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REPORT

2023.04.04

ヘブバンの歌姫たちが紡ぐ、最上の切なさと熱狂に涙した日――“HEAVEN BURNS RED LIVE 2022”振替公演レポート

ヘブバンの歌姫たちが紡ぐ、最上の切なさと熱狂に涙した日――“HEAVEN BURNS RED LIVE 2022”振替公演レポート

Keyの麻枝 准が原案・メインシナリオおよび音楽プロデュースを手がけるドラマチックRPG「ヘブンバーンズレッド」(以下、「ヘブバン」)のライブイベント“HEAVEN BURNS RED LIVE 2022”振替公演が、3月19日、東京・Zepp Hanedaで開催された。

本作の主題歌および多数の劇中歌を歌うやなぎなぎ、そして作中に登場するツインボーカル編成のバンド・She is Legendで歌唱を担当するXAI鈴木このみの3人が出演した本ライブ。当初は2022年10月に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの影響により延期となっていた。だが、怪我の功名と言うべきか、今回の振替公演では観客の声出しが解禁。ライブハウス特有の熱気が久しぶりに戻ってきたなか、「ヘブバン」の物語を熱く、そして切なく彩る楽曲の数々が生パフォーマンスで披露され、ファンの涙腺を刺激する一夜となった。

TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
PHOTOGRAPHY BY 泉澤 徹、三沢達則

舞台装置や幕間映像が演出する「ヘブバン」の世界

チケットは完売し満員御礼となったこの日のライブ。開演前には、ゲームのオペレーター役としてお馴染みの、ななみんこと七瀬七海(CV:内田 秀)による注意事項のアナウンスが流れ、ファンの期待をさらに高めるなか、照明が暗転してスクリーンにオープニングムービーが上映され、作中に登場する建造物・時計塔のカウンターが「WELCOME」という文字を表示すると、ついにライブの幕が上がる。上下2段作りのステージには荒廃した街をイメージしたセットが組まれ、謎の生命体・キャンサーの出現によって人類滅亡の危機に瀕している「ヘブバン」の世界観を再現。そこに茅森月歌(CV:楠木ともり)の歌唱を担当するXAIと、朝倉可燐(CV:芹澤 優)の歌声を担う鈴木このみが登場し、まずはShe is Legendのライブからスタートする。

1曲目は「Dance! Dance! Dance!」。疾走感溢れるアグレッシブなロックチューンで、先陣を切るのに相応しい楽曲だ。XAIは白いブラウス風の衣装、鈴木は可燐のような黄色いフード付きの衣装を纏い、時おりお互いの顔を見合わせたりしながら、熱い歌を畳みかけていく。また、She is Legendの楽曲に欠かせない要素の1つ、可燐のもう1つの人格「カレンちゃん」によるスクリームパートは、Serenity In Murderのボーカリスト・Ayumuによる収録音声が使われていたのだが、鈴木はそのパートが流れる都度、前傾姿勢でシャウトするようなアクションを取り、カレンちゃんとしてのスクリームを当て振りで表現。キャラクターをその身に宿す。

そこから、スモーク演出や2人が背中合わせで歌う姿も熱かった「Burn My Soul」、2人の動きをシンクロさせた振付や“Wow wow”と熱唱するパートに鼓舞される「War Alive~時にはやぶれかぶれに~」と、熱量の高い楽曲を立て続けに披露。両者ともに歌唱力も声量も圧倒的で、シリアスな声質が月歌のカリスマ性とも結び付いたXAI、パワフルな中にもキャッチーさのある声が光る鈴木と、対照的なスタイルを持つ2人の歌声が掛け合わさったときの興奮は、She is Legend特有のものと言えるだろう。

その後のMCで2人は改めてライブが実現できた喜びをファンに伝えると、ここで鈴木は降壇してXAIがソロで「Before I Rise (Acoustic Ver.)」をパフォーマンス。ネタバレを避けるため詳しい説明は控えるが、作中の印象深いシーンで使用されたこの楽曲を、XAIは哀切感のある歌声で感情豊かに歌い紡ぐ。しかも1番が終わった辺りで無数のシャボン玉が会場に噴出され、そのノスタルジックな光景が余計に胸を締め付けるなか、XAIは心に染み入る歌声を聴かせ、最後は深々とお辞儀をして締め括った。

今回のライブでは、グッズのペンライトが無線制御されていて色が一斉に変わるなど、「ヘブバン」の世界観をより楽しむための仕掛けが多数施されていたが、そのなかでも特に没入感を演出したのが、She is Legendのメンバーである月歌たち第31A部隊が登場する幕間のムービー。シナリオはオリジナルでキャストの音声も録り下ろし、ライブの演者が交代するタイミングで数回に分けて上映され、ライブ全体がそのストーリーを軸に組み立てられているような構成になっていた。

その幕間映像は、She is Legendがスタジオで練習しているシーンからスタート。ライブの曲間にはMCが必要ということで、月歌の無茶振りによってMCを担当する羽目になった和泉ユキ(CV:前川涼子)が、試しにやってみるとメンバーに煽られて黒歴史級のMCになってしまうという、いつもの第31A部隊らしいコミカルなやり取りで客席の笑いを誘う。すると突然、サイレンが鳴り響き、会場の側壁部分に飾られていたキャンサーの巨大オブジェが動き出す。そう、これは緊急事態。キャンサーが出現したのだ。

ここでゲームのバトルシーンで流れる劇中歌「Everlasting Night」の緊迫感に満ちたイントロが流れ出し、やなぎなぎがステージに登場。同曲をたおやかかつ力強い美声で歌い切ると、続けてボス戦などで流れるトライバルで怪しげなナンバー「Indigo in Blue」を披露。さらにゲームのメインストーリーを進めている人ならば絶望を感じるに違いない「Sad Creature」を畳みかけ、キャンサーの脅威にさらされた世界の無情を描き出す。彼女は歌声ばかりでなく細やかな動きでも楽曲の世界観を表現。特に終盤の“そっと絞めてさよなら”という歌詞の部分で、そっと手を振る仕草をしていたのが印象的だった。

MCで「物語と音楽がここまで密接にリンクしている作品はなかなかないと思う」「皆さんの大好きな楽曲を、ライブという形でめいっぱい楽しんでいけたらと思います」と挨拶した彼女は、続いて宇宙を駆けるような壮大さと爽快感が広がる「星の墓標」を伸びやかに歌い上げる。そしてイントロのピアノフレーズが流れると同時に客席から大きな歓声が上がったのが「きみの横顔」。Aメロで自然と巻き起こるクラップ、サビでのエモーショナルな歌声、“頬伝う その涙”の箇所で頬に手をやる動き、そのすべてが切なくも狂おしい感情を生み出す。さらに終盤、“その横顔”のリフレインと最後の言葉、その後のアウトロが余韻を誘うなか、胸元でギュっと手を握り締めるやなぎの表情も含め、胸に込み上げてくるものがあった。

やなぎなぎ、XAI、鈴木このみ――三者三様の歌が生む感動

幕間ムービーは、第31A部隊がドームの住人を守るために出撃するところから再開。だが、彼女たちは、対応しきれない数のキャンサーによる予想外の行動によってピンチに陥る。そんな危機的状況でも諦めず戦う彼女たちの勇ましさを音楽で表現するかのように、再びXAIと鈴木このみがステージに現れると、エクストリームなメタルコア曲「オーバーキル」を披露。XAIは青を基調としたアシンメトリーな衣装、鈴木は黄色と黒のチェック柄のワンピースに着替えており、階段に腰掛けながら歌うなど、ステージをめいっぱい使いながら歌だけでなく動きでも魅せる。続く「Judgement Day」ではレーザー演出が派手にきらめくなか、見事なコンビネーションで緩急の効いた楽曲を表現していき、オーディエンスもクラップや掛け声でその熱に応じる。

そしてこの日のハイライトの1つとなったのが、再びXAIがソロで届けたバラード「贅沢な感情」。足元にスモークが立ち込めるなか、スポットライトに照らされた彼女の姿は幻想的で、まるで夢を見ているような気分に。そんな光景のなかで朗々と響き渡る歌声は、どこか感傷的で、その力強さのなかに滲じむ繊細さが、哀しみをさらに掻き立てる。ラスサビに入ると天井のミラーボールが回転し始め、懐かしい光の海が、思い出の世界に浸るような感覚を演出。XAIはラストの“新しい朝に目覚めなきゃ わかってる”というフレーズを噛みしめるように歌い上げ、最後は胸いっぱいの表情を浮かべながら、静かに「ありがとう」と告げた。

再び幕間ムービーに戻り、月歌の提案でイチかバチか命懸けの作戦に挑むことを決心した第31A部隊の面々。そんな彼女たちの覚悟を後押しするべく、今度はやなぎなぎがステージに再登場して「Particle Effect」をパフォーマンス。彼女の熱を帯びた歌声と性急な打ち込みビート、それに呼応した観客のコール&レスポンスやクラップが、第31A部隊を勇気づけるように響き渡る。続くトランス調のアップナンバー「銀河旅団」では、カラフルに明滅する照明演出も相まって鮮烈さがさらに加速。そしてステージにかがり火が灯り、民族音楽のようなチャントが印象的な「インドラ」へ。神秘的な雰囲気を湛えたその楽曲を、やなぎは生命力に満ちた歌声で表現していく。麻枝 准×やなぎなぎ名義の楽曲には不思議な引力を持ったものが多くあるが、なかでもこのブロックで披露された3曲からは、ある種、シャーマニックな力が感じられたように思う。

そして幕間映像は、She is Legendが基地内のカフェテリアでライブを行っている場面に転換。どうやら決死の作戦は無事に成功した模様だ。そしてMCタイム、和泉ユキは第31A部隊の戦友であり、バンド仲間でもあるメンバーたちを、1人ずつ誇らしげに紹介していく。最後は月歌がユッキーを紹介して、改めてその絆の強さを示すと、再びライブに突入。ここでXAIと鈴木が両サイドから飛び出し、士気高揚ソング「ありふれたBattle Song~いつも戦闘は面倒だ~」で会場のギアを一気に引き上げる。前方に真っ直ぐと指を突き出してパフォーマンスする2人の姿は、まさに“未踏の地”に先陣を切って繰り出す第31A部隊そのものだ。その後、改めて「ヘブバン」との出会いとご縁に対して感謝の言葉を述べた2人は、4つ打ちのリズムが心を躍らせる「Pain in Rain」を披露。ときに向き合いながら息を合わせて歌う彼女たちの表情には笑みが零れており、どんなに激しい雨に打たれたとしても前に進む頼もしさが感じられる。そのエネルギッシュな歌声をぶつけ合い、スパークさせて、最後は2人とも晴れ晴れとした表情でコブシを突き上げて、ライブというミッションを完遂させた。

続いてやなぎなぎが再びステージに上がると、切なく幻想的なバラード「Light Years」を歌唱。バックライトに照らされた神々しい佇まいの彼女が紡ぐファルセットも素晴らしかったが、無線制御されたペンライトが一面黄色に染まり、会場がまるで稲穂の海のようになったところは、ゲームのストーリーともリンクした演出で感動的だった。そこから一転、主題歌の「Burn My Universe」で猛々しい歌声を聴かせてオーディエンスの心を震わせると(Bメロの可憐なささやきパートとの対比も見事だった)、やなぎは「次が最後の曲」と前置きして「White Spell」を披露。腹まで響くような重低音とドラムンベースのように細かいビートの展開に合わせて、抑制していた感情を一気に爆発させるかのように歌う彼女の表現に、こちらの心も激しく揺さぶられる。この楽曲の歌詞に込められた意味は、今後ストーリーが進行することで明らかになっていくものと思われるが、例え今はその真意がわからなかったとしても、深い喪失感と哀しみが伝わってくるような名唱だった。

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