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INTERVIEW

2022.01.06

【インタビュー】昨年の経験を経て、変化させたタイアップとの向き合い方とは? 田所あずさ「箱庭の幸福」リリースインタビュー

【インタビュー】昨年の経験を経て、変化させたタイアップとの向き合い方とは? 田所あずさ「箱庭の幸福」リリースインタビュー

2021年は初のセルフプロデュースによるアルバム『Waver』のリリースや、それをもとにした無観客・全編無料のオンラインライブ“AZUSA TADOKORO LIVE 2021~Waver~”の開催など、さらに濃密なアーティスト活動を繰り広げた声優・田所あずさ。その経験を踏まえた2022年第一弾となる作品が、1月5日に配信シングルとしてリリースされた「箱庭の幸福」だ。TVアニメ『リアデイルの大地にて』のEDテーマとして作品を彩る側面ももちつつ、前述したようにアルバム『Waver』の経験も生かしたあらたな一歩となるシングル。そのなかで彼女が取り入れたあらたな試みや出会いなどについて、じっくり語ってもらった。

充実作『Waver』の次の一歩として、さらに積み上げたあらたな試み

――新曲についておうかがいする前に、まず2021年が田所さんにとってはどんな1年だったかをお聞きしたいのですが。

田所あずさ やっぱり『Waver』が出て、それをもとにしたオンラインライブをしたことは、本当に大きな出来事でしたね。そもそも『Waver』を作ったこと自体が、私の人生にとってすごく大きな出来事でしたし、それぐらい心血を注いで作ったオンラインライブも無事に終えられて、本当によかったです。あのライブは、めちゃくちゃ張り詰めていたので……。

――意気込みもひとしおでしたか。

田所 そうですね。ライブ前には張り詰めすぎて貧血起こしたり、ライブが終わった瞬間にはわーって涙が出てきたりといろんなことがあって……自分的にもすごくキリキリとして(笑)、集中してやっていたのを覚えています。

――アルバム自体も初めてのセルフプロデュース作だったので、ライブも田所さんから曲順や演出のアイデアを出されていった?

田所 はい。もちろん色んな方のお力をお借りしてはいるんですけど、今回は自分が表現したいものについて“伝える努力”みたいなものをたくさんしていったんです。そのなかで、「わかってくれる人がこんなにいっぱいいたんだな」という喜びも同時に感じたのが“Waver”のライブで。無料で無観客だったのに、スタッフさんたちもとてもこだわって作ってくださったんですよ。演出も本当に素敵でしたし……“孤独”からスタートしたアルバムでしたけど、おかげでスタッフさんやファンの皆さんと、より深く繋がれたような想いをさせていただきました。

――そんな『Waver』にまつわる経験の中で、「箱庭の幸福」を制作するなかで生きたように感じられたものはありますか?

田所 そうですね……今回は「『リアデイルの大地にて』のEDテーマとしてシングルを出しましょう」と言っていただけたことが始まりではあったんですけど、やっぱり『Waver』を経てというところもあったので、“自分の心が揺らいだ瞬間を歌にした”という要素もちゃんと引き継いで「『Waver』の次の曲」として存在させたくて。なので今回は、作品を読んで自分の心がどう動いたのかを歌にすることが、田所あずさとしてはいいのかもしれない……と話し合いの結果至ったんです。そういう答えを出せたこと自体が『Waver』あってのものですし、そういうふうに自分が考えていることを人に伝える力みたいなものも、ついたように思いますね。

――作家として大木貢祐さんが作詞を、神田ジョンさんが作・編曲を担当されているのも、「『Waver』の次の曲」を形にするための選択だったのでしょうか。

田所 『Waver』の次にリリースする曲ということで、期待されるだろうな……という緊張も合ったので、“あらたなスタート”には2人のお力を借りられたら心強いなと思って、お願いしました。

――お2人には、どんなことを大事に今回の曲を作ってほしいとお話しされましたか?

田所 まず「作品を読んで私が感じたことを歌にしたい」とは伝えさせてもらって、そのうえで「じゃあ、どう思ったか?」ということをみんなで話し合っていきました。

――大元の方向性を共有したうえで。

田所 はい。まず歌詞については主に大木さんと話し合っていきまして。『リアデイルの大地にて』という作品は、現実世界では不慮の事故で生命維持装置なしには生きられなかった桂菜ちゃんという主人公が、自分の大好きなゲームの世界に転生して“ケーナ”として生きていく……というお話なので、一見すごく幸せなお話に見えるんですよ。もちろんケーナちゃんにとっては、現実世界での状況もあってとても幸せな世界なんだと思うんです。でも私は物語を読んでいくなかで、なんだかちょっと物悲しい感じがしちゃって。

――物悲しい感じ、ですか。

田所 はい。現実では友達と過ごせなくて、プログラムの世界で生きていくケーナちゃんに想いをよせたら、なんだか少し悲しい気持ちが湧いてきてしまったんです。「大好きなものがいっぱいだし、自分の理想の世界で生きているんだから幸せじゃん」とも思うと同時に違和感を感じてしまって。そのことを大木さんと話していくなかで、「他者がいないと、幸せになるのは難しいんじゃないか」という話になって、今回の歌詞に繋がっていきました。

――サビの最後では、直接的にそういったフレーズが登場したりもしていますね。

田所 そうなんです。他者が連れてきてくれることにはいいことも悪いこともありますけど、そういう思いがけないものが幸せを運んでくれるんじゃないか……という歌なんです。

――しかもそれが、この曲ではまるでお話のように紡がれていて。

田所 そういう方向性になったのは、打ち合わせのときに大木さんが「お菓子のCMソングみたいな質感はいいんじゃないか」という案を出してくださったからなんですよ。そこから「絵本みたいに歌詞を書くのもいいかも」みたいな話にも発展して。その打ち合わせのときには最終決定までは行かなかったんですけど、それから皆さんがいろいろと噛み砕いてくださって、この形になりました。

――そういった歌詞なので、アニメ作品を離れて曲単体として聴いても、聴く人それぞれの思い出に触れられるようにも感じました。

田所 そうですね。やっぱりベースを「私の心が動いた」というところにしている部分もあるので、作品に寄り添っているけど寄り添いすぎていないといいますか。「幸せとは?」ってどんな方にも言えることでしょうし、きっと何か思うところが出てくるような、すごく身近な歌詞だと思っています。

――そういったテーマは、サウンドの方向性を決めるなかでも織り込んでほしいというお話をされたのでしょうか?

田所 そうですね。ジョンさんはその打ち合わせにもいましたし、歌詞のこともお伝えしていました。なのでそれを理解しつつ、耳心地のよさみたいなものも考えて作ってくださったんですよ。

――ただ、そうすると歌うときのイメージ作りは難しかったのでは?

田所 結構難しかったですね。幸せそうに歌うのは違うだろうし、だからといって不幸せそうに歌うのも違うし……そこの絶妙な間を狙っていったんです。なので、歌詞の主人公に入り込みすぎずに。寄り添いもするけど、絵本を読んでいるかのような……。

――歌詞のメッセージ性プラス、俯瞰しての目線も大事にするというか。

田所 はい。しかもこの「箱庭の幸福」は、技術的にも難しい曲なんです。でも歌が入る前の段階で歌詞と曲が素晴らしすぎたので、「いいものにしなきゃ」というプレッシャーを強く感じていたし、最初のほうはサウンドがほぼないので、緊張感から空回りしちゃって。ジョンさんと大木さんに慰めてもらいながらのレコーディングでした(笑)。

――慰めてもらいながら?

田所 はい。歌のよさって技術だけではないとはわかっているんですけど、技術が追いつかなくて「なんで私はこんなにできないんだ」みたいに急に悩みだしちゃったとき、ジョンさんたちが「ころあずに歌ってもらいたいんだよ!」っておっしゃってくれたり……(笑)。

――しかもそういう気持ちになってしまうと、焦って余計にドツボに……。

田所 そうなんです。だからその頭の部分はいろいろ試してみたあと、最終的にはジョンさんに「ころあずの思うように1回歌ってみて」と言われて、素直に歌ったものになりました。

――ただそれも、試行錯誤を重ねる前後ではかなり違うものになっていそうですね。

田所 印象的に聴こえるリズムの刻み方とかをジョンさんから教えてもらったあとだったので、それを身体に入れているか入れていないかだけでも全然違いました。最初はもっと淡々としていたり、逆にリズムをもっと刻んだり、音を伸ばさなかったり……そういういろいろなことをしたうえで「じゃあ全部忘れて、はいどうぞ!」という形だったんです。なので、試したこともなんとなく頭には入っていつつ、あまり気にしすぎずに歌っていきました。

――そうやって試されたことって、きっと元々は田所さんの中になかったものもあるじゃないですか。そういった、他者からもたらされたものが取り入れられて、自然とどこかに残っているというのは、曲自体のメッセージ性とも繋がるように思います。

田所 そうですね。自分の中だけで悩んで狙って出したものだけじゃなくて、ジョンさんや大木さんが言ってくれた要素が変化をもたらしてくれて……だから、より幸せになっている、はずです(笑)。

――そういった歌い出しからサビにかけては、どう山を作っていこうとかは考えられましたか?

田所 やっぱりサビは、Aメロ・Bメロほど淡々としていない、開けたような感じは意識しましたね。それに、TVサイズだと1サビが結末になるじゃないですか。だから、一旦ここでも区切れるような起承転結を表現できるよう意識しました。歌詞の面でも大木さんが「アニメで流れるのはここだから」と、意識して書いてくださったんですよ。

――ちなみにTVサイズといえば、田所さんはED映像をすでにご覧になりましたか?

田所 はい。サビ前ではリズムが刻まれるのに合わせてイラストで場面がダッダッダッダッと変わっていったり、子供を主人公にしたような歌詞の世界観を汲んでか、リットちゃんという主人公に出会う女の子がメインになっていたりと、曲をとてもたくさん聴いて作ってくださったんだなぁ、というのがすごく伝わってきました。ED映像は、最初はリットちゃんが1人でずっと過ごしていくんですけど、途中で主人公に会って最後に手を繋いで……みたいな終わり方をするんです。なので、より曲の幸福度が上がったように感じています。

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