INTERVIEW
2022.02.11
――THE BINARYの楽曲「ただしい感情」は、たなかさんと白神真志朗さんが楽曲提供したラップ入りのレイドバックしたナンバー。今までのTHE BINARYにはあまりなかった曲調で、その意味でも新鮮なチャレンジになったのではないかと。
mido 実はレコーディングの段階ではキャラクターの詳しい情報がまだない状態だったので、夏吉さんみたいにキャラクターのバックボーンを歌に乗せるやり方とはまた違うアプローチで歌いました。私がレコーディングしたときは、現場にたなかさんと白神さんがいらっしゃったので、お二人のディレクションを受けて楽しみながら作り上げていって。私は元々たなかさんのファンだったのでわくわくもあり、とても楽しいレコーディングでした。
あかまる 私はスケジュールの都合で別日にレコーディングしたので、たなかさんたちには会えなかったのですが、先に録っていたmidoちゃんの歌を聴きながら、自分なりに考えて歌いました。この曲は大人レディ?な感じがあったので、その雰囲気を出すのがすごく難しかったです。しかもラップのパートもあって。ここまで長いラップが入ってる曲は、今までのTHE BINARYにはなかったので……「イキハル」(「呼吸する春たち」)くらい?
mido でもジャンルは違うかも。
あかまる たしかにあれは語りっぽいもんね。ここまでいわゆるラップっぽいノリの曲はなかったので苦戦しました。でもお互いの良さが出せたと思います。
mido お互いフルで録ったので、せっかくだから何かのタイミングで使っていただけたら嬉しいです。美沙ちゃんバージョンと、わらびちゃんバージョンみたいな感じで。
大城 それは面白そうですね。自分もシンプルに聴きたいです(笑)。
――夏吉さんのこの曲を聴いた感想はいかがですか?
夏吉 最初に聴いたとき、キャラクターが歌っているというよりも、何も作ろうとしていない生っぽい感じ、ともすればただ訥々としゃべっているような印象を受けまして。でも、それが良い意味でデフォルメされていなくて、すごく細かいニュアンスが入っていて素敵だなと思いました。映像ともすごくマッチしていて。普段の2人(井伊嶋美沙と府良わらび)は割と現実味のあるキャラクターなので、PVを観ているとドラマを観ているような気持ちになって、すごく現実感が濃い映像だなと思いながら楽しみました。
――「ただしい感情」のPVは、先ほど監督がおっしゃっていたように夜の雰囲気が濃厚な映像になっていますね。
大城 楽曲がデモの段階からそういう印象があったので、映像もそっちの方向に振り切りました。「Synchronicity」は杏道リアを2人に分裂させて向かい合わせる感じでしたけど、「ただしい感情」は井伊嶋美沙と府良わらび、それぞれの行き詰まりを感じている日常生活の描写と、そこから切り離したステージ上の姿、2人が頭の中で描いている理想の姿を描こうかなと思いながら作りました。
mido PVには、現実の美沙ちゃん・わらびちゃんのシーンと、彼女たちの理想のバーチャルアーティストとしての姿が織り交ぜられていて。現実では年齢も性格も全然違う2人が、バーチャルの世界では一緒に歌って、1つの曲でハーモニーを奏でている姿が、シンプルにエモいなと思いました!冒頭の2人でソファーに座っているシーンとか、色々妄想がはかどるシーンも多くて(笑)、この2人はどうやって出会ったのかが気になります。
あかまる 描写もリアルで、美沙ちゃんの社員証が映りこんだり、鏡の前で衣装を当てているシーンがあり、美沙ちゃんは社会人としてストレスフルな日々を暮らしているんだろうなと思って。わらびちゃんも学校の中でしゃがみこんでいるシーンがあったりして、そういう一歩踏み出せない自分がいるところに、みんな共感できるんじゃないかなと思いました。2人が楽しそうに歌っている映像もすごく綺麗で、特に横顔の揺れ方がすごくリアルで好きです。
夏吉 バーチャルアーティストのシーンでは、アクセサリーがチラッと光ったりと煌びやかですけど、全体的には色味が暗めで、それが「心の曇りを表しているのかな?」と思って、現実の2人の心情とリンクしているように感じました。お二人の歌声と映像の色味と演出とが全部マッチしていて、そのどれか1つがワッと主張しない感じといいますか。
大城 色味に関しては「Synchronicity」も含めて気を配っていたところで、どちらの楽曲も地に足の着いた印象があったので、その温度感や雰囲気に寄せるために、色味も派手になり過ぎず、落ち着きを持った映像にしようと思っていました。アニメの場合、アニメ特有の外連味のある表現でいくらでもテンションを高くすることができるのですが、今回はそういうふうにアニメのほうに引き込むのではなく、頑張れば実写でも撮れそうな絵を意識していましたね。
――カメラワークもかなり実写の映像っぽい作りですよね。
大城 そこもかなり気を配った部分です。アニメでは基本的に背景は平面の絵で描くので、カメラワークを付けても平面の絵が流れていく見え方になるのですが、今回は多くのシーンで3Dを使って背景を制作したので、そのなかでカメラを動かすと背景も立体的な動きや変化ができるんです。それが実写っぽさ・生っぽさに繋がっているのかなと思います。
――その意味では、様々な技術を結集させた映像でもあるわけですね。
大城 そうですね。元々自分の中で作りたかった方向性の映像だったので、今自分が持っているものは全部盛り込もうと思いながら制作しました。
――「ステージ・バイ・ステージ」ではバーチャル技術が発展した世界が描かれていますが、今は実際にVR・ARなどの技術を駆使したコンテンツやライブ演出が増えています。皆さんはそういった状況にどのような可能性を感じますか?
大城 先ほどTHE BINARYのお二人がお話されていたように、できる演出の幅も増えていると思いますし、メディアの境目が曖昧になったおかげで表現の選択肢が増えているのかなと感じます。去年、ポーター・ロビンソンさんがVR空間の中でライブを楽しむことができるオンラインフェス“SECRET SKY MUSIC FESTIVAL”を開催したり、トラヴィス・スコットさんがゲームの「フォートナイト」内でワンタイムイベントを開催して、ライブステージを越えたアトラクションのようなものを提供したり。普段みんなが使っているプラットフォームからそう遠くはない場所で、スッとライブや映像演出・音楽を提供できる垣根のなさを感じるので、今までのライブやMVという形だけではなく、提供の仕方そのものの選択肢がもっと増えるんじゃないかと思いますね。
――夏吉さんはいかがですか?それこそ先日開催されたサンリオ主催のバーチャル音楽フェス“SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland”に、『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』のマシマヒメコ役として参加していましたが。
夏吉 「SHOW BY ROCK!!」では私たち声優がリアルにバンドを組んで楽器を弾かせていただくライブもやっているのですが、キャラクターがバーチャル空間でライブをやることもありまして、“SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland”では現地のサンリオピューロランドにも観に行けるし、VRキットがあればオンラインでも参加できるライブだったんです。それこそ今は感染症対策でライブがやり辛くなっているなか、今後VRという手段がどんどん活発になっていくと思いますし、オンラインであればチケットの枚数にも制限がないので、色んな人が観に来れるのは喜ばしいことだと思います。あと、最近はVTuberの方が地上波のバラエティ番組で芸人の方と同じ空間で普通におしゃべりしているのが本当にすごいなと思っていて。きっとバーチャルの体で色んなところに進出できる未来がくるんだろうなって、色々妄想しています(笑)。
――THE BINARYのお二人はいかがですか?
mido 人生で出会える人間の数には限りがあると思うんですけど、普段のリアルな姿とは別のスキンを持つことによって、出会える人が増えていく楽しさがあるなと感じていて。私たちも昨年の夏、VTuberの方々が集まるフェス“TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-”に出演させていただいたんですけど、そこで初めて私たちのことを見て興味を持ってくださった方もいたんです。良い意味でリアルとバーチャルの使い分けができたら、もっとたくさんの人と出会えて音楽も広まっていくんじゃないかなと思います。
あかまる 今日はこうやってのこのこ出てきましたけど(笑)、私たちは普段、顔を出さずに活動を行っていて、最近はそういうアーティストやクリエイターが世の中でも当たり前になっていると思うんです。そういう人たちの活動の場所として、アニメーションや3DCGは活用しやすいと思いますし、今後色んな技術が進化すると可能性が一気に広がるだろうなと思っていて。我々もライブや色んな表現でもっと斬新なことを行って、みんなを魅了できればと思っています。
――そういった状況のなかで、皆さんはこの「ステージ・バイ・ステージ」というプロジェクト自体にどんな期待を持っていますか?
夏吉 私はやっぱりライブができればいいなと思っています。声優は今、表立ってライブをやる機会も多いですけど、個人的には声を素材として提供するときが一番輝くのではないかな?と思っているので、いつか「ステージ・バイ・ステージ」のライブで杏道リアというバーチャルアーティストのキャラクターに私の声を提供させていただける日が来ることを楽しみにしています。せっかくキャラクターが3人いるので、この3人でのステージが観られることを願っています。
mido 私はアフレコが新鮮で楽しかったのもありますし、MVだけでも充分妄想したり考察できる楽しみがたくさん詰まっていますけど、彼女たちが何を抱えていて、これからどうなっていくのか、その物語を見てみたいので、いつかアニメになってほしいなあと思っていて。
一同 おーっ!
mido それともう1つ、私ももちろんライブがしたいです。「ステージ・バイ・ステージ」はバーチャルアーティストがモチーフになっているので、例えばアクリルパネルに映像を投影して、リアルの人間とバーチャルのキャラクターが一緒にステージに立ったりとかしたら、新しいライブの形ができて楽しそうだなって思います。
あかまる 私もライブがやりたいですし、MVでは分かれていた3人が集まったらすごく面白そうだなと思っていて。それと私たちはファンのことをスイミーと呼んでいるのですが、私たちがキャラクターボイスを担当したことを発表したときに、スイミーたちがものすごく喜んでくれたんです。なので……アニメ化?
大城 ……自分からは何とも言えないですが(笑)。
あかまる MVもストーリー性があったので、改めて個々のキャラクターのショートストーリーとかがあっても面白そうですよね。
mido たしかに!いきなり全12話のアニメだと難しいと思うので、まずはショートアニメから攻めていって(笑)。
大城 自分も次のPVを作りたいですし、ライブもやりたいですし、アニメも12話でも24話でも作りたいですね(笑)。今回のPVは基本的に匂わせるようなところで終わっているので、ここからキャラをそれぞれ掘り下げたものを見ていただいたうえで、ライブを見ていただけたら、より濃い体験ができると思いますし、そういった部分も込みで色んなメディア展開がやっていけると嬉しいですね。
――今回のPVを制作するなかで構想が広がったりしたのでは?
大城 それはありましたね。作りながら「このキャラクターはこういう子なんだな」というのを掴めた部分も大いにありましたし、そうしたなかで「こういうお話にしたらアニメにしやすそうだな」というのは色々と考えていたので。アイランドさん、何卒よろしくお願いします!
INTERVIEW & TEXT BY北野 創(リスアニ!)
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●作品情報
「ステージ・バイ・ステージ」
既にトップアイドルとなったアイラ、シマ、はなたちに憧れた女の子たちのミュージックライフが今始まる―。
TVアニメ「でびどる!」のその先の、さらに未来を描くスピンオフアニメシリーズ!!
バーチャルライブ等の技術が著しく発達し、バーチャルでのアーティスト活動がカルチャーとして定着した世界。
育った環境も経歴もそれぞれ異なる3人の女の子達が、同じバーチャルアイドルとして日々成長していく物語。
「ステージ・バイ・ステージ」オフィシャルサイト
http://sta-by.com/
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