REPORT
2025.01.29
2025年1月5月、埼玉・大宮ソニックシティ 大ホールにて、声優・堀江由衣による全国ツアー“堀江由衣 LIVE TOUR 2024-2025 文学少女倶楽部Ⅲ~The Walking YUI~”のツアーファイナルが開催された。2024年7月にリリースされた、再び夏の風景を淡い筆致で描いたアルバム『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』を伴うステージは、映像とパフォーマンスを合わせた実に堀江由衣らしいコンセプチュアルなものに。途中驚愕の展開を見せながら展開される圧巻のステージの模様をレポートしよう。
TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 草刈雅之
年明け早々ながら大勢の観客が詰めかけた、ツアーファイナルの地・大宮ソニックシティ。会場が暗転するとステージ背後のスクリーンには、文学少女倶楽部の面々が学校に集まるシーンが映し出される。夏合宿ということで、夏休みの閑散とした校舎に部員である文学少女帯(バンド)と踊りっ娘倶楽部(ダンサー)が紹介されるなか、なぜか部員たちはそれぞれ合宿に向けてレモンを持ってきている。そのなかでこの日の主役であるほっちゃんもまたレモンを手にしていて――。
そんな、“これはとある文学少女の一日”と記されたオープニング映像が流れたあと、いよいよライブが幕を開ける。冒頭に鳴らされたのは『文学少女の歌集Ⅲ』に収録された「Love me Wonder」だ。夏の高い青空と大きな雲を思わせる広がりのあるバンドサウンドが鳴らされた瞬間、ステージ後方にある校舎の屋上をイメージした高台から夏服姿の堀江とダンサーが登場。手には映像と同じくレモンが握られている。キラキラとしていてドラマチックなバンドサウンドのなかで堀江の声が心地良く響けば、本当に夏が始まったかのようなワクワク感が胸に去来する。そして同じく夏の青空のように青一色のペンライトで埋め尽くされた客席では、劇団ほりえ(=観客)も大きな歓声を送っている。そんな最高の夏のスタートから、続いては同じく夏をコンセプトにした『文学少女の歌集』収録の「光の海へ」に。こちらもダイナミックな演奏とダンスが印象に残る一方で、堀江の澄み切った歌声が光る1曲だ。
最初のMCで堀江が「文学少女倶楽部の夏合宿へようこそー!」と言うと、客席から大歓声が起こる。この夏を楽しもうとウキウキしている劇団員に向けて、周りを気遣った合宿参加を促しつつ、「とにかく、今日は楽しい夏合宿にしていきましょう!」と堀江が宣言して続いての楽曲へ。楠瀬拓哉の軽快なドラムの音から始まったのは「笑顔の連鎖」だ。序盤から名曲が登場し、観客も歓声と共に熱烈なコールをステージ上へと送る。堀江の澄んだハイトーンも心地良く、そこに土屋雄作のバイオリンの音色も添えて、感動的な空間が演出される。そこからこちらも岡崎律子詞曲の「Romantic Flight」へ。ゆったりとしたテンポのなかで響く甘酸っぱいボーカルとコーラスが心地良く、涼しい風が吹く夏の午前を思わせる清涼感たっぷりな時間が続く。終盤、ステージ背景の色が青空から夕暮れへと変化していく演出も実に美しかった。そのあとはメンバーがステージをあとにして、幕間映像が流れる。文学少女倶楽部ツアーではおなじみの熊田先生が、レモンを甘く食べようと科学部の薬を使用するというシーンなのだが、ここで熊田先生はレモンを甘くする薬ではなく、誤って別の薬を飲んでしまう。そしてこれが、夏合宿をとんでもない展開へと導いていくのだった……。
そんなことはつゆ知らず、ステージ上では、夕暮れの屋上に立つ堀江と共に「水色と8月」がスタート。穏やかな導入で聴かせる堀江のボーカルも美しいが、そこからバンドが加わってドラマチックな展開を見せる終盤も素晴らしい。1曲の中でグラデーションのように表情を変えていく堀江のさすがな表現力を堪能したあとは、再度幕間を挟んで「夏の約束」へ。こちらは疾走感溢れるサウンドの中で、熱量の高い歓声と共にノスタルジックなメロディを聴かせる。
続いての幕間では、ストーリーもいよいよ急展開を見せる。陽も暮れて夕食の準備やお風呂などを部員が分担するなか、ほっちゃんは出前(クーマーイーツ)の電話をする部員についていき、職員室で熊田先生がこっそり隠し持っていたハチミツをみつけることに成功。しかし職員室からの帰路の途中、ほっちゃんと部員は熊田先生のようなおばけの襲撃に遭う。爽やかな夏合宿は一転して不穏な空気へと変貌してしまったのだ。
ステージ上では制服姿から普段着へと衣装チェンジした堀江と踊りっ娘倶楽部による「Dance Meets Girls」がスタート。『文学少女の歌集Ⅲ』収録の踊りっ娘倶楽部をイメージしたダンスナンバーで、エレクトロニックなサウンドの中で5人が披露する息の合ったダンスが実にキュート。続くスタイリッシュなシティポップ調の「君とさよなら」でも見事なダンスを見せていく。そのあとの幕間映像では、クーマーイーツの注文が到着したのだが、中を開けて出てきたのはカレーの材料。そこでほっちゃんたちは校庭でカレーを作ることに。するとステージ中央では実際に焚き火とアコースティックセットが登場し、ここからは映像とステージ上がよりシンクロする展開へとなっていく。アコースティカルな「小さじ一杯の勇気」では、映像の中でほっちゃんが職員室からくすねてきた熊田先生のはちみつと、お正月ということもあって餅を入れたほっちゃん特製カレーが完成。そこからの「Good morning」では、劇団ほりえも加わって一緒に合唱。まるでキャンプファイアーの様相を呈してきた。そんなほっこりムードの中で堀江から恒例のコール&レスポンスへ。客席との「性別」「巳年」「1月生まれ」「血液型」というお馴染みのものから「銀行」「支払い方法」と一風変わったものまでたっぷりコミュニケーションをとったあとは、こちらもライブアンセムの「スクランブル」へ。コール&レスポンスで喉もすっかり温まった客席から盛大なシンガロングが聴かれるなか、途中で堀江がステージから消える。その間ギター&バンマスのエンドウ.がメンバー紹介をし、「スクランブル」が鳴らされると、なんと2階席から堀江が登場。会場全体がさらなる熱狂に包まれるなか、ライブも最高潮に……と思ったら、突如映像から飛び出すようにステージ上にゾンビ化した熊田先生と生徒たちが襲来、楽しいライブは一転してシリアスな方向へとシフトしていく。ゾンビとKEEP OUTの黄色いテープが貼られた鉄扉3枚がステージに登場するなか鳴らされたのは「インモラリスト」だ。堀江は扉の中に入ったり出たりしてゾンビの追跡を逃れながら歌う。ストーリーと楽曲が融合した見事な演出だ。
続いての幕間映像で、やっと事態を把握した部員たち。助かるにはゾンビが消滅する朝を待つしかない。そんなシリアスなムードの中で、ステージ上では「遠雷」が響き渡る。メロディアスかつスピーディなサウンドを聴かせた、名曲「Love Destiny」へと続いていく。もちろん客席は一気に赤いペンライトを灯すのだが、これもまた緊張感溢れる現状と相まって独特な雰囲気を醸していて、ステージ上の土屋のバイオリンも美しいながらヒリヒリとしたムードを演出する。
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