優しさと強さを併せ持った“シルキーボイス”がトレードマークのシンガー、佐藤ミキが、待望の1stアルバム『Silky』をリリースした。2020年12月、TVアニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』のEDテーマ「名もない花」でデビューした彼女。その後も「You & Me」(TVアニメ『裏世界ピクニック』EDテーマ)や「ドラマチック」(TVアニメ『女神のカフェテラス』EDテーマ)といったアニメタイアップを含む、様々なタイプの楽曲を歌ってきた。本作ではそれらの既発曲に加えて、地元・北海道のパワーと自身の心境が反映されたリード曲「モノローグ」をはじめとする新曲を収録。彼女のこれまでの軌跡と今が詰まった作品になっている。そんなアルバムに込めた想いについて、北海道からのリモートインタビューで答えてくれた。
INTERVIEW BY TEXT BY 北野 創
――デビューから3年、ついに1stアルバムが完成しました。
佐藤ミキ ようやくです。本当に私のこの3年間の活動のすべてが入っているような一枚になりました。私はバラードからスタートして、色んなスタイルの音楽をやってきたので、それを一枚にまとめたことで、活動を振り返られると同時に面白い作品になったと思います。
――この3年は、佐藤さんにとってどんな時間でしたか? アーティストとして、あるいは個人として、変化や成長を感じることもあったと思うのですが。
佐藤 デビューしたときはちょうどコロナ禍で、活動に制限がある状態だったので、最初は「この状況を乗り越えて、やるしかない!」という気持ちで活動に取り組んでいたのですが、今思い返すと、ちょっと麻痺していたなと思うんですね。もちろんコロナ禍の状況でも自分ができることはやっていましたし、デビューの翌年にはワンマンライブも開催できたのですが、2023年に規制が緩和されて、本来のライブや音楽が戻ってきたことを実感したなかで、改めて「あのときはしんどかったな」と感じて。「できない環境」がスタート地点だったので、「これが普通」と思おうとしていたんですけど、それはやっぱり普通とは違っていたことを実感できたのが、自分の中の変化としては大きかったです。
――ようやく本来の活動ができるようになったと。
佐藤 音楽面の話で言うと、最初は「強い人間」でいたかったし、「強さ」を表現することでみんなが前を向けるような音楽を届けたい気持ちが強かったのですが、そこから色んな環境や気持ちの変化があって。もちろん「強さ」も大切ですが、私自身が「癒し」のような音楽も好んで聴くようになったことで、「癒し」も人の元気になるんじゃないかな、と考えるようになったのが、今の活動に繋がっていると思います。
――前回の取材でも、北海道の自然に触れるなかで、より自然体の気持ちを大切にするようになった、というお話もありました。
佐藤 やっぱり「強さ」をテーマにすると、自分が「弱さ」を見せてはいけない、という気持ちになってしまうことがあって。そうやって無理をしたり、自分を取り繕ってしまうよりも、素直に自分の気持ちを伝えたりするほうがいいと思うようになったんです。そこからは、自分もすごく楽になりました。ありのままというよりは、あまり締め付けすぎない感じというか、本当に自分の好きなもの、自分がやりたいことを口にしていこうっていう。最初は本当に緊張でガチガチでしたけど(笑)、今はそういう固さは取れたんじゃないかなって思います。
――そういった心持ちの変化は歌声にも表れているように感じます。アルバムの話に戻りまして、タイトルを『Silky』にしたのは?
佐藤 デビューの頃から私の歌声を“シルキーボイス”と言っていただくことが多くて、そこから今回のタイトルを付けたのですが、その意味でも自己紹介のような一枚になりました。私は以前、自分の歌声に違和感のようなものを感じていたんですけど(苦笑)、“シルキーボイス”と言っていただけたことによって、自分だけの個性として受け入れたうえで歌を届けられるようになったので、すごく大切な言葉なんです。
――アルバムを作るにあたって、当初はどのような構想があったのでしょうか。
佐藤 まず、自分の今まで歩んできた道を振り返られるようなもの。それと私のことを新しく知ってもらった方々に対して、「自分はこういうアーティストです」というのが伝わるような名刺的な1枚にできればと思っていました。なので曲順もデビュー曲の「名もない花」から始まって、多少は前後するのですがほぼリリース順に並べることで、私が歩んできた道を順に追っていけるような作品にもなっています。
――TVアニメ『魔法科高校の劣等生 来訪者編』のEDテーマ「名もない花」が1曲目ということで、やはり佐藤さんにとって特別な楽曲なんですね。
佐藤 デビュー曲でもあり、初めて作品に寄り添わせていただいた楽曲でもあるので、すごく思い入れの強い1曲です。
――アルバムの前半は既発曲、後半は新曲を中心に構成されていて、新曲4曲のうち3曲は、上坂梨紗さんが作詞を担当。前回のシングル「ドラマチック」のタイミングからご一緒されていますが、佐藤さんと相性抜群ですね。
佐藤 上坂さんは言葉の選び方がすごく素敵ですし、楽曲によって世界観が違うにも関わらず、「これは上坂さんだな」と感じられるところがちゃんとあって。今回も上坂さんのおかげで素敵な楽曲に恵まれました。
――その上坂さんが作詞した9曲目「ワンルーム・セレナーデ」は、恋人との別れを受け入れたくない女性の複雑な心情を描いた楽曲です。
佐藤 失恋をテーマに作っていただいたのですが、私の中では王道の楽曲です。「名もない花」では〈好き〉だけどそれを相手に言ってはいけない気持ちを描いていましたし、同じく上坂さんに歌詞を書いていただいた「Strategy」(シングル「ドラマチック」のカップリング曲)では、素直になれなくて“サヨナラなんて言わせない”と歌っていましたけど、この楽曲では“ずっとずっと愛してしまいそうだよ”という気持ちを歌っていて。その意味では真っ直ぐな楽曲だと感じています。
――サウンド的には、切なさの中にもドリーミーな雰囲気があって。
佐藤 どこか温かさも感じられますよね。ただ主人公の気持ちを押しつけるわけでもなく、純粋でかわいらしい一面がメロディにも出ているように思います。「好き!」という気持ちを表に出すというよりは、心の中でずっと強く想い続けているような曲なので、歌うときも感情を入れすぎず、でもさっぱりはしていないので、その間を表現できるように丁寧に歌っていきました。
――佐藤さんの楽曲には、失恋や恋愛の切ない心情を歌った楽曲が多いですよね。こういう楽曲は感情移入しやすかったりするのでしょうか。
佐藤 単純にそういう曲が好きなんだと思います(笑)。でも、今挙げた「Strategy」「名もない花」「ワンルーム・セレナーデ」の3曲の中で言うと、多分、私は「ワンルーム・セレナーデ」みたいな気持ちになるんだろうなと思います。私は「Strategy」の主人公みたいに、相手に気持ちがないことをわかったうえで〈サヨナラなんて言わせない〉というような執着心を持てないタイプなんですよ。私、結構、弱いので(苦笑)。もし仮に心の中で「ずっと好きでいちゃうかも……」と思ったとしても、行動に起こすことはできないと思います。
――10曲目の「Dream chasers」はチル&メロウなタッチの楽曲で、グッと大人っぽい世界観が魅力です。
佐藤 これまでも「A KA SA TA NA」みたいなチルっぽい曲を歌ってきましたけど、「Dream chasers」はそれとバラードが合わさったような程良いバランス感の曲になっていて。この楽曲と(12曲目の)「モノローグ」は壮大さがあって、「名もない花」からさらに大人になった感じがあると思います。その2曲はどちらも、迷いながらも歩いていく心情や、着々と前に進んでいく意志が感じられる楽曲にできればと思って、制作しました。
――「Dream chasers」はそのタイトルどおり、夢を追う人の気持ちを描いた楽曲だと感じたのですが、佐藤さんはこの歌詞をどのように受け止めましたか?
佐藤 この楽曲の主人公は、心がきれいな状態で夢を追いたいんだろうなと感じました。「自分は何をやりたかったのか?」「本当は何になりたかったのか?」という気持ちを思い出させてくれる、邪念のない純粋な気持ちを描いた、強い歌だなと思います。
――2番の歌詞“そうだ単純に好きだった 忘れかけてた眩しさを 取り戻せるよ”はまさにそうですね。佐藤さん自身も、共感できる部分はありますか?
佐藤 すごくあります。私は割と揺れやすい性格をしていて、最初に「頑張ろう!」と思ったところから、何か問題が起こったり状況が変化すると、「こうしたほうが良かったのかな?」と考えてしまいがちなタイプなんです。でも、そういうときにふと聴いた音楽の歌詞から「いやいや、違う、自分はこういうことがやりたいんだ!」ということを気づかされて、最初の純粋な気持ちを取り戻すっていう。私は昔からずっとそれの繰り返しです(笑)。
――地声とファルセットを織り交ぜた歌唱表現も素晴らしいですが、どんなことを意識して歌われたのでしょうか。
佐藤 初心に返るからといって、無邪気さを表現するのではなく、大人になったうえでの夢を追う気持ち、自分の純粋な心に戻ってこれるような歌にできればと思いました。Dメロはメロディが大幅に変わったり、どこか揺れるような楽曲でもあるので、ポイントによって表現も変えながら歌いつつ、真っ直ぐなクリアさを保つことで、純粋に夢を追っていたときの気持ちを表現するようにしました。
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