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2023.01.18

【連載】第11回:水木一郎/Anisong Giants -アニメ音楽の巨人たち-

【連載】第11回:水木一郎/Anisong Giants -アニメ音楽の巨人たち-

不撓不屈のアニソン魂

80年代に入ると、アニメソング界は大きな変革を余儀なくされる。水木の所属する日本コロムビア一強に近い状態だったアニソン業界地図に、新たなレコード会社が次々と参入。各社が推す新たなアニソン歌手が登場してくるだけでなく、J-POPアーティストやアイドルとのタイアップが増えていくなど、アニメソングが新しいビジネスフィールドとして注目されはじめるのだ。当時、30代後半を迎えていた水木も、徐々に番組主題歌を担当することが減り、思い悩む日々が続いていたと後に語っている。「テレビまんがの歌」から「アニメソング」の時代への橋渡しの役割を務めた功労者の水木にも、不遇の時期があったということになるだろう。

しかし、80年代の終わり頃、小堺一機・関根勤のラジオ番組「コサキン無理矢理100%」(TBSラジオ)が彼の歌に注目、それを受けて水木の人気がにわかに高まっていく。そもそもは「ゼーット!」のような雄たけびを面白がったり、替え歌にしたりという「ネタ」としての扱いに近いものだったが、雄たけびを自身の持ち味としてさらに強調したり、赤いマフラーを首にまく衣装など、ステレオタイプなアニメソング歌手の姿を自ら背負うことで、水木はこれをチャンスに変えていった。この盛り上がりは初のベストCD『OTAKEBI参上! 吠える男 水木一郎ベスト』(1989年)や、代表的なアニメ・特撮ソング17曲をメドレー化したニューシングル「懐かしくってヒーロー」(1990年)、それまでの作品の集大成となるCD『水木一郎大全集』シリーズ(1990~1992年)の発売へとつながっていく。洋楽歌手、ヒーローと、「演じて歌う」ことを自らの歌の必殺技としてキャリアを築いてきた水木は、ついに「世間が求める水木一郎像」を自ら演じて歌うという境地に到達する。現在、私たちがよく知る「ゼーット!」の水木一郎は、この時期に生まれたものなのだ。

次世代にアニソンを歌い継ぐために

1997年、古巣の日本コロムビアとの専属契約を解き、水木はフリーの歌手となる。さらなる飛躍のための独立だったが、水木はまたしてもここで好機を掴む。ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズによるスパロボブームの到来だ。『マジンガーZ』を始めとする過去のロボットアニメやヒーロー作品がゲームに登場したことで、水木の歌が再度注目を集めていくことになる。この流れは旧作の再評価だけに留まらず、「スーパーロボット大戦F」(1997年)イメージソング「熱き血が勇気に」「マジンカイザー」を皮切りに、「スーパーロボットスピリッツ」(1998年)CMソング「鋼の魂」、OVA『真ゲッターロボ 世界最後の日』(1998年)主題歌「今がその時だ」、「スーパーヒーロー作戦』(1999年)主題歌「スーパーヒーロー作戦!」「輝け!!スーパーヒーロー」など、ゲームを超えた新作アニメや、そのための新曲・新録の歌が続々誕生する展開に至っていく。

さらにこの気運はライブイベント“ROBONATION SUPER LIVE”~“スーパーロボット魂”を経て、戦隊、アニソン、ヒーローソングなどに派生し、現在も続く“ANIME JAPAN FES”シリーズなどに受け継がれていく。「アニソンを“コンサート”ではなく、大規模な“ライブ”で盛り上がって楽しむ」という、今では当たり前となったカルチャーを最初に仕掛けていったのも、水木一郎とその仲間たちなのだ。1999年にはフジテレビの音楽番組「快進撃TVうたえモン」の企画により、「24時間1000曲ライブ」が実現。河口湖ステラシアターに集った5000人のファンと共に、これまでの足跡を振り返るかのように持ち歌を歌い続け、見事、1000曲の歌唱を完遂し、ライブを成功させている。アニメソングを集めた歌番組がゴールデンタイムに成立することを世に示し、水木自身の存在も広く世間に浸透することとなった。さらに、「21世紀へ古き良きアニソン魂を残したい」と呼びかけ、アニメソング歌手グループ「JAM Project」を結成。アニメソング界を担っていく次世代のために、新たなプラットホームを築くことも忘れていなかった。

アニソンを世界に誇るポップカルチャーに

その後もアニメ・特撮ソングはもとより、ドラマ、映画の主題歌・挿入歌、テレビバラエティ、ラジオ番組、ゲーム、地方創生、ご当地キャラクターソングに至るまで、世の中が求める限り、彼は「水木一郎」として歌い続けた。2000年代以降は、フランス、中国、韓国、シンガポール、タイ、インドネシア、コスタリカ、ベトナム、台湾、サウジアラビアなど、海外でのアニメソング公演を次々と成功させている。アニメソングが国を跨ぎ、言語を超えた理解と共感を呼ぶことができること、国際交流手段として極めて有効であることを世界に示したのだ。このことは、ネット百科事典Wikipediaの「水木一郎」のページが、日本人最多レベルの約90言語で掲載されていることにも現れていると言えるだろう。2015年には、小学3年生向け道徳副読本「3年生のどうとく」に、水木を描いた読み物が掲載。道徳の指導内容の一つ「個性伸長」の題材として、アニメソングとともに彼が歩んできた道が紹介されている。アニメソングやキッズソングとならび、「教科書の水木一郎」で育った世代も誕生しつつあるのだ。

水木一郎が、「アニメソング歌手の草分け」なだけの人物ではないことが伝わっただろうか? 彼がアニメソングのための道を作り、その先頭を歩いていたのは、黄金時代の70年代だけの話ではないのだ。水木一郎が自ら歩き、狭い道を切り拓き、緩んだ土を踏み固めながらアニメソングの進むべき方向を示し、世間への認知を広げ、メディアに露出し、時にネタにされながらも、「アニメソングここにあり」と全世界に向けて叫び続けたからこそ、今がある。2023年の現在、アニメソングは日本独自のポップカルチャーとして世界中からリスペクトを集める存在となった。そこに通じるすべての「道」に、水木一郎の足跡が記されていることを、どうか忘れないでほしい。

■コラム「ディスクガイド:水木一郎を知るための11枚」はこちらから


●リリース情報
水木一郎『アニソンデビュー50周年記念ベスト 絶唱 -Z Show-』
2023年1月18日(水)発売

品番:COCX-41910-1(CD2枚組)
価格:¥3,300(税込)

〈DISC-1〉
01. 原始少年リュウが行く (『原始少年リュウ』OP)
02. 嵐よ叫べ (『変身忍者嵐』OP)
03. ぼくらのバロム1 (『超人バロム・1』OP)
04. アストロガンガー (『アストロガンガー』OP)
05. マジンガーZ (『マジンガーZ』OP)
06. Zのテーマ (『マジンガーZ』挿入歌)
07. ぼくらのマジンガーZ (『マジンガーZ』ED)
08. バビル2世 (『バビル2世』OP)
09. ロボット刑事 (『ロボット刑事』OP)
10. 侍ジャイアンツ (『侍ジャイアンツ』OP) ※松本茂之名義
11. セタップ!仮面ライダーX (『仮面ライダーX』OP)
12. おれはグレートマジンガー (『グレートマジンガー』OP)
13. 勇者はマジンガー (『グレートマジンガー』ED)
14. がんばれ ロボコン / 水木一郎、山上万智子 (『がんばれ!! ロボコン』OP)
15. 仮面ライダーストロンガーのうた (『仮面ライダーストロンガー』OP)
16. テッカマンの歌 (『宇宙の騎士テッカマン』OP)
17. 鋼鉄ジーグのうた (『鋼鉄ジーグ』OP)
18. 勝利だ!アクマイザー3 (『アクマイザー3』OP)
19. コン・バトラーVのテーマ (『超電磁ロボ コン・バトラーV』OP)
20. 行くぞ!ゴーダム (『ゴワッパー5ゴーダム』OP)
21. ダッシュ!マシンハヤブサ (『マシンハヤブサ』OP)
22. 輝く太陽カゲスター (『ザ・カゲスター』OP)
23. 斗え忍者キャプター / 水木一郎、堀江美都子 (『忍者キャプター』OP)
24. 地獄のズバット (『快傑ズバット』OP)
25. 男はひとり道をゆく (『快傑ズバット』ED)
26. トライアタック!メカンダーロボ (『合身戦隊メカンダーロボ』OP)
27. オー!!大鉄人ワンセブン (『大鉄人17』OP)

〈DISC-2〉
01. 父をもとめて (『超電磁マシーン ボルテスV』ED)
02. 超人戦隊バラタック (『超人戦隊バラタック』OP)
03. グランプリの鷹 (『アローエンブレム グランプリの鷹』OP)
04. キャプテンハーロック (『宇宙海賊キャプテンハーロック』OP)
05. ルパン三世 愛のテーマ (『ルパン三世』ED)
06. 北の狼 南の虎 (『野球狂の詩』OP)
07. 燃えろ!仮面ライダー (『仮面ライダー(スカイライダー)』OP)
08. はるかなる愛にかけて (『仮面ライダー(スカイライダー)』ED)
09. ムーへ飛べ (『ムーの白鯨』OP)
10. ローラーヒーロー・ムテキング (『とんでも戦士ムテキング』OP)
11. 斗え!ゴライオン (『百獣王ゴライオン』OP)
12. タイガーマスク二世 (『タイガーマスク二世』OP)
13. ゲームセンターあらし (『ゲームセンターあらし』OP)
14. おれたちの船出 (『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』OP)
15. 夢を勝ちとろう (『プロゴルファー猿』OP)
16. 時空戦士スピルバン (『時空戦士スピルバン』OP)
17. CROSS FIGHT!/ 水木一郎、堀江美都子 (『破邪大星ダンガイオー』OP)
18. サバンナを越えて (『ジャングル大帝』OP)
19. ゲッターロボ號 (『ゲッターロボ號』OP)
20. セイリング 未来へ (『SUBMARINE SUPER 99』OP)
21. 道 (『獣拳戦隊ゲキレンジャー』ED)
22. オーブの祈り / 水木一郎with ボイジャー (『ウルトラマンオーブ』OP)
23. GO AHEAD~すすめ!ウルトラマンゼロ~ / 水木一郎with ボイジャー (『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』OP)

関連リンク

水木一郎 公式サイト
https://mizuki-spirits.com/

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