――亜咲花さんはこれまで『ゆるキャン△』のTVシリーズの主題歌はもちろん、映画やゲーム主題歌も歌われてきましたが、今回はEDテーマ担当ということで、どんな心構えで臨まれましたか?
亜咲花 音楽に対する向き合い方が正反対でした。オープニングはキャンプに行く前のドキドキ・ワクワクをテーマにして歌っていたのですが、佐々木恵梨さんがこれまで歌われてきたエンディングは、来週にバトンを繋げるようにちょっと余韻を残すような印象がありました。それを今回自分が担当することになり、引き算をするという意味での苦労がありましたね。
――楽曲作りにおいて佐々木さんや中村ヒロさんとはどんな打ち合わせをされましたか?
亜咲花 今回の「So Precious」において打ち合わせはまったくありませんでした。楽曲を受け取ってから初めて佐々木さんたちが作ってくださったことを知ったんです。
――では、歌詞が“SHINY DAYS”から始まっているのも……。
亜咲花 このフレーズにはあとから気付いて、なんだか大きなことやってるぞと(笑)。音源とともにいただいたので、最初は音楽のほうに意識が向いて、歌詞には目が向かなかったんです。これは今まで「SHINY DAYS」のように楽しく過ごしてきたあと、帰りに聴いてほしいという意味合いで入れてくださったそうです。もし事前の段階で私が楽曲制作に関わっていたら、まったく違った形になっていたかもしれません。
――では、その音楽面での印象から伺います。
亜咲花 音楽でイメージしたのは夕焼けの風景です。恵梨さんが歌われてきた『ゆるキャン△』の曲は、夜空の下で焚き火に優しく包まれてキャンプするとか、「ふゆびより」であれば朝日が昇っていく感じが象徴的だったので、今回は夕方できたか!というインパクトが大きかったです。「今日も良い1日だったね」だけでなく、楽しい時間が終わってしまう切なさが入っているにもかかわらず、悲しいバラードではない。恵梨さんはバランスを取るのがなんとお上手な方なんだなと思いました。でも後ろの音が元気で、その寂しい歌詞に引っ張られてないところが、バランスを取るうえで大事なところだと思いました。
――サビで温度を高めすぎないところがエンディングらしいなと感じました。表現上、どんな工夫をされましたか?
亜咲花 私が歌う曲はいつも頭から100%全開なので、バランスを取るのが大変でした。今回は気持ちを押し殺してボーカルの主線を薄くし、後ろのアコースティックギターの音を立てるくらいの気持ちで歌いました。でもサビのところを聞くと、リズム隊は意外としっかり鳴ってるんですよね。バラードと言いつつも、意外とバラードバラードはしてないところが、亜咲花らしさが出ている一番のキーポイントなのかなと思います。
――特にこの曲でお好きな部分はどこでしょうか?
亜咲花 『ゆるキャン△ SEASON3』ではみんなの将来の分岐点となる手前を描いてるんですよね。出会いと別れ、色々あって、月日が経ってもあなたと過ごした時間はすごく儚くて特別なものなんだよ、という想いをサビではなく、Dメロに持ってきています。一番伝えたいメッセージはきっとあそこだと思うんです。それがまた恵梨さんの粋なところ。この歌詞は切なさを感じながらも、別れがあって強くなった自分もいる。最終的にはポジティブに導くような歌い方をしているので、そこに注目しながら聴いてほしいですね。
――レコーディングはいかがでしたか?
亜咲花 恵梨さんにレコーディングでディレクションをしていただくのは、今回が初めてでした。エンディング曲を歌うことはほかの作品でもありましたが、『ゆるキャン△』で歌うとなるとなかなか気持ちが追いつかなくて、20~30テイクは録りましたね。恵梨さんのレコーディングは優しいんです。否定することはなく、「それも良いね、こっちもやってみようか」みたいに良いところを伸ばしてくれます。そこで自分が何をしなければいけないかは、頭でも体もわかっていたんですが……なかなか追いつけなかったですね。
――それはどんな理由からでしょう?
亜咲花 恵梨さん的には十分に亜咲花イズムを入れて作っていただけたのですが、やっぱりこれまでのエンディングアーティストとしての恵梨さんの像があって「恵梨さんだったらこう歌うだろうな」と私の中に聴こえていたんです。それを出さないように頑張る必要がありました。もしかしたら、アニメを観ている皆さんにとってはエンディングを引き継ぐという意味で、恵梨さんっぽく歌うほうが、違和感がないのかもしれません。ただ、恵梨さんイズムがすでに作曲面で表されているところに亜咲花が寄り沿いすぎてしまうと、「恵梨さんが歌えばいいじゃない?」となってしまう。それだと恵梨さんにとっても私にとっても意味がなくなってしまうので、あえて今までの『ゆるキャン△』を振り返らずに、「今回、亜咲花はエンディング担当である」ということだけに集中しました。
――亜咲花さんがエンディングを歌う存在意義をしっかり確立させる必要があったわけですね。
亜咲花 その通りです。「亜咲花はエンディング担当に“なっちゃった”」とは思ってほしくなかったんです。エンディング担当だからこそ出せる亜咲花の力、届けられる音楽が必ずあると思っていたので、ポジティブに受け止めて欲しいなと。とやかく言うよりも音楽で伝えるのが歌手の仕事ですから、そこをわかってもらいたいという気持ちで歌っています。
――エンディングの担当になったからこそ表現できたこともあったことでしょう。
亜咲花 はい。久しぶりに「『ゆるキャン△』のエンディングとは何だ?」と、作品から紐解いていく作業をしました。これまで良くも悪くも私は甘えていたんでしょうね。「『ゆるキャン△』のオープニングはこう」だという定義が自分の中で出来過ぎていて、その上に乗っかって各曲の解釈をしていたんだと思います。
――そこを見つめ直すきっかけになったという。
亜咲花 そうです。楽曲の情報量は多かったんですけど、曲自体はとてもシンプルで伝わりやすい内容で、響きやすいのが特徴でもあるので、新生活を迎える皆さんにとっては出会いと別れもあるなか、背中を支えてあげられるような、応援ソングとして聞いていただきたいなと思っています。
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