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2023.10.17

夢の舞台“日本武道館”を目指して――HACHIとBEESで作り上げた“Close to heart”東京公演 レポート

夢の舞台“日本武道館”を目指して――HACHIとBEESで作り上げた“Close to heart”東京公演 レポート

RK Music/ライブユニオン所属のバーチャルシンガー・HACHIによる初のライブツアー“HACHI東京・台北ツアー「Close to heart」”の東京公演が、10月9日に東京・Spotify O-EASTで開催された。2019年に活動を開始して以来、透明感のあるシルキーな声質とバーチャルシンガーの中でも屈指の歌唱力が話題を呼び、着々と支持を広げている彼女。この夏に発表した2ndアルバム『Close to heart』を携えた本公演は、彼女にとって初めてのツアーの初日、そして初となる観客の声出し解禁ライブということで、HACHIとBEES(※彼女のファンネーム)で一緒に作り上げる温かな空気に満ちた一夜となった。

TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY UMEP、Yudai Isizuki

情熱的にもクールにも振り切って魅せる、HACHIの多彩な歌世界

開演前、照明を暗くした状態の会場でBEESたちが期待を胸に待ち侘びるなか、いきなり「あ、あー、BEESのみんな、こんはちー!」とHACHIの声が聞こえてくる。今日はライブの注意事項をアナウンスする、いわゆる“影ナレ”もHACHIが担当するらしい。大人っぽいクールな歌声を活かした、バラードやしっとり系のナンバーを得意としている彼女だが、自身のYouTubeチャンネルでレギュラー配信している歌枠「ハニカムステーション」や「Midnight station」を聞けばわかるように、本人は気さくな性格で、明るく笑いの絶えない語り口が魅力でもある。影ナレでもいつも通りの距離を感じさせないテンションなのが嬉しい。

そして彼女は、YouTubeのチャンネル登録者数が前日に20万人を突破したことを報告。実は本ライブの2日前となる10月7日、HACHIはホロスターズの律可が主催した企画「第一回VTuber歌唱王」に参加し、そこで獅子神レオナ、ときのそら、緋月ゆい、神成きゅぴ、バーチャルゴリラ、__(アンダーバー)といった歌うま自慢のVシンガー/歌い手たちと競い合い、抜群の歌唱力で決勝戦まで進出。結果は僅差で獅子神レオナが優勝したのだが、同番組のMCを務めた星街すいせいも絶賛する歌の上手さが評判となり、その反響もあってか登録者数が急増したのだ。その報告と喜びを分かち合う意味も込めて、会場のみんなで声を合わせて「おめでと~!」と祝福の言葉を届けて、ライブ前の声出しの練習を兼ねる。

そんな温かな交流から少し時間を置いて、ついにライブが開幕。まずはオープニングムービーが映し出され、バラバラだったガラスの破片のようなオブジェが集合して花の形となり、それをHACHIが優しく持ち、今回のツアーのキービジュアルと同じカットになると、場面はステージに転じてタフなイントロが期待を高めるなか、HACHIがリフトアップで中央に登場。この日のライブの幕開けを飾ったのは、彼女のオリジナル曲のなかでもとりわけロックな「夜迷い言」。“ライブハウスのステージは 客席から一段高い”という歌い出しの歌詞が、数々の有名アーティストやバンドが立ってきた場所である老舗のライブハウス・O-EASTという場所にこのうえなくマッチしている。シリアスな表情で力強く歌声を届けるHACHIに、フロアは初っ端から熱狂で応える。

続いては、2ndアルバム『Close to heart』より「空が待ってる」。流れゆく光の粒子を背にして、どこまでも伸びやかなボーカルを響き渡らせるHACHI。サビの“淀んだ空 吹き飛ばしていくような そんな風をあなたと起こしてみたい”というフレーズが、HACHIからBEESに向けたメッセージのように聞こえて、これからも彼女と共に歩いていきたい気持ちがより強くなる。イントロが流れると同時に客席から歓声が上がった「Twilight Line」は、ノスタルジックな記憶と未来への視座が同居したドラマチックなナンバー。静謐感とエモーショナルさの両方を湛えたその楽曲を、HACHIはパワフルかつ澄んだ“声の力”で巧みに表現する。重々承知していることだが、やはり彼女はとんでもなく歌が上手い。音域の広さや音程の安定感、ファルセットやミックスボイスも交えた多彩なアプローチといった技術的なすごさもさることながら、歌詞の内容やメッセージ性を何倍にも増幅させる、言葉では説明できないニュアンスの機微が彼女の歌には備わっている。だからこそ聴き手の心を震わすことができるのだ。

冒頭3曲で早くもその歌力に圧倒されてしまったが、今回のライブは3Dステージの演出面においても優れた部分が多く、楽曲ごとに映像演出や照明の見せ方も細やかに切り替えることで、その楽曲の世界観に一層深く没入できるものになっていたのが、進化した点と言えるだろう。いつものように気さくなMCを挿み、HACHIがスツールに腰掛けながら歌唱した「Deep Sleep Sheep」では、背面のスクリーンに同楽曲のアニメーションMVが投影されて、メロウなチルサウンドとHACHIの深みを帯びた歌声と共に、楽曲のディープな部分を表現。続く「Lonely girl」では黄色や紫の照明がネオンライトのように瞬き、都会の夜の空気感を演出する。アコギと乾いたビートが寂しい夜の気持ちを投影した「さよならfrequency」における、HACHIのファルセットを交えたウィスパーボイスの切々とした響きも絶品だったし、それに続き歌われたレゲトン風の「Level off」での苦々しい感傷にそっと寄り添ってくれるようなさりげなさ、諦めでさえも肯定してくれるような優しさは、彼女の歌に本質的に備わった包容力があってこそのものだ。そして「バスタイムプラネタリウム」は、コンピレーションEP『HARMONICS』に収録されたリミックスバージョンをライブ初披露。ダンスミュージックの要素を強めた煌びやかなアレンジメント、楽曲の展開に合わせてクラゲが舞い踊ったり、彗星が降り注ぐビジュアル演出を含め、ユニットバスからユニバース(宇宙)に広がるような、壮大な景色を美しい歌声と共に紡いでみせた。

HACHIとファンが“ひとつの歌”に!優しいぬくもりに満ちたフィナーレ

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