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INTERVIEW

2025.04.16

今の夏川椎菜としての見え方みたいなものも見せたくて――。毎年恒例“417の日”を直前に控えリリースされたニューEP「Ep04」収録曲を夏川自身が語り尽くす!

今の夏川椎菜としての見え方みたいなものも見せたくて――。毎年恒例“417の日”を直前に控えリリースされたニューEP「Ep04」収録曲を夏川自身が語り尽くす!

アラサーの「闇」と「光」

――「グッドルーザー」はHAMA-kgnさんによる作編曲で夏川さん作詞。これまでのHAMAさん楽曲が持っていた攻撃性が少なめで、ダウナーというか怒りや尖りが外に向かっていない感覚がありました。

夏川 この曲は……アラサーの闇を書いていて(笑)。

――早めのミドルエイジ・クライシス的な?

夏川 そうですそうです。自分が実際にアラサーにあたる年齢になった時に感じること。ダウナーでネガティブな部分を煮詰めて歌詞を書いたら、それが今しか書けない面白いものになるんじゃないかなと思って。そういう走り出しで書き始めたものになります。

――このアイデアなら「今の自分」を切り取れそうというのが先にあったんですね。

夏川 HAMAさんの曲に詞をあてることを何度もやってきて、自分の中での正解というか「こういうタイプの言葉がハマる」みたいなものがあって。どうとでも転べそうな気がしちゃったからこそ、先にテーマを決めようと思ったんですよ。

――手癖でも書けてしまいそうだからこそ。

夏川 ふわっと書いていったらいつもと同じになりそうっていうのが強くあったんだと思います。だからあえてシチュエーションを限定して面白い言葉を探そうと。

――いつもなら憤りや違和感の原因を、ある程度外に求めていることが多い気がするんです。「こういうやつがいるから、私はこんな目に遭っているんだ」的な。

夏川 卑屈だなぁ(笑)。

――でもこの曲はほとんど外部が出てこないじゃないですか。

夏川 うん、自分のことですね。嘘なくこうなんだと思います。

――卑屈や皮肉を含んだ攻撃的なアプローチを経て、ここ最近の夏川さんは自分が辿り着いた現時点での結論や解決策まで提示してあげることが増えたように感じるんです。その中でこの曲は完全に私的な、自分の中に生まれた新しい問題がただ置いてある感じというか。

夏川 そうですね、まだ解決してないんですよ。アラサーの闇に対して、まだ解決策を見出してない(笑)。あ、それでいうとこの後に入っている「テノヒラ」は逆にアラサーの光なんですよ。

――なるほど!表裏のメッセージになっているのもわかります。

夏川 そうなんです。「テノヒラ」でちょっとは解決したかなって思います。意識して書いたというより結果的にそうなったっていう感じなんですけど。どっちも今の自分だから書ける、今しか書けないものだなって。1年経ったらもう書けなくなってるかもしれない歌詞だと思います。

――具体的に「闇」とはどんな部分を?

夏川 「グッドルーザー」に関してはアラサーの体の不調、フィジカル面を一旦書いてみようというのがあって。

――確かに過去の夏川さんはメンタル面の話が多かったのに対して、明確に首やら膝やらが出てくるなと思っていました。

夏川 首の痛さ、膝の違和感、腓返りとか、フィジカル面での変化を書いたうえで、サビでちょっとメンタル面も書くみたいな。そういった意味では新しい試みでしたね。全部メンタルでいかない、「現実で影響出てるんスよね」っていうところ。「淡々と事実を書く」は結構意識したかもしれない。現実感みたいなものですね。水曜日がどうとか日曜日がどうとか、土地神とかも現実感を出すワードで。アラサーってほら……そのへんの神社とかに行きがちじゃないですか(笑)。

――ああー、「行きつけの神社作りがち」ですね。誰がそんなことを歌にするんですか(笑)。

夏川 でも私は!そういうアラサーの生態を!讃歌として歌いたいんですよ!(笑)。アラサー讃歌なんですよ。ああいうこともあるよね、こういうこともあるよね、そうやって生きてるよね、そうだよねっていうだけ。だからこうしたほうがいいみたいな提案はないんです。

――このダウナーなサウンドに対して「グッドルーザー」というタイトルに少し違和感があったんですが、「私もこうだからみんなもこうでいいじゃないか」という赦しの讃歌なのであればとても納得です。

夏川 「いい負けっぷり」って意味合いですからね、曲中では「慢性的に負け犬」っていうちょっと強い言葉にしちゃってますけど。負けているという人生を、でもそれで今のところ平和にやれてるしって。突き放した言い方だけど、そういう平和な日常が毎日続けばいいのにって土地神に祈り続けてるのなら、まあそれもいいんじゃないのって(笑)。大半の人間がそうやって負けているというか、負けメンタルでいることに幸せを感じているというか。結局人生って突き詰めるとそういうことなのか?みたいな。どれだけいい負けっぷりを晒せるかが、素晴らしい人生なのではと思ったんですよ。なんか哲学的な話になってしまうんですけど。

――「シャドウボクサー」のインタビューで「私は今も無様に負け続けている」と話していたことが強く印象に残っていて。確かにあの曲もどうやって勝つかじゃなくて、負けたとしてもどんな風に立ち上がるかの曲だったように思えるんです。根本的に夏川さんの中に負けの美学のようなものがあるのかもしれないですね。

夏川 そうかもしれないです。そもそも「勝ったわ、勝利したわ」みたいなことを強く思う瞬間って、意外とないのでは?っていう。結局負けベースで生きてる人間が多いんじゃないかって。人間って被害を受けたときのほうが強く感情が動くっていうじゃないですか。みんなどこかで負け続けだなぁ、上手くいってないなぁと思っていて、多分それが人間のベース。だったらいかに負けを肯定できるか、いい負けを積み重ねられるか。

――それに自覚的になるって、残酷でもありますがとても大事なことですね。ただ負けてネガティブが積み重なっていくよりも、基本そういうものであるとする。

夏川 そう、そうなんですよ。歌詞の中でも書いたんですけど、帳尻合わせとか番狂せってしたいけど基本的にないんですよ。

――実は人生における明確な勝ち負けって、プロのスポーツ選手にでもならない限りは学生時代の部活くらいにしかないですしね。

夏川 しかも地区大会で勝ったとしても、そのあと全国大会があって1組以外は全員負けて終わるじゃないですか。「お金持ちになる」とかも一番上の奴には絶対勝てないから、負けなんですよ。1位の奴に勝たないと勝ちにはならないって究極的には思うんです。結局自分が勝ちだと思っていることも、自分の狭い世界の中で勝負して勝っただけで。

――まさにそれを「テノヒラ」で書いているんですね。比べ続けてきた自分と、その自分とどう折り合いをつけるかの歌。改めまして、「テノヒラ」は川口圭太さんによる作編曲で、夏川さんの作詞ですね。

夏川 これだけはEPのために完全新規で書いてもらった曲です。表題曲を何にしようかとなったときに、兄さん(川口)の曲で表題をやりたいんだよなっていうのがずっとあったんですよ。兄さんの曲って結構特徴的で、いい意味で表題にしづらいものが多かったので。ここがベストタイミングなのではと思って決め打ちで書いてもらいました。

――ジャンルや方向性の指定もなく。

夏川 はい。自由に書いてもらいたいというのが前提にあったので。でも一応伝えとかなきゃと思って、「表題曲です」とは言いました(笑)。

――それでこの曲を出してくるのは信頼ですね。サビで突き抜けたりしないし、感情の居所がわかりやすく定まらない感じ。

夏川 兄さんだなって感じがしますよね。構成もちょっとオルタナティブというか、新しいんだか古いんだかもわからない感じで。

――今一番リアルに持っている引っ掛かりと、その自分なりの解決の歌ですね。

夏川 アラサーの光って言いましたけど、この年齢になって初めて「あの時言われたことが腑に落ちた」みたいな感覚がいっぱいあって。「人は見た目じゃないよ」って子供の頃から色んな人に言われてきたけど、「いや見た目なこととか結構ない?」って思っていて。でもそれの本当の意味がわかったりとか。人は見た目じゃないよって簡単に口では言うけど、人の本当の愛おしさとか尊さは、その人が人生で過ごしてきた時間から滲み出てきたりするもので。どういうものを見てきたか、それに対してどういう反応をしたか、どういう人と生きてきたか。それが年輪のように話し方とか皺とか行動とかに滲み出てくるわけじゃないですか。そういうものが、それまでの人生の色んな選択が、滲み出て形成されるのが結果アラサーなんだなって。20代後半になってようやく、自分が歩んできた道や選択してきたものに対して共感してくれたり、それを愛してくれる人が現れてくるものなんだなと。そういう曲です。

――歌詞の“足るを知る”という言葉でちゃんと伝わりますよね。全部を羨ましく思っていたところから、30年で積み重ねてきた中から自分に合うもの、自分が持っていても仕方がないもの、一生手に入らないものがわかるようになるというか。ちょうどいいサイズのものをちょうどいい量持てるようになりますよね。

夏川 うん、そうです。幼い頃ってやっぱり、お洋服をたくさん持っている子やフリフリのフリルがついた高そうな服を着てる子がすごく羨ましかったし。あと私は癖っ毛が羨ましかったんですよ、クルクルでふわふわで。でも大人になっていくにつれて、そういう子はみんな矯正をかけたりしていて。フリルがついた服も、好きではあるけど自分が着て似合うかはまた別で。見て楽しいと着て楽しいは別なんだなって思ったり。そういう好きなものと自分に似合うものの違いも見えてきて、子供の頃は持っていることが正義だと思ってたけど、全然そんなことないんだなって。「好き」っていうでっかい単純な感情の中に、色々と細分化されたものが実はあったんだな、好きにも種類があるんだなってことに気付けたから。それで色んなものに対する距離感が掴めたなと思います。

――かなり曖昧で繊細な結論の歌ですが、スルッと書けましたか?

夏川 そうですね。“足るを知る”とか“身の程を知る”って言葉が割と身近だったのかもしれないですね。普段から使っているわけではないけど、意識はしてたんだろうなって。マイナスの意味ではなく身の程を知ったほうがいいなというのはずっと思っていて、自分の身の丈みたいなものはずっと意識して生活しているので。身の程や、自分にとっての「足る」って意外と自分で設定できると思っていて。身につけるもの、住む家、お金の使い方、付き合う友人、そういうもので自然と形成されていくものなんじゃないかって。それって全然自分で選べるじゃないですか。金遣いが荒い人と付き合うのも自分だし、どんな家に住むかも自分で決められるけど、長い間そういうものに浸っているうちに身の程というものが形成されていくと思うんですよ。

――自分の収入に対して「足りない!」って言いながら暮らすのも「足りてる!」って言いながら暮らすのも自由ですからね。

夏川 そうそう。自分がこのくらいの生活で足りてるんだって思ったら、足りてるし。それが自分の身の程だと思っているし、自分の居心地のいい身の程を探すのが人生だと思っているので。

――結論が出た!というよりはもっとナチュラルな感じでしょうか。

夏川 そうですね。「色々考えたけどそうっぽい」っていう(笑)。

――現時点での「そうなの“かも”」を私小説的にただふわふわと置くことで少しずつ楽になっていく感じ。とても夏川さんの表現として新しくて好きでした。

夏川 人に届きやすい表題曲で、久しぶりにEPを出せるタイミングでもあって、お客さんに今の夏川椎菜としての見え方みたいなものも見せたくて。「声が届くところが手のひら」って、やっぱりライブをしている時に思うんですよ。今この場にいる人のことを楽しませるのが私の使命で、この見えてる範囲が私の手のひら、身の程というものに収まっているので。これを大事に、ここからこぼれないように頑張るのが私の使命だと思うので。そういう自分の中の決意を伝えられたらいいなっていうのも込めてますね。

――最後に、4月17日には恒例のイベント「令和7年度 417の日」が開催されます。今回は「夏川椎菜の萌え萌え大作戦」と銘打たれていますが……。

夏川 あのー、萌え萌えです、はい(笑)。タイトルの通りです。めちゃくちゃかわいいいカバーライブをしちゃいます。“417の日”って、その前の年の活動を振り返って「これ面白かったな、これのパロディをやろうかな」みたいな考え方で作ることが多くて。去年はmonaのソロライブがあって、とってもかわいいライブをしたので今回はそれをやってやろうと。ただ417の日なので、来てもらわないと実際に何をお届けするかはわからないです(笑)。気になった方はぜひ会場にお越しください!


●リリース情報
「Ep04」
4月16日発売

【初回生産限定盤/CD+Blu-ray】

価格:¥4,000(税込)
品番:SMCL-957~958

【通常盤(初回仕様限定盤)/CD)】

価格:¥3,000(税込)
品番:SMCL-959

<CD>
1. つよがりマイペース
作詞・作曲 : やぎぬまかな 編曲 : めんま
2. スキ!!!!!
作詞 : 夏川椎菜 作曲・編曲 : 長谷川大介
3. かなわない
作詞・作曲 : 柴田ゆう (sympathy)  編曲 : 川口圭太, sympathy
4. グッドルーザー
作詞:夏川椎菜 作曲・編曲:HAMA-kgn
5. テノヒラ
作詞:夏川椎菜 作曲・編曲:川口圭太

<Blu-ray>
「テノヒラ」Music Video
「Ep04」TV SPOT 15sec+30sec

●ライブ情報
LAWSON presents 令和7年度 417の日
2025年4月17日(木)千葉・森のホール21
【1回目】14:30開場 / 15:30開演
【2回目】18:00開場 / 19:00開演

[チケット料金]
全席指定:<チケットのみ>¥5,500(税込)

※未就学児入場不可
※再入場不可
※営利目的の転売禁止
※お一人様1公演につき4枚まで(複数公演申込可)
※出演者、演出およびステージの一部が見えにくいお席となる場合がございます。あらかじめご了承ください。

関連リンク

夏川椎菜 オフィシャルサイト
https://www.natsukawashiina.jp/

夏川椎菜 公式X
https://twitter.com/Natsukawa_Staff

夏川椎菜 公式YouTube
https://www.youtube.com/@Shiina-Natsukawa

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