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2023.07.15

女王蜂/『【推しの子】』、milet×MANWITH A MISSION/『鬼滅の刃』、Uru/『地獄楽』――2023年春の名作アニメの余韻・奥行きを演出するED主題歌の魅力、醍醐味を紐解く

女王蜂/『【推しの子】』、milet×MANWITH A MISSION/『鬼滅の刃』、Uru/『地獄楽』――2023年春の名作アニメの余韻・奥行きを演出するED主題歌の魅力、醍醐味を紐解く

主題歌、劇中歌、イメージソング、キャラクターソング……アニメソングとひと口に言っても色々で、そもそも特定のサウンドやジャンルに縛られない多様性こそが「アニメソング」の面白さであり、魅力の1つだ。とりわけ主題歌はヒットに結びつく機会が多く、近年、改めて注目を集めているわけだが、作品を象徴する看板としてのキャッチ―さを求められることの多いOPテーマに対して、EDテーマはアニメ本編の物語が終わった後の余韻や奥行きを演出するものが多く、話数を重ねるにつれて聴こえ方が変化したり、より印象深くなっていくのが醍醐味となっている。そこで本稿では、放送が終了した2023年春アニメの中から今改めてお薦めしたいEDテーマをピックアップして紹介する。

TEXT BY 北野 創

TVアニメ『【推しの子】』ED主題歌、女王蜂「メフィスト」

まず、この春最大級の話題作となったTVアニメ『【推しの子】』のED主題歌、女王蜂の楽曲「メフィスト」を外すことはできないだろう。『【推しの子】』の楽曲といえば、YOASOBIによるOP主題歌「アイドル」が爆発的なヒットを記録し、「歌ってみた」や「踊ってみた」などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)でも人気を博しているが、「アイドル」は物語のすべての発端となる伝説のアイドル・星野アイ(CV:高橋李依)をテーマに据えて、彼女という存在そのものにフォーカスを当てて制作された一方で、「メフィスト」は星野アイを含む物語の主要な登場キャラクターの様々な心情に重ね合わせることのできる、EDテーマならではの複合的なレイヤーを持った楽曲になっているのが特色だ。

YOASOBIの「アイドル」は、『【推しの子】』の原作者・赤坂アカが書き下ろした小説「45510」を原作に制作された楽曲で、同小説の主人公であるB小町の元メンバーの視点から見た星野アイの“完璧で究極のアイドル”としての姿(2番のラップパートの歌詞では、彼女がアイに抱いている複雑な気持ちも表現されている)、そして後半パートでは星野アイ自身の視点で彼女の心情や信念が描かれている。いわば星野アイのアイドル性を主観・客観を織り交ぜながら綴った楽曲。だからこそ、星野アイの生涯を90分の拡大版で届けたアニメ第1話のエンディングでこの楽曲が流れたときのインパクトはすさまじかった。

そしてアニメ第2話以降は、星野アイの子供である双子の兄妹、アクア(CV:大塚剛央)とルビー(CV:伊駒ゆりえ)、特に主人公であるアクアがアイの事件に関与したと思われる実の父親を捜す復讐劇を軸に物語が進行していくわけだが、女王蜂の「メフィスト」は、因果関係が複雑に絡み合うその物語のすべてを受け止めるような視点を有している。例えばBメロの英語のフレーズ“This lie is love. And this lie is a gift to the world.”は、劇中に登場するアイのセリフ「嘘は愛」からインスパイアを受けたものだろうし、終盤の“さあ星の子たちよ よくお眠りなさい”というフレーズも、そのまま受け取るとするならば、アイからアクアとルビーに向けた言葉のように思えるが、よりスケールの大きな(例えば物語を外側から見守る神様的な)俯瞰的視点も感じられる。

そして本楽曲の奥行きをさらに広げてくれるのが、エンディングのアニメーション。ここでフィーチャーされているのはアクアとルビーの2人で、彼らがアイに対して強い感情を抱き続けていることを描写しつつ、その葛藤の先にある願い(アクアの復讐、ルビーの憧れ)を、アイ・アクア・ルビーの3人を象徴する「星」というモチーフを用いて表現している。なかでもサビの“あなたに会いたい 星に願いをかけて”と歌われる箇所では、2人が星に向けて手を伸ばすカットが挿まれ、そのフレーズがアクア・ルビーからアイに向けた言葉のように感じさせる効果を生んでいる。また、そんな本楽曲のタイトルに、ゲーテの戯曲「ファウスト」などに登場する、魂と引き換えに願いを叶える悪魔・メフィストフェレスの名前が冠されているのも、どこか示唆的で興味深い。

そういった歌詞の部分のみならず、サウンド面でも本楽曲は作品の魅力を増幅させている。どこか影を感じさせながらも躍動感のあるダイナミックなバンドサウンドは、アクアの復讐劇としての一面を象徴するかのようだし、サビでの一気にハイトーンへと跳躍するメロディもまた、登場人物たちが内に隠している激しい感情を表現しているように思える。また、哀切感あるストリングスから入るイントロも重要なポイントで、本作ではアニメ本編の映像に重なる形でイントロが流れ出す演出が多用されており、それによって劇伴のようにドラマを引き立てる効果を生んでいる。個人的な感想になるが、第6話のラスト、黒川あかね(CV:石見舞菜香)が歩道橋から飛び降りようとするシーンでこの楽曲のイントロが流れ出したときには、震えが走ったほどだ。

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『「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』EDテーマ「コイコガレ」、『地獄楽』EDテーマ「紙一重」

続いてはTVアニメ『「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』のEDテーマ、milet×MANWITH A MISSIONによる楽曲「コイコガレ」を紹介したい。これまでのアニメ『鬼滅の刃』シリーズのEDテーマと同様、梶浦由記が作詞・作曲・プロデュースを担当した本楽曲は、その曲名からも推察できる通り、『刀鍛冶の里編』で活躍するキャラクターの1人、鬼殺隊の恋柱・甘露寺蜜璃(CV:花澤香菜)を彷彿させるワードが歌詞に散りばめられている(“しなやかに舞う君の刃”“優しいひとたちを全部守りたいな”など)。しかもアニメ本編での甘露寺の戦闘シーンでは、本楽曲のアレンジバージョンが劇伴として流れたこともあり、その意味では彼女のテーマ曲的な位置づけの楽曲と言えるだろう。

また、OPテーマ「絆ノ奇跡」と同じく、ロックバンドのMANWITH A MISSIONと女性シンガーのmiletがコラボレーションした本楽曲だが、名前の順番はmiletが前になっていることからもわかるように、歌の比重としてはmiletのほうがやや多めになっている。これもおそらく女性の柱メンバーである甘露寺を意識したものだろう。FictionJunction feat. LiSA「from the edge」やLiSA「炎」、Aimer「朝が来る」といった楽曲を通じてシリーズに寄り添ってきた梶浦だからこその『鬼滅の刃』らしさを感じられる重厚なロックチューンに仕上がっているので、ぜひアニメと共に楽しんでほしい。

最後はUruが歌うTVアニメ『地獄楽』のEDテーマ「紙一重」。Uru本人が作品の原作を読みこんだうえで作詞・作曲したという本楽曲(編曲はトオミヨウ)は、彼女特有の繊細かつエモーショナルな歌声が、水のように優しく深く心に染みわたっていくバラードだ。歌詞に目を向けると、お互いの価値観を大切にしながらも影響を与え合ってきた“あなた”と“私”の日々を、“心は紙一重”という印象的なフレーズと共に表現。インタビューによると、彼女は打ち首執行人である佐切(CV:花守ゆみり)の目線で主人公の死罪人・画眉丸(CV:小林千晃)のことを思って歌詞を書いたとのことで、アニメの序盤ではまだお互いのことを理解していなかった2人が、島での共闘を経て心を通わせ合うことによって、楽曲の見え方が変わっていく仕掛けとなっている。

また、第8話ではその2人とは別の視点、士遠(CV:小林親弘)と典坐(CV:小林裕介)の師弟コンビの物語に重ねてオンエア。本アニメでは、打ち首執行人と死罪人のペアを中心に、様々なキャラクターたちの人間ドラマが描かれるのだが、「紙一重」は“交わりそうで交わらない”彼ら・彼女たちの多様な関係性にそっと寄り添うような、EDテーマならではの1曲になっている。

関連リンク

女王蜂オフィシャルサイト
http://www.ziyoou-vachi.com/

miletオフィシャルサイト
https://www.milet.jp/

MAN WITH A MISSIONオフィシャルサイト
http://www.mwamjapan.info/

Uruオフィシャルサイト
http://uru-official.com

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