストの方にダメ元でお願いしてみようとか。作家さんを選ぶところから新しさを意識することが多いんですけど、今回はそれもなく。5曲入りで初めましての作家さんがいないんですよ。

――1曲目「つよがりマイペース」はやぎぬまかなさんによる作詞作曲。こちらの第一印象からお聞かせください。

夏川 やぎぬまさんらしさもありつつ、シンプル聴きやすいなと思いました。今まで書いてもらったやぎぬまさんの曲は、リズムが変則的だったり特徴的なメロディだったり構成が独特だったり、フックがたくさんあるイメージだったんですよ。「つよがりマイペース」は歌ってみるとメロディ的には乗りこなすのが大変な曲ではあるんですけど、不思議とサラッと身構えずに聴ける感じがしました。

――1曲目がこの曲なこともあって、サウンドや夏川さんのボーカルから肩の力の抜けた丸みのあるEPという印象なのかもしれません。

夏川 歌詞も「マイペース」って言葉が出てきますし、強さを出していく曲ではないと。こういう曲をゆるっと歌うかっこ良さがありますよね。

――歌のテイストはやぎぬまさんの仮歌からの影響も?

夏川 そうですね、仮歌に揺さぶられている部分も大きいかと。元々やぎぬまさんの曲や歌が好きだったので、かなり参考にしているところはあります。そんななかでも最終的に自分の曲として乗りこなしたいなというのがあったので「あんまりやりにいかない」を意識しました。テクニカルに歌いすぎないというか。いくらでも外連味とかも足せるし、力の強弱もつけられるんですけど、それをやり始めたらきりがないというか。やりにいくと理想の脱力感は出ないんじゃないかと。

――確かにもっと感情の指針というか、喜怒哀楽の中で「どう思って聴けばいいか」を明確にすることも可能な曲にも思えますね。焦ってるんだかそれを楽しんでるんだかギリギリわからないからこそ、曖昧でいい仕上がりになっている。

夏川 そうですね、別に明るい曲ではないと思うんですよ。サウンドはポップだけどそこに流されすぎないように、感情は抑えめというか……自分から足しにいかなくてもいいなという感じでしたね。

――以前のインタビューで「自分の作詞以外の時は自分では書けないようなことを歌いたい」とおっしゃっていた記憶があります。この曲において特に刺さった部分などは?

夏川 そもそもの「マイペース」という言葉について自分でも最近思うところがあったんですよ。あまり自分のことをマイペースだとは思ってなかったんですけど、意外とそうなのかもって。マイペースを大事にすると生きやすいなと思うことが多くなりました。今までも自分なりのペースがありはしたのに、それを押し留めて人に合わせにいってたから疲れる部分があったのかなって。マイペースという言葉にはネガティブなイメージがあったりしますけど、それでいいと思えるような。言葉の意味を自分なりに捉え直して、前向きに伝えるのにいいタイミングでした。今の自分の状況と重なって、「歌いたい」と思えるような歌詞でしたね。

――世に言うマイペースは「人よりBPMが遅い」といったイメージですけど、実は人より早いのもマイペースですしね。曲の主人公も別にのんびりしている訳じゃなくて、ただ人と合わせるのが上手くなかったりするだけで。

夏川 そうですね。私も「これは早くやりたいけど、これはゆっくりやりたい」とかが結構はっきりしてるので。周りのBPMに合わせないほうが楽だなって最近思うんですよ。

胸に隠した愛を叫ぶ「スキ!!!!!」と、誰にでもあるようでどこにもない「かなわない」

――2曲目は長谷川大介さんの作編曲、夏川さん作詞の「スキ!!!!!」。3rdでは「Bluff 2」の作編曲を担当されていますね。

夏川 明るいロックサウンドでいて耳に残るメロディで、「こういう曲を持っておくのはいいと思うよ」とスタッフさんに言われたのを覚えてます。このタイプは自分が作詞したほうが結果的にいいだろうなって、過去の経験から思って。前にも「トオボエ」であったことなんですけど、デモを聴いた時に「これは私ではない」って強く思ったんですよ。これを私が歌いこなすビジョンが見えないし、他のアーティストのほうが似合う姿が思い浮かんじゃうし。そういう曲ほど自分で作詞をしたほうが、自分の言葉を歌ったほうが自分が歌う意味が出てくるんじゃないかって。

――歌詞を鎹(かすがい)にしないと他人の曲みたいになってしまうと。

夏川 そう、カバーみたいになっちゃうんですよ。そう思って自分で作詞をしたんですけど、結構戸惑いました。ストレートに投げかけてくる音だし……。

――メロとサウンドの真っ直ぐさによって、作詞における皮肉と卑屈は封じられてしまいますよね。

夏川 本当にそうなんですよ!あまりにも私が今まで歌ってきた隙間産業的なノリは合わなさそうだぞと。でもそれを封じちゃうと自分らしさみたいなものも出ないんだよなぁという、そのせめぎ合いでちょっと違う角度の歌詞を書いてみようと思ったんです。私は好きなものに対して正直というか、好き嫌いがはっきりしていて。好きなものがあったら「めっちゃ好き!」と常に言うようにしているんですよ。そういう気持ちを大事にしていて。その、ちょっと歪んだ真っ直ぐさみたいなもの(笑)。それはこの曲に当てはまるんじゃないかなと思って、「好きなものにスキと叫ぶ」をテーマに書きました。それとお客さんの力も借りたいなと思って、コール&レスポンスをしやすくするにはどうしたらいいかなと考えていきましたね。

――なかなか勇気のいるモチーフ選択だと思うのですが、何を取っ掛かりにそこに辿り着いたのでしょうか?

夏川 サビの“キライ スキ”が入ってるところが、仮歌詞だと全部「ジャンプ」だったんですよ。それかすごく印象的で、もうジャンプしかあり得ないじゃんこのメロディって思ってしまって。で、自分で正式な歌詞を書くとなった時に、まずこの「ジャンプ」をどうにかせねばならんと。

――そのままいくとそれこそ本当に「他人の曲」になってしまいますもんね。

夏川 そう、ジャンプはしないから私は(笑)。ジャンプはしないよなぁ、ジャンプじゃなくて私が歌える言葉はなんだろうと思った時に「ダイスキ」が思いついたので、そこを軸に全体を考えていった感じですね。ライブで「好き」って客席と私で言い合えるといいなって。私が「ダイ!」って言ったらみんなから「スキ!」が返ってくるみたいな風景が浮かんで、それは馴染むなと。じゃあ何が好きなのか、どうして好きを叫ばないといけないのかということを考えて歌詞を組んでいきました。

――ライブでみんながこの曲を楽しみにするようになってしまうくらい強力な仕掛けですよね。

夏川 ライブの時にみんなが「スキ!」って叫びたいけど叫ぶ場所を探して燻っている感があったので(笑)。

――何を好きと叫ぶなら自分の曲として許せるかを探していくなかでこの形になったと。

夏川 パッと浮かんだのは「推し活」みたいなもの。「好きって言えるときに好きって言わなきゃ後悔するよ!」みたいなお節介心が湧いたのでこういった形になりました。

――それは自分にとっての「好き」も想像しながらですか?

夏川 私は……メタフィクションとかが好きなんですよ。ノンフィクションよりもフェイクドキュメンタリーみたいなものがすごく好きで。どちらかというとまだメジャーじゃない、アングラ寄りのもの。そういう展示会とかもよく行くんですけど、その世界にのめり込んじゃうんですよ。そういうものに大手を振って「大好きだー!」って言えたら気持ちいいだろうなって。

――想定されていたジャンルと全然違いました。でも確かに人と共有しにくい「好き」のほうがこの曲には思いが乗るのかもしれませんね。

夏川 私としてはそうなんですよ。

――「行方不明展」とかああいうものですか?

夏川 行きました行きました(笑)。ああいうの大好きなんですよ。「イシナガキクエを探しています」とか、あれ系の番組も本も展示会もすごく好きで。もちろん私が好きなアイドルを思う気持ちも乗せましたけど、でも「周りに共有する人がいないんだよね」くらいのもののほうが今は叫びたいと思って。

――サビ頭で先に来るのは「キライ」のほうなんですもんね。花占いで「キライ」から摘み始めている。

夏川 ははは、確かに!(笑)。自信のなさの表れですね。

――続いては柴田ゆう(sympathy)作詞作曲の「かなわない」。

夏川 sympathyは3rdの時に候補曲を3曲を作ってくれていて、どれもすごくやりたいと思えたのでいつか歌おうと思いながらストックしてありました。

――現役でバンドとして活動している人間にしか書けない瑞々しさ、インディーロック感に満ち溢れていますよね。

夏川 「この曲っぽいのを書いてくれ」ってプロにお願いしてもこうは絶対ならないような、sympathyにしか書けない少女感みたいなもの。素敵だなと思いますね。

――sympathy側には特にオーダーはなく?

夏川 はい。とにかく「sympathyらしい曲が歌いたくて」とお伝えしたので、コンセプトなども指定なく。

――やぎぬまかなさんの作風はメッセージ性含め夏川さんの人格に合うイメージが既にありますが、sympathyの楽曲は体に合いますか?

夏川 合うと思います。なんかこう、拒否反応みたいなものはないですね。不思議なんですけど。今の自分にすごく合っているというよりは、昔こんなこと思ってたなっていう思い出ベース。回想を歌わせてもらっている感じです。やぎぬまさんの楽曲は今の自分が表現したいことに沿っているイメージなんですけど、sympathyの楽曲は「今は思ってないけど、学生時代にこういうヒリヒリした感情あったな」って思いながら懐かしく歌える感覚がありますね。

――本当に「この瞬間にしかないもの」だけを書きますよね。1文字も具体的に何のことを歌っているか言ってくれないのに、聴いた人は自分にあった感覚として蘇るというか。

夏川 主語がないんですよね。限定的なことを言わないから余計にいくらでも自分で解釈できちゃう。自分の思い出の中にこの歌詞を入れ込めるというか。

――ご自身の作詞でこういったテイストに挑戦してみようとは思わないですか?

夏川 多分できないんですよね。できない。やってみようとしたことも何度かはあります。sympathyもそうだしやぎぬまさんにも憧れているからこそ「こんなふうに書きたい!」と過去にやってみたことはあるんですけど、やっぱり難しい。狙ってできるもんじゃないんですよね。本人も意識せずに書いている部分もあるだろうし、狙った時点で負けみたいなところがあると思います。

――3rd収録の「コーリング・ロンリー」も含めて、sympathyの楽曲は武器の在処が謎なんですよね。何を武器に戦っている曲なのかがわからないというか。夏川さんは曲ごとに「今回の武器はこちら!」がはっきりあるようなイメージで。

夏川 確かに。見せてますね、刃物を(笑)。チラチラ見せながらね。確かに明確にすることが多いです。ジワジワ系じゃないですよね。

――対してsympathy楽曲は目的意識に捉えどころのなさがある。

夏川 全部聴いて全部歌詞を読んで、最終的に「なんか痛い」みたいな。気付かない間に攻撃されてたかも、みたいな(笑)。刺そうと思ってない感じがいいですよね。向こうは刺すつもりがないのに、こっちが勝手に刺さっちゃう感じ。

――気付いたらもう胸に何かが刺さっている、という。

夏川 邦画みたいですよね。別に自分に共感できることはなくて、別に同じ状況になったことはないのに、何か刺さってる。「なんか心ズタボロなんだけど何で!?何がこんなに刺さったの!?」って。

――邦画的という表現はなるほどですね。sympathyの曲は「まるであったような気になる」んですよね。

夏川 そうそう、しけた海を見ながら気の抜けた炭酸を飲んで泣いてる記憶が蘇ってきちゃいましたもん。1回もないのにそんな記憶(笑)。

――確か以前「コーリング・ロンリー」の話を聞いている時にも「しけた海」が出てきましたね。

夏川 あはは!(笑)。やっぱりそうなんですよ。sympathyの曲を聴いていると、しけた海で黄昏れてる自分が思い浮かぶんですよ。音とか全部含めて海を感じます。

――特に好みの1行などはありますか?

夏川 私が書けないなと思ったのは、サビ前のの「だってだってきっと絶対 だってだっておかしくなった 一昨日から 夜も眠れないの」ですね。私が歌詞を書く時に絶対に意識しているのは、「1ブロックに物語を詰め込みすぎない」ことで。4行で1つのことを言うくらいの分量で、1つのことをすごく希釈して言うのが美しいと思っていて。

――そのくらいが1回で聴き手が受け取れる限界の情報量だったりしますしね。

夏川 そうだと思います。情報量は少ないほうがいい。で、この部分はすごく少ないじゃないですか。ここで言いたいことは「一昨日から夜も眠れない」だけなんですよ。

――本当だ。“だって”“きっと”“絶対”に等しく意味がないですね。

夏川 でも“だってだってきっと絶対 だってだっておかしくなった”があることによって、一昨日から夜も眠れないことに対しての不安感が表現されていて。それが音にハマることによってドラマチックになっているっていう。この子のいじらしさを感じますよね。

――ちなみに先ほど言っていた「意味の希釈」は作詞を始めた最初の頃から意識していたことですか?

夏川 いや、途中で気付いたというか指摘されて気付きました。一番最初に書いた歌詞が、本当に意味を詰め込んじゃったんですよ。多分これは歌詞を書く人はみんな最初にやってることだと思いたいんですけど、伝えたいことが多すぎて、物語を書きたすぎて、全部描写しなきゃいけないんじゃないかと思って。細かく細かく書いていって、音に対して文字を詰め込みすぎてしまって、歌ってみたら何も伝わらない(笑)。それが効果的になることもあるし、意識的に詰め込むことも今ではあるんですけど。ほとんどの曲は意味や伝えたいことをあんまり詰め込まないほうがいいなって、そうすると結果的にバランスが良くなるんですよね。

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