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INTERVIEW

2023.01.06

坂本真綾が『火狩りの王』から受け取ったメッセージ――「救い」を描いたというEDテーマ「まだ遠くにいる」へ込めた想いを語る

坂本真綾が『火狩りの王』から受け取ったメッセージ――「救い」を描いたというEDテーマ「まだ遠くにいる」へ込めた想いを語る

1月より放送がスタートする、WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』。監督・西村純二、構成/脚本・押井守というタッグも話題となっている本作のEDテーマ「まだ遠くにいる」を歌うのは、同作にも声優として出演する坂本真綾。展開が多く壮大な楽曲だが、作品の本質をついた歌詞が心を打つ。この楽曲に込めた想いを聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 塚越淳一

『火狩りの王』から受け取ったメッセージ

――昨年末のワンマンライブ「坂本真綾LIVE 2022 “un_mute”」は、久々のライブとなりましたが、いかがでしたか?

坂本真綾 コロナ禍になって以来、Acousticライブツアーやミュージカル、25周年の横浜アリーナ公演もあったのですが、全部観客を半分しか入れることができず、満席になっている客席をステージから見たのは3年以上ぶりで……久々の感覚でした。もちろん、情勢に気をつけながらではありましたが、その光景が見れて嬉しかったですね。それと、横浜アリーナでのライブは25周年を記念したものだったので、今までの代表曲を歌っていくセットリストだったんです。それに対して今回は、横アリとは1曲も被らず、新曲2曲や久しぶりに歌う曲、滅多にやらない曲を中心としたコアな内容になっていたんですが、マニアックな内容でも非常に喜んでいただけたみたいで。横アリとは真逆のしっとりとした雰囲気のコンサートでしたけど、上手くいって良かったです。

――セットリスト、すごく良かったですね。

坂本 ありがとうございます。声を出せないこともあって、一緒に歌うような曲はなかったんですけどね。あと、産後初のライブというのがファンの皆さんの中には大きくあったらしく、1~2曲目を歌ったあとに挨拶をしたら私が思っていた以上に長い拍手が起きて……こんなにたくさんの方が待っていてくれたんだなぁと思えて、すごく嬉しかったです。

――ライブで発売前のシングルを披露しましたが、TVアニメ『火狩りの王』EDテーマ「まだ遠くにいる」について聞いていきたいと思います。まず、この作品の印象をお聞かせください。

坂本 原作の小説を読ませていただいたんですが、仕事として読み始めたのにとても面白くて完全に読者として最後まで読み終えてしまいました(笑)。いわゆる児童書という若い方も読むものなのですが、作品には色々なメッセージが含まれており大人が読んでもハッとさせられることが多くて。火というものが使えなくなった人類の未来の話なんですけど、私たちにとって火とは、ないと暮らせないくらい身近なもので、火を自在に使えることが人間がほかの動物と違いこれだけ発展した大きな要因でもあると思うんです。でもそれが奪われ、ある種自分たちが今まで作り上げてきた文明を取り上げられたとき、私たちが普段使っていたものが使い方次第でとても危険なものになり、それがすべてを壊してしまう可能性だってあるんだよ、という警鐘のようにも思えました。

そして、過去の人間が様々な選択肢を誤って世界が壊れてしまったときに、そのツケを払うのは、こんなに小さな若い子供たちであるというのも感じました。だから私くらいの年齢の人が読むと、ファンタジーだけど、どこかリアルに響くんですよね。ファンタジーと思って読み始めたけど、最後はそうは思えない、みたいな小説でした。そうやって、作者の日向理恵子さんが色々なメッセージを込めて書いたお話だと感じたので、私が共感をしたところを、歌詞にも取り入れて書けたらいいなと思いました。

――たしかに、人類はあと何世代持つんだろうなぁという話を子供としたりしますね。

坂本 私たちは終わるだけだからいいですけど、そのツケを払うのは、これからの人たちですからね。

――世界観も、未来の話だけど自然が描かれていたり、どこか親近感を感じました。

坂本 荒廃した未来の世界の話ではあるんですけど、どこか昔話の世界みたいな温かみがあるんですよ。人々が森の中で暮らしていたりするので、本を読んでいて香ってくるのは土の匂いや木の匂いなんです。逆に今の世界にない、自然なものだったりするのが不思議だなぁと思いました。そして、とても過酷な状況ではあるものの、出てくる登場人物が誰も諦めていないというのが救いにも思えて……彼らが最後まで諦めない姿を応援するというか、見守る楽曲になればいいなと思いました。

――坂本さんは、明楽役としても出演されていますが、その役柄についても聞かせてください。

坂本 戦う強い女性です。流れの“火狩り”(※安全に使える唯一の燃料でもある、異形の獣たち“炎魔”の体液を集める者)で、大きな敵にも立ち向かえるような腕っぷしの良いキャラクターです。登場したときは、この人味方なのかな?っていうくらいミステリアスなのですが、話が進むにつれて主人公たちのチームの1人として、仲間を思いやる情の厚い性格が見えてきたので、頼れるお姉さんという感じですね。あと、サバサバしているので、誰にでも好かれそうな親しみやすさがあります。ただ、ずっと死にそうなフラグが立っているんですよ……(笑)。共演者の方に「明楽のことがどんどん好きになるんですけど、最後まで生きていますか?」ってすごく心配されています(笑)。

人間が奏でているということに意味がある

――「まだ遠くにいる」の作曲は、姉田ウ夢ヤと堀下さゆりさんですが、この方々はどういう経緯で曲を書くことになったのでしょうか?

坂本 アニメのEDテーマを作ることになり、静かに始まってサビで思い切り展開していくような、派手で壮大な曲がほしいと思っていたんです。展開が読めない普通ではない曲というか。そうやって曲の方向性が決めてから、そのオーダーで複数の作家さんに曲を書いていただき、一番合うと思った曲を選びました。

――聴いたときは、イメージ通り!という感じだったのですね。

坂本 イメージ通りだったんですけど、歌うのは難しいだろうなと思ったのでそれだけが心配でした。

――難しい、と思うんですね。どんな曲でも歌えるイメージがありました……。

坂本 いつの頃からか、難しい曲を歌う雰囲気が出てしまったんですよ(笑)。望んでそういう曲ばかりを歌おうと思っているわけではないんですけれど、アニメ作品って世界観が壮大なものが多いので、そういうところにいきやすいのかもしれないですね(笑)。でも、この曲は今まで歌ったなかでも、かなり難しいほうだと思います。

――コーラスもたくさん重ねていますからね。以前コーラスは好きだとおっしゃっていましたが。

坂本 とはいえ、大変でしたよ。たくさん録りましたから(笑)。

――歌詞については、先程お話していただいた原作から感じたものが含まれていますね。

坂本 生まれた時代は選べないけど、そこで必死で生きることを繰り返すしかないという、ポジティブなのか諦めなのか……その両方が入ったようなサビの言葉になります。でも人間って、どんな時代でも灯りを掲げて立ち上がるたくましさをもって生きてきたんでしょうね。それをいけるところまで続けていくしかないというテーマがありました。

ただ、曲自体はかなりダークな印象で明るくはないと思ったんですが、そこで“きらきら光ってる“という言葉が合っているのかどうかは最後まで迷いました。違和感を感じる方がいるかもしれないですが、私は決して脅かしたいわけではないし、未来がこんなにも酷いものになるということを歌いたいわけではなくて。どんな状況でも命が生まれることはものすごいエネルギーで、命ってそこにあるだけで光を放つくらいすごいものなんだということを、「救い」として描きたかったんです。

――それは、自身の実感にも繋がることなのかもしれません。

坂本 というよりは、そうであってほしいみたいな気持ちですね。この歌詞を書いたのはもう1年以上前で、色んなことが今とは違っていたんです。それこそ、私も母親になっていなかったですし、戦争がこんなに身近で起こる状況でもなかった。これを書いたあとに、あまりにも色々なことが起こったので、書いたときとライブで歌ったときとでは感情が違うなとは思っていました。

――タイアップなのでかなり前に書いたと思いつつ、何か今の状況にも重なるというか。聴くときや歌うタイミングで歌詞の捉え方が変わるというのは、坂本さんもよくおっしゃっていましたが、この曲にもそんなことを思ってしまいました。ちなみに、一番最後の“きらきら光ってる”という歌詞を聴きながら、希望が感じられると思ったのですが、歌唱については、どんな想いで歌ったのでしょうか?

坂本 そこはコーラスが残っていくアレンジになっていて、キラキラしたものが空に昇っていくようなイメージがあったので、自然にそう聴こえたのかもしれません。私はただただ必死に歌っていただけでした(笑)。

――難しい曲なので(笑)。でも、すごく力強さは感じました。

坂本 そうですね。ただ力強さと言っても、私の声質と歌い方なので、もっと力強く歌える歌手の方はいると思うんです。だからそれよりも、弦や色々な楽器が折り重なった壮大な楽曲の中で、何か針金のように細いものが一本貫いているようなイメージで、たゆたう感じで歌いました。大海原っていうよりは一筋の雨だれみたいなイメージの歌になったかなぁ(笑)。

――でも、説得力はすごくありましたよ。壮大とおっしゃったアレンジについては、かなり面白く、ある意味すごいことになっていましたね。

坂本 かなり複雑ですよね?サビが2回続くような感じで、ストリングスだけでも聴き応えがあるものでしたし。この難曲を、素晴らしいミュージシャンが演奏してくださったので、ボーカルなしで聴いても面白いと思います。

――これを演奏しているのがすごいですね。

坂本 それこそクリックを無視しているのかなっていうくらい、どんどん前にいくような感じもあったんですよ。いわゆる打ち込みで作られている音楽と違うのは、そういう揺れの部分。生の音にこだわったところが、人間的なぬくもりになっているのかなぁって思いました。正直、打ち込みでもいいし、何なら歌も、正確性を求めるのならばボーカロイドでいいくらいの楽曲なんです(笑)。でもそういう曲を人間がすべて奏でているということに意味があるのではないかなって思います。

――サビのリズム隊は、心が動かされましたから。

坂本 走ってますよね?というくらいギリギリをいっているんですけれど、だからこそそこに引っ張られて、独特なうねりになっている気がします。1曲の間に色々な景色が通り過ぎていくので、映像が浮かんでくるような感じでした。

――ちなみに、このタイトルに込めた意味というのは?

坂本 小説のタイトルになっていそうな、文学的で、何かをはっきり言い過ぎない、聞く人に想像させるような日本語タイトルがいいなというイメージがあったんです。“雨音に目を覚ます”というスタートから、夜明けがまだ遠くにあると歌っているんですけど、その夜明けが良いものなのか悪いものなのか、何がやってくるかはまだわからないんですね。それが不安でもあり、期待でもある。まだ何も起こせていない、でももうすぐ何かが起きる、みたいなタイトルになりました。

次ページ:ライブタイトルにもなったカップリング曲「un_mute」の魅力

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