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INTERVIEW

2022.08.24

【インタビュー】MYTH & ROIDが『メイドインアビス 烈日の黄金郷』へ込めた“慈愛”――EDテーマ「Endless Embrace」リリースインタビュー

【インタビュー】MYTH & ROIDが『メイドインアビス 烈日の黄金郷』へ込めた“慈愛”――EDテーマ「Endless Embrace」リリースインタビュー

圧倒されるほどの自然や緑、深く茂っていく世界観が視覚的にも印象的であり、そのなかでの人間模様の生々しさが視聴者を捉えて離さないアニメ『メイドインアビス』。第1期、そして劇場版を経て第2期の放送をスタートさせた本作の、新たなEDテーマを担当することとなったMYTH & ROIDだが、本楽曲「Endless Embrace」でTom-H@ckと共に編曲を担当したのは、アニメの劇伴を制作するKevin Penkin。2人の音楽家の邂逅と、その先に生まれた楽曲について、Tom-H@ckとKIHOWに聞いた。

MYTH & ROIDの2人から見た、アニメ『メイドインアビス』

――早速ですが、今回EDテーマを書き下ろされたアニメ『メイドインアビス』の印象を教えてください。

Tom-H@ck 衝撃的な部分やギャップ、世界観の深さや緻密さについては、皆さんとまったく同じことを感じていると思います。僕たちアーティストって、世間がなにを感じているか、というところから離れれば離れるほどダメになっていくと実感していて……プロデューサーやアーティスト、とにかく曲を作る人や物事を動かしていく人たちはそこに乖離があると良くないな、という想いがあるんです。話を戻すと、みんなが『メイドインアビス』に持っている印象と変わらないものを僕は持っているんじゃないかなと思っています。

KIHOW 元々大好きな作品なのですが、不快な苦味と輝きのような美しさが融合したような作品だなと初めて原作を読んだときから今まで思い続けています。

――一そんな『メイドインアビス』の第1期の放送は2017年。その際にはOPテーマ「Deep in Abyss」の作詞にhotaruさんが関わったり、制作をTaWaRaが任されていましたが、作品について皆さんとお話をされる機会はありましたか?

Tom-H@ck もちろん。うちの作家が全部やらせていただいたのもありますが、僕自身もプロデュースで入っていましたので。作品に対する印象については当時から地続きではあったんですけど、楽曲についての印象は時間と共に変化していきましたね。『メイドインアビス』の初めての映像化でもあったので、当時のアニメの方のプロデューサーさんもどんな方向に楽曲を落とし込むか模索されていた記憶があるんです。今のように、Kevinさんがどういう劇伴を作るのかもまったくわからない状態だったと思うので、最初の段階から紆余曲折あったように思います。時間を経て作品が世に出て、皆さんの意見や反応があって『メイドインアビス』のイメージができて、それを元に付随した音楽として作品の流れを持って僕らは楽曲を制作することができましたね。

KIHOW  私はhotaruさんと『メイドインアビス』についての話はしたことがないのですが、MYTH & ROID以外の楽曲でhotaruさんはやっぱりすごいんだな、と感じたのが「Deep in Abyss」だったんです。当時CDを買いました。

©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

楽曲のテーマは「慈愛」。白をイメージできる曲は新鮮かつ斬新!?

――今回、MYTH & ROIDはEDテーマをご担当されています。制作についてどのようなオーダーがあったのでしょうか。印象的なキーワードなど教えてください。

Tom-H@ck ただ1つ、「慈愛」を表現しよう、と。これがめちゃくちゃ難しかったんです。今まで「自己犠牲の愛」みたいなものは、MYTH & ROIDとして取り上げて歌ったことはあるのですが、「慈愛」となるとMYTH & ROIDの元々の雰囲気としてある「妖しさ」や「感情の奥深いドロドロの部分」とは真反対のものを表現することになるのかもしれない、という想いがあって。オーダーとしては「慈愛」、光をイメージすると「白」、MYTH & ROIDが持つ「赤」や「青」ではなく、「真っ白」。母親が子供を包み込むようなイメージでの「慈愛」を楽曲としてどう表現していくかという部分が、実際に作るうえで最も苦労しました。

――これまでにない新しいカラーを求められた、ということでもあるかと思いますが、それを受けて制作していくうえで最も意識を寄せたのは、作品のどんなイメージですか?

Tom-H@ck 実は3、4回くらいメロディを変えているんです。メロディというか、もはや楽曲自体をガラリと変えたりBメロとサビを全部変えたり、かなり悪戦苦闘をしましたね。「慈愛」や柔らかい部分を持ちながら、それでも聞いてくれた人が「この曲は良い!」というメロディじゃなければいけない。それがとにかく難しくて。「慈愛」だけにフォーカスするなら方向性が見えやすかったのですが、「慈愛」のサウンドでメジャー感があって、聞く人の心も掴むというバランス感が難しかったです。

――聞き手の期待に寄せるというのはもちろんですが、世界観の「ここ」に寄せた、という意味ではどこへと向けて制作されましたか?

Tom-H@ck まさにストーリー上にもあるように、母と子。歪さがあって普通の形ではないけれども、慈愛や愛情が残り続けるところ。そこは作品のストーリーに寄せているところでもあるし、こちらが楽曲的にも作詞的にも新しく提示するものがないといけないという部分も落とし込んでいきました。作品に寄せていくという意味では、メロディもそうですが、今回はKevinさんと一緒にやらせてもらったことが、作品への架け橋になっているかなと思います。実はKevinさんに対しても、恐縮ながら僕のほうから「こうしてください」というのも、初めてお願いしました。

――今回の制作にあたって最も大きく楽曲に影響したのは、キーワードとなる「慈愛」であったとのことですが、KIHOWさんが「慈愛」を歌に投影する際にはどのようなことを意識されましたか?

KIHOW 一番に思ったのが、「そんなことわからないよな」ということでした。仮にそういう心を持っていたとしても、それは本人が意識して出すようなものではないので作ることは難しいと思い……とはいえ、作品を作るうえでそれを自分の中だけでも象徴して表現したいと感じたときに浮かんだのは、“絶えることのない穏やかさ”でしたね。

Tom-H@ckとKevin Penkinという2人の音楽家

――編曲についてはTomさんとKevinさん、お二人のクレジットになっています。Kevinさんの作る音楽についての印象を教えてください。またKevinさんのアレンジによって「Endless Embrace」はMYTH & ROIDのどのような部分を引き出したと感じますか?

KIHOW 今までの『メイドインアビス』の劇伴や、一緒に作った劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」のEDテーマ「FOREVER LOST」を聴いたときにも感じた“音がどこかに連れて行ってくれる”という気持ちが忘れられなくて。MYTH & ROIDの楽曲はいわゆる歌モノですが、良い意味で曲の持つ枠組みを溶かしてくれていると思います。

――Kevinさんの作られる劇伴と地続き的な音色なども意識されたのかな、と感じますが、Tomさんはいかがですか?

Tom-H@ck 最初は劇場版のときにコラボをさせていただきましたが、その際の悩みどころが「どれくらい壮大にするか」だったんです。壮大にすることで、音の広がりや深みに繋がると思うのですが、音像は広がれば広がるほどどんどんキャッチーじゃなくなっていくんですよね。ただそれを経て、お互いに『メイドインアビス』の音楽の、壮大さという意味での形を成すことができたんです。今回再びタッグを組むことになって、Kevinさんが作る劇伴と地続きになる曲のバランスを加味しながら作っていきました。ただ、今回は映画のときの楽曲よりも、もっと如実にオーケストレーションを使ってください、と言われていて。アンビエントとか、広い感じの壮大な音としてのシンセサイザーもいいけれども、いわゆる弦楽器やブラス、金管で迫力のある感じを大きく出したい、と。慈愛というテーマもありますし、前作よりもかなり強く出してほしい、とお願いをさせていただきました。

――TomさんとKevinさんの2人による音楽家のセッションはどんなものだったのか、すごく気になります。

Tom-H@ck Kevinさんはすごくお茶目な方だな、と思います。音楽家であり芸術家でもあるので、音楽を褒められればシンプルに嬉しいものなんですよね。そんな素直なところを純粋に持ち続けている方だな、と。自分が作る音楽に対して「これで大丈夫かな」という少しの不安、それと同時に自分が天才的であるという自負。クリエイターってそういう感情の狭間で動いていると思っていて、Kevinさんはそういうエネルギーをしっかりと持ちながら第一線で活動されている。もう1つ今回「良いな」と思ったのは、テーマの「慈愛」がイコールKevinさん、というイメージが僕の中にはあって。国が違っても、日本語でコミュニケーションを取ってこちらに寄り添いながら制作を進めていこうという配慮であったり、「Tom、これはどうかな」と相談してくれますし、自分の制作環境をリモートで見せながら、「こういうソフトを使うんだけど、どう思う?」と投げかけてくれたり、お互いに寄り添い合いながら制作ができたんです。それってほかのクリエイターとは一線を画す距離感でもあって。そういったお互いへのリスペクトを感じたので、それこそ「慈愛」というテーマに適した関係性を構築できた気がします。

――Tomさんからご覧になったKevinさんの感性は、どういう印象ですか?

Tom-H@ck 僕の音楽家としての一番の強みは「誰も聴いたことのない音楽を作れるけれど、聞くものの心を掴める」という2つのことを同時に示せることだと思っていて。Kevinさんの場合は、現代音楽っぽい要素が入ってくるんですよね。環境音だけでできているメロディもないような音楽など、マニアックな部分も踏襲しつつ、世界観にバッチリはまるディープさや音楽の潤沢さをミックスできる人だなと感じます。現代音楽の部分と、音楽的に潤沢なおいしい部分を掛け合わせることのできる唯一の音楽家じゃないかと。それって日本人では稀有なんですよね。僕が専門的に見ても、ここまで深くそういった手法を用いられる音楽家はいないんじゃないかなと思います。

――違う土壌で音楽を制作されたお二人がタッグを組んだからこそ生まれた「Endless Embrace」なんですね。

Tom-H@ck まさにそうだと思います。前作から進化したものを見せたい、という想いは僕もありましたが、Kevinさんサイドはもっと強かったように感じます。僕は結構気楽に、肩の力を抜いて作っていたのですが、それ以上にKevinさんは全体のイメージも含めて「進化している」とはっきりと明示したい、ということは感じましたね。あと、今回僕としては初めてのことがあって……それはAメロがバスっと始まること。それこそ「ワンツースリーフォー歌」みたいなタイミングなので、アニメサイズの89秒のときには扱い辛いだろうな、と思って。SEはありますが、こうしたAメロの始まり方は初めてなので、すでにアニメでも流れていますが、改めてこの部分を注目して聞いてもらいたいですね。

©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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