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INTERVIEW

2023.11.10

milet、『葬送のフリーレン』EDテーマ「Anytime Anywhere/bliss」で紡いだ“生と死”、2曲の制作秘話と彼女自身が届けたかった想いを語る

milet、『葬送のフリーレン』EDテーマ「Anytime Anywhere/bliss」で紡いだ“生と死”、2曲の制作秘話と彼女自身が届けたかった想いを語る

“魔王を倒した後の世界”を舞台に、かつて勇者と共に魔王を打倒したエルフの魔法使い・フリーレンと、彼女が新たに出会う人々との旅路を描くTVアニメ『葬送のフリーレン』。2023年秋クール最大の話題作となっている本作のEDテーマを歌うのが、深く心に刺さるハスキーボイスでこれまでにも様々なアニメ作品の主題歌を担当してきた、シンガーソングライターのmiletだ。長命の種族であるフリーレンの視点ならではの死生観が反映された人生を祝福する歌「Anytime Anywhere」、そして初回2時間スペシャルの特別EDテーマとして制作された「bliss」――同アニメの劇伴を手がける音楽家・Evan Callとの初コラボレーションにより生まれた2曲の制作秘話と彼女自身が届けたかった想いについて、たっぷりと語ってもらった。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

miletがエルフのフリーレンに覚えた共感、“生”と“死”について考えること

――『葬送のフリーレン』は、今回のアニメが放送される前から注目されていた作品ですが、miletさんはタイアップのお話をいただく前からご存知でしたか?

milet 原作が「マンガ大賞2021」で1位に選ばれたときから注目して読んでいました。なので、お話をいただいたときは運命的なものを感じましたし、前からこの作品が伝えたいことを私なりに考えていたので、「(楽曲を)書ける!」っていう自信がありました(笑)。この作品に出てくる魔法は、強さを誇示するためのツールではなくて、フリーレンたちの心情的な部分にフォーカスするために描かれているところが、ほかの魔法を扱う作品にはあまりない魅力だと思うんですね。それに加えて、1000年以上生きるエルフのフリーレンと短命な人間、それぞれの価値観の違いが描かれるところは、ある意味哲学的だと思いますし、フリーレンの考え方は自分と重なるところがあったので、そういう部分でも魅力に感じていました。

――フリーレンのどんなところに自分との重なりを感じたのですか?。

milet 多分、フリーレンにとっては“死”や“喪失”は、普通の人間よりも身近にあるものだと思うのですが、私も昔から“生きること”と“死ぬこと”のサイクルについてぐじゃぐじゃと考えてきた人間で。“死”や“消えていく命”をとてもナチュラルに捉えていること、大切な人の死は悲しいことだけど、ある意味すごく受け入れ慣れているところが、自分と重なる部分だなと感じたんです。ほかにも、誰かの“死”に直面したときに感じる感情への執着、「この感情は何だろう?」と自己分析していくところ、魔法や学術に対して貪欲で好奇心旺盛なところも、ちょっと似ているかもと思いました。

――miletさんは“生と死のサイクル”について、どんなお考えをお持ちなのでしょうか。

milet 私はそれこそ物心がついた頃から“死ぬこと”や“失うこと”について考えることが多いのですが、それは母親や家族が大好きすぎて、「もしお母さんがいなくなったら、そのとき私はどうしたらいいんだろう?」と考えるようになったのがきっかけなんです。私はあまりにも大切すぎると、それを失ってしまうことを想像してしまうんですよ。そこから生と死について日常的に考えるようになって。

――“死”について考えることで、いつか必ず訪れる“死による別れ”を受け入れる心の準備をしている側面もあるんでしょうかね。

milet それはすごくあると思います。ただ、そうやって幼い頃から“死ぬこと”について考えてきたなかで、今思っている答えが“また巡り合える”ということで。私は来世か来々世かわからないですけど、いつかどこかで必ず(死に別れた人と)出会うことができると信じているんです。だけど、今世の私の心や体を来世に持ち越すことはできないので、今この時代で生きているあなたとの今という瞬間を精一杯この目に焼き付けたいし、できれば長く生きて、色んな感情を知りたい。だから私の中で“死”というものは逆に生きる希望にも変換されているし、そういう気持ちが「Anytime Anywhere」の歌詞にも反映されています。フリーレンも“死”や“喪失”を自然の一部として受け入れていて、そこは自分の価値観とも重なるので、その意味でもこの物語の世界には入り込みやすかったです。

――フリーレンは人間よりも長寿な種族なので、常に“葬送する側”“誰かを見送る側”の存在になります。1000年もの長い間、たくさんの“死による別れ”を経験していたら、だんだん感覚が麻痺していきそうなものですが、でもフリーレンは“死”に伴う感情を大切にしていて。

milet そうですね。その意味でタイトルの“葬送”が意味するのは、見送ったあとの話でもあるのかなと思っています。フリーレンはフェルンやシュタルクと新しく出会うなかで、フェルンの中にハイターも見ていると思うし、シュタルクにヒンメルへの想いを重ねるところもあると思うんです。この作品での彼女の役割は、ただ長く生きて、魔法を集めて、強くなっていくのではなくて、人々が生きてきた記憶や意味を繋げることだと思っていて。それは人間と違う寿命を持つエルフだからこそできることですし、そんな彼女の視点から、人間の儚さや美しさを見せてもらえるところが、この作品の魅力だと思います。

いなくなったとしても、いつでもどこでも感じられる――命と命を“繋ぐ”歌

――今お話しいただいたフリーレンの“何かを繋げる役割”というのは、まさに今回のEDテーマ「Anytime Anywhere」で描かれているテーマともリンクするように思います。改めて、この楽曲は作品のどんな部分に寄り添って制作されたのかをお聞かせください。

milet 物語の中で色んな人と出会ったり見送ったりするフリーレンの目であると同時に、彼女を取り巻き包み込む風のような何かになりたい、という想いで楽曲を書きました。彼女が旅をしながら見ているのはどんな景色なのか、大切な人と別れたときにどんな気持ちになったのか、私なりに考えながら歌った歌です。でも、フリーレンのことだけではなくて、フェルンが成長していく姿を思い浮かべながら書いた楽曲でもあるんですね。フェルンは年齢の割にはすごく俯瞰して物事を感じることができて、シュタルクのような人間らしい人間と、エルフであるフリーレンの間を繋ぐような存在でもあると思うんです。達観したところと子供っぽいところを兼ね備えていて。

――単純にフリーレンの視点に沿って描くだけでなく、その周囲を取り巻く人たちのことも意識されたんですね。

milet フリーレンは風貌が変わらないのに対して、フェルンは髪が伸びて大人になっていくところに時の経過の美しさと切なさを感じますし、それだけではなくて、ヒンメルやハイターたち亡くなってしまった人たちの存在こそが、今のフリーレンを作り上げているんだと思うんです。フリーレンの心の中に残り続けているヒンメルの大きさはもちろん、フェルンの中のハイターという存在、フリーレンの中のフランメという存在も含めて、いなくなった人の分まで生きるということが、この作品で描かれているテーマの1つだと感じていて。なので「Anytime Anywhere」の歌詞も、ヒンメルの視点でフリーレンに語りかけているような部分もあるし、フリーレンの視点でフェルンを見ているような描写もあるし、色んな視点を絡み合わせながら書いていきました。きっとアニメを観ていて、フェルンにフォーカスした回であれば彼女を想像しながら聴くことができると思うし、どのキャラクターの中にも潜在的にある心情を歌えたらと思いました。

――これはmiletさんの生命力に満ちた歌声や華やかなサウンドの印象も含めての感想なのですが、連綿と続く命の繋がりや“生と死のサイクル”そのものを祝福するような楽曲にも感じました。

milet そうですね。フリーレンは出会いや別れを通して希望を見出しているから生き続けていると思うし、出会う人からの影響で自分自身が変わっていくこと自体が、彼女にとっての希望でもあると思うんです。その“(希望を)見出す力”というのは、この作品において着目したいポイントで。1000年以上もの長い間、普通に淡々と生き続けることもできるけど、何か生きる希望を見出したり、それを能動的にやっているところがフリーレンの魅力でもあるし、それは現代を生きる私たちにとっても必要なことだと思うんです。

――miletさんご自身は、普段の生活の中から希望を見出すことが得意なタイプですか?

milet そうだと思います。大きいところで言うと、私は音楽を通してみんなに何かを伝えていて、ありがたいことにそれが誰かの力になっているということは、自分にとっての希望や生きる意味になっています。例えば、回転寿司であまり美味しくないお寿司が出てきたとしても、その魚なりの美味しさを見出すことができたり、新人の寿司職人さんのあまり握り慣れていないお寿司だったとしても、そこにかわいらしさとかパッションとか夢を見出すことで楽しさを感じる力があると思っていて(笑)。そういう“見出す力”はあればあるほど人生が豊かになると思うし、その意味でもフリーレンと私は重なるところがあるかもしれないです。

――フリーレンも、誰も欲しがらないような魔法を収集するのが趣味ですしね(笑)。ほかに歌詞でこだわったポイントはありますか?

milet フリーレンがヒンメルの死を見送ったときに流した“涙”は、彼女が新しい旅に出るきっかけになったものだと思うんですね。自分で「なんでこんなに泣いているんだろう?」と思ったときに、「もっと人の気持ちを知りたい」と感じたことが、その後の旅に繋がっている。なので“その涙だって大丈夫、きっと夜が明けるよ”という歌詞を、物語のスタートに立ち返るちという意味も込めて、この歌の最後に持っていきました。きっとフリーレンがその涙や感情の理由を知りたいと感じた気持ちはこの物語にも繋がっていくんじゃないかと思うので、その意味で“涙”は大切なキーワードだと思うし、ほかの楽曲でよく使われる“涙”とはちょっと意味合いが違うんです。

――楽曲タイトルの「Anytime Anywhere」は、直訳すると「いつでもどこでも」という意味ですが、これにはどんな想いを込めたのでしょうか。

milet このタイトルには、時代が変わっても、あなたが私の中にいて、私があなたの中にいられるように、という意味合いを込めています。大切な人がいなくなっても心の中に繋がりを感じることができて、また出会える気がするし、だけど今の自分はこの瞬間のことしか感じることができないから、ずっと抱きしめていたいような……まさに私が普段考えているようなことと重なる部分がこの作品にはたくさん垣間見えたんですね。

――「Anytime Anywhere」は、今回のアニメの劇伴音楽を担当している作曲家のEvan Call(エバン・コール)さんが編曲を担当されています。

milet 本当に素晴らしい方ですよね。私がエバンさんのことを知ったのは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の劇伴だったのですが、少し異国情緒も醸し出しながら、こんなにも抒情的で、しかもそれがただのスタイルではない、心情描写も汲み取りながら描いている音楽だったので、すごく感動したんです。エバンさんとお仕事でご一緒するのは今回が初めてだったのですが、ものすごく光栄でしたし、エバンさんと組めるのであれば絶対に良い曲になるという安心感もあって、とても嬉しかったです。

――エバンさんのアレンジが加わったことで、楽曲にどんな化学変化が起こりましたか?

milet 今回はエバンさんの編曲の邪魔にならないように、デモはあえてシンプルな作りにして、歌とアコースティックギターと大まかなリズムくらいしか入れませんでした。それをエバンさんにお渡しして、戻ってきたアレンジの第1稿が、コード感からギターのストロークの拍の取り方まで、あらゆるものが変わっていたんです。「もしかして、ギターの音源とかはオフにして、歌だけ聴きながら伴奏を付けたのかな?」と思うくらい全然違うものになっていたので、びっくりして(笑)。

――そうだったんですね(笑)。

milet その後、エバンさんに直接お会いしたときに聞いたら、「ちゃんと全部聴いたうえでアレンジしました」とおっしゃっていましたけど。一番変化を感じたのは、私が作ったデモではマイナーコードを多用していたんです。なので、もう少し沈んだところから上を見るような印象だったんですけど、エバンさんのアレンジした音はすごくキラキラしていて、上空から色んなものを見る視点に変わったように感じて。それは私が「Anytime Anywhere」で表現したかった、風になってフリーレンを包み込む感じや、俯瞰的な視点から人や自然や時の流れを見たいという気持ちにぴったりで、「私が見たかったのはこの音の視点だったんだ!」と感じて鳥肌が立ちました。エバンさんがこの楽曲をあるべき姿にしてくれたなと思いましたね。

――先ほど、この楽曲には祝福感を感じるというお話をしましたが、それはエバンさんの力によるところも大きかったんですね。

milet とても大きかったです。多分、私のデモ通りのコード感だったら、“死”へのフォーカスが強いものになっていたと思うのですが、エバンさんが管楽器の高い音で鳥が羽ばたいているような雰囲気を出してくださったり、まさに祝福という言葉が合うような音作りをしてくださったので、より命を繋げていくことや繋がっていくことに対する喜び、もっと生きていたいと思えるような感情にフォーカスした楽曲になりました。この楽曲に希望を与えてくれたと思います。

――それと、TVアニメ第5話から流れているこの楽曲のエンディングアニメーションが、本当に素晴らしいですよね。

milet パチパチパチ!(拍手)。私も観た瞬間に嬉しすぎて「何これ~!」ってなりました(笑)。あの映像はhohobunさんというクリエイターの方が作ってくださったのですが、すごく感動したエピソードがあるんです。私が『葬送のフリーレン』の中で一番好きな魔法は“花畑を出す魔法”なんですけど、hohobunさんもご自身のX(旧ツイッター)で“花畑を出す魔法”が一番好きでそれを思い浮かべながら映像を作ったとポストされていて、「私と一緒だ!」と思ってすごく嬉しくなりました。私の中のビジョンでも、たくさんの花が咲き誇っていて、そこにヒンメルや色んな人たちの想いを重ねて書いた部分があったので、それとリンクを感じる部分がたくさんあって。歌詞の“この目じゃなければ 見えなかったものが”のところでフリーレンの瞳が強調されているのも、フリーレンが見てきた世界の優しさを感じることができて、答え合わせができたような気持ちになりましたし、私が見ていた世界とhohobunさんやクリエイターの方たちの見ていた世界が重なった瞬間が本当に嬉しくて感動しました。

次ページ:“花”のように儚くも美しい生命の流転を描いた特別EDテーマ「bliss」

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