声優デビュー20周年を迎えた寺島拓篤が、自身でシナリオを描き下ろした物語からはじまる音楽で紡ぐコンセプトEP『ELEMENTS』がリリースされる。
タイトルから想起されるように、火、水、風、土、光の5つのエレメントをテーマに作り上げられた楽曲によって構成される本作の軸となるのは、完全新作アニメーション『転生したらスライムだった件 コリウスの夢』のOP「ヒカリハナツ」。その光のエレメントが繋いだナンバーを引っ提げ、久々のライブツアーも決定している。
今回は、はじめて手掛けたシナリオのこと、サマエルを務める驚きのキャストのこと、そして想いを込めた5つのエレメント曲について寺島拓篤に話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
――声優デビュー20周年を迎えられました。ご自身もオタクである寺島さんからご覧になってアニメ業界のこの20年はどんな時間でしたか?
寺島拓篤 すごい過渡期だなって感じがします。どこを切り取っても新時代な気はするのですが、またひとつの新時代に突入する直前にあるような、まだ進化の途中なのだと思います。それはCG技術にしてもそうだし、CGに負けまいと作画の方もいろいろな演出方法や見せ方、そこからの撮影や仕上げの技術もますます向上しているので、アニメという芸術がずっと進化している途中に今、いるなと思っていて。そのなかで僕自身も関わっていく声優という人間として、その進化の過程にちゃんと力添えできているといいなと常々思っています。音也や冬馬といった歌で表現することを仕事にしている人を演じるというのが、割とその進化にひと役買っているのではないかなと勝手に思っているんですよね。僕らは表現者だし、画面の中にいる彼らも表現者だし。表現者を表現するってすごく難しいなって思います。僕は今、アイドルをあげましたけど、絵を描く人、音楽を作る人もそうですし、ほかにも芸術、文化を表現する人って、アニメっていうフィクションのなかだけど、その中で我々の思っている芸術文化と共通するものがいっぱいあるからこそ、いかにリアリティを持って画面の向こうの世界に命を感じさせるかが課題になっているなって僕は思っています。
――今回のコンセプトEPもまたとても新しいことをやっていらっしゃるなと感じます。まずはこの作品の制作構想はどのようにして生まれていったのでしょうか。
寺島 僕がライブをするときにはフルアルバムを作って、それをもとにライブをやる、という流れが多いのですが、そろそろライブをやりたいけれどアルバムを出すタイミングでもないし、それならミニアルバムとかコンセプトアルバムとか作れないかなと思ったんです。今ならずっと頭のなかで構想を続けてきたことを形にすることが出来るかもしれない、と僕の中で思い至って。それと同時にデジタルリリースだけだった「ヒカリハナツ」という存在があって、なんとかしてCDに収録したいなという想いがありました。この曲を軸にして、5曲くらいのコンセプトミニアルバムが出来たらいいな、光を加えて5曲か、と思考がとんとん拍子で進み、五大元素にいきついたんです。ずっとコンセプチュアルな世界を作りたいって考えてはいたんです。たとえば星座とか季節とか。「ヒカリハナツ」がデジタルシングルだったことで、そこを起点にやりたいことを一つの形にできるいいタイミングだったのかなと思っています。
――エレメンツが浮かぶのも「ヒカリハナツ」だったからですよね。
寺島 そうですね。今までも光とか星をよくテーマに掲げてはいますし、一つ前のアルバムでも「光の在処」というタイトルの曲があります。「また光か」って思ったんですけど「それでもこれは『ヒカリハナツ』なんだよな」とつけたタイトルだったので、ここでまた別の意味を持って活かせたのは嬉しい偶然でした。
――そもそもこれまでの楽曲も、ある種二次創作をするように作ってこられた寺島さんですが、今回EPへと導くボイスドラマ「サマエルとの邂逅」はまさしくゼロから寺島さんが作り出した物語。制作はいかがでしたか?
寺島 今までの二次創作に比べたらゼロからという感覚はありました。これまでも二次創作でやってきましたし、今回も発想の起点としてはいくつか基になっているものがあります。サマエルもそうなんですよね。自分の声優活動20周年というものを振り返ったときに、今回のお話の起点になるような役だったり、自分自身の人物像だったり、いろんなものが見えてきたからこそできた。ある意味、「寺島拓篤」という存在で二次創作しているような感じなんです。自分自身のことながらちょっと客観的すぎる気がするのですが、そのなかでどういうストーリーにしようかと二転三転させましたし、最初はサマエルの存在ももうちょっと違っていました。他にももっとたくさんキャラクターを登場させてもっといろんな役者さんにお願いしたいなとか、いろいろな構想があったのですが、検討を重ねて今のかたちに落ち着きました。
――サマエル役にはSnow Manの佐久間大介さんを起用されていますが、その意図をお聞かせください。
寺島 声優を20年もやっていると時代も変わってきていて、自分も先輩になって、新しい子たちもいっぱい出てきていて。これからの声優の子たちのこと、これからの声優業界のことを考え始めている、考えなきゃいけない年でもあるんですよね。同じくらいの年齢の人たちと話をしていても、今の若い子たちへ向けて教えたり見せたりしていかなければいけないのかなという話をすることが増えてきたんです。そのときに自分の看板でやっているコンテンツだから、好きにキャスティングできるよなって思って。今の若い子たちってソシャゲなどいろんなコンテンツのなかで芽吹く瞬間って結構準備されていると思うんですけど、そのなかで畑の違う佐久間くんにこそ芽吹く機会を与えてあげたいなと思って、彼にオファーしました。彼のことは後輩の若手声優だと思って、今回はお願いしてみた感じです。
――普段手にしていた、いろんな人たちが書かれていた“脚本”という形で、ご自身の頭の中からアイディアを詰め込んでいく作業はいかがでしたか?
寺島 むちゃくちゃ難しかったです。脚本家の方たちを改めてすごく尊敬しました。一行書くだけでも結構苦労するというか。僕は物書きをしたことがほぼなかったも同然だったので、台本のフォーマットもわからず、自分が今までやらせていただいたドラマCDの台本など、手元にあるものを見ながら「なにがどうなったら読みやすい台本だろう」と改めて向き合いました。直近でいただいていたものも2、3種類くらい見直したのですが、どれもこれも違っていて、それぞれが脚本家さん、制作さんごとに見やすいように工夫してくださっているんだなと感じましたね。もちろん中身に関しても、どういう言葉使いをして、どうセリフを運んだら、おかしくならないだろうとか。結局設定もしっかり作ったオリジナルストーリーなので、これをまず説明しないといけないんだよなと思うと、どうやって無理のない説明が出来るだろうかと悩んだんです。僕のナレーションベースでやるのか、それとも佐久間くん演じるサマエルがナレーションをするのか、はたまた会話のなかでいっぱい話をするのか。バランスはどうしようかと結構手直しもしましたし、一度は途中まで書いたものを「やっぱり違うな」とやめたりもしました。たった15分の、この短いストーリーなのにこんなに大変なんだっていうのはすごく実感しました。普段やらせてもらっている60分くらいのドラマCDを作っている脚本家さんはこんな大変な想いをしているんだと改めて感じたので、向き合う姿勢がまたひとつ変わった感じがします。
――アフレコはいかがでしたか?
寺島 面白かったですね。声優以外のお仕事もやる表現者のボイスドラマの原稿読みってこういう感じなのか、という新しい発見もありましたし、新鮮なものはいっぱい見つかったなと思いました。僕は今現在になってようやく、『創聖のアクエリオン』の第一話を見て、当時の自分に「こんな若手が来たら面白い」と思えるようになったんですよね。ちょっと前までは「きついな」って思っていたんです。「これはしんどいな。ちょっと見ていられないな」って。ようやく「声優っぽくないセリフを話していて、すごく粗削りだけどなんかいいな」って思えるようになった。過去の自分をほめるのも変な感じなんですけど、その時の「この若手いいな」って思えるような感覚が佐久間くんにもありました。佐久間くんのほうが当時の僕よりもはるかに上手なんですよね。悔しいことに。「こいつ、普通にうまいな。どうしたらいいんだ?」っていうふうになりました。アフレコに行くときには「佐久間くんにどんなアドバイスを出来るかなぁ」とか「変に先輩面しないように、しれっとアドバイスしよう」とか思っていたら、なにもアドバイスすることはなくて。悔しかったです。そんな中、こうしたらクオリティがアップするよっていう、僕なりの発見点を佐久間くんに少しずつ伝えながら、彼の用意してきたものを大事にして作っていくことが出来たので、それはすごく新鮮な体験でしたね。難しかったですけど。
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