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REPORT

2024.01.10

梶浦由記の足跡を音楽で語った2日間の宴を振り返る――“30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#19 -Kaji Fes.2023-” ロングレポート

梶浦由記の足跡を音楽で語った2日間の宴を振り返る――“30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#19 -Kaji Fes.2023-” ロングレポート

梶浦由記のデビュー30周年を記念してのコンサート、“Kaji Fes. 2023”が二日間にわたって開催された。梶浦が生み出した音楽と素晴らしいミュージシャンたちによって日本武道館はまるで大聖堂のように厳かで壮大、そして多幸感に満ちた空間が作り出された。訪れた人々は皆、音楽と共にある喜びを受け取り、かけがえのない時間を過ごすことができたと同時に、梶浦由記とはいかなる作曲家であるのか、改めて感じ入られる場でもあった。様々な想いとメッセージが込められ、“Fes.”という言葉が慎ましやかすぎると感じる二夜、梶浦由記の足跡を音楽で語った一代記かつ年代記(Chlonicle)そんな“Kaji Fes. 2023”を振り返る。

TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)

「楽しんだ者勝ち」というYK LIVEの宴

定刻、会場が暗くなるとステージの下手側の端をスポットライトが照らし、その先に宮廷音楽家のような装いでアコーディオン奏者の佐藤芳明が現れた。弾き始めたのは「fake garden」。中央へ軽やかに歩きながらアコーディオンの音色をダンスさせ、これから始まるショーへと誘う道化師か妖精のよう。弾き終えた佐藤がステージから去ると、ピアノ越しにボーカルのYURIKO KAIDAの姿が見えた。梶浦由記作品や“Yuki Kajiura LIVE”(以下YK LIVE)で清涼たる声を響かせ続けてきた歌姫が弦四重奏を背に、ショートバージョンの「canta per me」を聴かせる。少しずつ並べられる前菜のように、得難きコンサートが徐々に幕を開け始める。

再び暗転したなか、荘厳なサウンドが流れ、梶浦らメンバーがステージ上に集結する様がシルエットでわかる。バイオリンが協奏し、始まった「the world」。会場からは手拍子が生まれ、ステージ前方にはモノトーンが基調となった衣装のレギュラー歌姫たちが上手から、KAORI、KEIKO、YURIKO KAIDA、Joelleの順に並ぶ。Joelleが伸びやかな声で歌の口火を切り、そして数え切れぬほど揃えてきた四声を聴いたことで観客たちは“Kaji Fes.”が本格的に走り出したことを肌で感じる。さらには次の「Liminality」で、梶浦から“ラスボス”とも称され、10年前の“Kaji Fes.”を筆頭に数々のYK LIVEで会場を圧倒してきた笠原由里の姿を見つけると、これから始まる祭典に心躍る。大海原のように歌声の波が観客席に押し寄せ、武道館がオペラパレスと化した。笠原の下ハモパートを支えたKAORIからの「in the land of twilight, under the moon」は、2つの旋律が並び立つ楽曲。KAORIとKEIKO、YURIKO KAIDAとJoelleが組のように、時に向かい合いながら声を交わしていった。20分に及ぶ一大序章は、レギュラー歌姫もゲストボーカルも登場することを実感させ、『NOIR』と『.hack』シリーズという初期劇伴楽曲を組み合わせたことで、これから梶浦の歴史をたどる旅路が始まることも実感させた。

最初のMCで梶浦は、「皆さん、こんばんは。“Kaji Fes. 2023”、ようこそいらっしゃいました」と挨拶すると、“Kaji Fes.”についてや、梶浦楽曲では音を重視して意味のない造語が歌詞となっていることがあること、「楽しんだ者勝ち」という「YK LIVE」の特徴について紹介していく。そんな梶浦の背後にも話を聞き入る多くの観客が見える。“Kaji Fes. 2023”のステージ上は、中央に梶浦とピアノ、その斜め後方両側には梶浦の楽曲を長年支えてきたサポートミュージシャンたち「FRONT BAND MEMBERS」(以下FBM)、その後ろには一段高くなったステージが半円を描くように設置、という配置になっているが、さらにその後方、通常ならばステージセットやスクリーンのあるスタンドを「バックステージ」として解放していた。ステージとは「(バイオリンの)弦のフレームが見える」ほどに近く、梶浦は演奏するミュージシャンたちの「かっこいい背中」を堪能するように推奨していたが、梶浦自身も登場する歌い手もミュージシャンも、この日はその距離を楽しんでいた。

レギュラー歌姫たちの紹介後、“Kaji Fes. 2023”では出演者全員に向けて「音楽を続けてきて変わったこと、変わらなかったこと」というお題をトークのテーマとして与えていることを伝え、笠原は「オペラを始めてから体が変わってしまった」「(肺活量が多いのでダイビングで)ボンベの酸素量が足りない」という答えを受け取った。

次は、深紅のドレスをまとったRemiを迎えての『ソードアート・オンライン』(以下『SAO』)のターン。フロアタムから始まる「swordland」、16ビートを刻むドラムや間奏のギターソロなどバンドサウンドが盛り上がる「she has to overcome her fear」、間にRemiからトークのお題の回答(変わったことは「夢を叶えたことでますます夢に貪欲になった」)をいただくMCを挟んで、アスナのテーマ曲である「luminous sword」を繋げた。YK LIVEを代表する光景の1つ=KEIKOとKAORIの息の合ったデュオが見られる「星屑」に、KAORIがメインとして赤木りえのフルートに負けじとロングトーンを嘶かせる「花守の丘」まで進むと、歌姫たちは姿を消し、再びアコーディオンがその場をリードした。曲は、哀愁のソロにボンゴやアコースティックギターが競演を見せる「we’re gonna groove」、2日間の中では数少ないインストゥルメンタル楽曲だ。歌姫たちの陰日向となりながらYK LIVEを盛り上げる楽器隊の魅力、ボーカルも歌詞もなくとも歌を感じられるメロディラインが梶浦楽曲の魅力を存分に味わわせてもらった。だが一方で、以前にYK LIVEでも実施されたことのある「Soundtrack Special」、インストゥルメンタル曲中心の公演を心から切望したくなる時間だった。

歌姫たちが戻ると描き出される時代はSee-Sawの頃。梶浦が艶やかなピアノを奏でるとボンゴやギターが加わる「obsession」では高みのステージにLINO LEIAが登場、Joelleを伴いながら徐々に力強い歌声を解き放つ。曲が終わると梶浦の指が鍵盤の上を楽し気に跳ね回る。歌い手は入れ替わり、ritoの瑞々しく生命力に溢れた声で「千夜一夜」が紡がれていったあと、ウインドチャイムが煌めき、チェロがうごめき、次なる曲が客席に献上される。初期劇伴からの曲目が並んだことで、不穏かつ緊迫感のある時間が続くセットリストとなっていたが、再登場した笠原による「Point Zero」、そして「salva nos」はその最高潮で、どこまでも響き渡る声は聴く者を圧倒し、ライブのクライマックスが訪れたような感覚に陥ってしまった。だが、まだ中盤に至ったばかり。ウインドチャイムの音色に洗い流された空間に、黒一色の出で立ちという女性が現れる。一聴しただけでその主が特定できる声と表現力の持ち主、Aimerの登場だった。ステージの下手寄りに立つ彼女が「花の唄」で作り出した唯一無二の空間は、ハーモニーとコーラスワーク、多くの楽器による重厚な音楽の満ちるYK LIVEでは特異な空間だった。だが、梶浦はAimerというボーカリストと出会ったとき、Aimerを際立たせる楽曲づくりに徹した。この日もAimerのための演奏、時間を用意したが、そこに梶浦の卓越したプロデュース能力、音楽的才能を感じる。

気づけば「I beg you」まで10曲連続演奏という怒濤の時間が過ぎ、ようやくのMCに。ぴょんぴょんと跳ねながら梶浦にお祝いを告げるAimerによるお題の答えは、「ライブをやっているときにしか味わえない緊張感、ゾーンに入る瞬間が変わらず好き」。それを聞いた梶浦は、「ライブってビックリするくらい毎日違いますよね。18列目左から3番目のあなたがどんな服を着てるか、2階席1番前に座っているあなたがAimerさんに笑いかけるかで変わる」「ミュージシャンは単純なので3.8倍」はライブが盛り上がると話した。

歌唱前には腕を小さく回して体をほぐしたAimerと梶浦は、ライブ初披露の「櫂」。Aimerがいたから陽の目を浴び、アルバム『PARADE』に収録されたという同曲で2人は、ピアノと歌で会話し、時には実際に視線を交わし、梶浦とAimerは音楽の海へと漕ぎ出していった。Aimerは、自身にとって2023年のライブ歌い納めとなる「朝が来る」をレギュラー歌姫たちと共に歌い上げると、ライブは真逆の方向に舳先を変える。ウインドチャイムの煌めく音が、そしてイーリアンパイプの音色がほぼ全編で響き渡るインストゥルメンタル曲「My Story」へ。

続くMCで梶浦は、お題に対する自身の答えとして、曲を作る際に以前は「何もかも自分の想い通りにならないと嫌だった」が、「プレイヤーさんができる一番かっこいいこと」を求めるようになったら「音楽が8.5倍くらい楽しくなってきた」「人と一緒に音楽を作れるようになった」という変化を教えてくれた。

ここからが1日目のラストスパート。レギュラー歌姫4人が順に持ち味を見せる「Parallel Hearts」からの「stone cold」と通常のYK LIVE同様に観客を沸かせる、ステージが喝采を浴びると梶浦は次が最後の曲と宣言し、最後のゲストボーカルを迎え入れる。直後に現れた人物が発した言葉は、「こんばんは。Sound Horizon、Linked HorizonのRevoでーす」。Revoはお祝いの言葉、トークのお題に対する答えとして「物語を伝える音楽をやりたい。それは変わらず初志貫徹していくんだろうと思いました」と話す。そのあと、梶浦とRevoはこのあとに演奏する、『Revo&梶浦由記Presents Dream Port 2008』のメインテーマとして梶浦とRevoが共作した「砂塵の彼方へ…」について言及する。Revoが「今聴くとすごいいい感じなんですよね」と話すと梶浦も食い気味に「案外良い曲なんですよ、私も思った」と返し、お互いに自分が作曲した部分が曖昧になっているという印象に共感し合った。そのことについて梶浦は「『Dream Port』という機会はお互いにすごく良い影響を受け」ながらの共同制作だったからと話す。

件の「砂塵の彼方へ…」に対して始まりは、レギュラー歌姫、笠原由里、Remi、rito、LINO LEIA、そしてRevoの全員で合唱曲のように歌い、次は歌い手たちが自らの特徴を見せるように歌い継いでいく。バイオリン、アコースティックギター、フルート、アコーディオンも自らの存在感を出す構成は最後の曲にふさわしい。梶浦楽曲やYK LIVEでは希少な男性ボーカルを担ったRevoは、率先して手を鳴らし、身体を揺らし、記念すべき祭典に参加できる喜びと、最後を締める役割を全身で表現していた。そして梶浦とRevoがデュオを見せるラストに辿り着くと、それを讃えるようにほかのメンバーが体を揺らしながら“LaLaLa”で取り囲む。Revoは最後、ピアノを弾く梶浦のそばに近づいて咆哮を見せた。マントをひるがえし、「伝説のフェスだぜ」の捨て台詞を残したRevoが去り、本編は終了した。

だが、当然のごとく拍手に押され、アンコールが始まる。ここでもイーリアンパイプから始まり、「the image theme of Xenosaga Ⅱ」、そして歌姫たちが縦横無尽にコーラスワークスを飛び交わせる「蒼穹のファンファーレ」で1日目を終えたが、全体的に初期劇伴曲が多く、「zodiacal sign」なども身を潜め、演奏曲が全曲異なって大きく様変わりするだろう2日目への期待が高まる終演だった。

次ページ:「記念すべき最後の曲はこの4人に歌ってもらおうと」

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