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INTERVIEW

2022.02.09

【インタビュー】samfreeや田中秀和、様々な出会いと別れを経たベストアルバム『鹿乃BEST』リリースーー10年以上のキャリアを持つ鹿乃へ今の想いを聞く

【インタビュー】samfreeや田中秀和、様々な出会いと別れを経たベストアルバム『鹿乃BEST』リリースーー10年以上のキャリアを持つ鹿乃へ今の想いを聞く

2010年に活動を開始し、2015年にTVアニメ『放課後のプレアデス』のOPテーマ「Stella-rium」でメジャーデビューを果たしたのち、アニメやバーチャルと様々なフィールドで活動するVRアーティスト・鹿乃。そんな彼女がこれまでのキャリアを総括するベストアルバム、その名も『鹿乃BEST』をリリースした。今回はそんな本作を軸に、自身のキャリアを振り返ってもらったのだが、そこには様々な出会いと別れがあったのだが、彼女は何を思いながら歩んできたのか。自問自答し続け、前に進んでいく彼女のアーティスト像に改めて迫る。

アルバムのページをめくるようなベストに

――これまでの10年以上のキャリアを総括するようなベストアルバムとなりましたが、リリースされた現在のお気持ちはいかがですか?

鹿乃 無事に出てよかったなっていう気持ちと、「あ、ベストを出せるくらいオリジナル曲を制作させていただいたんだな」っていう、ほっとした気持ちがあります。

――最初にベスト盤が出ると決まったときの感想はいかがでしたか?

鹿乃 「あっ、いよいよきたか」っていう(笑)。ベスト盤を作るのって相当長くキャリアを積んで、楽曲制作をしてできる総集編というイメージがあったので、とうとうそんなお話いただけるまでになったのか、という気持ちでした。

――選曲についてもキャリアを振り返るような内容でした。

鹿乃 これは笑い話なんですけど……一番最初に「自分の好きな曲、ベストアルバムに入れたい曲選んでいいですよ」ってマネージャーさんから言われたのですが、「でも、田中秀和さんの曲が好きだからってたくさん入れないでね」って(笑)。

――鹿乃さんは田中秀和さんのファンでもあるので、田中さんの楽曲ばかりのベストになりかねない、と(笑)。

鹿乃 「さすがにそんなことしないですよ!」って言いましたけどね(笑)。ベストアルバムということで、これまでの表題曲はもちろん、特に聴いていただきたい曲を悩みに悩んで選ばせていただきました。

――今作にはデビューから現在までの曲が収録されていますが、鹿乃さんのボーカルアプローチなどの表現の変化も感じられる1枚なのかなと。

鹿乃 そうですね。こうして1枚にして聴くと歌い方もだいぶ変わってきていたんだなと感じますし、自分の成長を感じることができました。

――鹿乃さんがどういった道を歩まれてきたのかがしっかりとわかるというか。

鹿乃 音楽のアルバムではなく写真をたくさん並べたアルバムを見ているような、そんな気分になりましたね。それこそ「ハロ/ハワユ」のときは、1000円以下のマイクで録っていたので(笑)。「ここから始まってるんだな」と思うととても感慨深かったです。

――たしかにアルバムのページをめくる感覚に近いですよね。となると本作制作の過程で鹿乃さんもこれまでを振り返る機会が多かった?

鹿乃 多かったですね。今回は曲順にもこだわりがあって、カバーは一番最後に入れようという案は元々あったんですけど、「午前0時の無力な神様」という楽曲のテーマが、“ここから生まれ変わって再スタート”というもので。ちょうどこの楽曲からバーチャルとリアルが混じったようなVRアーティストとして活動をスタートしているので、これ以降の楽曲は最新のものにしようという並べ方はしています。

多くのクリエイターとの活動で拡張されたアーティスト性

――それでは、ご自身のキャリアをアルバムの曲順とともに振り返っていただきます。本作もメジャーデビュー作「Stella-rium」(TVアニメ『放課後のプレアデス』OPテーマ)から始まりますね。2015年当時はデビューにあたってどんな気持ちで臨まれましたか?

鹿乃 もう、「怖い」に尽きましたね(笑)。

――「怖い」ですか(笑)。

鹿乃 今となってはネット発のアーティストで顔出しをしないというのは、諸先輩方の活躍や努力、広報活動で身近なものになってきているんですけど、私がデビューした当初ってやっぱりまだ偏見もあったり、まだ文化として固まりきっていないタイミングだったんですよね。なので自分を受け入れていただけるのかなっていう不安も大きかったですし、元々のファンの方もどう受け止めてくれるのかっていう不安や怖さがありました。あとは、自分の歌がアニメを台無しにしたらどうしよう、というプレッシャーと慣れないことの連続でした。

――メジャーデビューにあたって録音環境など激変しましたからね。

鹿乃 スタジオで録音するというのも当時は全然経験がなかったので。でも、そんななかで一緒に制作していたsamfreeさんが「大丈夫、みんなに聴いてもらえるすごい曲作るから」って言ってくださったのが記憶に残っていて。実際この「Stella-rium」という楽曲は国境を超えて、日本以外の国の方々からも「すごく素敵です」や「勇気をもらえました」とコメントやお手紙いただいているので、本当にsamfreeさんはかっこよかったなと思って。曲を通して有言実行してくれたっていう感じがすごくありますね。

――デビュー当時にそんなやり取りがあったんですね。ここから様々なキャリアを歩んでいきますが、デビュー曲の「Stella-rium」やすこっぷさんが手がけられた「ディアブレイブ」、samfreeさんが遺された「プリマステラ」といった、いわば1stアルバム『nowhere』期の楽曲たちは、現在に至るまでの様々な可能性を秘めていると、ベスト盤を聴いても再確認できます。そこから2ndアルバム『アルストロメリア』期に入るわけですが、ここで田中秀和さんと出会うことになります。

鹿乃 そうですね。まさか最新のオリジナルアルバム『yuanfen』で田中さんにすべてお願いできる日がくるなんてこのときは全然想像していなかったです。この時期に「Linaria Girl」という楽曲を制作していただいたんですけど、色々模索をしながらもチャレンジすることを楽しそうにしている方で。音楽に真摯に向き合っていて尊敬できる方だなっていう想いがすごく強かったですね。

――田中さんの楽曲ですと、この時期のものでは「day by day」が収録されていますね。当時の田中さんとの制作は、今後の鹿乃さんの活動にも大きな影響があった?

鹿乃 メジャーデビュー前は自分で考えて「こういう世界観にしてみたい」「こういうふうにこの楽曲を表現したい」と考えながらやっていくことが多かったのですが、メジャーになると緊張してしまって自分が何をやりたかったのか出てこなくなることが多かったんです。ただ田中さんの場合は、「どうしたい?どういうふうに表現したい?僕はこうしたらいいと思うけど」と言ってくれて……例えば私が間違えて歌ってしまったものに対して、「そういうアプローチの仕方もあったね、こっちを採用しようか」ってその場その場で曲が変わってくるというか、間違いを間違いとしないスタイルがすごくありがたくて。

――鹿乃さんのやりたいことを上手く引き出してくれる。

鹿乃 そうですね、柔軟性があるというか。毎回「一緒に曲を作らせていただいている」という気持ちになります。

――そのなかで、ご自身のボーカルも新しい可能性がどんどん拡張されていったんですね。

鹿乃 はい、遊んでるわけじゃないんですけど本当に楽しかった……!「音楽を楽しみましょう」というのがすごく伝わってきて。難しい楽曲ばかりなので大変なときもあるんですけど、乗り越えたときの達成感や楽しさがあって、「音楽に恋するってこういう感じなんだろうな」というキラキラした気持ちになりました。

――samfreeさんや田中さんといった、クリエイターとの出会いで鹿乃さんが成長したり変化したりしていったわけですね。

鹿乃 1人でやっていると誰かの制作への熱意とかを感じることってあまりないと思うんですけど、そういうものを肌で感じることができて、「自分も頑張ろう、もっともっとできる!」とプラスのパワーをいただいていた気がします。

――あと『アルストロメリア』期の曲としては「29-Q」が収録されていますね。

鹿乃 はい(笑)。

――キュートで強烈なインパクトがあるこの曲ですが、この曲の収録は鹿乃さんのご希望ですか?

鹿乃 そうですね。今はまだ難しいですけど、例えばリアルライブができるようになったときに向けて、ライブで盛り上がる曲も入れたいなと。元々「このベストアルバムを聴けばだいたいライブの曲追えるよ」という1枚にしたくて、ライブの定番曲を1曲入れようと思って入れさせていただきました。でも「day by day」と「春に落ちて」に挟まれて、曲順としてはテンションの高低差がすごいですね(笑)。

次ページ:自問自答の果てに辿り着いた現在地

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