【インタビュー】大原ゆい子、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の世界を支えた全OP・ED主題歌を集めた『Theme Song Collection』リリース――「聴いている人が考える余地を残す」楽曲制作の裏側とは――?

アニメのOPといえば、作品の扉ではあってもPVのように本編とは別個の存在として独立したものだが、TVアニメ『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』では門であり参道であり。毎回のように本編映像と溶け合うような特殊OPが用意され、さらには映像と楽曲が一体化して『無職転生』の世界を下支えしていた。TVアニメーションとOP主題歌という関係性において、1つの理想形であり完成形でもあったといえるが、その全OP・ED主題歌を担当したのが大原ゆい子である。

劇伴作家のようにアニメサイドと楽曲制作を進め、ある種の「滅私」の極みとなる主題歌群が『Theme Song Collection』として集められたのを機に、改めて大原ゆい子に本楽曲の制作を振り返ってもらった。

作品のイメージを自分の中で噛み砕かないように

――『無職転生』では、獣人たちの隠れ住む森を背景に“木々の騒めき 息を潜めて”という歌詞の「継承の唄」が流れて始まる特殊OP(第十四話)のように、毎話でOP主題歌と映像が非常にシンクロされていました。主題歌制作に対してはどのような形でオファーされていたのでしょうか?

大原ゆい子 最初の段階で、すべてのOP・ED主題歌をお願いしたいという話と、大陸ごとに曲を変えるということはお聞きしていました。こういうイメージの曲が欲しいという音楽メニューも最初にいただいて。シナリオももらってはいましたけど、明確にどういったシーンで使われるかまではさすがにわからなくて、そこは多分、曲が出来てからアニメ側が合わせてくれたんだと思います。

――主題歌制作が、通常のアニメと比べてもかなり早く先行していたと聞きました。

大原 早かったです。編曲の段階では絵コンテがあった曲もありましたね。「祈りの唄」はそうでしたし、尺も特別OP用のものでした。ただ、そこまでではなくても、本編に溶け合った形の映像になるということは聞いていました。

――いわゆる特殊OPの形がスタンダードになる、と。その点で何か意識された点はありましたか?

大原 スタッフさんによると、セリフやSEが曲に重なることを嫌がるアーティストさんもいるらしいんですけど、そういう意味では私もディレクターさんも全然そういうことはなくて
。そこは(アニメ側が)気にかけてくださいましたし、私は「歌は別に聴こえなくていいので」みたいなことも言っていたくらいで。

――それは(笑)。

大原 むしろ、動画配信や録画で観る人が多い今はオープニングってスキップされがちなので、スキップされずに本編と一緒に聴いてもらえるというのは、ものすごくアーティスト冥利に尽きると言いますか、「本当にありがとうございます」という気持ちでした。しかも、映像のクオリティが高くて、素敵に溶け合っていたので。

――楽曲のテイストとしても、最初のOP主題歌「旅人の唄」は物語のスタートを担う楽曲としてOP感を感じさせるところもありましたが、第十~十三話のOP主題歌だった「目覚めの唄」以降はオープニングを飾るというよりは『無職転生』の世界を表現するに徹した楽曲が続きました。どのような意識で制作されていましたか?

大原 「OP感」については、「旅人の唄」以外はまったく意識しなかったですね。Twitterで感想を見ていたら、オープニングは違う曲なのに同じように聴こえるという感想もあったので、自分としては「統一感がとれていたんだな」とは思いました。

――その点で、アレンジャーさんなりエンジニアさんなりの影響もあるかとは思いますが、大原さんとしても最初から全曲でトータルイメージを抱いて臨まれたのでしょうか?

大原 いえ、そんなことはないですね。

――(笑)。では、目の前の1曲1曲に注力する形で?

大原 はい。先のことを考えると私はどんどん憂鬱になってきちゃうので(笑)。ディレクターさんも私のそういう部分を知ったうえでコントロールしてくれていたと思います。だから、あまり次のことは考えないように、と。

――連続してOP主題歌を作っていくなかで、苦労した点としては何がありましたか?

大原 作品に対するイメージが合っているのかどうかは不安でしたね。勝手に噛み砕かないようにするというか、自分の中のイメージをあまり強くしないように、とは思っていました。そのぶん、歌詞ではかなり試行錯誤するところがありました。「継承の唄」はMANYOさんのアレンジが上がってきてから言葉を紡いで、という部分があって助かりました。

――アレンジまで仕上がったあとで歌詞を書いたということですか?

大原 「継承の唄」は、アニメ制作サイドから「森だけど、ジャングルじゃなくて」みたいな説明があったので、頭の中が「???」となってしまって……何を書いたらいいのかわからなくて止まってしまったんですよね。(編曲をもらってから)「あ、森林ってこういう感じか」みたいな。「目覚めの唄」もそうですね。まぁ、私が歌詞を書くのが遅いというのがあるんですけど(笑)。でもMANYOさんのアレンジはすごく早くて、最後の「遠くの子守の唄」のときは、私がメロディーをお渡した翌々日がもう締切だったんですけど、渡した次の日にはアレンジされた楽曲が届きました。ディレクターさんがあらかじめ、私の作曲がギリギリまで来ないだろうからということで、MANYOさんに締切の日は空けておいてほしいと頼んでいたらしいんですけど(笑)。本当に、MANYOさんに全部をお願いしていて良かったです。

――「旅人の唄」のときにも伺いましたが、MANYOさんにアレンジを、というのは大原さんからの強い希望だったとか。

大原 そうですね。『無職転生』がファンタジー系ということで、それならば絶対MANYOさん、と。今までMANYOさんに何曲か編曲していただいたなかで、こちらの意図をしっかり汲み取ってもらったり、情景の見える編曲をされるのがとても上手い方だと思っていたので、どんな曲を渡しても絶対に外れないだろうなと。自分の頭の中では、「きっとこういう音が鳴るんだろうな」と思いながらメロディを書いているんですけど、MANYOさんからは「それとは違うけど、絶対にこっちのほうがいい!」というアレンジになって返ってくるので、それはすごく面白かったです。本当に感謝です。

――「目覚めの唄」以降の楽曲についても、アニメ制作サイドからもらったテーマや、それについてどう制作していったか教えてもらえますか?

大原 「目覚めの唄」は、魔大陸の神を讃えるような歌ということだったのですが、私自身、そういった経験がないというか。

――そういう経験をしている人はあまり多くないでしょうね。

大原 自分の引き出しにはない感情だったので、魔大陸のあの情景のなかで住む人が神様をどう讃えているのか想像しながら書き進めたんですけど、「多分、普通の神様を讃える歌ではないだろうな」とは思っていて。「魔族の神様ということは悪魔なのかな?」「悪魔を讃えるとは?」みたいなことをずっと悩んでいましたし、かなり難航しました。ディレクターさんに、「わかりません」ってメッセージを鬼のように送ったりもしましたね(笑)。

――楽曲の世界観を掴めなかったということですか?

大原 というか、視点がわからなくて。歌っている私は「誰」なのか、というところで。

――「旅人の唄」でもおっしゃっていましたね。世界観を表現するために、ある特定の人物の視点から見た楽曲ではないようにする必要があったと。

大原 そうなんです、やはりキャラソンではないので。それに、あまり作品に忠実すぎてもいけないという考えが私の中にあるので。その世界の中でもわからない部分って絶対あると思い……。「どういうことだろう」というところを残すように、若干外して書いてはいますね。

――聴いている人が考える余地を残すということですか?

大原 現実世界を書いた曲でも、「一体どういうことなんだろう?」という部分はあって、絶対に全部を理解できることはないと思うんですよ。だから、歌詞をわかり過ぎてしまわないように、読んだ人の想像にお任せしたいという気持ちで書いたんです。でも、悩んだぶん、より作品の「位置」がわかった気はしました。

――そこには、聴く側の楽しみを残すという意味もありますね。

大原 そうですね。自分の中の答えを受け取る側に押し付けないというか、受け取る側にそこを強く求めないように。

――「祈りの唄」は?

大原 今の話に繋がるのですが、「祈りの唄」と「遠くの子守の歌」は曲が流れるシーンが明確にわかっていたので、入り込みすぎないように、とは思いました。ミリス大陸の教会で流れる、美しい宗教音楽というイメージをいただいていて、だからパイプオルガンを録るという話も聞いていたんですけど、そこで作品に合わせ過ぎてしまうと曲の視点がまたずれてしまう気がしたので。「その人たちを見ている私」という視点で書かないように、あくまで物語の中で聴こえてきそうな音楽にしたくて、主人公のいない歌詞にしようという思いがありました。ただ、教会で流れるような音楽は好きなんですけど作ったことはなかったので、かなり苦戦はしました。

――それは曲の面ですか?歌詞の面ですか?

大原 やっぱり歌詞ですね。『からかい上手の高木さん3』や『深海のサバイバル』などの主題歌制作を挟んだというのもあったんですけど、普段使わない単語が多く、聖書などを読んでみてもすぐ身に付くものではないので1ヵ月くらいかかったかな?ただ、教会で流れる音楽という要素だけだと膨らませるのは難しかったんですけど、作中で語り継がれる伝承の設定をいただいていたので、そのイメージで作りました。制作自体は大変でしたが方向性は定まっていたので、「目覚め唄」みたいな「何を書けばんだろう」みたいな悩みはなかったと思います。

――「遠くの子守の唄」についても教えてください。

大原 こちらも、古くから伝わっているような曲、というイメージをいただいていたような気がします。私の中でそう変換しちゃったのかもしれないですけど。だから、私たちにも昔から語り継がれている曲があるように、「かごめかごめ」とか、そういったものをイメージして書きました。あとは、たしか「物語のような」というキーワードもあったので、物語風に語り継がれていそうな歌詞を書こうと意識しましたね。

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