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INTERVIEW

2023.01.20

作曲家・俊龍が音楽プロジェクト「Sizuk」を始めた理由――TVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』OPテーマ制作秘話と飽くなき情熱に迫る!

作曲家・俊龍が音楽プロジェクト「Sizuk」を始めた理由――TVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』OPテーマ制作秘話と飽くなき情熱に迫る!

アニメ・アイドルソングの分野を中心に活躍し、数々の名曲を生み出し続けている作曲家の俊龍が、歌い手/作詞家/編曲家/イラストレータ―ほか様々なクリエイターと共に音楽を届けていく新プロジェクト「Sizuk」を始動。2023年冬クールのTVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』のOPテーマ「Dystopia」でデビューを飾った。作曲家として華々しいキャリアを誇る俊龍が、新たな挑戦にかける想いと情熱について、本人へのインタビューで迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

作曲家・俊龍が自身の音楽プロジェクトを始めた理由

――あの俊龍さんがアーティスト活動を始めるとは思わず、最初に知ったときは本当に驚きました。

俊龍 自分も驚きました(笑)。“アーティスト”という呼ばれ方もまだ慣れないですね。ただ、自分がやることの軸は変わらなくて。今までいわゆるアニメや二次元のコンテンツに紐づく作品や楽曲を多く制作してきましたが、その中でもまだ開けていない引き出しを開けていこうと。

――あれだけたくさんの楽曲を生み出してきたのに、まだ開けていない引き出しがあるんですか!?

俊龍 はい。「実はこういうこともできるんだけどな」というのがありまして。なので、今までお会いしたことのない歌い手さんだとか、アレンジャーさん、作詞家さん、ミュージシャンの方々ともご一緒して、自分も新しい発見をしたり、聴いていただいた方々が「こんなこともできるんだ」と感じることをやっていければと考えています。自分は曲を作る、たまに編曲や作詞もする、という軸はブレることなくありつつ、その他に関わってくださる方々も全部ひっくるめて“組合”のような感じに活動できればいいなと。

――アーティスト活動を始めたきっかけを聞きたいのですが、そもそも以前からやってみたい気持ちはあったのですか?

俊龍 男性アーティストさんや声優さんの楽曲を作るときに、自分で歌をうたってデモ音源を提案することがあるので、そんなときに相手のプロデューサーさんから「ちょっと歌ってみませんか?」と半分ネタとして声をかけてくださることは何回かあったのですが(笑)、自分がそういう分野に足を踏み入れるのは荷が重いというか、フィーリング的にも違うかなというのがありまして。ただ、今回は長く一緒に作品を作ってきたプロデューサーさんにお声がけいただいて、先ほどお話した新しい引き出しを掘り下げたり、楽曲提供のお仕事のなかではなかなか取りかかれなかったジャンルにもトライできるかな、という気持ちもあって始めさせていただきました。

――今回のアーティスト名にあたるSizukは、俊龍さんが以前から編曲などのクレジットで使用している名義ですよね。

俊龍 はい。自分は駆け出しの頃からメロディを作ることには自信があって、作曲家1本でやっていきたい気持ちがあったのと、当時は編曲に必要なスキルやソフトシンセなどの良い音源が足りず、ものすごく時間をかけていたので、なるべく作曲の仕事に集中できるように、編曲だけのお仕事がこないように名義を変えていたんです。ただ、現実的な話として、作曲のお仕事の場合は収入が印税になるので、お金が入ってくるのに時間がかかるのですが、編曲の場合はギャラがすぐに入ってくるというのもありまして(苦笑)。なので実際、自分の楽曲以外の編曲はほぼやったことがないんですよ。

――その名義を今回、看板に据えたのは?

俊龍 一番の理由は、どんな屋号にするかをギリギリまで考えたのですが、なかなか出てこなかったからです(笑)。自分は和っぽい楽曲や作品も好きなので、そういう感じの名前でいこうかな?と思っていたのですが、どこかかっこつけたような言葉しか思い浮かばなかったんですよね。Sizukだと自分や身の回りの方も呼びやすいですし、これがいいかなと思いまして。あまり大した理由はなくてすみません(笑)。

――いえいえ!でも、俊龍さんの活動を追っているアニメ音楽ファンの方なら、Sizukの名前を見たらピンとくるでしょうし、いい名前だと思います。

俊龍 ありがとうございます。普段から編曲や演奏者のクレジットを見て盛り上がってくださる方々が「おっ!」と思っていただけると嬉しいですね。

藤林聖子、神田ジョン、AYAMEと共に作り上げた始まりの曲

――そんなSizukの第1弾楽曲「Dystopia」は、TVアニメ『冰剣の魔術師が世界を統べる』のOPテーマです。アニメ制作サイドとはどのようなやり取りをしながら楽曲制作を進めていったのでしょうか。

俊龍 まずお話をいただいた時点でマンガを読みまして、そのうえでプロデューサーの方と話し合いながら楽曲のイメージを固めていきました。この作品の登場人物は、主人公をはじめ逃れられない運命に捕らわれていて、それぞれの背景は違うのですが、それをこじ開けて共に前に進もうとする気持ちを持っていて。それと「冰剣」のイメージを大切にして、疾走感と“熱い冷たさ”を激しめに表現しつつ、アニメで初めて楽曲を聴く方にも驚いてもらえるような楽曲を目指しました。

(C)御子柴奈々・講談社/「冰剣の魔術師が世界を統べる」 製作委員会

(C)御子柴奈々・講談社/「冰剣の魔術師が世界を統べる」 製作委員会

――まさに情熱的な部分とクールな部分が掛け合わさったような楽曲に感じました。今回は作詞に藤林聖子さん、編曲に神田ジョンさんと、錚々たるクリエイターの方が参加しているわけですが、この人選は俊龍さんの意向も踏まえたものですか?

俊龍 そうですね。特に編曲に関しては、プロデューサーから候補を聞かれたのですが、今回の楽曲ができたときにパッと思い浮かんだのが神田ジョンさんだったんです。以前に自分が作った楽曲で何曲かギターを弾いてくださったことがあったのですが、そのときに「熱いな!」と感じて。それと田所(あずさ)さんのバックバンドでギターを弾いているのを観たときにすごいステージをされていて、上手い、熱い、ヤバい!みたいな(笑)。

――めちゃめちゃ印象に残ったんですね(笑)。

俊龍 そのときから「これはギターを弾いてもらうだけでなく、編曲もまるっとお願いしたらすごいものができるのではないか?」と想像するようになって。自分は普段、主にピアノや鍵盤系を使って作曲するのですが、そんな自分のメロディをギター専門の方にアレンジしてもらうことで、自分とはまた違った解釈をしてくれるでしょうし、ジョンさんなら今回の作品に合った熱さを加えてくれるうえに、ときには残酷さや際どい感じも出していただけるのではないかと思って、編曲をお願いすることにしました。

――話の流れでアレンジについて先にお伺いしますが、音源を受け取ったときの印象はいかがでしたか?

俊龍 これはボーカルレコーディング用のラフ音源のときから感じたことですが、「どうやって作ってるんだろう?」と思いました(笑)。本レコーディングした音源も、ギター、ベース、ドラム、すべての演奏の気合いがすごくて、しかも良い演奏をただ単に積み上げただけではない融合、グルーヴが感じられて、素晴らしかったです。

――個人的にはイントロのピアノも印象的だったのですが、もしかして俊龍さんが弾いているのですか?

俊龍 あれは多分ジョンさんがキーボーディストの方にお願いしたんだと思います。ただ、デモの段階では自分で弾いていて、その時点でフレーズはほぼ今の形のままでした。アニメのオープニング曲の場合、ちょっとしたイントロがあったほうが(アニメの制作的に)使いやすいことは経験上わかっていたので、今回もイントロを付けるようにしたのですが、作り始めたら思いのほか長くなってしまって、イントロの中だけでストーリーが展開してしまいました(笑)。

――俊龍さんらしいエピソードです(笑)。でも、あのフレーズは聴いた瞬間に俊龍さんの楽曲だとわかるので、Sizuk名義の最初の楽曲という意味でもピッタリだと思います。

俊龍 ありがとうございます。ただ、皆さんがよく俊龍節とか言ってくださるのはすごく嬉しいのですが、自分ではなかなかわからないんですよね。きっと自分で自分の匂いがわからないのと同じことなんだと思います(笑)。

――メロディの話で言うと、特にサビの最後の部分、高音からさらに高い音に持っていくメロディ運びはインパクトも絶大で痺れました。

俊龍 サビの最後はどうやって締めるか苦戦したところで。あの上の音からさらに高音に上がるメロディは、思いついたとしてもなかなか歌えるものではないので、ギターソロやピアノソロ、イントロのフレーズで使うパターンが多いんです。ただ、今回は『冰剣』の世界観にマッチするものを考えた結果、今回歌ってもらったAYAMEさんが高いところまで声が出る方なので、頼ってしまいました(笑)。AYAMEさんも果敢に挑んでくれる方で、本番レコーディングの前にプリプロを行ったら歌えたので「すごい!」となりまして。

――AYAMEさんは普段、ロックバンドのAliAのボーカリストとして活躍されている方ですが、今回はどんなご縁でお願いしたのでしょうか。

俊龍 これはプロデューサーの方と一緒に、今回の楽曲のイメージに最適な歌い手の方を探すなかでお声がけしました。自分はマイナーアップ系のかっこいい楽曲と、爽やかでかわいらしい感じのスウィートな楽曲が主軸としてありまして、Sizukでは今後さらに軸を増やしていく予定なのですが、今回はかっこいい系の楽曲でいくとなったときに、色々な方に意見を聞いてリサーチをしたんです。それこそ自分の師匠で今は大阪芸術大学の講師もされている上田(起士)さんですとか、自分の親友でSizuk Entertainmentを一緒にやっている湯浅(順司)くんにも相談して。そんななかで、プロデューサーの方が見つけてきたのがAYAMEさんだったんです。

――それはAliAの楽曲だったわけですか?

俊龍 はい。何曲か動画で上がっていたものを聴いて、歌声がかっこいいですし、フレッシュな部分もあって、今の時点でも十分すごいのですが、もっとすごくなれる人なのではないかと感じたんです。伸びしろがあるし、さらに上のギアを作れるのではないかと思って、お願いしました。

――ハイトーンでの澄んだ声質をはじめ、耳に残る歌声をされている方ですよね。

俊龍 そう、フックがあるんだけど攻撃的ではないというか、良い意味で激しいんだけど耳に心地良い歌声をされているんですよね。AYAMEさんも引き出しがたくさんある方で、色んな楽曲を歌ってみたいというお話だったので、今回の弾丸のような楽曲だけでなく、今後もご一緒できればと考えています。

次ページ:Sizukという名の“音楽プログラム”が秘める無限の可能性

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