INTERVIEW
2022.07.28
『おそ松さん』や『転生したらスライムだった件』、『トリニティセブン』など数多くの作品での主題歌や楽曲のプロデュースをはじめ、近年では「アイドリッシュセブン」のサウンドプロデューサーとしても知られる佐藤純之介。古巣・ランティスを離れ、独立した名プロデューサーが『神クズ☆アイドル』でアイドル・ZINGSをプロデュース!
やる気のない仁淀ユウヤ(CV:今井文也)とかわいらしくアイドル然とした佇まいの吉野カズキ(CV:堀江 瞬)によるアイドルユニット・ZINGSだったが、ある日仁淀は幽霊となった伝説のアイドル・最上アサヒ(CV:東山奈央)と出会う。仁淀がアサヒに憑りつかれたことからZINGSのアイドル活動は息もつけないほどのドタバタの渦中へ――そんな彼らが歌う楽曲について話を聞いた。
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――『神クズ☆アイドル』の音楽を担当されることになった経緯を教えてください。
佐藤純之介 元々僕はバンダイナムコアーツ、ランティスで働いていたのですが、ランティス時代から色々な座組がありまして、エイベックスさんの音楽制作のお仕事もしていたんですね。古いものでいえば、アニメ『犬とハサミは使いよう』や、『トリニティセブン』や『おそ松さん』のエンディングを作らせてもらったこともあって、エイベックスのプロデューサーさんとはずっとご縁があったんです。そんななか、僕が独立するとなったときに担当の方にご挨拶をさせていただいたところ「ぜひご一緒したい作品があるんです」とのことで。「ぜひ」とお話を受けることになりました。
――そのお話のあとに『神クズ☆アイドル』の原作に触れることになったと思いますが、この作品の印象というと?
佐藤 ギャグマンガとして本当に面白いなぁと思いますし、コロナ禍もあって世の中的にエンタメも暗い影を落としている今、「これからなんとかしなくてはいけない」という空気にもなっていて……自分自身もエンタメの力でなんとかしなきゃと考えたり、ライブができず演奏の機会のないアーティストから相談も受けているので、「どうにかしなきゃいけない」と悶々としているときにやる気のないアイドルというのはすごく面白くて、「なるほど!」と。あとは純粋にギャグマンガとして突き抜けるような面白さがあり、悩まずに読めるんですよね。元気なシーンや明るいシーンがあると、そのままストレートに受け止められる。「ここでのアサヒのセリフはこういうバックボーンがあるからこそ」というような考察をしなくてもいいし、ストレートに面白いけれどそのなかにも成長がある形が面白いなと思いました。
――こういった音楽モノの作品は、読んでいるとどこか自分の中で音楽が鳴るような感覚があるかと思います。例えば「BECK」や「四月は君の嘘」など。佐藤さんがこの作品に触れた際にはどんな音楽が流れましたか?
佐藤 最初は(この作品の音楽について)本当に悩んでいました。実は、ギャグの色濃さやキャラクターの強さもあって、頭の中に音楽が流れてこなかったんです。アニメの音楽についての打ち合せをする前に原作を読んだのですが、原作の中に出てくる2ndシングルのタイトルが将棋の駒の名前で。どういうこと!?って思ったけど、いわゆるとんちきな曲ではなくて、ZINGSのオタク3人が仁淀を見て「イケメン!かっこいい!」と言っているということは、その“かっこいい”に値する曲でなければいけないじゃないですか。でもかっこいいけれど吉野くんはかわいいし、しかも2人。KinKi Kidsさんや、2人組のアイドルはたしかにいますが実は多くはないので、そこのコントラストがわからず最初はとても悩みました。最初の曲を出してから次の曲を提出するまでに時間を掛けてしまいましたし、スランプに陥りましたね。
――佐藤さんは割と数多くの楽曲をどんどん生み出される印象の強いプロデューサーというイメージがあるので、スランプは意外ですね。
佐藤 そうなんですよね。ちょっとだけ脱線しますが、楽曲を作る過程のお話をすると、エイベックスのプロデューサーさんから「こういう曲を作ってください」というお話があって、ある程度の方向性が定まってから「それなら作り始められるかも」と動き出したんです。最新のK-POPの流れのある楽曲ではなく、いわゆる王道なアイドルソングで、なんならちょっと年齢層が高くてもその人たちにグッとくる感じにしたい、と。そしてもう1つ、すべての曲が「シングル曲」のような存在感であってほしい、ということだったんです。実際にカップリングの曲になったとしても、その曲もシングルのタイトル曲のようなものにしてほしい、と言われて「全曲明るい方向性ですね」という形でお受けしたのですが、プロデューサーさんからさらに前代未聞なオーダーがあったんですよ。
――前代未聞……?
佐藤 歌詞と曲を完成させた状態でデモをプレゼンさせてほしいって言われたんです。これは、僕にとっては前代未聞のオーダーで。音楽プロデューサーの役割としては、元となる座組の大きさはもちろんありますが、アイデア力と強い作家と強い作詞家を使えば売れる曲を作ることはそれほど難しいことではないんです。でも、そうではなく、プレゼンする段階で完成させたものを作るということは、作詞でも作曲でも仕上げていかなければいけないし、「曲は良いけど歌詞はね」と言われればその曲はボツになってしまうし、その逆もあり得る。「歌詞は良いけど曲は良くないね」と言われたらボツ。力のある作曲家と作詞家を使って作れば段取り的にスムーズに作ることはできるけれど、歌詞がNGなら曲ごとボツになってしまう……となれば、その都度ボツだったことをお伝えしなければいけない。「先生、歌詞はすごく良かったのですが、今回はボツになってしまいました」なんて作家さんには言えないわけです。名の在る作家さんは決め打ちしてお願いするものですが、決め打ちしたものが上手くいく保障がない。本来は楽曲のデモを作って、「このメロディ、良いですよね」となり、「それならこういう方向性の歌詞で先生にお願いします」と作家さんにお願いするものですが、それが封じられてしまった。つまりは『神クズ☆アイドル』の歌を、監督や脚本の方にお聞かせする前に、完全に作り上げてプレゼンをしなければいけない、ということにすごく苦労をしました。それもあって原作を何度も読んで、読み尽くしましたし、その結果出来た曲が今、リリースされている曲になっています。
――決まってから微調整する猶予もなかったのでしょうか。
佐藤 やろうと思えばできたのですが、監督さんや委員会の皆さん、原作の先生と僕が直接やり取りできるわけではなかったので、僕のところですでに「100点を取る」ことが最初のお題になってしまった。でもそのぶん、これまでで一番原作を読み込むことになりましたし、吉野くんのかわいらしい優しさや仁淀が奥底に持つちょっぴり存在する熱いハートとか、アサヒちゃんとの対比を表現できるような曲は作れたかなと思います。
――前もって詳細なリファレンスを持っていないと難しいですよね。
佐藤 そのリファレンスが原作だったんです。普段だったら信頼する作家さんにお願いすればいいことですが、答えがないところに答えを作って提案する、というお仕事になっているので、かなり苦労しました。
――そのなかでこれだけバラエティに富んだ楽曲群が出来たのはさすがです。
佐藤 ありがとうございます!ただそのお題に応えたことで、作品と楽曲のシンクロ率という意味では、僕が今まで関わってきた作品の中でもピカイチなものを作れているのではないかと思っています。
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