INTERVIEW
2022.10.15
ソニーが開発する360立体音響技術を用いたまったく新しい音楽体験・360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)。すでに国内でも様々なアーティストの楽曲がこの技術によって、立体的・空間的に体験ができるようになっている。そうしたなかでアニメ音楽は360 Reality Audioによってどんな可能性を見ることができるのか――アニメ音楽、あるいは音楽の未来をアーティストとともに探っていく連載「360 Reality Audio×アニメ音楽――新しい音楽体験に迫る!」がスタート。
記念すべき第1回はゲーム、アニメ、ライブなど様々なフィールドで活躍を見せるメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!」(以下、「バンドリ!」)から、Poppin’Partyの戸山香澄役・愛美と、Morfonicaの倉田ましろ役・進藤あまねの2人に360 Reality Audioを体験してもらい、360 Reality Audioと「バンドリ!」それぞれの未来について語ってもらった。
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「360 Reality Audio(以下、360RA)」とは、ソニーが開発した360立体音響技術を用いた音楽体験である。“全方位から音が降り注ぐ、新体験。”というキャッチコピーの通り、聴く人たちが音に包まれているかのような感覚で音楽を楽しむことができる。
これまでの音楽体験の歴史を紐解くと、1つのスピーカーで聴くモノラル(1チャンネル)からスタートし、そのあと左右2つのスピーカーやヘッドホン/イヤホンで聴くステレオが開発された。そこからさらなる臨場感が求められるようになると、5つのスピーカーとサブウーファー(5.1チャンネル)から成る5.1chサラウンドなどが開発されていくのだが、要するにより質の高い音楽を体験するには、スピーカーの数を増やしたり、試聴環境の質を高める必要があった、というのがこれまでの歴史である。
いわゆるこのスピーカーの数(チャンネル)に依存する体験方法“チャンネルベース”での音響体験が主流だったこれまでの音楽体験。それに対して、ソニーはチャンネルベースから“オブジェクトベース”へと発想を転換した。聴いている人を中心に球体をイメージし、そこにボーカルや各楽器などを自由に配置することによって、まるで自分を中心に様々な音が降り注ぐような、あるいは音に包み込まれるような聴こえ方を体験することができる。例えば、ドラムやベースといった低音が下から、美しいストリングスなどが上から、ボーカルが目の前で歌っているような臨場感を体験することができる。しかもそれがスピーカーからではなく、市販のヘッドホンやイヤホンで聴くことができる……という、実に画期的なものだ。それが360RAなのである。
ユーザーは質の高いスピーカーをたくさん購入したり、良い鳴りを再現するためのオーディオルームを作る必要はない。360RAを体験するのに必要なのは、ユーザーが持っているスマートフォンに、360RA対応の音楽ストリーミングサービスのアプリをダウンロードし、ヘッドホンを接続して聴く。たったこれだけである。
スピーカーの数や場所に依存することなく、どんな場所でも臨場感のあるサウンドを体験できる360RA。すでに日本でもJ-POPから洋楽の、新曲から過去の名曲までと幅広く聴くことができる。そこにはもちろんアニソンも多く含まれており、8月から9月にかけても、「バンドリ!」からPoppin’PartyとMorfonicaのニューシングルがそれぞれAmazon Music Unlimitedにて聴くことができるようになった。
そこで今回は、Poppin’Party(以下、ポピパ)から愛美(戸山香澄役)と、Morfonica(以下、モニカ)から進藤あまね(倉田ましろ役)のボーカリスト2人が、本作の360RAのMIXを行なった360RA専用の制作スタジオ・山麓丸スタジオに来訪し、ポピパの「夏に閉じこめて」とモニカの「寄る辺のSunny, Sunny」というニューシングルを360RAで体験してもらい、その魅力について語ってもらった。
――たった今、お二人には「バンドリ!」の楽曲を360RAミックスで聴いていただきました。体験した感想としてはいかがでしたか?
愛美 このスタジオが家にあったらいいのになと思いました(笑)。いつでも体感したいくらい音に飲み込まれて、気持ち良すぎて寝ちゃうんじゃないか……ってくらいすごいです。音のマッサージみたいな感じで最高でした。
進藤あまね 脳みそが震える感じ!脳がトントントントンってされてて、今ツボ押してもらってるなって(笑)。比較的耳が良いほうなので脳がヤバいです!
――お二人にはヘッドホンで360RAを体験していただいたんですが、耳に入る音圧は普段よりキツくないと思うんですよ。進藤さんが言うように頭の中で鳴っているような。
愛美 スピーカーと同じように聴こえてあまりにストレスがないので、ヘッドホンがある着圧感が不自然に思えてくるくらいですね。今までは音楽を聴くときって、音を受け止めるという感じでしたけど、これは“音の中にいる”って感じでした。
――今回はその360RAで聴ける、それぞれのバンドの楽曲にお二人が込めた想いから伺っていきたいと思います。まずは、ポピパの18thシングル「夏に閉じこめて」ですが、愛美さんの楽曲への印象はいかがでしたか?
愛美 ポピパもキャラクターの年齢が徐々に上がっておりまして、「この青春時代って永遠じゃないかもしれない」っていう儚さ、切なる感じの曲ですね。一生続くと思っていたものがふと「永遠じゃないかも」と感じて、今を大事にしたいと思う、そういう気持ちを込めました。リアルのポピパの声優としての活動も、1つ1つもっと大事にしていきたいと思わせてくれるような曲でした。
――バンドとしても円熟味を感じさせる楽曲ですね。
愛美 ギターソロのフレーズも今までになかった雰囲気で、私が好きなBUMP OF CHICKENさんを思い出しました。ポピパはまだまだ色んな音楽性を表現できるんだなという嬉しさもありました。
――メロディや歌詞も切ない印象ですが、レコーディングでもその切なさが先行する感じでしたか?
愛美 そうですね。どれだけ最初の一言でぐっと引き付けられるかというところで、歌い出しはすごく意識しつつ、冒頭は掛け合いから始まるので沙綾(山吹沙綾)の温度感も意識しながら、という感じです。以前、「八月のif」という沙綾とのツインボーカルの曲を出させていただいたんですけど、その頃からも関係性が変わっているので、同じ掛け合いでも全然雰囲気が違うかなと思います。ぜひ聴き比べてほしいですね。
――そして、この360RAのバージョンを聴かれてどうでしたか?
愛美 沙綾と香澄がそこにいました。さらに、ほかのアーティストさんの楽曲も聴かせていただいたんですけど、「バンドリ!」は実際にそこでライブをしているかのような音作りになっていると思いました。ステージ上のどこに誰がいるかが音を聴いただけで明確にわかって、いつもの立ち位置でみんなが歌っていましたね。「バンドリ!」の楽曲は演奏してる楽器を大切にして、より全部が輝いて見えるように、声だけじゃなくて、楽器も彼女たちが弾いてるんだよというのを大事にしてくれてるのかなと思いました。
――360RAは、それぞれのトラックを聴く人を中心に球体をイメージして、その球面上の上にボーカルやギターなどのトラックを自由に配置できるのが特徴で、裏を返せば立体的な作り方もアーティストによって千差万別なんです。そこで今回「バンドリ!」の360RAの制作で目指したテーマが、“ライブの立ち位置”。ここはMIXの監修に入っていただいた、「バンドリ!」の制作プロデューサーのアイデアによるところが大きいんですよね。
「バンドリ!」制作プロデューサー そうですね。「バンドリ!」はライブが柱になっているので、それがCD音源から想像できるといいなと思いまして。キャストの皆さんにやっていただくライブでもバンドリーマーの皆さんがエンドステージでライブを聴いて、どんな感じに聴こえるのかな、というのは意識してやってきたかと思います。
――そしてもう1曲、「勇気Limit!」。こちらは元気で前向きな楽曲ですが、どんな楽曲になりましたか?
愛美 この曲も「夏に閉じこめて」と同じように、ゲーム(「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」)のストーリーに準じた楽曲になっているんですが、メンバーのりみりん(牛込りみ)が今まで勇気をもらう側だったのが、自ら勇気を出してくれて、みんなを引っ張っていくという曲なので、その勇気を応援してあげたいなと思いながら香澄として歌わせていただきました。これも関係性が進化したことによって、りみりんの行動を香澄のフィルターを通してどう捉えるかというのを、ゲームの収録でもレコーディングでもすごく意識しました。今まで応援ソングをポピパが歌うときは、手を引っ張るような「ついてきて!」というテンション感で歌うことが多かったんですけど、この曲に関しては寄り添って、一緒に歩いていくような優しさがあって、温かみのある曲になるといいなと思って歌いました。
――こちらの楽曲も360RAで聴いてみていかがでしたか?
愛美 りみりんがそこにいました(笑)。楽曲の輪郭がはっきりして、新しい楽曲のように聴こえますね。この曲の始まりってこんなインパクトあるんだってすごくびっくりしちゃって。
――360RAの特徴なんですけど、それぞれのトラックを分けて貼りつけることで、ボーカルや楽器もすごく粒立って聴こえるんですよね。それもあってコーラスもより立体的に聴こえるというのはありますね。
愛美 この環境で聴くと、なんだか歌が上手くなったような気がするんですよ(笑)。
――なるほど(笑)。ボーカルのMIX具合も360RAだと特徴的で……そこは今回のMIXを担当したエンジニアの鳥越さんにもお伺いしたいなと。
鳥越(山麓丸スタジオ) そうですね。この曲もライブということで、ボーカルにどれだけリバーブを入れるかは特に注力しました。ボーカルでも空間を感じるように、というMIXを心がけました。
愛美 なるほど!リバーブが多めにかかってるからか、ぐっと成長したようにも聴こえますね。自分はライブで演奏する側ですけど、実際にライブで聴いたら、お客さんはこういう感じで聴こえるのかな?って思いました。自分の歌もすごい素敵な聴こえ方だったので、これからも勇気を出して歌えそうって思えました。
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