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2023.05.26

南條愛乃が長い道のりを経て辿りついた今、この瞬間――“南條愛乃 Live Tour 2023 ~ジャーニーズ・トランク~ supported by animelo”ファイナル公演をレポート

南條愛乃が長い道のりを経て辿りついた今、この瞬間――“南條愛乃 Live Tour 2023 ~ジャーニーズ・トランク~ supported by animelo”ファイナル公演をレポート

2022年12月にソロアーティスト活動10周年を記念したアルバム『ジャーニーズ・トランク』をリリースした南條愛乃が、アルバムを伴うツアー“南條愛乃 Live Tour 2023 ~ジャーニーズ・トランク~ supported by animelo”が4月から開催された。キャリア10年という歴史を振り返りながらあらたな未来へと踏み出す”旅”というコンセプトで、彼女がステージから見せたものはなんだったのか。また彼女自身の単独公演では久々となる声出し解禁となったこともあって多くの人たちの、様々な感情が交錯するような一夜となった、ツアーファイナルの模様をレポートしていく。

TEXT BY 澄川龍一
PHOTOGRAPHY BY 江藤はんな(SEHRPA+)

南條、そしてオーディエンスの声が合わさった瞬間

“ジャーニーズ・トランク”ツアーファイナルの会場となった立川ステージガーデン、会場にはカントリーミュージックが流れるなか、ステージ上にはアルバム『ジャーニーズ・トランク』のジャケット写真をイメージさせるような草花のオブジェやベンチ、街灯が並んでいる。そんなリラクシンな雰囲気のなか、会場が暗転し、暗がりのなかでボコボコと、水中で息を吐くような音が聴こえ始めた。そしてそのなかで南條愛乃の過去の楽曲たちがサンプリングされていく……という、『ジャーニーズ・トランク』の冒頭を飾る「blue -青の記憶-」が流れる。ステージ上にはギター、ドラムス、キーボード、ベースと各パートの立ち位置にスポットライトが当たり、最後にステージ中央、いわゆる南條の立ち位置にスポットが当たり、いよいよツアーファイナルの幕が開く。次の瞬間、『ジャーニーズ・トランク』収録の「最初の10歩」のイントロが鳴らされると、ステージ後方の草花のゲートからは南條の姿が見えた。まるで前公演からそのままやってきたかのように、手にはトランクを手にしている。軽快なビートに乗せて、歌う南條の表情は実に晴れやかだ。サウンド同様に軽やかな歌唱のままステージを移動して、ステージ脇のベンチにトランクを置いて腰をかけて歌う姿は、まさにこれまでの長い道のりを経てここへ辿り着いたようで、ツアーという旅、あるいは10年以上のキャリアという旅をこなしてきたんだなと思わせる。そしてその姿を見つめる観客も、思い思いのツアーライトを振って、まるで南條に手を振るようにその光を南條に注ぎ、そして声援を送る。そう、このツアーから、長らく封印されていた観客の歓声が解禁されているのだ。長らく南條のライブで「声を奪われた」観客たちは、ついに自らの想いを声にして南條に送ることができるようになった。1コーラスが終わったあとにはその歓喜の想いが爆発したような歓声が会場を包み、2コーラス目の最後の“最初の10歩”というフレーズも南條と共に観客がシンガロングする。新曲という新しい光景のはずだけど、どこか“戻ってきた”という懐かしい気持ちにもさせる、冒頭から感動的な光景が展開されていった。

そんな感動的な余韻のなかで間を置かずに鳴らされたのは、彼女のデビュー作『カタルモア』に収録された人気曲「飛ぶサカナ」のイントロだ。これぞみんなが待ち望んだ瞬間、とばかりに観客はいつものようなコールを送る。そんな状況に南條の声も上気していくようにより躍動感を増していく。そしてそのまま『カタルモア』の曲順通りに「光」が披露され、ゆったりとしたリズムに落ち着きを取り戻すような南條の優しいボーカルが生える。新しいアルバムから始まって自身の原点となる作品へと繋ぐ、南條愛乃という旅路を辿るにはこのうえない幕開けとなった。

愛に包まれた至福のひと時

続くMCでは万雷の拍手のなかで「南條愛乃と申します」とはにかみながら最初の挨拶。観客との交流を楽しみながら、「ツアーの最後にはどんな景色が待っているのか楽しみにしてくださったら」と話し、次の楽曲「君が笑む夕暮れ」のタイトルを告げる。南條愛乃の記念すべき初のアニメタイアップ曲であり、1stシングルとなったこの優しいバラード、そんな雰囲気そのままにステージ上は夕暮れのような淡い色に包まれる。これまで幾度となく耳にしてきたこの楽曲だが、およそ10年近い間でこのメロディに込められた南條の穏やかで、だけど決意めいた力強さというものは色褪せることなく、美しいまま耳に触れていく。続いては、これも彼女とは切っても切れない縁となった『グリザイア』シリーズから、「きみを探しに」へ。もちろんサビの最後で聴かれる印象的な“愛してる”のフレーズも、この日は観客と一緒に歌われる。つくづくキャリア10年というタイミングで、これまでの振り返るような側面もあるステージに観客の声があるということは大きいと再認識させられる。そうした名曲たちのあとに鳴らされたのは、『ジャーニーズ・トランク』に収録された「Lonely voyage」だ。「きみを探しに」のあとに、“こんなにも世界は君を愛していた!”と歌う、あまりに美しくもどこか切ないメロディが響き渡る。客席には紫色の光がまたたくなか、南條の歌声も張るというよりかはエモーショナルな湿度をもって届けるような感触で、それがまた優しく胸に響いていく。最後にはまばゆい光に包まれるなかで、ステージ上の南條は“また一緒に歌おう”と、繰り返し歌う。そしてそのリフレインの最後の“また一緒に歌おう”は、まるで近くいる誰かに囁くようにか細く、しかしはっきり伝わるように歌われていた。

直後メロディアスな「涙流るるまま」を聴かせたあとは、メンバー紹介を挟んで「ヒトリとキミと」へ。ステージ上手にはこの曲がEDテーマとなったTVアニメ『天才王子の赤字国家再生術』をイメージしたという椅子が置いてあり、南條はそこに座ってリラックスした状態で歌う姿が印象的だった。そのまま旅というこのツアーのコンセプトにぴったりともいえる「スキップトラベル」を軽快に披露したあとは、南條がいったんステージをはけてバンドによるインストパートへ。各メンバーが、南條の楽曲から思い思いのフレーズを入れ込むという粋な演出も見られたあとは、セットも後半戦へ。前半の黄色を基調とした白ブラウスから一転して黒い衣装に身を包んだ南條がステージに戻ると、物悲しいピアノの旋律に乗せて「静夜行」がスタート。ヘビーなサウンドの中で南條のボーカルが妖しく響く1曲だ。直後には、こちらもダークな雰囲気の「IRO」が続き、前半とは一転してシリアスな雰囲気が会場を支配した。そしてここからは躍動感のあるダンサブルなビートとともに、黒い上着を脱いだ南條が流麗な歌唱を聴かせる「この胸に名もなき星」へと続く。ステージ上に置かれた星のようなオブジェが輝くなか、会場のボルテージも激化していく。そして続けざまに披露されたのは、「この胸に名もなき星」と同じく川田まみ作詞、齋藤真也作編曲による「青星」。まさかのアグレッシブな2曲に、観客も火がついたように歓声を送っていた。

続いて「青星」と同じく、この日のみの日替わり楽曲となった「螺旋の春」へ。新しい旅へと進む人たちを南條のメッセージが優しく背中を押すような、この季節にぴったりな優しいムードの1曲だ。繊細かつ力強い南條の歌唱に心温まったあとは、切なくノスタルジックなムードの「雨音と潮騒」へ。そして本編のクライマックスには再びアッパーな「シンプル」を鳴らしたあと、本編最後となる「EVOLUTiON:」に辿り着いた。すっかり彼女のライブアンセムとなったこの曲だが、観客の声が加わったのはこのツアーから。それもあってか、もともと熱量の高いアグレッシブな楽曲が、観客の力強いシンガロングが加わったことでさらなる高揚感を獲得するに至った。最後の”EVOLUTiON!”というシンガロングは、南條と観客の万感の想いが詰まった咆哮となって響きわたった。

次ページ:旅の終着地に向かって――

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