INTERVIEW
2023.03.31
TVアニメ『魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』の幕開けを力強く飾るロックバンド・Lenny code fiction。強さと冷静さを兼ね備えた青い炎をアノスの生き方を重ねて表現した、OPナンバー「SEIEN」には、ファンの応援に支えられた経験から、聴いた人の背中を押せるような「声援」というメッセージも込められている。さらに、この曲で“ある曲”を超えたいという思いがあったという。並々ならぬ気合いと情熱で「SEIEN」を制作したことは曲を聴けば明らかではあるが、片桐 航 (vo、g)、kazu(b)、 ソラ(g)、 KANDAI(ds)との対話から、曲に込めた想いを深く探っていく。
※ももすももすとの対談はこちら
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
――まずはTVアニメ『魔王学院の不適合者 Ⅱ ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』のOPテーマのお話をいただいたときのお気持ちを教えてください。
片桐 航 アニメのタイトルを聞いたあとに、ビジュアルや前作のアニメを見させていただいたのですが、パッと絵を見て「あ、自分たちが作ってきた楽曲に合うんじゃないかな」と直感的に思ったんです。ライブのギターの歪み音とかが絶対にぴったりだなと。だから「よしやるぞ!」と思っていました。
ソラ 僕らの世代ってアニソンで音楽を知る世代というか。アニメを観た翌日に学校でその主題歌の話をする、という世代だったんです。個人的にもコアなアニソンをやるバンドもやっていたので、アニメソングの主題歌に自分たちが抜擢されるのは、とても嬉しいです。あとは久しぶりのOPテーマだったので、心が踊りました。もちろんエンディングも嬉しいんですけど、より主題歌!という感じがあるので。
kazu 今まではいくつか作品をやらせていただいたのですが、エンディングの場合はガッツリとしたロックサウンドというより、ちょっとムーディだったり、メロウな雰囲気だったりの曲が欲しいというオーダーがあるのですが、今回は久しぶりのバトルもののアニメのオープニングだったので、本領発揮できるなと。久しぶりに僕たちの得意分野から引っ張ってこれるなと思っていました。
KANDAI 友人にこの作品を好きな人が多かったんです。だから「まじ?」と仲間内がざわざわとなっていて(笑)、作品の知名度の高さも感じました。タイトルや絵を見たときに、僕も自分たちに合うだろうなと感じていました。
――実際ピッタリですよね。制作はどのように進められていったんですか?
片桐 自分たちは常日頃から曲作りを進めていて。色々なパターンの曲をストックとして持っているんです。
――例えばロック曲、バラード、といった形で、フォルダごとにストックがあるような状態でしょうか?
片桐 まさにそういう感じです。今回はお話をいただいたときに「一番合うのはどの曲だろう?」というところからスタートして。ライブ曲が似合うように思っていたので、ライブ曲のフォルダの中から「こういう曲がありますよ」と持っていっていて。デモを提出して、そこから歌詞を作品に合わせて変えたり、サウンドをオープニングっぽくアレンジしていったり。
――Lenny code fictionは『炎炎ノ消防隊』や『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS -』などの主題歌も担当されていますが、アニメのタイアップ曲を作るときは、いつもそういった流れで?
片桐 そうですね。何がきてもいいように……全ジャンルというと少し大げさかもしれませんが、自分たちができる範囲のパターンを用意しています。その中から、作り続けている新曲だけをやるライブもあって。それがもし良かったら、ツアーのセットリストに組み込むこともあります。基本的にはバンド、ライブを考えたうえで作っています。タイアップの話が来てから音源を出すまでがタイトなスケジュールの場合が多いので、ゼロから1の作業で苦しむよりは、曲を洗練させる時間に使いたいなと。それで、元々自分たちの中にあった曲の中から選びました。いつもは3曲くらい曲をお渡しするんですけど、今回は1曲のみで。
――これしかない、と。
片桐 はい。メロディもきちんとあって、一番攻めていて、自信のあった1曲でした。
――「合うな」と思ったサウンド感のポイントは言葉にするとどんなところだったのでしょうか。
片桐 デモの時とメロディはそこまで変わっていなくて。アニメを観た時に「暗くはないけどハッピーではない。芯の強さや壮大さがある」という印象を受けたんです。しっかりとしたメロディで広がるサビ、決して明るくはないけど、芯を持って攻めていったりするAメロ、Bメロが合うんじゃないかなと。最初はシンプルにそこだけでしたね。
――皆さんで話し合うんですか?
kazu テーマが決まってからはそういう話をしますね。この曲を最初に作った時は、ライブの中の、爆発するセクションに持ってくる曲として作っていて。アニメのタイアップをいただいたときに、お互いリンクする世界観があるように感じていたので、航が歌詞を作ってきてから、単純に爆発するだけではない、楽器のアレンジを考えました。
KANDAI 元々はライブ用に作っていたので、元のアレンジはあまりにもザ・ロックという感じだったんです。そこからグッと偏差値を上げたというか。やっていることはシンプルに聴こえるかもしれないんですけど、ちょっと大人っぽくなった気がします。アニメに寄り添ったものに変わっていきました。
――まさに青い炎というか。ただ単に爆発するだけではない、冷静さもある。
kazu 歌詞ができたときに航から「冷静なんだけど、熱い感じ。単純に突っ走ってるだけじゃない」と言われて、難しいなと(笑)。
ソラ 言ってしまえばイントロもアウトロもギターソロですし(笑)。「ここでタイトルが出てくるんだろうな」と想像しながらリフを作っていきました。
――実際アニメーションでオープニング映像を見たときはどのような感覚でしたか?
ソラ 本当にバッチリとハマっていました。「アニメのタイトルがここに出るだろうな」と思っていたところにバチッときていて、その瞬間に脳汁が出ました(笑)。直接監督や制作スタッフの方と話したわけではないのですが、汲み取ってくれたんだろうなと。
片桐 映像をしっかり見るのは放送が初めてだったんです。みんなと同じようにテレビの前で観て。最初に思ったのは、「豪華やな」と。オープニングにこんなに力を入れてもらってありがとうございます、という気持ちでした。それに加えて、敵と表していない言葉のバックに敵の描写があって。直接的ではない言葉の意味が、完全に当てはまってるんですよね。「歌詞の裏側も紐解いてくれたんだ」という感動もありました。
kazu 僕も最初の放送で完成版を観たのですが、「めっちゃ動くやん!」と。元々曲を知らなくても「かっこいいアニメのオープニングだな」と思ってもらえるんじゃないかなと思いますね。
KANDAI 僕もそんな感じですね(笑)。何回もタイアップはやらせていただいていますが、毎回「すげぇ……!」って思います。
――主題歌を任されるってそういうことなんだなと改めて思います。アニメーションのために曲を作られるのも、曲のためにアニメーションが作られるのも、すごいことだなと。
KANDAI デビューの時もタイアップをいただきましたが、そのときの感覚と変わらず「テレビから曲が流れている、すごい!」って思います。いまだに慣れないですね(笑)。
――歌詞には“初期衝動”という言葉が出てきます。本作は根源や秩序といった、初期衝動という言葉に結び付けられるワードですが。
片桐 主人公のアノス(・ヴォルディゴード)と自分の通づるところを探しながら歌詞を書いていたんです。アニメの歌詞を書くときはいつもそうやって作っているのですが、アノスが強すぎて、人間離れしているというか(笑)。
――そうですね(笑)。神すらも凌駕する存在ですから。
片桐 だから人間の自分とは同じところがないなと(苦笑)。でも心の内側はどうなんだろう?と。自分がこのバンドをやっている理由は、高校時代に「諦めずにやるぞ」「自分が好きなもので成功するまではやめないぞ」と思ったことがきっかけで、それが今もずっと燃え続けているから。それが、アノスが2000年前に誓った約束とギリ似ているなと(笑)。行動する糧のようなものが、お互いに心の奥深くでずっと燃え続けている。その共通点を見つけたところから初期衝動という言葉が出てきました。それを冷静かつずっと燃え続けている熱い火である「青い火」に掛け合わせて、このタイトルに。
――アノスの心の内側ってあまり描かれていませんよね。完璧すぎて。
片桐 そうですね。だからなぜそういう行動をしているのか、というのを考察していました。
――アニメタイアップを手がける際には、考察する作業というのも大切にされているのでしょうか?
片桐 そうですね。元々考察が大好きなんですよ。映画や小説の考察もしていました。変な言い方ですけど、アニメの状況だけ書けば一瞬で歌詞はできるんです。でもそのキャラクターが何を考えているかというところまで考えると、自分が納得できるような歌詞になるなと思っています。リスナーさんにも「これってあのときの感情なんじゃないか」と考察してもらえるようなものにしたいなと。実際そういう言葉を掛けられるとものすごく嬉しいです。難しいんですけど、楽しい作業でもあります。
――初期衝動ってロックバンドにとってとても大事な部分だと思います。皆さんにとっての初期衝動にまつわるエピソードを教えてください。
ソラ 高校生のときに軽音部で、教室で初めてライブをやったときのあの日の衝動で今もバンドを続けています。あの瞬間に人生が変わりました。ライブをする気持ち良さを初めて感じて。そこからずっと変わらないですね。もちろん質も上げたいし、ギターも上手くなりたいし、という気持ちで続けてはいますが、「ライブが楽しい」という根本の気持ちはその時のままです。
――ちなみにその時はカバーを披露されたんですか?
ソラ まさにアニソンです。『Angel Beats!』の「Crow Song」をカバーしました。当時は楽譜も落ちていなかったですし、YouTubeもまだ黎明期だったので、ひたすら耳コピしたのを覚えています。
――今は目コピされる方も多いですもんね。
ソラ そうなんですよね、羨ましいです(笑)。バンドのコピーであれば、楽譜を買ってたと思うんですけど、当時は耳コピしか手段がなかったんですよね。しかも、アニソンの曲を惹かれている方は玄人の方が多いじゃないですか(笑)。難しかったです。でもその当時のアニソンやキャラソンのおかげで、音を拾う技術が身についたように思っています。感謝しかありません。僕の初期衝動はそこですね。
――kazuさんはどうですか?
kazu 僕も学園祭が初めてのステージだったんです。学園祭のノリもあって、友達がすごく盛り上がってくれたんですね。そのときに「ステージに上がって表現するのって楽しいな」と思ったんですよね。その後大学に進学したんですけど、音楽の道しかないなと思って。退学して「音楽に専念する」と宣言して、戻れないようにしたんです。本当は大学に通いながらでもできたかもしれないのですが……それだけに集中してやろうと。
――保険をかけずに。
kazu 僕は楽なほうに逃げてしまう人間で(苦笑)。優柔不断なんですよ。だからできるだけ、進む道は少なくして。ありがたいことに今も続けられているので、今後さらにスキルアップできたらいいなと思っています。
――当時からベース1本だったんですか?
kazu そうです。単純にギターが弾けなかったんですよ(苦笑)。兄はギターを弾いてたので貸してもらったら、Fコードが弾けなくて(笑)。それで「ベースだったら4弦だし、指1本だから簡単やで」と、ベーシストが聞いたら怒るセリフを言ってたんですよ。で、実際やってみたら「あ、できる」と。そこからベースを極めていきました。その後ギターは弾けるようになりました。
KANDAI ギター普通に上手いですよ(笑)。
――KANDAIさんは元々ドラムだったんですか?
KANDAI 実は僕もギターをやりたかったんです。ただ小学校の頃から吹奏楽をやっていたのでドラムも叩けました。ギターのほうが目立つからやりたかったんですけど、(当時のバンドの)じゃんけんで負けました(笑)。吹奏楽部の仲間でバンドを組んでいたので、全員楽器ができるメンバーだったんですよ。でも全員が「ギターが良い」と。それでじゃんけんして、楽器の役割を決めて。その後ボーカルを見つけて、という感じでした。バンドは中1からやっていて、ライブハウスにも行っていました。僕自身は地方出身で、かつ、進学校のようなところに通っていたので、閉鎖的な場所特有の抑圧があったんです。例えば「音楽をやりたい」と言っても全否定されて、みんな公務員や銀行員を目指す……という感じでした。でもバンドを一緒にやっていたメンバーは、はっきり言ってしまえば問題児。中学3年生のときに学園祭で一泡吹かせたい、と学園祭のテーマソングをカラオケでカバーするということにして、親の協力のもと、学校にこっそり楽器を運び込んで、BUMP OF CHICKENの「天体観測」をやったんです。
――革命を起こしたんですね。
KANDAI 革命だったと思います。ちょっとした暴動じゃないですけども。結果的に生徒たちがめちゃくちゃ楽しんでくれて、その姿を見て先生たちが考えが変わったようなんです。同じ学校に妹も入ったのですが、雰囲気が変わったと聞きました。そこから「バンドしかない」と思うようになって、勉強はやめて、ずっとドラムだけやって、東京に出てきたという感じです。
――人に歴史ありだなと改めて感じたのですが、この4人のバンド的な初期衝動というとどうでしょうか。
片桐 最初はkazuと自分で、別の名前でバンドをやっていて。(2016年に)2人がほぼ同時に入ってきたんです。メンバーが2人変わるとサウンド面にも変化があるので、スタジオに入ったり、合宿をしたりしていたんです。で、初ライブどうする?となったときに、まず関係者に見てもらいたいなと思って、告知もせずに、ひっそりと飛び入りで初ライブをしたんです。他の出演者は弾き語りやDJで、一般のお客さんもほぼゼロという状態。ライブハウスの方と、うちの事務所・レコード会社の人と4人くらいが見ているなかで、しかも2Daysやったんです。
kazu 2Days、やったなぁ(笑)。
――それは思いきりましたね!(笑)。
片桐 謎に2Days(笑)。そのとき出演者の方に「めちゃくちゃ良いですね。バンドずっとやられてるんですか?」と言われて。それが自信になりました。スタッフの人は基本はダメ出しをしに来ているわけで(笑)。だからこのあと色々言われるんだろうなと思っていた時にその言葉を言われて救いになりました。お客さんゼロのひっそりライブが初期衝動になっていると思います。でもなんの曲をやってたかは覚えてないなぁ。
kazu 覚えてるよ(笑)。MCしてたもん。
KANDAI 当時はね(笑)。未だにそのときの映像、遠征に行くときに見てるんですよ。もう心臓がぎゅっとなります(笑)。
ソラ 「SEIEN」を作るとなったときに「ある曲を超えたい」という話をしていて。その曲もその当時やっていました。ハスタに毎日入っていた時期があって、「SEIEN」で超えたい曲を何回か合わせたときに、バチッとハマった瞬間があったんですね。そのときの無敵感が、この4人になっての初期衝動だったような気がしています。そのときの初期衝動を「SEIEN」で超えようとしているのがすごいなと今話をしながら気づけました。
――その曲というのは……
ソラ 「Rebellious」という曲です。ずっとやっている曲なので、セットリストから外せなくて「超えたいね」と言いつつも頼っているところもあって。それで、そろそろアップデートしたいよね、と。
――新しい武器になるような曲を。
ソラ まさに新しい武器という表現がぴったりです。
――それにしても、自分たち自身が生み出した名曲を、自分たち自身で超えるって、言葉以上に難しいものがあると思います。
ソラ 本当に。でもそれを全員で意識してライブに臨むと曲のクオリティも上がると思ってて。そういう共通認識を全員が持っていたというのは強みだなと思っています。
kazu いつまでインディーのときの曲に頼ってるの、って思ってて。このメンツでも長いし、そろそろ超えようかと。
ソラ 絶対にセットリストに入ってるしね。こんなに大きなタイアップを今回いただき、しかもそれがライブ曲で、MVも出すことができたので、本当に良い武器が入ってきたなと。
――これからは、ライブでその武器を磨いていく作業になるわけですよね。
ソラ まさにそうですね。
――曲が出来たときには「超えたな」という手応えはありましたか?
KANDAI 正直完成したときはわからなくて。もちろん同等のクオリティがある曲だとは思うんですけど、ライブ曲なのでお客さんありきというか。先日初めてライブで披露したのですが、1回目でここまで盛り上がったのなら「SEIEN」ツアーのファイナルでは、超えれるんじゃないかなという感触があります。声が出せるようになったので、「Rebellious」の良さ、そして「Rebellious」にはなかった一緒に声を出すところも盛り上がるだろうなと。
――「SEIEN」は初っ端からシンガロングできますもんね。
kazu そうなんですよね。先日のライブは声出しがOKだったので「声を出すライブってこんなに楽しいんだ」と再確認しました。うちのお客さんはそこで予行練習ができたはずなので、次のツアーが楽しみですね。
片桐 今までシンガロングができる曲ってそんなに多くなかったので、ここにきて、みんなで歌える曲ができて、声出しが解禁になったので、それは僕らにとっても大きなことです。
――青炎という歌詞が、一ヵ所だけ声援になるブロックがあります。<感覚を誇れ 感動を守れ 声援はいつでも心に 長い道だと知っていても 本心だけを育ててきた>という言葉は、バンドの思いが込められた部分だと思っていたのですが、「超えたい」という思いがあってこその言葉なのかもしれませんね。
片桐 そうですね。ライブで一番の曲にしたいという思いがあったので、この“声援”という言葉も必要だったなと思っています。
――「SEIEN」という最強のアンセムが出来たことで、今度は「SEIEN」を超えなければいけないんだなと思うとバンドって戦いだなと。
一同 まさに。
kazu 日々自分を超えていかなければいけないという。
――ところで、With ensembleで「SEIEN」を、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノとともに、アコースティック編成のLenny code fictionがオーケストラアレンジで披露されていました。いつもとは違う編成というのはとても新鮮でしたが新しい発見などはありましたか?
片桐 テンポを下げて、アコースティックで。最初は「ロックサウンドだから難しいんじゃないか」と思っていたんです。でもいざやってみたら、メロディが際立って、良い意味で違う曲になった印象がありました。もしかすると、アレンジ次第でもっと曲が変わっていくんじゃないかなという発見がありました。先ほどフォルダの話がありましたけど、ライブ曲のフォルダにあったものが、バラードのフォルダにうつる可能性もあるんだなと。曲の可能性がどんどん広がっていきましたね。
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