【ライブレポート】「ここにいる君が私の生きる原動力です――。斉藤朱夏、ワンマンライブ“朱演2021『つぎはぎのステージ』”で溢れ出たファンへの想い

斉藤朱夏が12月10日（金）にパシフィコ横浜国立大ホールにて、ワンマンライブ“朱演2021『つぎはぎのステージ』”を開催した。今年8月に1stアルバム『パッチワーク』をリリースした彼女は、同作を引っ提げた東阪ホールツアーの開催を予定していたが、大阪公演は政府による新型コロナウイルスワクチンの大規模接種会場の延長によって会場の使用ができなくなり、やむなく中止を決断。“初のホールツアー”は未来に持ち越しとなった。

この日のオープニングを飾ったのは、何度立ち止まっても次のステージに向かって全力で走り続けるという強い意志を込めた「ワンピース」だった。ノースリーブの白いワンピース姿で登場した彼女は、アカペラで“天才なんかじゃないし　才能もないし”という自身が描いたフレーズを真っ直ぐに歌い上げ、歌詞通りにワンピースを揺らし、コンバースを鳴らして、大きな拍手と赤いペンライトが揺れる中でライブをスタートさせた。

そして、「くつひも」「恋のルーレット」という甘酸っぱい恋心を思い起こせるラブソングを続けた彼女は、8月に開催された“朱演2021 LIVE HOUSE TOUR『真夏のハイウェイ』”以来、約4ヵ月ぶりの再会となったファンに向けて、「みんな元気？」と挨拶。「ついにこの日が来ました。12月に入ってからドキドキそわそわして、心臓が口から出ちゃいそうなくらい、ずっと緊張してました」とライブ前の心境を吐露し、「でも、ここにいる君（＝オーディエンス）の顔を見て安心しました。今日は遊びに来てくれてありがとう」と感謝の気持ちを述べ、「斉藤朱夏としては2021年、ラストのライブになります。もし、今年やり残したことがある人は、私にすべてを投げてください」と呼びかけた。

「勝手に真っ直ぐに全速力で走っていっちゃう私でも、25歳になって、やっと休憩していいんだよということに気づきました。頑張れないときもあるし、やる気が出ないときもあるし、ちょっと疲れちゃったなと思うこともあるけど、ま、そんなときがあってもいいよね」

そんなMCを経て、肩の力がスッと抜けるカントリーポップ「あめあめふらるら」へ。赤い傘を持った彼女が歌い終え、しばらく経って空を見上げると、ステージ上には虹色の照明がかかった。やがて、ステージの後方に色とりどりの大きなパッチワークのバックドロップが現れ、彼女は赤いリボンのようなミニワンピースに早着替え。TVアニメ『俺を好きなのはお前だけかよ』のOPテーマ「パパパ」とミラーボールが回ったスカナンバー「ぴぴぴ」では観客が一緒になって楽しく踊り、ライブならではの一体感が生まれた。「ここにいるみんなと出会えたことが本当に奇跡だし、運命だなと思います」と語ったあと、ウィンターバラード「36℃」を情感たっぷりに歌い上げ、アコースティックギターとボーカルのみで始めた本人作詞の「よく笑う理由」では、観客一人一人と目を合わせるかのようにパフォーマンス。孤独を感じることがあるかもしれないけど、「ここが、私と君の居場所だよ」とお互いに確認し合うかのように何度も頷いていたのが印象的だった。

ライブの中盤にはドラムがカホーンになるアコースティックコーナーが設けられた。「ここにいる君が私の生きる原動力です。泣き虫で、弱虫で、頑固で、わがままだけど、ステージに立っている時だけは、少しでもいいから、私が君のヒーローになれたらいいなと思っています。これからもありのままで、今の自分をこのステージに出していきたいと思います」と語ったあと、「ヒーローになりたかった」の一節一節に感情をたっぷりと込めて歌い上げると、少しだけ涙をぬぐい、TVアニメ『バック・アロウ』のEDテーマにアコースティクアレンジを施した「セカイノハテ」では、少ない音数の中、伸びやかで疾走感を湛えた歌声のみで楽曲の世界観とスケール感を広げていった。

「まだまだ盛り上がっていこうよ、横浜！」という呼びかけのあと、「しゅしゅしゅ」では観客が一丸となってタオルを回し、スカパンク「Your Way My Way」では、恒例の旗揚げゲームで、ペンライトの色で赤チームと青チームに分かれて大騒ぎすると、曲中に思わず「横浜最高！」と声を上げる場面もあった。この曲を制作した当時、「今日を一生懸命に生きられたら、明日も頑張れる気がする。だから、私は今日のことしか考えてません」と語ってくれたことがあったが、その言葉こそ、斉藤朱夏の本質だろう。本編ラストの「またあした」を前に、彼女は観客にこんなメッセージを届けた。

「ここにいる君と今を一生懸命に生きたいなって思う。私はこれからこの先、ずっと、君の居場所を作るためにステージに立ち続けます。今日という日を、今という一瞬を一緒に生きたいから。それは、約束します。どんな未来が待ってるかわからないけど、楽しい約束をたくさんして、未来でたくさん会いましょう。また君と会えますように」

アンコールの声に応え、ダメージデニムにライブTシャツで走って戻ってきた彼女は、1stアルバムの1曲目「もう無理、でも走る」と最後の曲である「声をきかせて」をアンコールの曲として選んだ。タイトルが斉藤朱夏の姿勢と性格を表している「もう無理、でも走る」ではお立ち台に上り、ステージを全力疾走し、時にひざまづいて熱唱。「今日という日を、今という一瞬を君と生きれて本当に幸せです」と感謝の気持ちを伝え、来年4月に東名阪ライブハウスツアー“朱演2022 LIVE HOUSE TOUR 「はじまりのサイン」”の開催を発表。

「ライブがなくなってしまったら、私は正直、生き甲斐がなくなってしまって、心がボロボロになってしまうけど、ここに君がいるから、私は前を向いて、次のステージに進むことができます」という言葉に大きな拍手が湧き上がるなか、ファンへの＜ありがとう＞という感謝の気持ちを込めた「声をきかせて」では、声にならない心の中での合唱も沸き起こり、斉藤、バンドメンバー、スタッフ、観客の全員のジャンプで締め括られた。「大げさかもしれないけど、私は君がいないと生きていけません。ちょっと重いかな？」と苦笑いで伝え、大きく手を振りながら、「また一緒に遊びましょう」と再会の約束をしてステージを後にした。

TEXT BY 永堀アツオ
PHOTOGRAPHY BY Viola Kam［V’z Twinkle］

＜セットリスト＞
01. ワンピース
02. くつひも
03. 恋のルーレット
04. あめあめふらるら
05. パパパ
06. ぴぴぴ
07. 36℃
08. よく笑う理由
09. ヒーローになりたかった
10. セカイノハテ
11. しゅしゅしゅ
12. Your Way My way
13. またあした
＜ENCORE＞
EN01. もう無理、でも走る
EN02. 声をきかせて