これこそが“2024年の集大成”のステージだ――そう自然と感じさせられたのが、芹澤 優が12月22日にZepp DiverCity(TOKYO)にて開催した、“Yu Serizawa 5th Live Tour 2024 ~My Room Fantasy~”東京公演。個人としてもユニット・i☆Risのメンバーとしても駆け抜けてきたこの1年間でさらに磨きをかけたダンスにパフォーマンス、そしてボーカルワークをもってファンを魅了しながら、最後の最後までとことん一緒に楽しみ尽くしたライブを形にしてくれた。本稿では、昼夜2回公演のうち夜公演の模様をお届けする。
TEXT BY 須永兼次
PHOTOGRAPHY BY 上飯坂一
ファンが会場内を埋め尽くすなか開演時間を迎え暗転すると、SEを用いて雑踏の中からドアを開けて“帰宅”する様が表現され、“部屋”の明かりをつけて芹澤が登場。キーボードの前に座って「冒険でしょでしょ?」のサビ部分を弾き語りで歌うと「My Roomへ、ようこそ♪」と一言告げて指を鳴らし、SEが流れるなかバンドメンバーが入場。彼女が声優に憧れるきっかけとなった作品のOP曲に続く形で、ソロデビュー作のリード曲「Voice for YOU!」が幕開けを飾る。
盛大なコールを受けながら、とびっきり嬉しそうに笑顔を咲かせてパフォーマンスしていく芹澤。序盤から隙を見つけては指を差しながら前に出て観客にレスをしたりと、千秋楽を楽しみ尽くそうという姿勢を前面に出していく。2コーラス目の上手側から下手側に向かってゆっくりと歩きながらのステージングは非常に堂々としたもので、彼女のアーティストとしてのスケールの大きさを感じさせる。そこに続いた「ハウ?トゥ!パーティー☆」では、肩の力が抜けていながらもしっかりと伸びのある歌声で楽曲を彩り、バンドメンバーとの絡みも交えて“部屋中”のファンとの楽しいクリスマス&バースデーパーティを繰り広げていく。さらに「デビきゅー」では、キュートで表情豊かなパフォーマンスを通じて“小悪魔的”な魅力溢れるステージを見せ、オーディエンスの心を奪っていく。特にこの曲では、2サビ明けのダンスパートでの脚の振り上げや跳ね方がいつもよりもいっそうダイナミックで、ステップにも軽やかさがあった。
この日最初のMCでは、改めてライブの「私の家にみんなを招く」というコンセプトを説明し、バンドメンバーを家族に見立てて紹介。ちなみに芹澤自身は、自らが声優を夢見始めた頃である中学2年生、という設定とのこと。そして「ここから、ガシガシ盛り上がる曲歌っちゃうんですけど!」と予告してからの「神×太陽×サマーパーティ」では、冒頭のセリフ部分を「色々あるけど、結局、優が一番楽しいってことだよ!」と替えてスタート。ここでも観客を煽りまくってコールを上げさせ、“サマー”に匹敵せんとするレベルのアツさをもたらす。その一方で落ちサビを甘く歌って、直後のセリフではファンをメロメロに。その甘さを引き継ぎ、曲全体を通して発揮したのが「まさか恋してる?」。サビ前にはハートマークを両手の指で描くなどいじらしさのあるパフォーマンスをみせ、キュートに振り切った歌声との相性は抜群。ここでも「お願い!!」のセリフでハートを撃ち抜いていく。一方、自身作詞曲の「カラクリズム」では、2コーラス目序盤にみせたスピンなどパフォーマンスにおける軽快さはそのままに、メロディアスなファンク調のナンバーに等身大の魅力を感じさせる歌声を乗せていき、ライブ前半のアクセントとしていた。
曲明けには、改めて観客からのコールをイヤモニを外して受け取るなどしてコミュニケーションを取っていくなかで、「みんなに言いたいことがあるんです!」と切り出そうとする芹澤……が、「アニメの録画、観て消さないと親に怒られちゃうー!」と慌ててステージを降りてしまう。取り残された“家族(=バンドメンバー)”がラジオを再生すると、場内では「My Room Radio」なる番組がオンエアされ、それに合わせて再登場した芹澤によって「SERIKO’S MEMORIAL BEST3」なるコーナーに見立てて、秋月マキシ(『犬とハサミは使いよう』)の「レモネイドスキャンダル」からキャラソンメドレーがスタート。レモンを模したサインボールを投げ入れながら瑞々しい歌声を響かせて、そのまま今度は「ぷりっとぱ~ふぇくと」へ。歌声を思いっきり南みれぃ(『プリパラ』)らしいぶりっ子に振り切らせながら、盤石すぎるダンスパフォーマンスでさらにフロアを盛り上げると、コーナーの最後は再びマキシの「outshine」へ。ここではパフォーマンスには麗しさを、歌声にはパワフルさを持たせ、凛とした表情で堂々たるステージング。往年の名キャラソンを今持つスキルを駆使して届けてくれた。
そのスペシャルなゾーンを終えた芹澤は、改めてこれまでの足跡を振り返り始める。そこで「最初は『目指してたものと違う!』と思う活動もあったけど、今回のライブは一生懸命歩んできた道が全部詰まっている、最高のものだと思ってやっています」と語ると、改めて“伝えたいこと”として、一緒に歩んできたファンへの「ありがとう」と「大好き」の気持ちを込めて作詞した曲、「告白」の歌唱へ。客席を埋め尽くすファンへと、その1人1人に想いを手渡しするかのように視線を交わしながら、1つ1つのフレーズを大事に歌う芹澤。2サビ後には明かりが落ちるなか下を向き、さらに曲に没入すると、落ちサビでは込み上げてくるものを溢れさせそうになりながらも堪えて想いを“歌”としてしっかりと伝えきり、「ありがとー!」と言い残して駆けてステージから去っていった。
そして、バンドメンバーの紹介とセッションタイムを経て、黒の衣装にチェンジした芹澤が登場し「Revelation」からライブ再開。自身が歌詞を紡いだこの曲に今ならではの葛藤や想いを乗せて力強い歌声としてぶつけ、前半とはまた違ったアングルから心を捉えていく。この確固たるボーカル力があるからこそ、彼女はトータルとして満足度の高いステージを実現させられるのだろう。続く「No Regulation」はガイコツマイクを使ってよりハードかつロックに見せつつ、歌声も曲や見せ方と合わせたさらにラフなものに。途中でマイクスタンドを蹴り倒すパフォーマンスを交えるなど、こちらでも前半とはガラリと雰囲気を変えたステージを披露する。歌唱後の一瞬の静寂が、その空気に会場中が圧倒されていたことを物語っていた。その余韻残るなか、切れ味鋭くスタイリッシュなダンスパフォーマンスを通じ、かっこ良さで魅せるステージを展開してみせたのが「BLUE ROSE」。歌声の力強さも相まって、この曲で発信される“強い女性像”にさらなる説得力が生まれる。Dメロの歌声にぐっとこもった力にも、今日ならではの気持ちの乗り具合が表れていたのだろうか。
そんな力強さをみせる楽曲たちの後には、「好きすぎてこの歌!」と紹介したキャラソン、猫足 蕾(『ワールドダイスター』)の「不可逆的運命ディストピア」の歌唱へ。スタンドマイクを使って、エレクトロスウィングに合うよう麗しくアプローチ。それでいて、重めのバンドアレンジにも負けない歌声で場を支配し、ファルセットも巧みに使ってサウンドにマッチした妖しさとかっこ良さで巧みにキメてくれた。それに続いたのは少し大人でメロウなバラード「Close to you」。サウンドにたゆたうように、力を抜き気味にナチュラルに歌いつつ、心の機微や切なさを感じさせていく芹澤。艷やかさもある振付と共に、切なさをほのかに感じさせて、ゆったりとした曲でも印象を刻み込む。
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