fripSideのボーカルとして活躍中の上杉真央が、3月5日にソロとしては初のシングル「ゼロ・イグニッション」をリリースする。リスアニ!において上杉は、fripSide加入以前の2012年に開催された誌上オーディション“リスアニ!AUDITION feat. fripSide 八木沼悟志”で最優秀賞を獲得。八木沼プロデュースによるspoonとしてデビューした過去を持つ。そんな10年以上前の、10代からアニソンシンガーを志していた彼女がソロとしてデビューすることへの想いを、今回初となるソロインタビューで聞いた。自分が理想とするアニソンシンガー像、そのなかにいる黒崎真音という存在、そして新たな一歩を踏み出したソロシンガー・上杉真央とは――赤裸々に語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一
――今回初のソロインタビューとなるわけですが、まず、改めて上杉真央としてソロデビューを控えた今の気持ちから伺いたいなと。
上杉真央 率直には「やっと叶うんだ」という嬉しい気持ちがありますね。fripSideに加入する以前の歌手を目指していた頃から“理想の自分”みたいなものを想像しながら生きてきたんですけど、それってかっこいい女性が1人ステージで歌っている姿だったんですよね。それをずっと想像して1つの理想としてきた自分が、その目指している姿にやっと一歩目を踏み出せたんだって。でも、このチャンスも自分1人の力では掴めなかったですし、それこそfripSideのボーカルに選んでもらえなかったら、この道には辿り着けなかっただろうし。自分をここに連れてきてくれたすべての人たちのおかげでやっとここまで来れたんだと思います。
――真央さんがspoonとしてデビューした2012年、それこそ十代の頃から目指していたと。
上杉 はい。あの当時からソロアーティストみたいなものへの憧れみたいなのはずっとありました。アニソンが好きで昔から聴いていましたけど、自分が気になる人というのは全員女性のソロアーティストだったんです。それはきっと、無意識に自分の憧れの姿と重ねていたのかもしれないですね。
――spoonを経てfripSideに加入するまでの間、東京で活動をされていましたよね。当時の真央さんのライブを思い返すと、真央さんが目指すアーティスト像というものがすでに定まっていたんだろうなと。少しダークな、影のあるような歌手像といいますか。
上杉 あの時期にライブで色んなアーティストさんのカバーをさせていただいて、その時から理想とする存在は思い描いていた気がしますね。
――そこからfripSideのボーカルとしての活動を始めて今回のソロ活動へと繋がっていくわけですが、念願のソロ活動が決まったときの感想はいかがでしたか?
上杉 もちろんソロをやりたい気持ちはずっとあったんだけど、いざやらせてもらえると聞いた時は、すごくふわっとした反応を返してしまった記憶があって……。
――いざ決まったとなると上手くリアクションできなかったと。
上杉 これまでも要所要所で、「将来的にはソロやりたいです!」みたいな話をしていたんですけど、いざそうなると信じられなさすぎて、普通は「やったー!」って大喜びするはずなのに、どこか「それは……まことか?」みたいな感じで(笑)。
――そんなすぐには実感できるものではなかったんですね。
上杉 それと、今回のソロでの概要をいただいたときに、『グリザイア』シリーズという、元々(黒崎)真音さんが担当されてきた作品の主題歌という記載があって。そこで、改めて真音さんがいないという事実を受け入れなきゃいけない……ということにも直面して。
――「ソロデビューが決まりました」というシンプルなものではなかった。
上杉 そうですね……それは私だけじゃなくて、真音さんのファンの方々もそうかもしれないし……という視点でも考えてしまって。そこから、上杉真央として前に進んでいくにはどうしたらいいのかというのを考えるようになりました。
――ソロデビューが決まった際のコメントでも真音さんの名前を出されていましたが、それこそ真央さんが思い描く理想のアーティスト像の中に、真音さんの姿も含まれていたわけですよね?
上杉 はい。今だから話せることなのですが、最初に真音さん好きになったきっかけは彼女のビジュアルなんです、「めちゃくちゃきれいな人がいる!」って。そこから、私自身もエヴァネッセンスみたいなゴシックメタルやシンフォニックメタルという音楽が元々好きだったのもあって、真音さんの音楽を聴いて「なんでこんなに私の好みをついてくるんだ!?」と刺さり。そこから真音さんの楽曲の、歌声の大ファンになったんですよね。
――なるほど。
上杉 それからはSNSやブログも色々見るようになって、誠実な方なんだなというのをすごく感じたんですよね。音楽に対してももちろん、ファンの人たちに対してもすごく誠実に、1人1人を大事にしているというのがすごく伝わってきて。ビジュアルも美しくて曲も素晴らしくて、歌も上手くて、人柄も素晴らしい。大好きだし、今もずっと憧れです。でも、それと同時に追いつきたい存在でもあって、おこがましいんですけど、ライバル視していたところもあったんですよね。
――憧れであると同時に、同じ業界で目指す存在でもあったわけですね。
上杉 spoonでデビューさせていただいた時に、「自分の歌手人生がここから始まるんだ!」と思っていたんですけど、シングル1枚で終わってしまったことが自分の中ですごくショックで……。当時はまだ10代で、何もわからないピュアピュアの女の子でしたし。その同時期に真音さんも活動していたんですよね。2年くらい先輩ではあるんですけど、真音さんの活躍を見るたびに、「私もあんなアーティストになりたかった」って、ファン心とは別に、勝手にライバル視していて。で、やっぱりめちゃくちゃ憧れもして、もっともっと大好きになっていったんですよね。だからもし自分が歌手になるんだったら、ジェネオン(現:NBCユニバーサル)のアーティストになりたいと思っていました。それが結果としてfripSideで叶ったのは嬉しかったですね。
――確かにspoonのオーディションとなった“リスアニ!AUDITION”自体も八木沼悟志さんプロデュースでした。ジェネオン~NBCユニバーサルの系譜を見ても、真音さんは川田まみさんをリスペクトしてたと思うし、まみさんが引退されたあと、その意思を継承された。それと同じように真音さんの意思を真央さんが継承するようにも見えるんですよね。
上杉 勝手にライバル視していましたけど、そういう想いが一番の原動力になるじゃないですか。「真音さんに追いつきたい」「一緒のステージに立ちたい」をという思いを持ち続けられたのは、真音さんがずっと第一線で活躍されて、私の憧れの存在としていてくださったからだし、だからこそ絶対に追いつきたいという気持ちにさせてくれた。その力をくれたのが真音さんなんですよね。
――そんな想いは今回のデビュー曲である「ゼロ・イグニッション」にも表れていると思います。まずはこの楽曲を受け取ったときの感想を教えていただけますか。
上杉 作曲・編曲が藤間(仁)さんという、ザ・Elements Garden楽曲なんです!私がいちファンとして色んなアニソンを聴いていた時期に、「これめちゃくちゃ良いな、誰が作っているんだろう?」と思った曲がElements Gardenの楽曲ばかりだんですよね。自分がソロシンガーとしてどんな曲を歌いたいかと妄想していた時からいつかElements Gardenさんの曲を歌いたいと思っていたんですよ。「それがこんなに早く叶っていいの……!?」って。
――そこでも驚きが先行してしまったと。
上杉 そうですね。びっくりしましたし、もちろんずっと好きだった方々の曲を歌えるというのが素直に嬉しかったんですよね。それに楽曲を聴いたらやっぱりすごく良かったんですよ。「なにこれかっこいい!絶対歌いたい!」って。だから絶対失敗したくないみたいな気持ちもありましたし、レコーディングまでもかなり準備をして。
――事前にイメージを作り込んでレコーディングに挑まれたわけですね。
上杉 この曲をどう歌いたいか、どう歌うべきか考えるためにもちろん事前にゲームもプレイして、この作品に沿った歌にするにはどうしたらいいのか?と考え作り込んでいきました。その一方で、ソロ活動なので、fripSideの時よりも「自分がどうしたいか」というところがさらに求められるんだろうなというのはすごく感じていて。
――そこは方向性がしっかりしている、かつツインボーカルという現在のfripSideとはまた違いますよね。ソロアーティストとして自分をどう見せていくかが第一になるというか。
上杉 そうですね。やり方は色々あると思うんですけど、私は事前に準備をしないと不安になってしまうタイプなので、歌い方もいくつかパターンを考えて現場に向かい、自分から提示をさせていただきました。そこで、藤間さんからも「こういうパターンはどうですか?」と、私がやりたい方向性を尊重していただきつつも別の角度から提案をしていただいて。なので、「一緒に作り上げていった」という印象がありますね。
――一方で桑島由一さんの歌詞に対するアプローチはいかがでしたか?歌詞を読むとサウンド同様に非常に強い言葉が並んでいます。
上杉 「過酷な環境の中で、それでも自分の中の正解を目指して強く生きていく女の子」という作品に対してのイメージがあったので、強さという部分は絶対に表現したいなと思っていました。
――そこが真央さんの本来のパーソナリティでもあるし、目指してきたアーティスト像なのかなと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?
上杉 そうですね、強い女性になりたいという憧れはあるので、自分自身の憧れる気持ちというものも重ねて、それを表現できればとは思っていました。
――そうしたレコーディング環境でしっかりと自分を持つというのは、ここ約3年のfripSideでの経験も活きているのでは?
上杉 それはもちろん。これまでfripSideでたくさんレコーディングさせていただいたので、その経験で得た強さというものは多々あります。ソロであろうとfripSideであろうと、求められることに応えるというのは同じなので。fripSideのレコーディングを通して積み重ねてきた経験は大きいですね。
――そうしたうえで改めてこの「ゼロ・イグニッション」を聴くと、真央さんのクールなイメージもありつつ、熱さというものが添加された印象です。例えばサビでの“もう 離さない!”というフレーズは特に。
上杉 このフレーズは、レコーディングで何テイクも録らせていただいたんです。色んなテイクを並べたうえで、フロントウィングのスタッフさんから「こっちのテイクは荒いけど、すごく感情が出ているから僕はこっちを選びたい」みたいにおっしゃっていただいたんですね。その時の私の感情的な部分というのを大事にしてくださって、すごく嬉しかったのを覚えています。
――感情的な部分ですか。
上杉 今回の曲調がそういう感情的な部分を表現する曲だというのもあるし、正確さよりも感情的なところを選ぶところが、私がソロでやりたかったことだと思って。
――ちなみに本作はすでにTVアニメで流れていますが、ソロアーティスト・上杉真央の楽曲がアニメ主題歌としてテレビから流れた感想はいかがでしたか?
上杉 もちろんfripSideの時もすごく嬉しかったです。やっと歌手になれて、fripSideという歴史あるユニットでのボーカルを受け継ぐことができて、しかもこんなに素晴らしい楽曲で。それに対して今回は「上杉真央」という名前がクレジットに出るわけで……やっぱり嬉しかったですね。
――確かに、「上杉真央」という名前がテロップに載るわけですからね。
上杉 さすがに親にも連絡しました(笑)。
――fripSideの時は教えていなかったそうですね(笑)。
上杉 「dawn of infinity」の時は、fripSideと書いてあるだけでしたし、それこそあの時は誰が歌っているかも伏せられていましたから。
――確かに。あの時はまだ南條愛乃さんが卒業する前で、第3期のボーカリストがお披露目する前でしたね。
上杉 そうなんです。あの時は事前に誰にも言えないなかでのデビューでしたからね。でも今回はデビューの時からちゃんと言えるんですよ!それは親に言わないとですよね(笑)。
SHARE