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INTERVIEW

2023.03.10

今まで演じていたキャラクターを全部入れ込み自分の武器に!山下大輝、待望の1stアルバム『from here』リリースインタビュー

今まで演じていたキャラクターを全部入れ込み自分の武器に!山下大輝、待望の1stアルバム『from here』リリースインタビュー

「コロナ禍がなかったら、今こうしてアーティストとして音楽を届けてはいなかった」という山下大輝。声優として芝居を通して多くの人を元気にしていた彼が、歌に想いを込め、聴く人へとエールを送りたい、と選んだ音楽活動がスタートをしてからまもなく2年。待望の1stフルアルバム『from here』が完成した。“ここから”彼が届けたいもの。それは聴く人へのエール。同じ時代を生きるすべての人へ、共に頑張ろうと声を上げる1枚について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

これまで演じてきたキャラクターと共に在ることがアーティストとしての自信

――1st EP「hear me?」をリリースしてからまもなく2年。待望の1stアルバムを完成させるまでの間に配信シングル「キャンドル」の制作もありましたが、楽曲制作への刺激になったことなど、ご自身の音楽活動で印象的だった出来事はありますか?

山下大輝 音楽活動をしていることで、世界が広がりました。音楽的観点から見た“表現”は、これまで見てきたものとは全然違うんだなということをすごく感じています。レコーディグするにあたって色々な方に楽曲を提供していただいて、例えばそれぞれのクリエイターさんの味や「こういう歌い方があるのか」「こんなふうに声を出すと違った表現ができるのか」という視点や、「こうすることで歌はこんなふうに聴こえるんだな」といった知識だったり。お芝居とはまったく違うアプローチから歌としての表現を改めて広く知ることができましたし、発見がたくさんありました。

――そうなるとクリエイターの皆さんと音楽的なお話をされる時間が楽しくなりそうですね。

山下 そうですね。極端に言うと、習い事をして、新たな世界をどんどん見ていく感じと似ている気がします。僕からするとそれは知らない場所を観光しているみたいな感覚なんですよね。全然知らない知識を得られるし、近いようで遠い表現の世界だなと思います。今回のアルバム収録曲で言うと、「暁」はまさにその感覚にドンピシャな1曲。ニュアンスや抑揚のつけ方を色々と試したのですが、この曲についてはそういったものが一切いらなくて、とにかくひたすら実音で真っ直ぐに歌う表現こそがぴったりだったんです。ニュアンスをつけたくなるけれど、それを我慢して歌うようなところが如実にあるからこそ難しかったです。そういうところもレコーディングで聴き比べたりして「こう聴こえますよね」「もう一度聴いて比べてみましょう」と提案していただきながら、レコーディングブースとミキサールームを行ったり来たりして作りました。今回のアルバムは全体的にクリエイターさん、スタッフ含めて、たくさんのディスカッションを重ねながら作った印象です。やっぱり音楽制作って面白いですね。

――音楽の世界を観光しながら、たくさんの情報を吸収してきたからこそ、逆にそこで知りえた表現をキャラクターソングに投影することも?

山下 キャラソンはキャラソンですから、キャラクターの範囲の中でどう工夫するかという戦いがあるので、表現としては特殊なものではあります。でも、そのなかでキャラソンの枠を超えたところでどう納得させられるかをずっと課題として持っていたんです。誰かが聴いたら、キャラとのずれを感じるのではないかと思いながらも「このキャラクターにはそういう面もあるよね」という新たな発見に繋がるような表現にできたらいいなって。そう感じさせる表現を取り入れることができたらキャラクターの表情がより豊かになるんじゃないかと思いますし、歌の中で枠に囚われないものを目指していきたいというか。曲の良さやキャラクターの良さも入れつつ、より深いところ、広いところを目指せたら、聴いている方も「このキャラクターはこんな表情もできるんだ」とそのキャラクターの成長を感じてもらえると思いますし、そう思ってほしいんです。僕の歌っているキャラクターって長い付き合いとなっている存在が多くて。キャラクターのことを十分にわかっているからこそ、その自由さを受け取ってほしいですし、頼ってもらいたいな、と考えつつ、これからの表現に繋いでいきたいので、アーティストで培ったものをキャラソンに、キャラソンで培ったものをアーティストへ、と得た表現のキャッチボールをしながら今後もやっていきたいなと思っています。

――キャラクターソングで培った表現や技術、出会った音楽がご自身のアルバム制作に生きた、という感覚はありましたか?

山下 キャラソンをずっと歌ってきたからこそキャラソンとは違うことをしなくちゃいけない、と考えることはしていないんですね。キャラソンをたくさん歌っていると、アーティスト活動をするときに「あのキャラっぽくしちゃいけない」という考えに陥ってしまいそうですが、僕は全部乗せにしたいんです。今まで演じていたキャラを全部入れ込んだら自分の武器になると思っているんですね。どこかの曲のどこかのフレーズ、その瞬間だけでも、どこかのキャラクターが見え隠れするみたいなところを入れられるのが強みでもあるし、そこは自分の面白みやサプライズ的な意味でも、表現として色濃くしていきたいなって思っています。

――キャラソンで知った表現を武器として使う?

山下 はい。それらの表現を培ってくれたものこそがキャラソンですから、それを深めることで自分もより自信を持って胸を張って歌えると思いますし、今まで演じてきたすべてのキャラが背中にいるという気持ちでいます。キャラクターが一緒にいてくれたから自信を持って演じることができる、という気持ちが昔はもちろん今も僕の中にはあるし、自分1人になると思うと一気に心細くなっちゃうので、その自信のつけ方をどうにかアーティストのほうにも持ってこられないかなって思っていたんです。「アーティスト・山下大輝」って出るのは正直、心細いんですよね。どうして心細いのかなと思ったときに「キャラクターが一緒にいないからだ」と気づいて。この活動にもキャラクターが側にいる感覚を持ってこられないかなと思ったんです。でも普段から歌っていると、歌の端々に彼らのフレーバーって勝手に出てくるんですよね。「ここは誰誰っぽいな」とか「あのキャラの聴こえ方に似ているな」と彼らのフレーバーを自分自身も感じるし、歌のどこかに息をひそめているキャラクターがいるな、と思うことで山下大輝として歌うことの自信に繋がった。そういった意味でも僕自身の表現の仕方はこの先にあるのかな、という気づきになりましたし、意識してそういった表現も出していこうと今は思っています。

『hear me?』から『from here』。ここにいる、ここから、と放つエール

――山下さんが、ファン待望の1stアルバムをリリース。制作が決まった際にはテーマを決めることや方向性の決定など、どのようにしていかれたのでしょうか。

山下 アルバムを作るための一貫したテーマやコンセプトが欲しいなと思いました。やりたい曲調は、正直に言うと無限にあるんですけど、その中でも1st EPを出して、デジタルシングルを出して、アルバムを出すというここまでの大きな流れを1つの道にしたいなと思って、一貫したテーマを持たせたからこそ繋がりの強さを感じさせる『from here』というタイトルに決めさせていただきました。

――『hear me?』からの『from here』。その一貫したテーマとは?

山下 “エール”が一番のテーマになるのかな、と思います。デビューしたきっかけがコロナ禍で、もしもコロナがなかったらアーティストにはなっていなかったと思うんです。色んな方々が、今頑張るための力や明日を頑張るための力を歌からもらっていた時期に、声優としてお芝居をする以外に、自分がエールを届けられるきっかけがないかと思って出したのが『hear me?』でした。最近になって状況は良くなってきたけれど、まだまだ油断できないし不安を抱えている人もいるからこそ今回のフルアルバムまで一貫してエールを歌いたかった。ここまで寄り添うようなエールを歌ってきたけれど、フルアルバムではまた違った、もう一歩踏み出したエールをたくさん入れたいなと思って今作に臨みました。

――そんな1stアルバム『from here』に収録されている新録曲について、オーダーのことや制作秘話を伺っていきたいと思います。まずはアルバムのタイトル曲であり、インスト曲の「from here」です。インストで幕を開けるとは!しかもタイトルを読み上げる声だけが入っているのも斬新です。

山下 何かが始まるワクワク感がありますよね。次に収録されている「暁」が、夜明けの意味なので、その前に、朝の、陽が上がらない静けさみたいなところからアルバムをスタートさせたかったんです。音的にもすごく静かなところからスタートをして、朝の目覚めからだんだんと植物が目覚め、動物が目覚めていくような情景をイメージしていただいて「よし、ここからだ」と自分に向けた始まりを表現しています。朝の静けさは、自分の気持ちを整理するうえでも必要ですし、今から始まる自分の物語として、まずは頭も心も真っ白にしてもらったところで「from here」の声が聴こえる――「ここからだ」という言葉がすっと入ってきて、バーン!と希望の光として太陽が昇る景色がみんなの脳内や心の中で輝いたらいいなと思ったんです。

――その「暁」はBLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)の田邊駿一さんが作っています。どのようなオーダーだったのでしょうか。

山下 ブルエンさんの作る楽曲って、飛躍するパワーが印象的なんですよね。きっかけは、僕が(緑谷出久役で)出演する『僕のヒーローアカデミア』で主題歌を歌ってくださっていたことですが、そこから色々と楽曲を聴かせていただくようになって。聴くとパワーをもらうような印象がどの曲も強かったんです。でもキラキラしているというよりどちらかというと熱くて、泥臭い感じが僕自身には刺さって。かっこいいし、がむしゃらに頑張る姿が浮かぶ曲が多いんですよね。それを出してほしいということと、プラスして30歳を超えた僕自身の等身大の悩みやリアルな時間との向き合いや対話を描いてください、とお伝えしたら、この「暁」が届きました。

――等身大の山下さん?

山下 20代の頃ほど前のめりになれない30代ならではの悩みみたいなところですね。石橋を叩いて渡ってしまう年代じゃないですか?昔ならど真ん中をどんどん進んでいたものが、時を重ねて、色々な知識を得て、様々なことを経験してきたが故のディフェンシブなメンタルになってきてしまっている自分がいるんですよね。でもそれは悪いことでもないと思うんです。でも……と、微妙に悩む時期と昔の自分とのコントラストを表現できたらいいなと思っていて。だからこそサビとAメロ、Bメロの温度差が激しくなっているんですよね。夢→現実→夢→現実みたいな、なんとも歪だけれど、これこそが人生だ、という歌。それと向き合って、全部を持っていこう、と前向きな曲になればいいなと思ってオファーさせていただきました。

――歌ってみていかがでしたか?

山下 楽しかったです。この曲のレコーディングは色んなことを試させてもらった機会でもあったんですね。最初の、サビで始まるところも、どう歌おうか悩みました。今まで色んな曲、色んなキャラソンを歌ってきたけれど、ここはどうしようかとブレス多めにしたり、感情を乗っけてみたり様々な工夫をした結果、真正面を見据えて歌うという表現に落ち着いたんですね。レコーディングをやっているときに、結局原点に立ち返るんだな、とめちゃくちゃエモい瞬間があって。色んなことをしてきた結果、ストレートに熱を込めて歌うことが一番いい形なんだなとまわり道をしながらもベストな歌い方に辿り着いた曲です。キラキラしていないけどがむしゃら感のある、まさしく30代の等身大の1曲です。

――続いて「アクション」です。TVアニメ『弱虫ペダル LIMIT BREAK』のEDテーマであり、佐伯ユウスケさんと共に歌う1曲です。

山下 (「弱虫ペダル」のEDテーマの)お話をいただいたときに、正直な話をしてしまうと実は乗り気ではなかったんです。僕、結構こだわりが強くて……ずっと小野田坂道として演じてきただけに、坂道としてそこにいたかったんです。キャラクターとしての自分が強すぎて、歌う存在としての自分が想像できなくて。僕の声優としての形を作ってくれたキャラクターの1人だし作品の1つなので、僕の中に特に色濃く小野田坂道という存在は息づいているんです。だから最初は「僕は坂道としてここにいるべきだと思うから」と自信もなかったのですが、スタッフさんと何度も打合せをさせてもらって、色々な案を出しながら話し合いを重ねていくなかで「この方法なら自分がエンディングを歌うことができる」と思えたのが、佐伯さんと歌うことだったんです。佐伯さんは『弱虫ペダル』という作品を一緒に盛り上げてくれていますし、僕にとってはチームメイトだと思っているんです。10年くらい演じているからこその悩みもあったし、だけどそれを全部楽曲に乗っけてくれるのも佐伯さんだと思っていますし、演じてきたからこそ歌える1曲になりました。『弱虫ペダル』をずっと観てきた人たちにとっても思い出になる曲になればいいなと思いますし、それぞれが生きてきた中での頑張ったことや悔しかったことといった物語もフラッシュバックしながら前に進めるような、明日の自分にバトンタッチできるような曲になっているので、これも1つの“エール”の形だと思います。

次ページ:「あのとき頑張った自分」が宿る「山下大輝の原点」となるアルバムに

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