【ロングインタビュー】“澤野弘之のメロディ”をありのままの形で収めたピアノソロアルバム『scene』リリース――本作を軸に彼の激動の2021年を振り返る

19歳から41歳まで“自分のメロディ”を弾いてきた

――そんなPIANO[-30k]で披露した楽曲をそのまま収録した『scene』ですが、これまで聴かれてきた作品の劇伴をピアノで聴く、メロディがより際立って聴こえて良いなと思います。

澤野 本当ですか?眠くならないですか?(笑)。3曲くらいで眠くなるんじゃないかなって思っているんですけど。

――3曲だとものの10分くらいで眠くなっちゃいますよ(笑)。

澤野 自分がピアノで弾くときってバラードチックに弾くんです。ピアノアルバムを作るとなると、普通はバランスを取るためにこの曲はちょっとアグレッシブなものにしよう、というふうに構成していくじゃないですか。でも今回は基本【-30k】のコンテンツでゆるい感じで弾いているので、バラード曲がずっと並んでいる感じになって、聴いている人は眠くならないかなって(笑)。それも良いと思うんですけど。

――今回の収録場所はレコーディングスタジオから自身のプライベートスタジオまで様々ですが、場所に応じたバランスをとったりはしているのですか?

澤野 いや、していないです。いつもはレコーディングの合間とかに録っているので、基本はバラバラですね。

――そうなるとその場所や当日のコンディションによっても変わってくるものがありますよね。

澤野 ありますね。僕もそこまでピアノアルバムをたくさん聴いてきたわけじゃないですが、ピアノアルバムって大体は同じピアノで同じスタジオやホールでやっているんですよね。でも『scene』は録っている場所もピアノも違うし、これはこれで面白がってくれたらいいなって思いますね。

――その場所特有の鳴りというか、そういった生々しさもありますよね。そういう意味でも贅沢なテイクだなと。

澤野 そう思ってもらえたら嬉しいですね。でもやっぱり、このアルバムが成立するのは原曲があったからなんですよ。元々の作品があって、そこでは壮大にアレンジされたものをみんな知っている。ピアノだけというある意味淡々としたものがメロディアスに聴こえるのだとしたら、それは原曲のアレンジというのが体に染みついていることも影響しているからかなと。その上、「あのシーンで流れた曲だ」ってリンクして曲をより感情移入できるのであれば、それはやっぱり作品のおかげだと思うので感謝していますね。

――ある意味これまで発表してきた数々の作品の劇伴というものを新たな角度で、あるいはその本質を知ることができると思うんですよ。

澤野 そう聴いていただけるとありがたいですね。逆に、このアルバムで知らない曲があったら、そこから原曲だったらどんなアレンジなんだろうって興味を持ってもらえたらまたありがたいですし。

――改めて収録曲を見ていくと、まさに澤野さんのキャリアをまくるというか、ドラマやアニメの劇伴の数々から、さらに今年公開の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』からは「Ξ」まで収録されていますね。

澤野 これは急遽自分の中で入れようと思ってPIANO[-30k]で弾いたんですよね、「Ξ」はやっぱり入れたいなって。今年の自分の中で『ハサウェイ』は重要な作品だったので、急遽ほかの曲と入れ替えました。

――また、『scene』オリジナルの楽曲では『青の祓魔師』のメドレー「pianoBLUE」も収録されていますね。

澤野 このアルバム用に入れました。実はPIANO[-30k]では『青エク』の曲は弾いていなかったんですよ。なので、せっかくだからこのアルバムに入れようということになって、3曲くらいのメドレーにしました。

――『青エク』も含めて澤野さんのキャリアが網羅された作りになっているなと。ほかにも、ドラマ「タイヨウのウタ」から「from sunset to sunrise」も印象的だなと。

澤野 これは、この曲を作った当時から、僕がピアノを練習するときになんでか弾いちゃうことが多くて。それで去年コロナでスタジオが使えなかった際に、自分のスタジオで弾くなら普段練習で弾いているこれにしようかな、ってPIANO[-30k]に選んだこともあって、アルバムにも入れたいなと。

――そして最後には、クリスマス好きな澤野さんらしく「Silent Night」で締め括ると。

澤野 これを入れるからこそ12月に出したい、と(笑)。【-30k】がスタートした年のクリスマスの配信で弾いたものを入れたんですけど、僕この曲がすごく好きなんですよ。別に子供の頃から好きだったわけじゃないんですけど、あるときからこの曲のメロディを気に入って。カバーしたアーティストによってコード進行とか違いますけど、どのアレンジも好き。クリスマスの時期には絶対聴いている曲ですね。

――最新のものまでクリスマスソングをよく聴かれる澤野さんですが、なかでもこれがピカイチだと。

澤野 そうなんですよ。もう今家ではクリスマスソング流しっぱなしです、クリスマスツリーをピカピカさせながら(笑)。昨日なんかアマゾンプライムで各国のクリスマスの景色を付けっぱなしにしてましたもん。

――そういった楽曲も収録されている『scene』ですが、改めて澤野さんのキャリアからそのルーツまでよくわかる1枚ですね。

澤野 そうですね。あと、ふと思ったんですけど、今回のアルバムに入れた曲は、もちろん作品のために作ったものもあるんですけど、例えば「Blue Dragon」とか「LiVE/EViL」、『鋼鉄城のカバネリ』の「KABANERIOFTHEIRONFORTRESS」とかって、作品のために思いついたものではないんですよ。

――いわゆるストックというものですね。

澤野 20代の前半に、自分がいつか劇伴に携わるときに使いたいって思っていた曲のストックがあって、それが作品に合うかもって使っていたんですよね。意外とそういう曲を選んで弾いていたというか。『七つの大罪』の「Eri0ne$」も『戦国BASARA』の「WATER LIGHT」もそうですけど、自分がこの曲を選んだのは作品として思い入れもあるんですけど、20歳のときの思い出とリンクしていて“自分のメロディ”として記憶として残っているからかもしれないですね。

――なるほど、澤野さんのキャリアの中でも重要作であり、ご自身の中に染みついたメロディが本作にはあると。

澤野 使用したストック曲は古いもので19歳の時のものもあるんですよ。なのでこのアルバムで19歳から41歳までのメロディを弾いているんだなって今思いましたね。

前を向こうとする2年間を経て、新たな挑戦の2022年へ

――そういった意味では『scene』は、“澤野弘之のメロディ”をよりありのままの形で収めた1枚となりましたね。

澤野 そうですね。こういうものが出せるのは大きいと思います。ただもう一度言いますが、ほかのピアノアルバムとは比べないでほしい(笑)。

――(笑)。作り方の違いはあれ、ピアノ1本でアルバムを作れたというのは作曲家として大きいと思います。

澤野 そうですね。ピアノっていう楽器は自分が弾き続けてきた楽器だし、今でも自分にとって重要な楽器なので、自分が普段ピアノと向き合っている姿勢をナチュラルに入れられているんじゃないかなって思いますね。

――では逆に、今後作り込んだピアノアルバムを作ってみたい気持ちはありますか?

澤野 う~ん、作りたくないというわけではなくて、なんなら作ってみたいというのはありますけど、その場合はピアノを多重録音したり、ピアノ1台でやるのではなくて、ピアノという楽器で何ができるのかなっていうところまでやらないと面白くないのかなって思いますね。

――なるほど。

澤野 あと、これは喜んでくれる人がいるかわからないけど、ピアノと歌というシンプルな編成でやるとかですね。でも気をつけないといけないのは、ピアノアルバムを出しすぎるとピアノソロのコンサートを期待されるので……それは本当にできないので(笑)。緊張してちゃんと弾けないですから。

――そうした編成のコンサートというのも観てみたいですね。

澤野 ピアノソロでがっつりやるためにはもっと経験を積まなくちゃいけないですけど、ピアノと何かという、2019年に開催した“Billboard Live 2019”でやったものをもっとミニマムにしたら面白いかもしれないですね。

――その一方でPIANO[-30k]の企画自体は今後も継続していくわけですよね。

澤野 もちろん。

――では、新しい演奏が聴きたい方はぜひ入会を(笑)。

澤野 ここで宣伝(笑)。まあ会員の方がいてくれる限りは弾き続けるので。

――さて、『scene』で締め括った2021年ですが、改めて澤野さんにとってはどんな1年でしたか?

澤野 2021年はライブでもお客さんと向き合えたことが感じられたし、作品を通してもやりたいことをやったアルバムを出せたし、『ハサウェイ』も公開されたし、今も来年に向けての音楽制作をしています。去年ぐらいからコロナという状況で世の中的にはネガティブな雰囲気はあったんですけど、でもそのなかでそれに囚われないで前に向いていこうってやってきた2年間だったと思うんですよね。それがまたいろんなことに繋がっていって前に行こうとしているなって。

――たしかに様々な試行錯誤はありましたが、そのなかでも未来に繋がっていく気運はありますよね。

澤野 あと僕は今年本厄だったんですけど(笑)、今年が終わりに近づくなかで結構良いことが続いたり、それこそASKAさんと対談できた機会とかもあって。

――澤野さんがも最も影響を受けたASKAさんと出会えたのは本当に大きかったと。

澤野 ほかにも自分がやっているプロジェクトも前向きになるところがあって。以前は自分が40歳になったときに、まだまだジレンマがあって納得がいくところに届いていないと思ったときに、目指しているものに辿り着くのは難しいのかなって焦りがあったんですよ。でも今は不思議なことに来年に向けてワクワクしているというか。今も動き出している色んなプロジェクトがあるんですけど、去年焦っていたことを忘れて、20代に夢を思い描いていたテンションで色んなことが取り組めるかもしれないなって思えているので、今はポジティブな気持ちで動けているなって感じはありますね。

――以前も話していましたが、40代になって丸くなるのではなく、まだまだチャレンジしていきたい、それができた2021年だったと。『iv』のような作品づくりなど、それはたしかに見ている側からも感じられます。

澤野 そう言っていただけるとありがたいです。それがさらに広がっていったらいいなっていう想いのもと、色んなプロジェクトに取り組んではいますね。いい歳して夢見がちというか、それが実現するかは置いておいて、そういう気持ちになれているのが嬉しいですね。

――そうした兆候は、すでに発表になっている2022年の新作にも見られるのかなと。

澤野 そうですね。荒木(哲郎)監督とのオリジナルアニメ『バブル』も発表されましたし。虚淵(玄)さんが脚本を書かれているんですよ。

――以前、荒木監督との対談で伺ったときは、『ギルティクラウン』『進撃の巨人』『鋼鉄城のカバネリ』とはまた違ったテイストの劇伴になるとおっしゃっていましたね。

澤野 そうですね。あと、すでに発表されているTVアニメ『群青のファンファーレ』もそうですね。音楽のアプローチは、ある程度自分が普段やっているものに近いんですけど、ちょっと爽やかというか、そういう色の違う作品が公開されていくので、来年も楽しみにしてほしいですね。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一


●リリース情報
澤野弘之 PIANO ソロアルバム
『scene』
2021年12月22日(水)発売

【初回生産限定盤(CD+Blu-ray)】

品番:VVCL 1983~4
価格:¥4,290(税込)

【通常版】

品番:VVCL-1985
価格:¥2,640(税込)

<収録内容>

[CD]
1 scene
2 Blue Dragon(ドラマ「医龍 Team Medical Dragon」より)
3 MOBILE SUIT GUNDAM UC-medley(「機動戦士ガンダムUC」より)
4 YouSeeBIGGIRL→Thanks AT(アニメ「進撃の巨人」より)
5 ΛSHES→Inferno(映画「プロメア」より)
6 LiVE/EViL(ドラマ「魔王」より)
7 IRYU Team Medical Dragon-medley(ドラマ「医龍 Team Medical Dragon」より)
8 κr0nё(アニメ「ギルティクラウン」より)
9 KABANERIOFTHEIRONFORTRESS(アニメ「甲鉄城のカバネリ」より)
10 RE:I AM MARIE(「機動戦士ガンダムUC」より)
11 from sunset to sunrise(ドラマ「タイヨウのうた」より)
12 WATER LIGHT(アニメ「戦国BASARA」より)
13 Ξ(「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」より)
14 Into the Sky(「機動戦士ガンダムUC」より)
15 Eri0ne$(アニメ「七つの大罪」より)
16 PIANO[-30k]-001
17 Call your name(アニメ「進撃の巨人」より)
18 pianoBLUE(アニメ「青の祓魔師」より)
19 Silent Night

[Blu-ray] ※初回限定盤のみ
澤野弘之 LIVE【emU】2021 Special Program
1 introduction
2 MOBILE SUIT〜GUNDAM
3 KINGDOM-DUE
4 Perfect Time
5 銅鑼Gong4N
6 斬LLLア生LL〜鬼龍G@キLL
7 PRO//MARE
8 ΛSHES
9 BangBangBUR!…n?
10 PROMARETHEME
11 Hill Of Sorrow
12 κr0nё
13 Βασιλευς
14 KABANERIOFTHEIRONFORTRESS
15 JAnoPAN
16 1coma
17 “Attack on Titan” suite
18 進撃st-hrn-egt20130629巨人
19 YAMANAIAME
20 Zero Eclipse
21 Blue Dragon

関連リンク

澤野弘之 Official Site
https://www.sawanohiroyuki.com/

SawanoHiroyuki[nZk] Official Site
http://www.sh-nzk.net/

澤野弘之(Hiroyuki Sawano)Twitter
https://twitter.com/sawano_nZk

SawanoHiroyuki[nZk] Official YouTubechannel
https://www.youtube.com/channel/UCbJM_Y06iuUOl3hVPqYcvng

オフィシャルファンクラブ【-30k】
https://n30k.com/

この記事に関するキーワード

この記事を書いた人